27話 10日目
10日目 午前7時頃 凛の屋敷前にて
「それじゃ藍火。ブルーフレイムドラゴンに進化した君の姿、僕達に見せて貰える?」
「分かったっす!」
凛が告げ、藍火は気合いの入った返事で答えた。
凛達から少し離れた位置に美羽達がおり、笑顔や期待の表情を藍火に向けている。
そんな中、火燐だけは腕を組み、真面目な様子で彼女を見ていた。
凛達は朝食を済ませ、進化した藍火の姿をお披露目しようとの事でここへやって来た。
と言うのも、本来ならばこれは昨日の夕食後に行われる筈だったのだが、藍火が(常人の10倍は平気で食べる)火燐の食べっぷりを見て、何故か自分も同じ位食べれると思ったらしい。
用意された食べ物はいずれも美味しく、調子に乗って食べ進めた結果、お腹が大きく膨らむまでになった。
藍火は「ここまで食べたのは初めてっす…」と満足そうに呟いたのを最後に、椅子に凭れる形で眠ってしまう。
凛達は藍火を見てお披露目どころではないと判断し、明日の朝食後にずれる事となった。
決定後、火燐は呆れた表情で「だらしねぇ」だの「普通、こんなんなるまで食べるか」と言った感じでぶつぶつ文句を言いつつも、藍火をゆっくりとソファーへ運んで行った。
凛達はそんな火燐を見てほっこりし、雫が「ツンデレ乙」と告げた事で一悶着あったが、藍火が幸せそうな顔で寝言を言い、起こすのも悪いとして解散となった。
そして現在、藍火に対する皆の期待は高く、藍火も早く元の状態に戻りたい気分で一杯だった。
「ふぅ…それじゃ行くっすよ!」
藍火がそう言うと、進化して青に変わった髪を激しく靡かせ、それまでの人間からドラゴンのものへと姿を変える。
その途中、身に付けていた衣服が耐え切れなくなって破れるのだが、彼女は気にしないとばかりに変化を続けていった。
やがて、全長が7メートル程、サファイアの様に綺麗な青い鱗を持ったドラゴンへと変化を遂げた。
見た目もワイバーンをスタイリッシュにしたとでも言おうか、飛行に向いてそうなフォルムとなる。
「おー、格好良い!」
凛が少しテンション高めで告げると、美羽達も同意の意を示し、火燐も悪くないと判断したのか軽く口角を上げる。
藍火は下位竜のワイバーンから上位竜のブルーフレイムドラゴンへ進化。
魔銀級上位の強さとなった。
名前に藍…つまり青の名前が含まれた事で、彼女に変化が生じた様だ。
通常の進化とも言える魔銀級中位のファイアドラゴンではなく、炎・風複合属性竜とも言えるブルーフレイムドラゴンへと至った。
他にも、ワイバーンからの派生として、光属性が混ざったホワイトフレイムドラゴンや、闇属性が混ざったブラックフレイムドラゴンが存在する。
その後、藍火はしばらく空を見上げるのだが、(実際に見た事はないが)凛達は後ろ足で飛び上がるか、助走をつけてからの飛行だと思っていた。
しかし実際は違うらしく、いきなり前身に青い炎を纏い、炎による推進力(?)で少しずつ浮いていったかと思うと、20メートル程の高さになった所で『ドウッ』と音と共に急上昇を行った。
その速度は音速を越え、今も尚上空を飛び回りながら加速していく様子から、凛達は藍火が敢えてゆっくりと地上を離れたのだと推測する。
「(見た目もだし、炎を身に纏っている訳じゃないんだけど…まるでバル◯ァルクみたいだな。)」
美羽達が感心した様子で藍火を見たりする中、凛だけはそんな事を思っていた。
5分後
藍火は青い炎を纏ったまま急降下し、凛達から50メートル程手前の所に着弾。
ドォォォォンと大きな音の後に白い煙が上がり、辺りを突風が襲った。
藍火以外の者達は顔の前に手をやったり、魔力障壁を展開して突風を防ぐ。
凛も左手を顔の前にやりつつ、「彗星ダ○ブ…益々バ◯ファルクっぽく思えて来た…」と、とあるモ◯ハンのモンスターの事を想像し、複雑な顔を浮かべていた。
やがて、煙の向こうに影が見え、人間の姿となった藍火が顔を現す。
「いやー、楽しかったっす!」
確認出来るのは藍火の肩から上の部分で、彼女は歩みを止めた後、右手を後頭部へやりながら満足そうに告げた。
…素っ裸の状態で。
「藍火!服、服着てないよ!」
凛は藍火の肩や腕を見て、間違いなく全裸だと判断した様だ。
かなり慌てた表情で指摘し、美羽達は驚きを露にする。
