25話
時間は少し戻る。
凛の魔王プレイで美羽が木をバシバシ叩き、主より突っ込まれた頃。
別の木の影からじっと4人を窺う、1体のゴブリンがいた。
やがて一通りやり取りは終わり、水色髪の女性による歩行練習がスタート。
まるで綱渡りでもしているかの様な面持ちで前を歩き、凛達は彼女をひたすら激励。
割とすぐ女性は転ぶのだが、本人は笑顔で周りも笑顔。
変わった人間達だなとゴブリンは思い、ギリギリまでこのまま凛達を見ていようとの判断を下す。
道中、凛はナビに『先程からゴブリンに見られている』と告げられ、後ろを向いてみる。
それに釣られて美羽と紅葉も振り返り、タイミング悪く女性がバランスを崩して転倒。
そのゴブリンは好奇心が強い反面、物凄く臆病で怖がりでもあるらしい。
ビクッと体を強張らせた後、距離を取った。
しかし避難先である木から再び凛達を覗き込む当たり、完全に逃げるとの考えはないみたいだが。
凛達4人は顔を見合わせる形で微笑み、改めてゴブリンと接触。
対話を試みてみる。
凛、美羽、紅葉、水色髪の女性の順番で念話を飛ばし、突如聞こえた声にゴブリンをビックリさせながらも、興味を引く事に成功。
そこから、凛と美羽が女性を補助。
ゴブリンは紅葉が手を繋ぎながら歩きつつ、念話越しに会話。
やり取りにより、怖いと思ったらすぐに逃げ出すを繰り返した為に今まで難を逃れたのが分かった。
ゴブリンは楽しそうに自らの経緯を話したり、凛達について聞きたがるとの状況から、一旦慣れてしまえば懐く点が判明。
そうこうする内に屋敷へ着いてしまい、ここでの別れが今生の別れに繋がりでもしたら悲しい。
折角仲良くなれたのに…との想いから、一緒に暮らす?との提案を凛が持ち掛けてみる。
ゴブリンは良く分かっていない様だったが、一緒に過ごせると喜び、2つ返事で了承。
ならばゴブリンにも名前を与え、場合によっては人化スキルも施す必要があるとの意見で一致した。
女性は自分と同じタイミングで名前持ちの仲間が出来ると喜ぶ一方、あの時の痛みをゴブリンも味わうのかと。
複雑な目をゴブリンに向け、不思議そうな顔で返された
女性とゴブリンに念の為清浄を掛け、いざ屋敷の中へ。
しかし迎えに来たのは、凛達の中で最も好戦的な女戦士━━━もとい、火燐だった。
女性は若干身構え、ゴブリンは怖くなって凛の腰にへばり付いたとの流れに。
3分後
「ちょ、美羽様!そこはくすぐった…あひゃひゃひゃひゃ!」
「えー、嘘ー!こんなところにも砂がー!くっ、これが(豊満な胸を)持つ者の宿命とでも言うの…。」
「美羽様、お願いっすから止め…あっ、あーっひゃひゃひゃひゃひゃ!!死ぬーっ!自分、笑い過ぎて死んじゃうっすー!!」
浴室から、その様な悲鳴(?)が響いたのはさて置き。
女性を連れ、浴室に入った美羽。
散々コケたおかげで服の内側は砂まみれなのでは?との考えが彼女の頭を過り、敢えて脱衣場ではなく浴室内で服を脱がせ、自身も手早く準備。
女性の体を洗い始めるまでは良かった。
しかし、案の定と言うか。
服に覆われていない箇所、特に胸の谷間や周囲に砂が多く鎮座。
納得出来ない彼女は謎の報復とばかりに女性を擽りの刑に処し(※実際は念入りに洗っただけです)、女性をヒィヒィ言わせた。
その頃の凛達。
自室にいた者達が丁度リビングに集まるところだった。
そこへ届けられる美羽達の声。
凛は困った、ゴブリンは不思議そう、火燐は呆れ顔。
雫は両手をワキワキ動かしながら何故かやる気、残る者達は苦笑いを浮かべる。
「…と言う訳で、ここに住んで良いとの許可は貰えたし、無限収納内にある魔物達をどうするかの目処が立った。結果的に新しい仲間も増えたし、良い事尽くめだったよ。」
咳払いを交えた、事の顛末を凛は皆に報告。
「主様ぁ~。美羽様が怖いっす~。」
するとそこへ、涙目状態の女性がダッシュして来た。
彼女は白いパジャマに身を包み、少し遅れる形で美羽が続くのだが…何やら気まずそうにしている。
凛の元に着くや女性は後ろから彼に抱き着き、途端に甘え出した。
