27話 10日目
10日目 午前7時頃
「それじゃ藍火。ブルーフレイムドラゴンに進化した君の姿、僕達に見せて貰える?」
「分かったっす!」
凛の要望に、押忍!の構えを取る藍火が高い意欲を見せる。
場所は凛の屋敷前。
2人から少し離れた位置に美羽達がおり、笑顔や期待の表情を藍火に向けている。
ただ火燐だけは異なり、無様な姿を晒すなよ?と言い表すが如く腕を組み、しかめっ面で彼女を見据える。
ここへ赴いたのは進化した藍火のお披露目。
朝食を済ませ、喜び勇んでやって来た次第だ。
と言うのも、本来であれば昨日の夕食後に行われるはずだった予定。
しかし(常人の10倍は平気で食べる)火燐の食べっぷりを見た藍火が、何故か自分も同じ位食べれると思ったらしい。
用意された食べ物はいずれも美味しい、それは理解る。
けれど調子に乗り、あれもこれもと食べ進めた結果お腹が大きく膨らんだのは頂けない。
畢竟、「ここまで食べたのは初めてっす…」なんて満足げに呟いたのを最後に、藍火は椅子に凭れる形で沈黙。
すやすやと寝息を立て、眠ってしまった。
最早お披露目どころではなくなり、明日の朝食後にとの意見で一致。
決定後、火燐は呆れた表情で「だらしねぇ」だの「普通、こんなんなるまで食べるかぁ?」とブツブツ文句を垂れ、雫の「ブーメラン?」との言葉を背にゆっくりとした足取りで藍火をソファーへ。
そんな火燐に凛達はほっこりし、雫が「ツンデレ乙」と告げた事で戻った火燐と一悶着あったものの…幸せそうな顔で寝言を漏らす藍火を見て興醒め。
起こすのは悪いを理由に解散となった。
そして現在、皆の藍火へ対する期待値は高い。
彼女はドラゴン。
最強と名高い種族、その一翼を担う存在だからが大きいのかも知れない。
藍火も藍火で、早く元の状態に戻りたい気分で一杯。
それは宛ら、GOサインを待つ犬のよう。
良い?良い?とソワソワしながらアイコンタクトを主に送り、頷きで以て返された。
「ふぅ…それじゃ行くっすよ!」
気炎を上げ、鮮やかな青い髪を激しく靡かせた藍火が、それまでの人間からドラゴンのものへと姿を変える。
途中、身に付けていた衣服が耐え切れなくなり、破裂。
だが彼女は気にしないとばかりに変化を続けていった。
やがて、高さ7メートル程。
サファイアみたく、綺麗な青い鱗を持つドラゴンへと変貌を遂げた。
見た目も、ワイバーンをスタイリッシュにしたとでも言おうか。
飛行に向いてそうなフォルムに変容し、心做しか尻尾が鋭く尖り、長くなった気さえする。
「おー、格好良い!」
少しテンション高めで告げる凛。
美羽達は藍火を褒め称え、火燐も悪くないと判断したのか軽く口角を上げる。
藍火は下位竜のワイバーンから、上位竜のブルーフレイムドラゴンへ至り、魔銀級上位の強さとなった。
ついでに、凛が以前倒したフォレストドラゴンはアークより上のエルダー、更に上はエンシェントドラゴンとも呼ばれる。
藍火は名前に藍…つまり青に関する名前が含まれた事で、彼女に変化が生じたらしい。
通常の進化とも言える魔銀級中位のファイアドラゴンではなく、炎・風複合属性竜とも呼べるブルーフレイムドラゴンへルートを変更。
幸か不幸か、レアな個体に分岐された。
他にも、光属性が混ざったホワイトフレイムドラゴン。
闇属性が混ざったブラックフレイムドラゴンがワイバーンからの派生として存在する。
皆の歓声を浴びる傍ら、藍火は視線を上へ。
実際に目の当たりにした経験はないが、翼をはためかせて飛び上がるか、助走をつける→跳躍からの飛行だと凛達は思っていた。
しかし実際は、少なくともブルーフレイムドラゴンに於いては違うらしい。
翼を広げたかと思ったら左右2箇所ずつ青い炎が噴き出し、炎による推進力(?)で少しずつ浮上するではないか。
これは凛達も予想外。
目をパチパチ、若しくは目が点になる彼らを他所に、20メートルの高さになった辺りで急上昇。
