277話
ルイーズ・ヴァン・ゾンドルキア公爵令嬢こと草葉 えるは、所謂カースト上位と呼ばれる女子。
眉目秀麗で、頭も悪くはない。
「まさかこっちでも会うなんて…腐れ縁を通り越してキモっ。」
「腐れ縁?」
「彼女とは幼稚園から高校まで一緒だったんですよ…一応。」
「俺とステラみたいなもんか。仲は…良くなさそうだな。」
「ええ、まぁ…。」
「ウケる。私とコイツがとか草、マジ草生えるんですけど。」
「こんな感じです。」
「…幼馴染でも色々あ(る)んだな。」
突っ込みたい衝動をグッと堪えたアレックスが、神妙な面持ちを浮かべる。
えるを端的に表現すれば、尊大且つ傲慢で傍若無人。
社長の父親を持ち、昔は一般家庭で育ったからと私立ではなく普通の幼稚園。
以後公立機関に預けられた結果、今に至る。
拗らせに拗らせたせいでワガママ放題に育ち、学校に呼び出される等して両親を困らせる事もしばしば。
そして何の因果か、えると光輝は通う場所が全て同じと言う。
形だけの幼馴染、悪縁とも呼べる間柄に。
典型的な陽キャなえるに対し、光輝は少々控えめな性格や髪型だった為か陰キャに分類。
先刻の通り、「ウケる」「草」「草生える」が口癖。
やたらマウントを取りたがる彼女から馬鹿にされた回数は決して少なくなく、高校を卒業して数ヶ月。
えるにとっては20年弱振りとなる再会でも、相変わらずの口調。
並びに所作の様だった。
「そうだ!ねぇ、アンタホズミ商会と関係あ(る)んでしょ?仲介よろしくー。あ、ス◯ホっぽいのから真っ先に回せな?」
右手を挙げ、とても貴族令嬢には似つかわしくない。
品性の欠片もない口調でえるが告げる。
目元がキツいとの注釈は入るも、高貴なお嬢様然とした風貌。
にも関わらず、自ら台なしにする彼女に他の家族は揃って渋い表情を浮かべ、頭が痛そうにする。
これだから表に出したくなかったのだ…と呟かれた気もするが、恐らく気の所為だろう。
前世の生まれが関係してか、内政に繋がるスキルを獲得。
約11年前の8歳から父の仕事に口を出し、生来の狡賢さとの相乗効果で高い利益を叩き出した彼女。
以後、公爵家にはなくてはならない存在となり、当人からの買い物がしたいとの要望を受け、家族全員で帝都へ赴いたのが昨日。
目的を果たし、後は帰るだけとなった矢先に皇帝の勅命で呼ばれ、翌日の今日に至っては重大発表があるからと帝都にいる貴族全員を招集。
その全員には本人だけでなく家族も含めるとされ、不参加の者は相応の罰に処すると報されれば来ない訳にはいかず、ゾルダはただ恥を晒しに来ただけとの結果に。
それと、えるは歩きスマホ常習者。
日本にいた際、いつも歩いて通る道が工事中なのに気付かず、足を踏み外して横転。
側頭部を強打し、あっさりと亡くなった。
死因がスマホと言っても過言ではないのに、尚も求めたがるのは依存か。
将又、手元にないと不安になるから来ているか。
ともあれ、死んでも尚懲りていない。
或いは末期に近い状態なのは間違いなさそうだ。
「…だそうですが。」
「当然ながら、却下だ。むしろ何故イケると思ったかが理解出来ん。」
恐る恐る光輝から水を向けられたアレックスが、即バッサリ。
「はぁ!?何でよ!?そこは受けるべきでしょ!?何様のつもり!?」と憤慨するえるに「何様かと問われたら皇子様だと答えるしかない訳だが…」と返し、「確かに」との思いで満場一致。
「貴族よ?公爵令嬢よ?繋がりが欲しいんじゃないの?それともお金?お金なの?商人らしく、足元見ようって考え?そもそもどうしてアンタが━━━」
「営業担当だからな。主に帝国と王国の、との但し書きが付くが。お前みてーな馬鹿を相手するのに、俺のポジションが必要なんだと。」
「言うに事欠いて、私を馬鹿ですってぇ?」