「ん?…あ。」
「あ、じゃねぇよ。このドアホ!」
藍火は言われるまで気付いていなかったらしく、視線を落とした事で初めて分かり、いつの間にか彼女の元へ来ていた火燐から拳骨を貰ってしまう。
ゴンッと鈍い音が周りに響き、彼女は痛さの余り頭頂部を両手で押さえ、その場に踞った。
因みに、火燐は藍火が着地の際、色々と手加減していたのを見抜いていた。
しかし制御がまだまだ甘いとばかりにダメ出しをしようと動いた結果、誰よりも早く藍火の元へ到着したりする。
火燐は萎えたらしく、溜め息の後に何かを藍火に投げつけた。
それを涙を浮かべた状態の藍火が確認してみると、先程まで自分が着ていたのと同じ服だった。
「まだ煙が残っている内にさっさと着ろ。」
火燐はそれだけ告げ、凛達の元へ向かって行った。
これに藍火は軽く呆けるも、すぐに笑みを浮かべて服を着始める。
しかし、どうやら手遅れだった様だ。
藍火は服を着るのに慣れていないせいで少しもたつくも、辛うじてシャツは着る事が出来た。
しかし黒いパンツの片足部分に両足を入れる等のアクシデントを挟み、どうにか無事に足を入れたと思ったら、きちんとした状態でなかったが為に途中で引っ掛かる…つまりお尻丸出しの状態で苦労する羽目に。
そこへ、時間切れとばかりに煙が晴れ、藍火は「あ…」と言いながら止まってしまう。
それを見た美羽達が複雑だったり、困った表情を浮かべていたのは言うまでもない。
「ねー、まだ終わらないのー?」
そんな中、凛を含めた男性陣は、美羽達から手で目隠しをされている状態だった。(凛は既に見た事があると告げたが却下された)
凛が代表で尋ねてみるも、返事が来たのはしばらく時間が経ってからだったりする。
「凛殿ーーー!!」
藍火が着替えを終え、凛達と合流を済ませてから話をしていると、不意にアルフォンスの声が聞こえた。
凛達は声のした方向に視線をやり、乗馬姿のアルフォンスがこちらに急いで来る様子が窺えた。
凛は藍火が原因で追及に来たのだと踏み、謝罪しようとする。
「アルフォンスさん、すみませ…。」
「良かった。まだお休み中だったらどうしようかと思いましたよ…。」
『?』
しかしアルフォンスは怒るどころか、明らかに安堵した表情を浮かべていた。
その事に凛達は揃って不思議そうにする。
今回アルフォンスが訪れた理由…それは1時間程前にサルーン内で問題が発生し、その内容が凛達に関するものだからだったりする。
しかし当の凛達は現場におらず、まだ休んでいるかも知れない(とアルフォンス達は思っている)のに叩き起こすのはいかがなものかと判断され、何も出来ずにただただ時間ばかりが過ぎていた。
そこへ、門番からつい先程、こちら方面から青い炎が上がって行ったとの報告が届けられた。
その時間に問題の現場にいたガイウスとゴーガンは顔を見合わせ、もしかしたら凛に関係があるかも知れないとしてアルフォンスを遣いにやったとの流れになる。
アルフォンスは馬から降り、凛の前で立ち止まると深く頭を下げた。
「突然の訪問、誠に申し訳ありません。それとかなり不躾である事も重々承知なのですが、今すぐ私と一緒に来て下さい!」
「え?えぇ~~~~~!?」
そして話の最後にがばっと頭を上げたかと思うと、素早く凛の手首を掴み、踵を翻す。
そのまま急いだ様子で馬の元へ向かい、片手で器用に乗馬した後、驚きを露した状態の凛を連れてその場を後にした。
「…はっ!?マスター、置いてかないでーーー!」
それ以外の者達は事態の早さに呆然としており、一足早く我に返った美羽が後を追い掛けて行った。
「一体何だったんだ…。」
火燐がそう呟くも、答えが返って来る事はなかった。
それからアルフォンス達はサルーンへ向かう。
その間に凛は空中で体を捻らせて体勢を整えつつ、そのままアルフォンスの後ろに乗馬。
…と同時に美羽が追い付き、アルフォンスは凛と美羽の身体能力の高さに頬を引き攣らせた。
しかしそれが功を奏したらしく、落ち着きを取り戻す事が出来た様だ。
門番から凛の屋敷方面で青い火の玉の様なものが上がったとの報告を門番から受け、準備を整えて来たのだと告げた。
凛と美羽は顔を見合わせ、それがどうして訪問する理由になるのだろうと首を傾げた頃にサルーンの南門へ到着。