ドウッ!との音と共に勢いが増し、瞬く間に音速を越えた彼女。
上空を凄い速度で飛び回るとの様子から、凛は藍火がこちらに気を遣い、敢えてゆっくりめに地上を離れたのだと推測。
(炎を身に纏っている訳じゃないし、見た目もだし4本脚でもないけど…まるでバル◯ァルクみたいだな。)
美羽達が胸を打たれた様子で藍火を見守る中。
凛だけはとあるモ◯ハンのモンスターの事を思い浮かべ、その様な感想を抱いていた。
5分後
新しい自分に慣れたのか、青い炎を纏うまでになった藍火。
流星を思わせる速度や角度で急降下し、凛達から50メートル程手前の所に着弾。
ドォォォォンと大きな音の後に白い煙が巻き上がった。
周辺を突風が襲い、彼女以外が顔の前に手をやったり、魔力障壁を展開して防ぐ中。
顔の前に左手をやった凛が「彗星ダ○ブ…益々バ◯ファルクっぽく思えて来た…」と、1人複雑な顔付きに。
数拍遅れて煙の向こうに影が見え、人間の姿となった藍火が姿を現す。
「いやー、楽しかったっす!」
明らかになったのは藍火の肩から上の部分。
歩みを一旦止め、右手を後頭部へやる彼女は満足そうだった。
…ただし素っ裸の状態で。
「藍火!服、服着てないよ!」
真っ先に声を上げたのは凛。
彼は土煙から覗く藍火の肌色部分から、間違いなく全裸だと判断。
かなり慌てながらでの指摘に、美羽達は「ホントだ」「…確かに」と驚きを露にする。
「ん?…あ。」
「あ、じゃねぇよ。このドアホ!」
言われた本人は全く気付いてなかったのだろう。
疑問から視線を落としての確認で初めて分かり、いつの間にか来ていた火燐から拳骨を貰う始末。
ゴンッと鈍い音が周りに響き、彼女は痛さのあまり頭頂部を両手で押さえ、その場に踞る。
因みに藍火の着地の際、色々と手加減していたのを火燐は見抜いていた。
制御がまだまだ甘いとダメ出しをするつもりで動いた結果、誰よりも早く藍火の元へ到着したとの運びに。
萎えた火燐が溜め息の後に何かを藍火へ投げ付け、涙目の彼女の側頭部にパサリ。
手に取った藍火が見てみたところ、先程まで自分が着ていたのと同じ服だった。
「まだ煙が残っている内にさっさと着ろ。」
火燐はそれだけ告げ、目的は果たしたとばかりに凛達の元へ。
これに藍火は軽く呆けるも、すぐに笑みを携えて服を着始める…が、どうやら手遅れだった様だ。
藍火は服を着るのに慣れていないせいでもたつき、辛うじてシャツを着る事『は』出来た。
しかしもう片方。
黒いパンツの片足部分に両足を入れる等のアクシデントを挟み、どうにか無事に足を入れたと思ったら途中で閊える…つまり少し大きめのお尻がまさかの障害に。
そこへ、時間切れとばかりに煙が晴れ、藍火は「あ…」との呟きと共に停止。
お尻丸出しは改善されないまま。
「うっそだろオイ。」
それを見た火燐が1言。
美羽達も、複雑だったり困った表情を浮かべていたのは言うまでもない。
「ねー、まだ終わらないのー?」
そこへ届けられる、凛の声。
彼を含めた男性陣は、美羽達女性陣の手で目隠しをされていた。(凛は既に見た事があると告げたが却下された)
凛が代表で尋ねてみるも、返事が来たのはしばらく時間が経ってからだった。
「凛殿ーーー!!」
どうにか着替えを終え、合流を済ませた藍火を凛達が宥めていると、不意に叫声が。
全員が聞こえた方を向き、乗馬姿のアルフォンスが急いでこちらに来る様子が視界に入る。
藍火が原因で追及に来たのだろう。
そう踏んだ凛が先に謝罪すべく頭を下げる。
「アルフォンスさん、すみませ━━━」
「良かった!まだお休み中だったらどうしようかと思いましたよ…。」
『?』
ところが、アルフォンスは怒る…ではなく、安堵。
ほっと息をつき、緊張から開放されたのは明らか。
その事に挙って不思議がられるも、まるで気にしていない様だった。
彼によると、1時間程前にサルーン内で問題が発生。
