278話
時刻は8時過ぎにまで戻り、帝都から600キロ程北東の位置にあるソルヴェー火山。
そこに凛達はやって来た。
ソルヴェー火山は国内で1、2を争う規模の魔素点。
度々起きる噴火により溶岩が近隣へ流れ出たり、或いは塊となって飛んで来たりする場所だ。
溶岩には様々な鉱物が含まれ、鉄・銀・金等の金属は勿論。
上記以外に、僅かではあるがミスリルや火鉱石。
極々稀に、アダマンタイトが入っているとの情報もあったりなかったり。
それ故、ソルヴェー火山は危険な場所の為近付かない様にとの触れ込みこそされてあるが…人の口に戸は立てられないもの。
噂が噂を呼び、ちょっとした小遣い稼ぎに適しているとして冒険者や商人。
果ては一般人までもが訪れ、主に火口から離れた遠くの地点を中心に冷えた溶岩を採集。
ただ、想像や目的よりも量が少ない。
或いはもっと欲しいからと必要以上に踏み込み、被害や事故に遭うケースがちらほら。
それでも人の業と言うのは深いもので、今日も今日とて一攫千金を求め、それなりの数が彼の地へと赴く。
さて、今回のソルヴェー火山探索のメンバーだが、メインの凛に加え、彼の補助である美羽。
更には火燐、翡翠、楓と。
実力者トップ10の内の5名が揃い踏み。
上記以外として、調査が主要な職務であるステラ。
彼女の幼馴染兼大親友のアレックス━━━は現在帝城にいるので、代わりと言うか名代として元『影の王国』。
ラナの部下ニアに、アンジェリーナを入れた計8人となる。
尚、シエルはフサフサの毛並みと火山は相性が悪い+結構なビビりから足を滑らせる等して溶岩へとの危険性から。
勿論そんな結末は凛達がさせないのだが、とにかく乗り気でないらしく今は屋敷の屋根で横向きの紫水達。
それと大の字で仰向けになっている藍火と共に、仲良く日向ぼっこ中。
アルファは帝城で出番があるかもを根拠にパスしている。
アンジェリーナがここにいるのは好奇心が主。
凛の教育係のおかげで(未来の)夫ガイウスの部下が育ち、多少ながら余裕を確保。
空いた時間をガイウスとリーゼロッテは鍛錬に充て、多趣味なアンジェリーナは色々な事を試し、ある程度落ち着いた先に見付けたのが何故か魔素点探索。
当然行かせられるはずもなく、本来であればドネグ湿原へも行動を共にしたがったものの…場所は王国でも帝国でもない神聖国。
どう考えても部外者でしかなく、渋々断念せざるを得ないとの運びに。
そのドネグ湿原消失が影響してか、ソルヴェー火山に見えた活発化の兆し。
そんなこんなで出向くとなり、しかも帝国。
無関係じゃないなら良いですよね、とルンルン気分で参加を表明。
ならばとリーゼロッテも名乗り出るも、父ゼノンによって却下。
(実は密かに参加するつもりだったアレックス含め)つまらなさそうにしていたのは、上記が理由だったり。
最後にニア。
一見すると小柄な猫人の彼女だが、実はペルシャ猫を思わせる位にフッサフサな体毛を所持。
人間で言うところの毛深いに当たり、他種族だけでなく同族。
終いには家族からも『人ではなく獣』だと忌み嫌われ、迫害の対象に。
普通とは違う容姿=怖くて受け入れられないから来ているのだろう。
ともあれ、集落全体から反感を買い、幼い内から追い出される位には存在を拒否された彼女。
幸か不幸か、その数日後白鳥によって拾われ、無理矢理配下に登録。
当時ラニに次ぐ2番目での発見だった事から、以降のメンバーから最初に抱かれたのはやはり戸惑いだったり嫌悪感。
ラニですら多少なりとも生まれ、しかしながら長い年月で緩和。
今は同僚や友人として接してくれてはいるが、しこりとして心に残っているのは事実。
違うとすれば、白鳥を始めとする異世界人。
新たな主となったアレックスもそれは然りで、ステラとアリスから面白くない目で見られたのは言うまでもない。
因みに、変化スキルで一般的な獣人の容姿へチェンジしたニア以外にも、毛が豊かなとの意味で犬人ゾーイや狐人ブレア。
通常枠で猫人イーミィ、犬人リサンデラ、狐人アマネも十死天には存在する。
話は戻り、談笑を交えながら凛達はひたすら前進し、襲い来る魔物達を次々に撃破。
いずれも数体〜十数体のグループではあるものの、強くて銀級上位。
どれだけ攻めようが物の数ではなく、尚且つ誰1人として回収する素振りを見せない為か、良くも悪くも注目の的。
集める程ではないと関心を示さない凛達とは異なり、周辺にいた者達からすれば降って湧いた幸運。