「いや、馬鹿だろ。如何にも悪役令嬢?って感じがプンプンするし、(服飾品が)ゴチャゴチャし過ぎ。成績や結果が良くとも人としてどうよって類いの奴いるだろ?アレだよアレ。
後ついでに、自分の事を才女とか思ってるかもだが、人生2週目みてーなモンだろ?しかも(高校を)卒業したばっか。なら出来て当たり前だ。」
「チッ。」
今のえるみたく、貴族=権力だと勘違いする者は帝国内外に一定数点在。
高い身分である程それは顕著に現れ、より横柄な言動や素行へと繋がっていく。
現に、こちらから頼んでおらず、むしろ向こうから来ているのにやれ話にならない。
やれもっと上の者を呼べと最終的にシルヴィアや、エレンケレベル、ウェンディが相対。
だが彼女らは純粋な人族ではなく、しかも女性。
嘲笑・侮蔑・罵倒のどれかを必ず向けられ、毎度毎度不愉快な想いを抱いたのだとか。(その都度未来の旦那であるダニエルに怒りをぶつけ、搾り取るまでがセット)
故に、貴族?宜しい、ならばこちらは皇族だ。
権力?お望みとあらば最上級で以てお相手しよう…とばかりに用意されたのがアレックス。
この話は彼が帝都へ到着するよりも早く出、トントン拍子で決定。
王国、帝国の貴族が面倒さ加減が浮き彫りとなり、同時にアレックスへ白羽の矢が立つのも納得。
誰が相手でも物怖じせず、臨機応変に対応する姿を散々見せられたのだから自然とも言えよう。
幸いと言うか、彼は高校を卒業してすぐ。
知り合いの知り合いの伝でスーパーに勤務。
友人レベルにまで仲良くなると口調は砕けるものの、それ以外だと(意外な事に)真面目。
ヤンチャそうな見掛けなのに敬語とのギャップも相まって、初めこそ戸惑われるがすぐに慣れ、自然体で話せるまでに。
なので少し歩けば声を掛けられ、相手をしている内に別な者、そこへ別な者が…と言うのも全然珍しくなく。
上司に当たる人物からの評価も中々に高い上、(簡単な部類には入るも)社員が行う様な仕事。
並びに相談なんかもちょこちょこ受けていた。
これらを鑑みるに、見方によってはこれ以上ない位の人選と取れるだろう。
先程の焼き直しと言うべきか。
ギャンギャン喚くルイーズを、アレックスが冷静に対処。
「庶民共のパンがない?その辺の草でも食わせときなさい」を地でいく彼女が折れるはずもなく、ある閃きが生まれる。
「分かった、アンタ私の事が好きなんでしょ?綺麗だもんね、私。」
「は?」
「もー、それなら言ってよ。皆が見てる前とか恥ずかしいじゃない。」
「は?」
「正直好みじゃないけど、仕方ないから結婚してあげる。喜びなさい。」
「あ、良いですぅ。」
「遠慮しなくても良いのよ?ただ、分かってるよね?」
「止めろ下さい、マジで。」
等と、妙な敬語が出る程度にはアレックスを困らせた。
どうやらルイーズはアイシャとの破談をどこからか聞き付けた挙げ句、甘い汁を吸う気満々。
期待する彼女の家族に、彼らが懇意にする商人であるガース商会。
複雑な視線を向けるアイシャ(+α)を一瞥すらくれず、ひたすら攻め続ける。
因みに、ガース商会の現代表はヨコナ。
商国出身である3代前のシマナから始まり、アシナ、シロナを経てゾンドルキア公爵のお抱えに。
それを知ったアレックスが「シマナ=ガース、アシナ=ガース、シロナ=ガース、ヨコナ=ガース…島流す、足長す、鯨みてーな名前に横流す、変な名前ばっかだな」と漏らしたとか何とか。
「ねぇ、良いっしょ?ねぇったらねぇ。」
「あーもうしつけぇ!!今まで貶しまくってた奴と一緒になるとか有り得ねぇだろ!だから甘えんな、近寄んな、話し掛けんな!鬱陶しいったらねえ。」
「酷い…私の事嫌いなの?」
「ああ嫌いだね。少なくとも、さっきから鳥肌が立って仕方がねぇ位にはな。」
本気の現れなのだろう。