「体が綺麗になったのは嬉しいんすけどぉ、次からは主様でお願いしたいっすぅ…。」
「よしよし。」
「~♪」
「そう言ってくれるのはありがたいけど…ひとまずこっちに座って貰える?」
「あう~、主様がつれないっす…。」
凛に対し、全幅の信頼を寄せている女性。
頭を撫でられれば猫みたくゴロゴロと喉を鳴らながら目を細め、凛から隣へ座る様に促されればあからさまにがっかりした様子に。
「君、これからこの子の『お姉さん』になるんだよ?弟に格好悪いところを見られても良いの?」
「う"っ…確かにそれは嫌っすね。分かったっす。自分、聞き分けの良いお姉さんになるっす。」
凛の説得。
もとい苦笑いで窘められ、視線をゴブリンに移すと真っ直ぐこちらを見ている。
気付いた女性は仰け反り、慌てた様子で凛の隣へ。
そして座るや何かに気付いた表情となり、凛の方を向く
「…ん?主様、今『弟』って言ったっすよね。(ゴブリンの)性別とか分かるんすか?」
「ああ、うん。この子は小夜と同じ位か、少し年下の雄ゴブリンみたいなんだ。」
「へー…自分、その変の違いが全く分からないっすからねぇ…って、オーガじゃないっすか!?しかも3体もいるっす!」
ほえ?小夜?誰っすかね?
件の人物を知らない女性は、(ナビからゴブリンについて情報を得ていた)凛から言葉を重ねられても尚理解が及ばず、それっぽい集団に視線を移す。
そこにいたのはオーガ。
しかも3体。
自分より少し格下とは言え、数が揃えば十分脅威足り得るとの驚きからつい声が出てしまう。
そして図らずも、時間差で皆の注目の的となった小夜。
両隣にいる姉も同僚も彼女を見ており、本人は『私と同じ位?』とでも言わんばかりに凛が連れて来たゴブリンを、ゴブリンはゴブリンで小夜達を観察。
尤も、後者は力量差の違いから固まっているみたいだが。
因みに、何故時間差でかと言うと、水色髪の女性と凛の距離感に面食らっていたからだ。
楓、イルマ、紅葉は両手を口元にやり、残りの大凡は軽く驚いた後に小声で『あの女性みたく自分達も凛にアプローチした方が良いのだろうか』とアイコンタクト。
ただ、美羽が特段何か気にする節は見られない内に判明した、ゴブリンの性別。
そこで意識が女性からゴブリンへ向いたとの流れに。
「ああ、そうそう。今日の夕方頃にオークキングが、明日中にはフォレストドラゴンの解体がそれぞれ終わるらしいんだ。だから僕は後でもう1回街に向かう予定。
それで、今の内にこの子達の名付けを行いたいところなんだけど…その前に伝えなければいけない事がある。」
程なくして行われた紹介。
からの真面目な表情へ変貌した凛に引っ張られ、全員が緊張の色に染まる。
「恐らくだけど…今回のワイバーン襲来。僕に関係があるんじゃないかと思う。」
凛のカミングアウト。
インパクトこそ大きいものの、漠然とするばかりで中身までは伴っていなかった。
事情は理解したいが、イマイチ意図が掴めない。
そう表現するが如く、火燐達は目をパチパチと開く。
若しくは互いに顔を見合せ、首を傾げたり肩を竦めるに留まる。
最後に水色髪の女性とゴブリン。
1人と1体は最初から考える事を放棄、真っ直ぐ見据えたままを維持している。
そんな中、凛の1番の理解者である美羽がはっとなった様相へ。
「マスターそれって…ギルドで浮かない顔をしていたのと何か関係があったりする?」
この言葉に紅葉が少しだけ納得。
他の面々からは、どう言う事だとの思惑を含んだ視線が彼女に集中。
「…バレてたか。実は美羽が話した通り、昨日起きた事を考えていたんだ。」
凛は苦笑いで自身に起きた出来事を語り始める。
昨日の夕食後。
凛は自室で寛ぎつつ、進化した能力の確認作業を行っていた時の事。
「…!?」
突如、物凄いプレッシャーが彼を襲った。
敵襲かと思った凛は手を止め、サーチを用い、周囲一帯を探索。
だがそれから1分、2分、5分、10分と探し続けるも、サーチの範囲内に自分の脅威となるだけの存在はいなかった。
決して気の所為ではないと思った凛は、サーチをこれまでの360度から、直線上に伸ばすやり方に変更。