その内容が凛達に係わるものらしい。
当の凛達は現場におらず、まだ休んでいるかも知れない(とアルフォンス達は思っている)のに叩き起こすのは如何なものか。
…との意見から、何も出来ずにただ時間ばかりが過ぎた。
そこへつい先程門番から届けられる、こちら方面から青い炎が昇り、空中を激しく動き回るとの報告。
当時、問題の現場にいたガイウスとゴーガンは顔を見合わせ、もしかしたら凛に関係があるかも知れないとの観点から、アルフォンスを遣いにやったとの流れなのだそう。
説明が済むやアルフォンスは馬から降り、凛の前にて深く頭を下げた。
「突然の訪問、誠に申し訳ありません。それとかなり不躾である事も重々承知なのですが、今すぐ私と一緒に来て下さい!」
「え?えぇ~~~~~!?」
そしてがばっと頭を上げたかと思えば素早く凛の手首を掴み、踵を翻す。
そのままダッシュで馬の元へ向かい、片手で器用に乗馬。
驚く凛を連れ、早々とその場を後にした。
「…はっ!?マスター、置いてかないでーーー!」
あまりの進展振りに、置いてけぼりを食らう残された面々。
一足先に美羽が我へ返り、彼らの後を追い掛けて行った。
「一体何だったんだ…。」
火燐が呟くも、誰も答えを持ち合わせてはいなかった。
視点はアルフォンス達へ。
サルーンに行き着く前。
正確には出発して20秒も満たぬ間に凛は空中で体を捻る等して体勢を整え、アルフォンスの後ろに乗馬。
と同時に美羽が真横の位置へ追い付き、アルフォンスは改めて凛と美羽の身体能力の高さに頬を引き攣らせた。
しかしそれが功を奏し、落ち着きを取り戻す切っ掛けにも繋がる。
然程時間を置かずして3人は南門へ到着。
門番達は一瞬警戒体勢に入るも、騎手がアルフォンス。
傍らに美羽が走るのが見え、構えを解く。
進路をクリアしたと捉えたアルフォンスが「このまま失礼するよ」と門を抜け、馬に乗ったまま街の中へ。
時刻が午前7時過ぎと早く、人もまばら。
おかげで速度を落とさず、駈歩のまま冒険者ギルドへ到達。(それでも時折見掛けた通行人は驚き、何事かと思った住民が窓を開けたりしていたが)
凛と美羽は「冒険者ギルド?」と言いたそうな表情で建物を見上げ、アルフォンスが中へ入って行くのが目に留まり、後を追う。
そして凛達が冒険者ギルドに入ると、受付カウンターの前に4人の男性。
彼らの様子を窺う形で、ガイウスやゴーガンを始めとした者達が立っているのが分かった。
4人は1対3の組み合わせで、1人の方こと商人風の男性は何やら得意げ。
しかしもう片方である3人。
内2人は身形が良く、残る1人は得意げな男性と同じ商人風の装い。
どう言う訳か、揃って━━━中には歯ぎしりまでして━━━相手の男性を睨んでいる。
凛達は不思議に思いつつ、まずはガイウスの元へ。
2人が来たと視認するや明らかに重圧から解放された表情に変わり、経緯を話し始める。
曰く、彼らはサルーンにある商業ギルド員と商国の商業ギルド員。
それとサルーンの隣(と言っても、いずれも数十キロ離れた地点)にある都市を治める領主の関係者で、いずれもそれなりに高い地位にいるとの事。
身形の良い男性2人が両隣の都市から来た使いの者で、2人の近くにいるのが商国の商業ギルド員。
そして得意げな表情を浮かべているのが、サルーンの商業ギルド員らしい。
事の発端は、昨日凛がオークキングの肉を受け取ってから2時間が経過した頃。
ワッズ達職人は初めて体験する、フォレストドラゴンの解体に気分が高揚。
定時を過ぎ、解体場から出た後もそれは変わらなかった。
その中の1人が、待ち合わせをしていた知人にご機嫌な理由を尋ねられ、余程自慢したかったのだろう。
ワッズから口止めされていたにも関わらず、フォレストドラゴンを解体している旨を伝え、知人が大声で叫んでしまう。
それが瞬く間に拡散し、フォレストドラゴンの噂が商業ギルド。
加えて、周辺からワイバーン急襲の噂の真偽を確かめに来た者達にまで波及。