寒気を覚える様な仕草を取り、露骨にアピールするアレックス。
そこへ、「殿下、殿下ぁ〜」と円卓の騎士ナノウがニコニコ顔で近寄り、ゆっくりと口を開く。
「ルイーズ様は大の運動嫌いで有名なのですよ〜。つ・ま・りぃ〜。」
「痩せてる様に見せて実は…ってか?あんだけ儲けりゃ、相応に贅沢な暮らしが出来るわな。」
「ねぇ、喧嘩売ってる?」
「別に?ただ、だらしない体でもそれっぽく見せなきゃいけない、家臣達の苦労が偲ばれるなぁと。」
「やっぱり喧嘩売ってんじゃねぇか!!」と、ルイーズが憤慨する一方。
従者を慮る発言に、そこそこ高い評価も周りから得ていた。
「ふ、ふ〜ん。別に良いけどね〜?炎(属性)武器が作れなくなって困るのはそっちだし〜?」
ゾンドルキア家は炎属性武具を独占販売。
今代皇帝が得意なのも彼の属性との影響から、優位性を保とうとする…が、アレックスにとっては結構。
否、かなりどうでも良い事。
「いやお前、やっぱアホだろ。」
「あ、アホぉ!?アンタねぇ…いくら皇子だからって━━━。」
「忘れたのか?『誰が』、『何を』親父に用意したかをよ。」
「見縊り過ぎ〜。ホズミ商会?が形の変わる炎の…。」
「そう。変形機構が付いた、世にも珍しいどころか初となる武器だ。今回は炎だが、恐らく水・風・土。雷や氷みたいな複合、精霊しか使えねぇ森とかもいけんじゃねーかと俺ぁ踏んでる。」
大陸に於ける属性武器は炎と土。
どちらも帝国で、北の火山。
東の鉱山から採れる鉱石をベースに作られている。
ただ、両方共魔素点の為魔物が出現。
稼げはするも、危険が伴う場所として有名だ。
「っつー事で、お前と関わる暇はねぇの。話は終わり、以上。」
「でしたら、私は如何?」
そう言って、人混みから姿を見せたのは赤髪ショートボブの女性。
やや緑みがかった青髪をシニョンに纏めた少女、それと透明感のある白髪をロングにした少女が彼女に続く。
「メル…それにシアンとスノウか。久しぶりに見たな。」
「ふふ、お久しぶりです。」
「久々だな。」
「お、お久しぶり…です。」
アレックスの言葉にメル。
少し遅れてシアン、スノウと呼ばれた少女が応える。
「それで、先程の問いについてのお答えを頂いても?」
「文句ナシに合格。その気がありゃ、すぐにでも取引開始して構わねぇ。相変わらず不便なんだろ?」
アレックスの問い掛けに、メルが「そうですね…」と表情に影を落とす。
メル、シアン、スノウはメルローズ、シアンローズ、スノウローズが本名。
別名ローズ3姉妹とも呼ばれ、美姫としても知られる。
そんな彼女が住まうのは帝国東側。
現在地からそう遠くない位置にあるタリスト領とは異なり、山々が連なるからか栄えているとは言い辛く、開けた土地に出たと思ったらオークが跋扈する魔素点。
その先には竜の谷が控え、帝都に来るだけでも一苦労。
場所が場所だからか武芸に秀でた者が多く、戦場からの帰りで首都へ寄り、こうして呼ばれたとの構図だ。
又、アレックスがメルローズ達と普通に接するのは互いを認めているから。
加えてメルローズが自分の信じたいものしか信じない性格から、噂を全く気にしていないのもある。
「ただまぁ…交通の面に関しちゃどうにかなると思うぞ?オーク共は壊滅させたし、竜の谷との関係も良好だからな。」
「あら…そうなのですか?」
「骸がいるからが答えだ。」
「…成程。それだけのお力を、ホズミ商会はお持ちだと。」
「そーゆーこった。」
自信を持って頷くアレックスを目の当たりにしてか、居住まいを正すメルローズ。
「アレックス第3皇子殿下。」
「おう、改まってどうしたよ。」
「先程仰られた取引の件についてですが、どの様にして━━━」
「ファイ。」
「ここに。」
「っ!?どこから現れたのです!?しかもメイド!?」