誰かが倒せばそちらに人々が群がり、取り合いの奪い合いへと発展すれば流石に面白くない訳で。
少しずつ笑顔が消え、無表情or渋面へ変化していくのも仕方ないと言えよう。
しばらくそれらは続き、やがて登場したファイアドラゴンが放ったブレスを火燐が掌で吸収。
溜めた魔素はそのままに、(彼女の体感的に)ちょこーーーっとばかり威力を足した火球をお返し。
それがトドメとなり、ファイアドラゴンが顔を覗かせた場所。
即ち火山内へ繋がる入口を発見。
「オイタは程々にな。」
迷う事なく凛達はその穴へ進み、最後に入る前に火燐が1言。
今までの分は見逃してやるが、これから先は許さん。
そう捉えた人々は震え上がり、先程のファイアドラゴンみたく綺麗に焼き尽くされるのではないかと恐怖に駆られ、大量に流れる冷や汗。
1人、また1人と後退り、最後は蜘蛛の子を散らすみたく走り去った。
こうして外から中へと場所を移した凛達だが、彼らにも変化が。
特に、ステラ・ニア・アンジェリーナ3名が、如何にも暑そうな雰囲気。
更には奥から吹いて来る熱気に中てられ、彼女らが身に付けている装身具。
開発したばかりの冷却機能付ブローチ型魔道具の効果を以てしても、先に進むのは少々困難ではとの考えが頭を過る。
「やはり(アブソリュート・ゼロで)凍らせるべき。」
水を司るが故に暑いのが苦手…とまではいかないにせよ、鬱陶しいから火山全体を凍らせる。
そんな恐ろしい現象━━━算段を立てようとする人物、雫。
「待て待て待て、早まんじゃねぇ。色んな意味で。」
ヌルっと現れた挙げ句、一切躊躇う素振りを見せずにカドゥケウスを前に構えようとする彼女を、火燐がやんわりストップ。
2人による軽い口喧嘩が繰り広げられた後、「…よっと」との掛け声と共に火燐は右手を挙げる。
すると、彼女を中心に半径10メートル程赤い半透明の障壁の様なものが展開。
熱さだけでなく、飛んで来る溶岩ですら受け止めてみせた。
「これで暑くねぇとは思うが、調子に乗ってあまり離れんじゃねぇぞ。オレらは(溶岩に)落ちても熱いで済むっちゃ済むが、ステラ達は終わりだからな。特に気を付けて進めよ?」
「うん、分かってる。」
「存じ上げております。」
「き、気を付けますぅ…。」
平然と答えるステラやアンジェリーナに対し、内気なニアは恐怖で身を縮こませ、首が取れそうな位に何度も何度も頷く。
性格の差が、これでもかと現れた形となった。
「ああ、それが賢明だ…と言う訳で、オレも戦闘に参加出来そうにないから、そっちは(凛達に)任せるわ。」
「分かった。」
「はーい♪」
「ん…。」
「はーい!」
「分かりました…。」
若干1名程テンション低い者がいたが、皆一様に前方へと足を動かす。
10分後
「…ワイバーンと火竜は数体ずつだったから早々と終えたが、まさか一帯にいたロックスライム共が…な。」
若干苦い表情で火燐が告げる。
火山内部へ入り、穴の先にある開けた空間に出た途端。
ワイバーンやファイアドラゴンが次々にこちらへ首を向け、かと思えば続々と立ち上がり、そのまま襲い掛かって来た。
ワイバーン達は外にもおり、そちらでは無反応。
テリトリーを害されたと判断したかは不明だが、出鼻を挫かれる形となった。
ともあれ、ほんの一瞬の出来事。
即座に我へ返り、武器を構えた凛が前。
彼の後ろに位置取った美羽から放たれる、空間切断。
これによりドラゴンらは縦・横・斜めに分かたれ、溶岩の中へとドボン。
そこでようやく岩に扮したスライム、金級の魔物ロックスライムが動きだした━━━かと思われた矢先。
迎撃目的で空中に留まり続けるタイプの空間への斬撃に体当たりし、論を俟たずして分断。
ファイアドラゴンに倣い、溶岩へ吸い寄せられる結果となった。
ロックスライムはディメンションスラッシュに対し、自分の方が硬いとの対抗意識を燃やしたのか。
将又、彼らなりに勝てたとの証明を示したかったのだろうか。
そう考えたくなる程、我先に空間の切れ目へ特攻→真っ二つにされ、赤い海へ沈むを繰り返していった。
先日火燐が訪れた際、ロックスライムはじっとして動かなかったにも関わらず、何故か見られた不思議な挙動。
或いはもしかすると、どちらが硬いかを競いたいと言う。
彼らなりのやり方プライドがあるのかも知れない。
「何故か、凛くんや美羽ちゃんが残した沢山のディメンョンスラッシュに次々突っ込んで行ったよね。反骨精神…?」