門番達は一瞬警戒体勢に入るも、馬に乗っているのがアルフォンスだったり、傍らに美羽が走ってるのを見て構えを解いた。
そしてアルフォンスが「このまま失礼するよ」と言いながら門を通り、馬に乗ったまま街中を駆け回った。
時刻が午前7時過ぎと早く、人もまばらだった為、すんなりと冒険者ギルドへ向かう事が出来た。(道中いた通行人は驚き、何事かと思った住民が窓を開ける等していたが)
凛達は「冒険者ギルド?」と言いたそうな表情で建物を見上げ、アルフォンスが中へ入って行くのに気付き、彼の後を追う。
そして凛達が冒険者ギルドに入ると、冒険者ギルド側に4人の男性、それとガイウスやゴーガンと言った者達が彼らの様子を窺っているのが分かった。
4人は1対3の組み合わせとなっており、1人の方である商人風の男性は、何やら得意げな表情を浮かべている。
しかしもう片方である3人…その内の2人は身なりの良い格好を、残る1人は得意げな男性と同じ商人風の装いをしており、揃って(歯ぎしりする等して)相手の男性を睨んでいる。
凛達は不思議そうな様子でガイウスの元に向かうと、ガイウス達は明らかに安堵の表情となった後、凛に事情を説明し始めた。
ガイウス曰く、彼らはサルーンにある商業ギルド員と商国の商業ギルド員、それとサルーンの隣(と言っても、いずれも数十キロ離れた地点)にある都市を治める領主の関係者で、いずれもそれなりに高い地位にいるとの事。
身なりの良い男性2人が隣の都市から来た使いの者で、2人の近くにいるのが商国の商業ギルド員。
そして得意げな表情を浮かべているのがサルーンの商業ギルド員と言う構図になる。
事の発端は、昨日凛がオークキングの肉を受け取ってから2時間位経過した頃にまで遡る。
ワッズ達解体職人は仕事上がりの時間となるのだが、初めてのフォレストドラゴンの解体で気分が高揚しており、それは解体場から出た後でも変わらなかった。
その内の1人が、待ち合わせをしていた知人にご機嫌な理由を尋ねられ、我慢出来なかったのだろう。
ワッズから口止めされていたにも関わらず、フォレストドラゴンを解体している旨を知人に伝えてしまう。
知人は大声で叫んでしまい、それが周りに伝播していった結果、フォレストドラゴンの噂が商業ギルド…それと周辺からワイバーン急襲の噂の真偽を確かめに来ていた者達にも伝わった。
周辺から来た者達は急いで上の者へ伝えに自分の国や都市へ戻り、夜中や深夜過ぎに到着して事情を説明後、代理の者をサルーンへ送った。
代理の者達は門が開かれる6時前にサルーンへ到着し、開門してすぐに冒険者ギルドへ向かうも、既に昨日の内にサルーンの商業ギルドの者が唾を付けている状態だった。
代理の者達はこれに憤慨し、(討伐者である凛を他所に)フォレストドラゴンを購入する権利をこちらへ寄越すよう促す。
しかしサルーンの商業ギルド員は涼しい顔でこれを拒否し、再三警告しても聞き入れる素振りがない事から、いつ暴動に発展してもおかしくない状況となった。
顛末を聞いたガイウスが冒険者ギルドに来てはみたものの、下手に仲裁をしたが故に誰かの顰蹙を買い、街に攻め入れられたり流通を止められる可能性がある。
実際、やって来た時に止めるよう執り成そうとしたのだが、自分の領地(或いはギルド)を敵に回すつもりかと反論を食らい、黙って引き下がる事しか出来なかったそうだ。
いくらガイウスやゴーガンが金級の腕前を持つ手練れだとしても、流石に都市が相手では分が悪い。
しかも流通を止められたりでもしたら、街に住む者達の生活が…となり、少しでも早く凛が来てくれる事を願っていたと告げ、説明を終えた。
話を聞いた凛が困った笑顔を浮かべていると、ワッズとうっかり情報を漏らしてしまった職人の男性がやって来た。
男性は当事者、ワッズは解体場の代表との立場でこの場所におり、男性はかなりおどおどとした様子を、ワッズは申し訳なさそうにしている。
「凛、強制的に呼び出す形になっちまってすまねぇ。…ったく、この馬鹿がやらかしたばかりに、よぉ!」
そう言って、ワッズは男性の頭をスパァァンと実に良い音を響かせながら叩いた。
男性は叩かれた事に動じず、泣きそうな表情で「本当にすみませんでした…」と告げながら頭を下げる。
