24話
ごめん皆、お待たせ。
そう切り出す凛に、美羽達が居住まいを正す。
「名前を付ける行為は相手を従者だと認めると同時に、見返りとして魔素を分け与えるとの意味でもあるみたいなんだ。」
「えと…要は、ゴブリンさん達に名前を付けたから今みたいになったって事?」
「そうだね。名付けの影響で僕と紅葉達の間に見えない繋がりが生まれ、そこを通じて僕の魔素が彼女達に向かおうとしたんだけど…向かう量が多いのと一気に行こうとしたのが重なっちゃったみたい。力が抜けたのはその反動からで、紅葉達は与えられた魔素に体が適応しようとして強制的に眠っちゃったって感じかな。」
補足とまではいかないが、神界で凛が美羽や火燐達に名前を付けた際、近くには里香の姿が。
彼女が名付けの運用を阻止。
ついでに、(テンプレと言うか、凛は最初スライム辺りに名付けをするだろうとの予想から)サプライズ目的で黙ってもいた。
「そうだったんだ。ゴブリンさん…紅葉さん?達も大事だけど、まずはマスターだよ。マスター、本当に大丈夫?」
「うん。ビックリしちゃっただけで、体自体は全然元気だよ。」
美羽(火燐達も)は立場や個人的事情から、凛の身の安全を最優先に考えなければならない。
その彼の説明に美羽が良かったー!と返し、エルマやイルマを含めた他の面々も安堵の表情へ。
「でもマスターの体が心配だし、今日はここまでにして休もう?ね?ね?」
「んー…そうしよっか。なんだかんだで夕方近くになっちゃったしね。それじゃ、僕が暁を抱え━━━」
「オレが運ぶ。だから凛は皆がポータル(で移動出来る為)の用意をしてくれ。」
美羽の提案を受けた(彼女の熱意に根負けしたとも言う)凛は場所を変える為、暁の所へ向かおうとする。
しかし素早く動いた火燐により彼は抱き抱えられ、それならばと方向を変えるも、既に美羽が紅葉を。
翡翠が旭を、楓が月夜を、雫が小夜を抱えているとの現状。
「ははは…分かった、僕の負けだよ。それじゃ、お言葉に甘えさせて貰おうかな。」
「分かりゃ良いんだよ。」
降参とばかりに凛が両手を挙げ、火燐が大きく頷いた。
先程出したポータルへ皆を誘導、場所をリビングダイニングルームに移した1行。
隣に4つある6畳の部屋、その内の2つを使って紅葉達を休ませ、リビングダイニングルームへと戻る。
1つの部屋を紅葉、月夜、小夜。
もう1つの部屋を暁と旭との組み合わせで分け、練習がてら美羽がアクティベーションで用意したベッドで休ませるとの流れだ。
その間、エルマとイルマの2人は初めての空間移動に加え、やはり初となる白い空間。
つまり神々が御座す神界に自分達は今現在いるのだと知ってから一気に落ち着かなくなり、ずっとソワソワしていた。
因みに、里香達は散ってからまだそう間もないを理由に不在。
もし彼女らがここにいた場合、2人は間違いなく(インパクトの強さから)失神したであろう事は想像に難くない。
「少し前までは(マクスウェルを入れて)3人だったのに、今は8人…いや紅葉達を入れれば13人か。一気に手狭になっちゃったなー。
明日になったら仮の拠点を向こうに作るとして…4つある部屋の内の2つを紅葉達で使ったから、残りは2つ。その1つを美羽、火燐、雫、翡翠、楓で、もう1つをエルマとイルマで過ごして貰うって形で良いかな?」
凛の提案に火燐達。
それとエルマ達が頷き、美羽がマスターは?と尋ね返す。
「僕?僕はこのソファーを使わうつもり。それじゃ部屋割りも済んだし、追加のベッドを用意━━━」
「ボ・ク・が・す・る・の!」
「分かった分かった…美羽にお願いするよ。」
「分かれば宜しい♪」
「火燐の真似かな?」
さっき体調崩したばかりなのにもう何かやろうとしてるー、的なのが伝わったのだろう。
凛が言い終えるよりも先にぷくぅと頬を膨らませ、諦めた様子で両手を上げれば途端にふふんとドヤ顔へ早変わり。
尚、凛のツッコミは華麗にスルーされた。
そんなこんなで美羽は早速空いた部屋へと直行。
足りない分のベッドをアクティベーションで追加。
すぐに作業を終え、戻って来た。
完了したよー♪と小走りで駆ける美羽を、ソファーに腰掛けた凛がお疲れ様と労う。
続けて、視点を彼女から壁に掛かった時計へと移し、微妙な顔付きに。
「…まだ5時前なんだ。流れでここへ帰って来ちゃったけど、ご飯を食べるには少し早いしなぁ…先にお風呂入っとく?」
「あっ、ならそうさせてもらおうかな♪マスター、入浴剤使っても良い?」
「勿論。あるのから好きなの使って。」
「やった♪昨日が柚子だったから今日はー…桜の香りにしよっと。それじゃー火燐ちゃん、雫ちゃん。お風呂の準備の仕方を教えるから、ボクに付いて来てー。」
「はいよー。」
「ん。」
火燐と雫を伴った美羽が、嬉しそうな様子で浴室に向かって行った。
「凛さん。ここってお風呂もあるんだ?」
エルマが凛に問う。
彼女の後ろにはイルマがおり、どちらも居心地の悪さから気分を紛らわせようとの魂胆も含まれている。
「うん。と言っても、僕が来た時から既に今の状態だったんだよね。」
「良いなぁ…あたし達の場合、上級から上しか個人の風呂なんてのは持てなくてさ。中級以下だと公衆浴場でしか入浴は許されないし、しかも功績に応じてだから頻繁には入れないんだ。