周辺から来た者達は上の者へ伝えに急いで自分の国や都市へ戻る→夜中や深夜過ぎに帰途。
事情を説明した後、最速で代理の者を派遣。
代理の者達は門が開かれる6時より早くサルーンへ着き、開門と同時に冒険者ギルドへ向かうも…既に昨日の内にサルーンの商業ギルドが唾を付けている状態だった。
代理の者達はこれに激怒。
討伐者である凛が不在にも関わらず、フォレストドラゴンを購入する権利をこちらへ寄越すよう命令を下す。
だがサルーンの商業ギルド員は涼しい顔でこれを拒否。
再三警告しても聞き入れる素振りがない事から、いつ暴動に発展してもおかしくない状況に。
顛末を聞いたガイウスが冒険者ギルドに来てはみたものの、下手に仲裁をしたが故に誰かしらの顰蹙を買い、街に攻め入れられたり流通を止められる可能性が。
実際、来て早急に執り成そうとするも自分の領地(或いはギルド)を敵に回すつもりかと反論を食らい、黙って引き下がる事しか出来なかったのだそう。
いくらガイウスやゴーガンが魔銀級の腕前を持つ手練れだとしても、都市が相手では些か…いや、かなり分が悪い。
もし本当に流通を止められたりでもしたら、街に住む者達の生活がとの懸念から、少しでも早く凛が来てくれる事を願っていたと告げ、説明を終えた。
聞き終えた凛が苦渋の表情を浮かべていると、ワッズとうっかり情報を漏らしてしまった職人男性が来訪。
男性は当事者、ワッズは解体場の代表との立場で赴き、男性は顔面蒼白。
ワッズは非常に申し訳なさそうにしている。
「凛、無理矢理呼び出す形になっちまってすまねぇ…ったく、この馬鹿がやらかしたばかりに、よぉ!」
そう言って、ワッズは男性の頭をスパァァンと実に良い音を響かせて叩いた。
男性は動じず、泣きそうな声色で「本当にすみません…」と頭を深く下げる。
そして今度はワッズからの説明に入るのだが、どうやら彼も被害者の1人だった模様。
いつもならまだ寝ている時間に叩き起こされ、急いで(解体場に)来てみれば、複数の職人とは別に何故か商業ギルドの者まで。
ワッズはこう見えて妻や子供がおり、家族を大事にしている。
いつもの如く仕事から真っ直ぐ帰ったが為に、昨日の騒ぎを知らなかったとも。
そんなワッズが商業ギルドの者にここへ来た理由を尋ねたところ、「フォレストドラゴンがここに持ち込まれたと街中で噂になっている。本当にあるかどうかを確かめに来た」との返事が返り、衝撃のデカさによろめいてしまう。
しかしすぐ憤懣やる方ない面構えへ。
誰が漏らしたのかの追及を行うまでもなく、即犯人が分かった。
それから怒声混じりの説教が始まるのだが、そこへ制止を振り切った他の3人が解体場に押し入って来た。
解体途中のフォレストドラゴンを目撃した3人が心震わせるも、(ワッズが来るよりも前にいた)商業ギルド員が先に目を付けたから自分に購入権があると主張。
それを聞いた他の3人は商業ギルド員を非難するも、彼は早い者勝ちの一点張りで譲ろうとはしなかった。
そこから誰が購入するかで揉めに揉め、(解体の仕事を始めたいからを理由に)冒険者ギルドへ場所を移した後も言い争いは続く。
後から来た3人は何を言っても聞き入れて貰えないと諦め、今度はワッズやガイウスに商業ギルド員よりも高く買い取ると告げる。
フォレストドラゴンを討伐したのは自分達ではなく、討伐者の断りなしに勝手に決めるのもとなり、結局話が進まず困っていたのだそうだ。
「…ったく、本当に参っちまうぜ。折角(黒鉄級の魔物を解体する)機会が出来てやる気も増したってのに、この馬鹿がやらかしたせいでよぉ…本当にすまねぇ。」
「まあまあ。取り敢えず事情は理解しましたし、僕は全然気にしていません。今後も解体をお願いするのでご安心下さい。」
「おお!そうかそうか、そりゃ良かった!ありがとうな!」
今の今までの意気消沈から一転。