これにより調べられる距離が格段に増し、改めて北、北東、東…の順番で調査。
やがて、屋敷から何万キロも離れた場所。
死滅の森中心部からやや西側地点を調べた際、再び圧力を掛けられた。
「…この魔物か。この魔物が、かなり距離があるにも関わらず僕を認識しているのか。」
かなり大まかにではあるが、目標は特定出来た。
軽く笑うと同時、嫌な汗も彼は流していた。
「その魔物は僕への挨拶は済んだ…とでも伝えたかったんだろうね。すぐに気配を消し、一切探る事が出来なくなったんだ。それからは作業する気が起きず、取り敢えず横になって考え事してたら、そのまま寝ちゃってさ。気付けば朝だったんだ。まさか寝るとは思わなかったからビックリして、でも出来る事は今の内にやっておこうと思い、皆の装備を用意したって感じかな。」
「成程。それで今朝、ボク達に武器や服を用意してくれたんだ。」
「うん。でもいざ僕の刀をってなった時に、果たして今の僕で勝てるのだろうかと迷いが出てしまったみたいでさ。全体的に少しくすんだ色になっちゃったんだ。ただ、性能自体は問題ないはずだよ。」
話の最後。
凛は無限収納から玄冬を取り出し、刀を鞘から抜いた状態でテーブルの上に置く。
凛に言われるまで気付けなかったが、確かにどこかくすんで見える…と、美羽達は今更ながら思った。
「凛。」
「?」
「そいつは強いのか?」
「正直、今の僕じゃ歯が立たないだろうね。」
「そうか…。」
火燐は少し心配そうな表情で凛へ訪ねてみるも、返って来たのは至って真面目な答え。
より真剣味が増し、黙ってしまう。
凛は視線を火燐から玄冬に移し、
「そう遠くない内に、僕はその魔物と戦うと思う。けど相手の方が強いからと放置は出来ないし、逃げ出すのは論外。
それに、さっきみたく森を出る魔物も現れるだろうから、今後は森全体に意識を向ける必要がある。
つまり、(死滅の森近辺の街や村の)魔物による被害を抑えつつ、僕達はもっと強く。欲を言えばもっともっと強くならなきゃいけない。」
鞘に収め、そのまま無限収納にしまった。
「だから皆には悪いけど、森での行動がメインになると思う。本当にゴメン…。」
続けて、空いた両手をテーブルの上に置き、申し訳なさそうに頭を下げる。
凛的に、昨晩の件がなければ(安全や確実な意味で)時間を掛けてゆっくり森の探索を行うつもりでいた。
しかし事態は急転。
今後は少しでも早く強くなる必要が生まれ、それに伴い危険度が格段に跳ね上がり、メンバーの誰かに被害が訪れる可能性があると予想したとの心境から来ている。
凛が頭を下げ、10秒近くが経過。
尚も体勢を変えない彼の左手を、優しいものが包む。
その感覚の正体を確かめに凛は上体を起こし、優しいものの正体が添えられた美羽の両手である事が分かった。
「…マスターはきっと、ボク達を良い方向に導いてくれる。だってそれが『管理者』の役目だし、きっと創造神様の願いにも繋がると思うから…。」
「美羽…。」
「それに、ボク達はマスターの従者。どこだって付いて行くよ!」
「…そうだぜ。何なら、いっそオレ達が森の大掃除を請け負ってやろうじゃねぇか。なぁ皆?」
「ん。」
「ふふっ、そうだね。」
「…皆で一緒に頑張りましょう。」
美羽が凛の手をぎゅっと握るのを皮切りに、火燐、雫、翡翠、楓が。
続けてエルマ達や紅葉達が力強く頷き、肯定の意を示した。
「皆…ありがとう。」
感銘を受けた凛がお辞儀。
もう大丈夫と判断したのか、美羽がそっと両手を離す。
「さて、待たせてしまったね。君の名前は『藍火』。そして君は落ち着いた、それと優れたと言う意味を込めて『玄』と名付けさせて貰うね。藍火、玄。これから宜しく頼むよ。」
「藍火…藍火!こちらこそ宜しく、お…願……。」
女性とゴブリンの方を向いた凛がそれぞれに名前を与えた。
女性こと藍火は自分の名前を噛み締めるも、名付けから来る影響の方が先の様だ。
言い終えるより早く、背もたれに体を預ける形で気を失ってしまう。
もう1体の方であるゴブリンこと玄は、凛の太ももの上に頭を置き、早々と寝入っている。