そして今度はワッズからの説明に入るのだが、どうやら彼も被害者の1人だった様だ。
いつもならまだ寝ている時間に叩き起こされ、急いで(解体場に)来てみれば、職人数人とは別に何故か商業ギルドの者がいた。
ワッズはこう見えて妻や子供がおり、家族を大事にしている。
そしていつもの如く仕事から真っ直ぐ帰ったが為に、昨日の騒ぎを知らなかった。
そんなワッズが商業ギルドの者にここへ来た理由を尋ねた所、『フォレストドラゴンがここに持ち込まれたと街中で噂になっている。本当にあるかどうかを確かめに来た』との返事が返り、衝撃のあまりよろめいてしまう。
しかしすぐに怒った様子となり、誰が漏らしたのかの追及を行い、すぐに犯人が分かった。
それから怒声混じりの説教が始まるのだが、そこへ他の3人が制止を振り切り、解体場へ押し入って来た。
3人は解体途中のフォレストドラゴンを見て感動した様子となるも、(ワッズが来るよりも前にいた)商業ギルド員が先に目を付けたから自分に購入権があると主張。
それを聞いた他の3人は商業ギルド員を非難するも、彼は早い者勝ちの一点張りで譲ろうとはしなかった。
そこから誰が購入するかで問題に発展し、(解体の仕事を始めたいからとして)冒険者ギルドに場所を移した後も言い争いは続いた。
3人は何を言っても聞き入れて貰えないと判断し、今度はワッズやガイウスに商業ギルド員よりも高く買い取ると告げる。
だがフォレストドラゴンを討伐したのは自分達ではない為、凛の断りなしに勝手に決めるのもとなり、結局話が進まないとして困っていたのだそうだ。
「…ったく、本当に参っちまうぜ。折角(黒鉄級の魔物を解体する)機会が出来てやる気も増したってのに、この馬鹿がやらかしたせいでダメになっちまうかも知れねぇなんてよ…。」
「まあまあ。取り敢えず事情は分かりましたし、他の所へと言うのも考えてないのでご安心下さい。」
「おお!そうかそうか、そりゃ良かった!」
ワッズはそれまでの意気消沈した様子から一転、凛の言葉により盛大な笑い声を上げた。
凛は笑顔でワッズを見ていると、問題となる男性4人が訝しんだ視線を自分へ向けている事に気付いた。
商国の商業ギルド員がガイウスに誰かと尋ね、ガイウスがフォレストドラゴンを討伐した者だと話し、凛が頭を下げる。
すると途端に彼らの目の色が変わり、どうにかしてフォレストドラゴンを売って貰おうと思った様だ。
自分達がガストン領ガストン子爵やスクルド領スクルド伯爵、それと商国の商業ギルドからの遣いだと紹介した後、オークションの様に買い取り額を釣り上げる等して必死に凛を説得し始めた。
これにサルーンの商業ギルド員は焦った様子となるも、凛がお金には困っていないと答えた事で安堵の表情を浮かべ、3人は物凄く悔しそうにする。
ならばと、解体は済んでいるものの放置されていたオークキングを買い取りたいとの意見が上がった。
しかもそれだけでなく、他にも売れるような強い魔物はないかとの追及まで始まってしまう。
凛は彼らに肩を掴まれた状態となっており、軽く揺さぶられながらどうしたものかと困っていた。
すると見兼ねたゴーガンから助けが入り、あまりにも酷い様であればギルドから叩き出すとの助け船まで出してくれた。
3人はゴーガンに気圧されて距離を置くものの、やはり手ぶらで帰れないらしく、食い下がる気配はなかった。
「…ガイウス。確か…君の屋敷で凛殿が次に解体する予定のアダマンタートル2体を預かっていたよね?」
ゴーガンは横にいるガイウスの方を向き、いきなりそんな事を言い始めた。
どうやら、ゴーガンは凛が空間収納持ちだと伏せると共に、敢えてこちらから選択肢を与える事で凛の負担も減らすつもりでいる様だ。
ガイウスは一瞬分からない顔をしていたがすぐに理解し、
「…そうだったな。凛殿、そのアダマンタートル2体を彼らに譲っても宜しいだろうか?」
凛はガイウスからの問い掛けに対し、2つ返事で了承の意を伝えた。
これに3人は少し離れた場所へ移動し、誰がアダマンタートルを買うかの話し合いをし始める。
そこへサルーンの商業ギルド員も加わり、流石に全部は変えないので3割程度なら譲っても良いとの発言から更に白熱したものとなった。
その間に凛達は凛達で集まり、小声による口裏合わせを行っていた。
