25話
未来の凛の話はさて置き、美羽の視点。
火燐達が初めて、更には今後もボディーソープ、シャンプー、コンディショナーを使うと判断した彼女。
まずは知って貰うを目的に、説明を交えながら実際に使って見せた。
そんな美羽の様子を、お風呂好きなエルマとイルマは目を輝かせて。
火燐は面倒そうに、雫達はほほーと興味津々とした様子で眺め、その後火燐達は美羽から習った通り(?)に体を洗い、何か間違っている点があればアドバイスを貰う等する。
やがてコンディショナーにまで到達する者がちらほら。
美羽は皆が終わるのを待つのも兼ね、一足先にお湯へ浸かる事に。
「はぁ~気持ち良い~♪戦闘を終えた後のお風呂は格別だよ~♪」
「よっしゃ終わった!行くぜおらぁぁぁぁあああっ!!」
そこへ、四苦八苦しながらもせっかちな性格故になのか。
コンディショナー…ではなく、シャンプーの泡を軽く髪に付けた状態の火燐が走り、勢いそのままに浴槽へダイブ。
ドポォォォンとの音と共にお湯が溢れ、美羽にまでとばっちりが。
「ちょっ、火燐ちゃん!?いくら浴槽が広いからって、女の子が勢い良く飛び込むものじゃありません!」
美羽がそう叱るも、犬や猫みたくブルブルと顔を震わせ、両手で余分な水分を拭う彼女はまるで無関心。
「あー…別に良いじゃねぇか。美羽は細けぇなー。」
「火燐ちゃんが大雑把過ぎるんだよ!さっきもローブを脱いだ時、(戦闘で付いた土埃等の)汚れが凄かったじゃない!せっかく可愛いのに、色々と台無しだよぉ…。」
「なっ、ばっ、かわっ!?」
「…と言うかですよ、火燐ちゃん。」
「おぉ…な、何だ?」
「これから先も、さっきみたく汚れたままが当たり前な生活が続くとしましょう。」
説教から急転。
居住まいを正した美羽に、火燐の方が「お…おぅ」とたじろぐ。
「料理の後片付けとか見てて分かると思うんだけど、マスターってかなり丁寧な上に綺麗好きなの。そんなマスターが火燐ちゃんを放っておくとは考えにくいし、創造神様の耳に入る可能性だってある。
そしたらお昼に食べた唐揚げとかが食べれなくなるのは当然として、最悪送り返されるかもなんだよ?それでも良いの?」
「…いや、良い訳ねぇだろ。オレぁこれからも凛の傍にいなきゃいけねぇんだ。ん?オレの世話を凛にやらせる、それも悪…。」
満更でもなさそうな態度を示す火燐に、皆の呆れた視線が突き刺さる。
「…とにかくだ。取り敢えず美羽の言う事は聞いてやる。だが勘違いすんなよ!あくまでも凛の為にやるんであって、お前の為とかじゃねーからな!分かったか!?」
「おおっ!見事なまでのツンデレだねー♪」
「ツンデレ…?」
「…そう言えば火燐ちゃん達って、ローブの下に何も着てなかったんだね…それに、火燐ちゃんが結構大きいのにも勿論驚かされたけど…翡翠ちゃんは更に上をいくなんて…。」
美羽は火燐のツンデレっぷりに軽くほくほく顔になったかと思いきや、一気に絶望へ。(雫の呟きは無視)
両手をわなわなと震わせ、首から上だけを翡翠へ向ける。
翡翠はメンバーの中で美羽の次に髪が長い。
加えて初めてなのも重なって誰よりも時間が掛かり、浴槽に来るのが今になってしまった。
「んしょ、っと…ふぃ~。気持ち良い~♪」
それでいて、とある箇所が7人の中で最も大きいのが彼女。
リラックスするのは本人だけ、更には美羽に触発されたのも重なる訳で。
お湯から浮く、自己主張の激しい2つの物体に皆の注目が集まるのも仕方ないと言えよう。
「…ん?ちょ、ちょっと!何でそこばかり見てるの!?」
「翡翠…もいで良い?」
「ダメに決まってるでしょ!?誰か助け…って沈んでるぅぅぅ!?なんでぇぇぇぇ!?」
「これは全部貴方の胸のせい…つまり、翡翠は問答無用で裁かれる必要がある。故に私は皆へ問わねばならない、ギルティorもっとギルティ?」
「「「もっとギルティ。」」」
「もっとギルティーーーーー!?」
普通、ギルティorノットギルティでは?との疑問はさて置き。
翡翠へ有罪判決を下したのはエルマとイルマに(別な意味で)復活した美羽の3人で、彼女らの心が1つに。
そんな美羽達に雫を加えた4人の手により、擽りの刑に処された翡翠。
ついでに、呆れ顔の火燐やオロオロとした楓にまでとばっちりがいき、浴室内が一段と賑やかになったのはご愛嬌。
(皆元気だなー。)