「こんなん初めてだし、正解が分からねぇな…。」
ともあれ、その様な事情等こちらは知らない訳で。
火燐がひたすら不思議そうにし、翡翠も翡翠で何とも言えない表情で話し合う姿が印象的だった。
一通りドラゴンやスライム達を片付け終えた後、改めて進み始める1行。
至るところでボコッボコッと脱ガスが起き、岩肌や近くを溶岩が流れ、時折噴出もする。
それでも一応は先へ進めるらしく、足場となる岩の通路が真っ直ぐ正面に伸びていた。
「か、火山の中ってこうなってるのですね。初めて見ましたが驚きですぅ。」
「だよね!僕もだよ。向こうのと同じかだとか、行ける機会があったら行ってみたい位には興味が湧いたかも!」
「な、成程ぉ…?」
ニアは怖いとの意味での驚きに対し、ステラは逆。
同じ言葉でも異なる捉え方に凛達はクスクスと笑い、火燐が「はははは」と漏らす。
「「?」」
「ごめんごめん。2人を獣国にある霊峰エルミールへ案内したら、今みたいな反応を見せるのかなって思ったんだ。それじゃ、先を進もうか。」
一頻り笑ってからそう締め括った後、凛は意識を前へ。
ソルヴェー火山内部は、高低差や足場が飛び飛びだったりする箇所は見て取れるものの、基本的には真っ直ぐだった。
そんな彼らの視線の先では、空中を飛び、溶岩の中や表面を川や海の様に泳いで回る魔物の姿が。
それらは空中を飛んでいるファイアドラゴンとは別に。
常時炎を纏う蜥蜴ファイアリザードに、鳥を模した炎の塊ファイアバードやフレイムバード。
スライムの亜種であるレッドスライムにルージュスライム、炎を象った狼レッドウルフだった。
それらを凛と美羽の2人が先行して迎撃。
左右、後方からの襲撃は雫・翡翠・楓が対応し、全てワンパンで処理。
微塵も危なげなさを感じさせない足取りで先を進む。
そのまま3分程ゆっくり進むと、今度は少し広い場所の真ん中にいる、赤熱した赤い岩の塊に凛達は遭遇。
その赤い岩はラーヴァゴーレムと言い、火鉱石成分を多く含む魔銀級の魔物。
文字通り、溶岩で出来たゴーレムでもある。
しかしラーヴァゴーレムは現在、待機状態にある様だ。
10メートルはある体を、体育座りの要領でコンパクトに纏めていた。
「…襲って来ないね。」
近付いたら動き出すかもとの判断から、ラーヴァゴーレムから2メートル程前の位置で待機。
しかし10秒が経過しても動く気配はなく、不思議そうな顔で凛が首を傾げる。
「通るのにちっと邪魔だが、寝てるなら寝てるでわざわざ…。」
先程の戦闘不参加の件は何だったのか。
そう言いたげな凛達を他所に、ふんっと鼻息を荒くした火燐が障壁の範囲を拡大。
かと思えば、ラーヴァゴーレムの傍へてくてくと移動。
何事もなく通過出来ればとの思いから来た行動なのは分からなくもないが、案の定と言うか。
頭を上げ、のっそりとした動きで右腕を伸ばして来た。
「させるかよ。」
その腕を掴んだ後、軽い動作でラーヴァゴーレムを投げ飛ばす火燐。
綺麗な放物線を描き、100メートル程先の位置にドポォォォンと音を立て、巨体を溶岩の中へと沈ませる。
ここまでは良かった。
「ったく、油断も隙もありゃしねえ。」
「…火燐。ゴーレムを投げ飛ばしたって事はさ、津波みたいなのが発生するんじゃ…。」
「あ、やべ。」
あれだけの質量が液状のものに落ちて何も起きないはずがなく。
凛の指摘があろうが関係なく、少し苛立った様子の火燐以外の面々はラーヴァゴーレムが飛んで行った方を注視。
不味いと言いたそうな表情で恐る恐る当人も振り返れば、身の丈以上の高さの赤い波が向こうから押し寄せて来るではないか。
「皆、走れぇぇぇぇ!」
火燐の叫びに全員がビクッとなり、奥へ向け一目散にダッシュ。
道中、火燐は皆から散々文句を言われ、その度に謝罪を繰り返す羽目になるのだった。
いや、火燐何しとんとの意見はさて置き。
影の王国主要メンバー。
もとい十死天はこちら↓
鴎→少々灰色がかった白髪ラニ(元小国の王女)
鵲→紺色髪の猫人ニア(当時の族長の娘 ペルシャ猫を思わせる毛並み)
鷹→エルーシャ(エルフ)
隼→ゾーイ(犬人 ニアに同じ 白いチワワを二足歩行にした感じ)
梟→イーミィ(通常の猫人)
鵙→ブレア(ニアに同じ 赤い体毛の狐人)
鶚→リサンデラ(コヨーテみたくピンと張った耳の狼人)
鶲→アマネ(オレンジの髪色の狐人)
鳰→マチルダ(アマゾネス)
鵆→クラーラ(ダークエルフ)