「ファイはホズミ商会から派遣された、俺専属のサポート役みたいなものだ。こう見えて機械…金属がメインで構成されててな、厳密には人間じゃない。」
「人間ではない?確かに、とてもお美しいとの点については同意致しますが…。」
どこからともなくアレックスの横に立ったメイドこと、エクスマキナのファイ。
彼女の人間離れした美貌に様々な意味で納得。
「ファイ、腕。」
「はい。」
直後、最早1発ネタ化したパーツの着脱。
慣れ親しんだ面子は特に何もなかったが、初見だと別。
いきなり腕が外れるとのショッキングな光景に否が応でも目を奪われ、挙って驚きを露に。
「ちょっ!何をさせてるのですか!?」
「あんな簡単に腕が外れるとかウケる!」
「ルイーズ様、笑ってる場合ではないでしょう!アレク様、早く治療を━━━」
「あ、全く問題ねぇから。ほら、元気そのものだろ?」
「ひぃぃぃぃー!?動いてます!腕が離れてるのに動いてますーーー!!」
「アハハハハハハハハ!はー、はー、腹痛い…アハハハハハ!」
「面白い要素がどこに!?アレク様も、何笑いを堪えてるのですか!?」
ファイが淡々としながら外した腕をニギニギと動かし、得体の知れないものを目の当たりにしたメルローズが発狂。
ルイーズが腹を抱えてケラケラ笑い、メルローズの狼狽えっぷりが可笑しいアレックスは必死に我慢。
しかし彼女からの突っ込みをトドメに吹き出し、こちらも笑い出す始末。
少しばかりカオスな状況へと陥り、収集が付かなくなってしまう。
「はー、笑った笑った。」
「貴方と言う方は、本当にもう…。」
「ゴメンて。」
「殿下…アンタ良い性格してるのな。もっと早く知りたかったぜ。だったら私も…。」
「どっかの誰かさんから目立つなと言われてたものでな。」
ルイーズが意味深な視線をアレックスに向け、アレックスもアレックスで意味深な発言をするものだからその誰かさんがビクッとなり、何割かがそちらに着目。
ルイーズ、メルローズ、そしてアイシャと。
いずれもアレックスの1〜2つ下で、共通して言えるのが彼の婚約者候補。
楽をしたいルイーズは皇帝に興味なさそうとの理由で断り、メルローズは興味はあったものの、彼女は現実主義者。
実力はあっても覇気がない=結婚しても実家にあまり良い影響を与えないだろうとの考え、それと友人感覚が強くアイシャ程本気で好きと言う訳でもなかったのでこちらも辞退。
3人の中で誰よりも早くアレックスと出会い、情報を武器にする為か悪い印象を持たれがちなヴァレリー家の自分を色眼鏡で見ない。
分家の生まれだろうが関係ない。
仮令ぶっきらぼうでも正面からぶつかり、対等に接してくれるその優しさに心打たれ、久しく現れなかったヴァレリー家次女とのポジションに就き、婚約者争いもアイシャが勝ち得たとの形に。
「俺達の関係についてだが、今更だ。諦めな。つかこれからよりも、『今』が大事だと思うがな。」
「? 意味分かんないんですけど。」
「ウチらの大将…ホズミ商会の代表がそっちに向かったんだよ。ただ、そっちと言っても家じゃなく、魔素点━━━火山の方…だがな。」
アレックスの発言は、ゾンドルキア公爵家の力を削ぐとの意味も含まれる。
しかし把握しているのは身内だけ。
敢えて部外者を述べるならば、皇帝夫妻に長女に末娘。
それと後方でうんうんと頷く、サルーンの隣を治めるランドルフ・ヴァン・ジラルド候爵1家位。
不敵な笑みを浮かべる本人を他所に、4人を除く皇族。
更には貴族達全員が面食らい、ルイーズも目をパチパチと瞬かせるのだった。
何か妙に迸ったせいか、少し長くなってしまった…。
メルローズはゼ◯ブレイドのホ◯ラみたいな見た目でして、123話に父親共々ちょこーーーっとだけ出てます。