凛の言葉により気分を盛り返したワッズが呵々大笑する。
人心地ついた凛がワッズを見ていると、件男性4人が訝しんだ視線をこちらへ向けている事に気付く。
商国の商業ギルド員が彼女は誰かとガイウスに尋ね、フォレストドラゴン討伐者だとの返答に併せ、凛が軽く会釈。
すると途端に彼らの目の色が変わり、突如アピール合戦が開始。
少しでも好印象を与え、どうにかしてフォレストドラゴンを売って貰おうとの腹積もりらしい。
ガストン領ガストン子爵にスクルド領ジラルド伯爵、それと商国の商業ギルドからの遣いだと名乗った後、オークションみたく値段の釣り上げ込みで必死に説得。
まさかの事態にサルーンの商業ギルド員は焦った様子へ。
凛がお金には困っていないと答えた事で胸を撫で下ろし、代わりに3人が物凄く悔しそうな顔付きに。
ならばと、解体は済んでいるものの放置されていたオークキングを買い取りたいとの要望が。
しかもそれだけに飽き足らず、売れるだけの強い魔物が他にないかとの追及までされる始末。
彼らに肩を掴まれ、結構な力で揺さぶられながらどうしたものかと困る凛。
見兼ねたゴーガンから助け船が入り、あまりにも酷い様であればギルドから叩き出すとの言葉まで出してくれた。
3人はゴーガンに気圧されて距離を置くものの、やはり手ぶらでは帰れない。
転んでもただでは起きるつもりはない、とばかりに彼を睨み付ける。
「…ガイウス。確か…まだアレがあったよね?アレ。」
すると、横を向いたゴーガンがいきなりそんな事を口にする。
言われたガイウスは一瞬分からない顔をしたがすぐに視点を変え、
「…そうだったな。凛殿、アレを彼らに譲っても宜しいだろうか?」
凛にパス。
どうやら、ゴーガンは凛が空間収納持ちだと伏せると共に、敢えて明確にしない事で凛に選択肢を与え、同時に負担も減らすつもりでいるらしい。
彼らの意を汲んだ凛は、アレ?と呆ける4人を尻目に2つ返事で了承。
1度席を外し、少ししてから再び姿を見せた。
両手で持つ、ラグビーボール位の大きさの黒く光る鉱石と共に。
「それは…まさか!」
「はい、アダマンタイトです。」
『アダマンタイト!?』
4人が仰天。
先程までのはブラフの為、当然知らされていないガイウス達も危うく叫びそうになる。
それをどうにか飲み込み、開いた目でのアイコンタクトは笑顔で。
つまり肯定=本物であると言外に告げ、2人程天を仰いだ。
このアダマンタイトはアダマンタートルから…ではなく、死滅の森中層でのポータル回収時に見付けたもの。
ダメ元で凛がサーチを行い、発見した小さな鉱床から掘り出して固めた結果とも。
大きさに多少バラつきはあるものの、席を外した隙に計8個を解体場の隅に用意。
アダマンタイトはこれで以上にはなるが、情報自体は収集済み。
必要になれば後日改めて創ろう…との考えから、凛は全て放出を決めた。
話は戻り、案内された3人+αは積まれたアダマンタイトに驚愕。
無理もない。
これだけの量は数十年、下手すると百年を超える可能性が。
それ位珍しいとの表れでもある。
見えない様に布を被せてたから気付かなかったかもですね〜、なんて宣う凛に美羽以外の全員が色んな意味で戦慄→嘗てない程真剣に誰がどの位の量を買うかを論争。
サルーンの商業ギルド員も混ざりたそうにしていたが、にべもなく一喝。
オークキング込みでどうにかバランス良く分けるに落ち着いた。
その間に凛達は凛達で集合。
小声による口裏合わせを行っていた。
ついでに軽く責められもしたが、ごめんなさいと舌を出す彼にやられたのは言うまでもない。
そしてこれからについても協議。
今回の件で、現在凛達が住んでいるのは王国…つまり王国に所属していると公に捉えられた。
要は目を付けられてしまった。
可能であれば数ヶ月。
どんなに短くとも1ヶ月は持つだろうとの見通しは覆され、期間中に街の基盤云々を強固にするとの計画も崩れ去った。(計画はガイウスとゴーガンによるもので、後日凛と詳細を詰める予定だったらしい)