「2人共、やっぱり寝ちゃったか。名付けすると気を失うのは間違いないと見て良さそうだね。」
「私達も、当時はこの様な感じだったのですね…。」
左手で玄の頭を撫でながらの凛の説明に、右手を口元に運んだ紅葉が恥ずかしそうにする。
それは暁達も同じで、様々な仕草を交えては顔を赤くしている。
「まぁでも、今日中か明日の朝には進化を終え、元気な姿を…。」
玄から藍火に視線を移すや何故か凛は固まってしまい、不思議に思った美羽が彼に尋ねる。
「? マスター、どうかしたの?」
「ふと思ったんだけど、藍火はワイバーン…つまり体の大きな魔物になる訳でしょ?翼込みにはなるけど。」
「そうだね。」
「仮に、仮にだよ?進化した影響で人間の姿は解除。元のドラゴンの状態に戻る、なんて事にでもなったら少し困るかなーと思って。」
凛の説明を受け、美羽達は少し前に森で遭遇したランドドラゴン。
及びランドドラゴンの進化種で、1回り大きくなった土竜を想像。
藍火もそれは然り。
進化方法こそ異なるものの、ワイバーンが成長した姿になるのは間違いないだろう。
結果、部屋が丸ごと彼女で埋まり、最悪の場合屋敷に穴が空くのではと思い至ったらしい。
『あー…。』
全員が全員、自ずと微妙な顔付きに。
「玄は普通のゴブリンだろうから、進化にそれほど時間は掛からないとして。藍火は金級の魔物だから、深夜に目覚める可能性があるんだよねぇ。」
「皆が寝てる頃か…それだと、ビックリして起きちゃうかも。」
「そうなんだよ。何か対策を考えないと…。」
「ならさ、ボクの『時空間操作』が役に立ちそうじゃない?」
「時空間…そうか。空間を創り出すか空間そのものを広げ、その空間内の時間の進み方を遅くし、現実時間での進化を早めようと言う考えだね?」
「そう。これからも似た場面に遭遇する機会は多いだろうし、あって損はないと思うんだ。」
「それなら早速用意しないとだね。んー、今から家を増築するのもなんだし、地下に続く階段を経た先に部屋を設けるって感じで良いかな?」
「そだね、ボクもそれが良いと思う。『時空間操作』の使い手は多い方が良いだろうし、マスターのお手伝いするね♪」
「ありがとう。それじゃ行こうか。」
「うん♪」
片や苦笑い、片や笑顔で行われた話し合い。
やがて結論に至るのを機に、眠る玄を隣に座る紅葉に預けつつ立ち上がり、凛と美羽は階段がある場所へ。
凛が土魔法を用いて地下に続く階段を作っては下り、美羽がそれを補強しながら進み、そう経たずして姿が見えなくなった。
一方の火燐達。
何が何やらとなる内に置き去りにされ、揃って沈黙。
自我を取り戻すまで、そこそこの時間を要した。
5分後
作業を終えた凛と美羽がリビングに戻って来た。
凛が部屋を見るかを尋ね、満場一致で見たいと返答。
自分に付いて来てとだけ告げ、再び地下室に向けて移動を開始。
美羽も彼に続こうとするのだが、追い付いた雫達に後ろから声を掛けられる。
「美羽。今用意した部屋、どんな感じ?」
「ふふっ、それは見てのお楽しみだよ♪」
「えー、そんな事言わず教えてよー!」
「ダーメ♪」
「でもでも、新しい部屋って気になるよね!」
「だね、楽しみ!」
等と、楽しそうに会話をしながら階段を降りる女性陣。
玄は自ら申し出た暁に渡され、おんぶされている状態。
そして紅葉や旭達も彼のところにおり、いずれも玄が気になるのかそちらに顔を向けての移動となった。
そして藍火だが、未だ椅子の背もたれに体を預けながら眠っていた。
幸せそうな表情に加え、涎まで垂らすとのオマケ付きで。
火燐は玄の頬を指で軽くつつく等していたのだが、誰も藍火を運んでいない事に気付き、階段の途中で引き返した。
「あいつら…藍火がこんなんだと分かって逃げやがったな。」
火燐は呆れた様子で藍火を眺めた後、彼女の元へと足を運ぶのだった。
今回の玄を含め、敵味方問わず、旧ゆるふわふぁんたじあにはいないキャラが今後も出ます。
それと、戦闘等も増やす予定ですが、ストーリー自体はそのままでいくつもりです。