彼女らの喧騒は、リビングダイニングのテーブルに座る凛の元にまで。
その彼は一休みも兼ね、温かい緑茶を口にしつつ少しズレた感想を抱いていた。
因みに、何がとは言わないが美羽はB。
エルマとイルマはB寄りのC、楓はD、火燐はE、そして翡翠はH近くもある。
今回の場合、(どちらかと言えば)ない派の雫、美羽、エルマ、イルマがやる側。
ある派の楓、火燐、翡翠が被害を受けた側との構図だ。
そして翡翠のを1番揉みまくった雫は見事なまでにAAAで、一通り済んでから残ったのは虚しさだけらしい。
力ない歩みで風呂から上がった後、脱衣場の隅で悲しそうにぶつぶつ呟きながら体育座りをしていた。
更に10分後
「ただいまー!」
火燐達を連れた美羽がダイニングへ。
彼女は以前に凛が用意した、モコモコとした生地のピンク色のパジャマを。
火燐達は美羽がアクティベーションで創ったであろう、特に飾り気のない白いパジャマを着用している。
「おかえりー。予想はしていたけど見事にお揃いのパジャマだねー…ところで美羽。雫と翡翠の2人が元気ないみたいだけど、何かあった?」
女性陣は風呂から出たばかりの為か、ほんのり上気。
しかも可愛い・美人揃いなので、(未だ目を覚まさない暁達は別として)その色香に唯一の男性である凛が当てられてドキッ…とはならなかった。
何かに打ちのめでもされたみたくずーんと落ち込む雫、両手で胸を隠しながらうぅ…と涙目になる翡翠に意識が向けられたからだ。
さっきはあんなに賑やかだったのに、と凛が思ったのも無理からぬ事だった。
「あはは…まぁ、2人の事は大丈夫だよ。それより、マスターもお風呂に入って来たら?」
「ん?んー、ならそうさせて貰おうかな。料理は無限収納の中に入ってるから、どれを出すかはお任せするね。」
若干の引っ掛かりを覚えつつ、凛は促されるまま浴室へと向かう。
10分程で体を洗い終えた凛は、美羽のとは色違い。
厳密には灰色のパジャマを身に纏い、タオルで頭を拭きながらでの戻りとなった。
テーブルの上にはバリエーション豊かな料理が並ぶも、何より目を引いたのは火燐。
細かく言えば彼女が持つオムライスで、皿を前後にプルプルと揺らし、その度に皆が「おぉー!」と感動する様子が見て取れた。
ケチャップライスの上に絶妙な半熟加減のオムレツがどっしりと構え、前後左右。
どこに揺らしてもプルプルを維持しており、それが琴線に触れたのではと考えられる。
「…何やってるの?」
「ん?あぁ、わりぃわりぃ。凛がさっき、これと似たのを創造神様に渡してたなぁってのを思い出してよ。
これを落とさない創造神様の体捌きも勿論すげぇんだけど、この黄色い部分も負けてねぇのもまたすげぇって思いながら見てた。」
「あー…成程。確かに半熟状態のオムレツって気になるよね。」
「オムレツ?さっきはオムライスとか言ってなかったか?」
「オムレツは上の黄色い部分だけ、オムライスは下のライスも含めた全体を指す言葉なんだ。」
「へー。」
「そしてオムレツ部分は、こうやって…縦に切れ目を入れるのが正解なんだよ。」
凛は徐にナイフでオムレツに切れ込みを入れ、そこから中身である半熟状の玉子が溢れ出て来る。
絶妙なバランスが崩された事に火燐が「あー!」と驚くも、すぐに納得顔へ。
「何か勿体ねぇ気もするが、正解と言うだけあって余計に美味そう…なぁ凛、早く食べようぜ!」
「分かった。折角の料理が冷めるのも何だし、それじゃ僕が今からやる動作と同じ事をしてから食べ始めてね…頂きます。」
『頂きます!』
凛は子供みたく真っ直ぐな瞳を向ける火燐にクスッとした笑みを返し、合掌。
皆も彼に倣い、一斉に食事を開始。
「うまっ!ふわふわなのにトロトロとしてるとか、訳分かんねぇ!けどうめぇぞこれ!!」
待ってましたとばかりに変な握り方でスプーンを掴み、ひたすらオムライスを掻き込むのは火燐。
「火燐が食べてるオムライスは、里香お姉ちゃん用に作った試作品の1つ。ちゃんと皆の分もあるから安心してね?」
オムライスを狙っていたのは火燐だけではない。
美羽は何度か食べた経験があるので省くとして、彼女以外の面々。
特に火燐の話にも出た里香の動きを目の当たりにした雫、翡翠、楓の悲しみは一入で、雫に至っては密かにぶつけようと氷の塊を生成した程だ。
しかし凛のフォローでその思いは(ついでに氷も)霧散し、ほっと胸を撫で下ろす。