今後ガイウスにではなく凛本人に直接無理難題を突き付け、場合によっては有無を言わさずに強い魔物や貴重品を献上しろとの指令が来る恐れがとも告げられた。
これにゴーガンが頷き、住む場所を変えた方が良いかもと提案。
折角住民票を貰ったばかりなのに…と凛が残念がる場面も。
住む場所が変わっても関係が途切れる訳ではない。
穏やかな表情で告げるガイウスに、凛は複雑ながらも納得の意を示し、ひとまず話が纏まったとして解散。
ガイウスは執務室へ、ゴーガンは冒険者ギルドへ、凛と美羽は自分達の屋敷にそれぞれ向かう。
帰宅後、凛はリビングに皆を集め、サルーンで起きたエピソードを話した。
「…と言う訳で、住む場所をどの国にも属さない死滅の森に変えようと思う。その為には森を拓かなければいけないんだけど、適した場所に心当たりがって人はいるかな?」
凛からの質問を受け、火燐達は互いを見るも、目を瞑ったり、首を傾げたり左右に振る等するだけ。
誰も意見を述べる者はいなかった。
「…凛様、宜しいでしょうか?」
発言したのは暁。
瞑目し、沈黙を貫いた彼がゆっくり目を開けるや、視線を真っ直ぐ凛へ。
軽く驚いた素振りを見せつつ、話すよう促された。
「…! お、暁が意見するのは珍しいね?どうぞ。」
「ありがとうございます。候補…と言う程ではありませんが、オーガの集落は如何かと思いまして。ナビ様に確認しましたところ、ゴブリンキングがいた洞窟からそう遠くない位置に集落があるそうです。それに━━━」
「因縁があるから、でしょ?」
「…!やはり、お見通しでしたか。」
「うん。元々、候補地の1つとして僕も考えてはいたんだ。尤も、君達の集落を滅ぼしたゴブリンキングと無関係ではないだろう…との懸念から敢えて触れなかったし、誰からも提案がなければ黙るつもりでいた。」
『………。』
「暁はどうしたい?」
「どうしたい、とは?」
「出来れば、自分達だけで片を付けたいとか言い出すんじゃないかと思ってさ。」
その言葉に暁は押し黙る。
図星以外の何物でもなかった。
「復讐…いや、ゴブリンキングが勝手に先走っただけだから私怨に近いのかな?ただ、個人的には反対。復讐は何も生まないとの言葉があるように、悲しみや憎しみの連鎖が生まれる可能性があるからね。
とは言え、被害を受けたのも、感情を抱いたのも君達だ。何より、ここで泣き寝入りなんて出来ない。許されない立場に僕達はいる。管理者なのに管理されるとかあってはならないからね。まぁ、僕としては少しでもリスクを減らす為に皆で臨みたいんだけど…それだと納得しないでしょ?」
「はい。出来ましたら我々だけで…。」
「うん、分かってる。だから戦闘は任せるよ。でも危険だと判断したら、遠慮なく介入させ貰うからね?」
「勿論です!絶好の機会を与えて頂き、感謝致します!」
「紅葉達はどうする?」
「言われるまでなく。私達も、暁と一緒に参ります。」
「分かった。それじゃ時間も惜しいし、早速オーガの集落へ向かおうか。今から10分後、屋敷の前に集合ね。」
『はい!』
今後の方針が決まり、火燐達は準備目的にそれぞれ自室へ。
しかし凛と美羽は特に準備するものはない為、一足先に外へ出る。
10分後
屋敷の前に火燐達が集まるも、そこに凛達の姿はなかった。
代わりにいた、もとい設置されたのはポータル。
まさか…と思い始めた頃、向こう側から凛と美羽が姿を見せる。
この先がオーガの集落近くに繋がっていると伝え、先行する形で再びポータルを通る凛。
美羽達もそれに続くのだが、藍火と玄はポータルを見るのが初めて。
物珍しそうな目をそちらへ向ける隙にメンバーが次々いなくなり、何これ何これ!?と必死の形相で見て周る2人。
やがて彼女らだけになり、不安から手を繋ぐ、且つ慎重な足取りでポータルを潜って行くのだった。