凛達の方針が決まった頃に3人も結論に至り、一行はガイウスの屋敷へ場所を移す事に。
到着後、準備するとの名目で屋敷の前に3人を待たせ、5分程経ってから中に入れた。
そして彼らを庭に案内し、アダマンタートル達と対面させる。
いずれも傷が首にしかなく、ほぼ無傷の状態だった為、3人は非常に興奮した様子となる。
それから更に10分程話し合いをした所で、話題の矛先が凛に向いた。
そして自分の所に来ないか、どこに住んでいるのか等を尋ねられ、やんわりと断ったりはぐらかしつつ、今日中に回収に来るとして取引を終える事が出来た。
凛達は安堵だったり笑顔で上機嫌な彼らを見送った後、真面目な表情でこれからについての話し合いをし始める。
凛、ガイウス、ゴーガンの3人は、今日中に凛の屋敷がバレると踏んでおり、これからは直接取引を持ち掛ける為に屋敷を訪れ、最悪の場合屋敷を襲撃する可能性があるとの結論に至る。
更にガイウスから、現在住んでいるのは王国…つまり王国に所属していると捉えられ、国から無理難題を突き付けられたり、場合によっては有無を言わさずに強い魔物や貴重品を献上しろと言われるだろうとも告げられた。
これにゴーガンが頷き、住む場所を変えた方が良いと提案され、凛は『折角住民票を貰ったばかりなのに…』と残念がる場面も。
しかしガイウスが住む場所が変わっても関係が途切れる訳ではないと告げ、凛は複雑な顔をしながらも一応は納得する事に。
ひとまず話が纏まったとして解散し、ガイウスは執務室へ、ゴーガンは冒険者ギルドへ、凛と美羽は自分達の屋敷にそれぞれ向かう。
帰宅後、凛は皆をリビングに集め、事の顛末を伝えた。
「…と言う訳で、どの国にも属さない死滅の森に住む場所を変えようと思う。その為には森を拓かなければいけないんだけど、適した場所に心当たりがあるって人はいるかな?」
凛からの質問に火燐達は顔を見合わせるも、首を傾げたり、目を瞑ったり左右に振る等していた。
「…凛様、宜しいでしょうか?」
そんな中、それまで瞑目しながら黙っていた暁が目を開け、真っ直ぐ凛を見て尋ねた。
凛は軽く驚いた素振りを見せつつ、話すように促す。
「…! お、暁が意見するのは珍しいね?どうぞ。」
「ありがとうございます。候補地…と言う程ではありませんが、オーガの集落はいかがかと思いまして。ナビ様に確認しました所、ゴブリンキングがいた洞窟からそう遠くない位置に集落があるそうです。それに…。」
「因縁があるから、でしょ?」
「…! お見通しでしたか。」
「うん。場所は分からないけど、候補地の1つとして僕も考えてはいたんだ。でも(ゴブリンの)集落を滅ぼされたのと少なからず関係があるだろうし、誰からも提案がなければ黙るつもりでもいた。」
『………。』
「暁はどうしたい?」
「どうしたい、とは?」
「暁の事だから、出来れば自分達だけでとか言い出すんじゃないかと思ってさ。」
凛の言葉に、暁は図星とばかりに苦い表情となる。
「僕としては、少しでもリスクを減らす為に皆で臨みたい所なんだけど…それだと納得しないでしょ?」
「はい。出来ましたらこちらだけで…。」
「うん、分かってる。だから戦闘は任せるよ。でも危険だと判断したら、遠慮なく介入させ貰うからね?」
「勿論です!絶好の機会を与えて頂き、感謝致します!」
「紅葉達はどうする?」
「勿論、私達も暁と一緒に参ります。」
「分かった。それじゃ時間も惜しいし、早速だけどオーガの集落へ向かおうか。今から10分後、屋敷の前に集合ね。」
『はい!』
今後の方針が決まり、火燐達は準備の為、それぞれ自室へ向かって行った。
しかし凛と美羽は特に準備するものもないとして、一足先に外へ出る事に。
10分後
屋敷の前にて、火燐達は既に屋敷の前に集まっているのだが、そこに凛達はいなかった。
代わりにポータルが設置されており、少ししてポータル越しに凛と美羽が姿を現す。
凛はこの先がオーガの集落近くに繋がっていると伝え、先行する形で再びポータルを通る。
美羽達もそれに続くのだが、藍火と玄はポータルを見るのが初めてだった。
2人はかなり驚いた後、かなり珍しいものでも見たと言う様子で美羽達を見送り、ポータルを見て周る。
やがて、恐る恐ると言った感じでポータルを潜って行くのだった。