「だからそれも含め、食べたいものがあったら自分の皿に取り分ける形でお願いねー。」
流石は凛と言うべきか。
『はーい!』の返事と共に場を1つに纏め、分からない事柄へ対しては丁寧に受け答えをしていた。
20分後
長ねぎをゆっくりじっくり焼いて本来の甘みを出し、そこへ醤油を少しだけかけた焼きねぎを美羽が「あ〜ん」と食す。
食後のデザートとして。
本来なら絶対違うと突っ込まれるそれも、彼女にとっては紛う方なきデザートでありスイーツ。
「んーー♪」
その表情は実に幸せそう。
大好きな主人が、しかも自分の為に作ってくれたのがエッセンスとして加わるからなのかも知れない。
「ボク、マスターの元に生まれて良かったぁ…♪多分だけど、世界中探してもこれ以上の幸福は味わえないよねぇ…。」
しみじみと漏らす彼女に、凛が苦笑いで「そんな大袈裟な…」と返す。
「いや、凛。美羽の言う事は至極尤もだと思うぞ。」
キリッとした顔で火燐が告げるも、慣れない手付きでオムライス等の料理を食べたせいか顔のあちこちが汚れ、見事なまでに台なし。
それに気付いてか気付いていないかは不明だが、周りもこくこくと同意。
「ふふっ、火燐。その言葉はありがたいけど、今の状態で語られても説得力ないよ…はい、これで顔を拭いてね。」
「おっ、すまねぇな。」
図らずも、浴室で出た話がここに来て浮上。
凛からナプキンを貰った火燐がゴシゴシと顔を拭き、仕切り直しとばかりに食事を再開。
そんな彼女を見た凛は笑みから苦笑いへと変わり、他の者達はまだ食べるのかと言いたげな視線をそちらへ向ける。
それから更に10分後
料理が大分減って来たのを確認した凛が話を切り出す。
「それじゃ大分落ち着いたみたいだし、そろそろデザートといこうか。」
「デザート…?」
昼間のフルーツの様な甘いものが出ると思ったらしく、雫がデザートと言う単語に真っ先に反応。
「そう、デザート。昼間のフルーツも一応そうなんだけど、この…プリンみたいな物の事を言うんだ。」
「ふおぉぉぉぉぉ…!」
そして凛が無限収納からプリンを取り出すや否や、瞬時に凛のすぐ近くまで移動。
両手を前に掲げ、表情はやる気に満ち、キラッキラの瞳。
普段の眠そうで気怠げな顔はどこへいったのかと言う位、生気に満ち満ちた視線をプリンへ注ぐ。
凛は雫を見たまま、右手に持ったプリンを、皿ごと右方向にすぃ~~~と動かすと、雫の視線も右方向へすぃ~~~。
今度は反対方向へプリンをずらし、ほんの少し遅れる形で雫の視線も追随。
更に、ジェットコースターを模倣した動きでスライド&軽く一回転してみせれば、目線だけでなく顔まで付いて来る始末。
これが美羽達のツボに入り、揃って笑い声を上げる。
「えっと…雫、食べる?」
困った凛が恐る恐る雫にプリンを差し出せば、
「食べゆ…!」
間髪を入れずに雫が答え、プリンを拝受。
彼女は感動した面持ちでプリンを眺め、備え付けのスプーンを使い、ゆっくりと食べ始める。
「はー、笑った笑った。つーか雫、お前色々と壊れてっぞ。」
一頻り笑った火燐が雫へ突っ込みを入れるも、雫は口に入れたプリンを吟味するのに物凄い集中力を発揮。
まるっと無視された火燐は肩を竦めるしかなく、2人を見た美羽達がくすくすと笑う。
「凛、ぐっじょぶぅ…!」
雫に再び視線を戻せば、丁度飲み込んだタイミングだった彼女が左手の親指を立てるところだった。
しかもいたく気に入ったプリンの欠片を口の端に付け、凛にキメ顔を凛に向けるとの形で。
以降、1言も喋らずプリンを食べ進めていく雫。
提供した凛は「まさか今の1個で終わりじゃないよね?」とばかりに視線を浴び、少し気まずげだ。
「えっと…プリンは一応人数分あるんだけど、皆も食べ━━━」
『食べる!!』
「ボクもー♪」
「はい…。」
流れ的に当たり前だが、誰一人としてプリンを不要とする者はいなかった。
むしろ中にはテーブルをバンッと叩く位に興奮する人物までおり、満場一致で食べるとの意見に。
皆の勢いに圧倒された凛は次々に無限収納からプリンを出し、女性陣へ配るを繰り返す。
最終的に足りなくなり、それを機に凛は追加でデザートを作らされる羽目に。
慌ただしくするのは彼だけで、火燐達は至福の表情で代わる代わるお代わり。
1人忙しくする凛を他所に、他の面々は様々なデザートを目一杯堪能するのだった。