イルマちゃんは綺麗好きだから違うけど、悪魔族の場合、お風呂そのものが珍しい傾向にあるんだよね?」
「うん。男性はまず入らないし、女性でも風呂嫌いって人は全然珍しくないかな。
でも悪魔公とか、上位の大悪魔の人達になると、力を誇示する目的で屋敷を持つ様になってね。
身だしなみも兼ねてお風呂に入るって人も増えたりするよ。」
中級天使は銀級上位で上級天使は魔銀級。
大悪魔は黒鉄級、悪魔公は神輝金級の強さを持つ。
悪魔族はいくら汚れても気にしないとの割合がそれなりを占め、天使族の方はある程度は魔法で何とかなる。
ただ後者の場合、積み重ね過ぎて苦言を呈される者もおり、何事も程々にとの教訓にも。
「そうなんだ?僕は元々お風呂が好きでさ、美羽にもそれが伝わったみたいなんだ。最初は石鹸とシャンプーだけだったのが、今はボディーソープやコンディショナー…あ、リンスみたいなものと言えば伝わるかな?と入浴剤まで増えたんだよね。このままだとバスソルトやバスボム、アロマとかハーブにも手が伸びるんじゃないかって…。」
「石鹸は分かるけどシャンプー?こ、こ、こんでしょにゃー?入浴剤は美羽さんが柚子とか桜がどうとか言ってたアレの事だろうし…バスソルト…ソルト…塩?塩に何の関係が?と言うかバスボムのボムってば、ば、爆弾んんん!?もう訳が分からないよ…。」
あまりの情報量の多さにエルマが目を回し、イルマも混乱していたが相方を見て幾分か頭が冷えたのだろう。
凛共々、困った笑みに。
尚、爆弾の件で仰天したのは光系中級魔法の1つにセイントボム(闇だとダークボム)と言うのがあり、以前目にした経験があるから来ている。
「あーごめん、いきなり色々言われても混乱するだけだよね。とにかく、浴室に色々と用意してあるから、エルマ達も自由に使って良いと言うのが伝われば十分だよ。」
「あたし達は…って、凛さんは?」
「僕?僕は今から晩御飯の準備に取り掛かるよ。」
「え、それは後からでも出来るよね?どうして美羽さん達と一緒に入らないのかなーって。」
「入らないんじゃなくて『入れない』んだよ。僕、男だし。」
「「………え?」」
「だから、僕は男。性別が違うから美羽達とは一緒に入れないの。」
「「えーーーーーーっ!!」」
凛の向かい側にあるソファーに座ったエルマ達。
彼が男だと知った2人はその衝撃の大きさから後ろへひっくり返りそうになり、危うく痴態を曝すところだった。
美羽、火燐、雫は準備目的で浴室へ。
紅葉達はすやすやと寝息を立て、翡翠と楓は大部屋を見に行っており、今ここに3人しかいないのが救いか。
それでも恩人の。
更に言えば、色々と規格外でありながら自分達の様な者に手を差し伸べてくれる、素晴らしくも優しい人。
そんな凛に対し、不様な姿を見せずに済んで良かったと人心地つく。
「どうかしたーーー?」
エルマ達の悲鳴が聞こえたのだろう。
不思議に思った美羽が、浴室からひょこっと顔を出す。
エルマ達はエルマ達で、もしかして見られてた!?と少しだけビックリする。
「エルマ達に僕が男だって説明してたんだー!」
「あー成程ー!それなら納得だよー!マスター可愛いもんねーーー!!」
「美羽ーーーっ!!」
「あははは!ごめんなさーーーい♪」
凛の言い分に当然とばかりの示した彼女は、満面の笑みで作業を再開。
少しだけこちらをチラ見するも、敢えて触れなかった彼の心遣いにエルマ達が内々で株を上げた瞬間でもある。
「全く…とにかくそんな訳だから、美羽達の準備が終わり次第風呂に入っておいで。それじゃ、僕は用意を始めるね。」
凛は少し不満を残したままソファーから立ち上がり、キッチンがある方へと歩き出す。
「どうしようエルマちゃん…凛さん、あんなに可愛いのに男の人だって…。」
「お願い、それ以上言わないで。女性として自信なくしそう…。」
「う、うん。そうだね…。」
「「はぁ…。」」
エルマ達はエルマ達で、凛が離れたのを機に落ち着きを戻すのだが…やはりあの見た目なのに凛が男と言うのは相当堪えたらしい。
揃って溜め息をつき、げんなりとしていた。
「お待たせー!翡翠ちゃん、楓ちゃん、エルマちゃん、イルマちゃん。こっちに来てくれるーーー?」
それから少しして届けられた、美羽の弾む声。
見物を終えた翡翠と楓は怪訝そうな顔で浴室へ向かい、それから少し遅れる形でエルマ達がトボトボと続く。
しばらくして、追加の料理を作り終えた凛。
事前に下拵え等を済ませたものが無限収納内に仕舞われ、後は焼いたりするだけなので調理に然程時間を必要としなかったのもある。
テーブルの上に食器類を並べ、途中で何かを思い出したのか「…あ」と漏らし、軽く見上げる。
「そうだった。ナビ、さっきの名付けや今の夕食の準備もそうなんだけど、これからは色々な事に対して効率化を図っていきたいんだ。その為の『効率化』、それとデータベース代わりの『森羅万象』スキルを今から(万物創造で)創るから、ナビの判断で調整して貰っても良いかな?」
《畏まりました。私にお任せ下さい。》
「うん、お願いねー。」
《(ふふふ。新たに創造されるスキルを私に一任とは…マスターから試されているのですね。ならばその期待に是非とも応えなければ。)》
凛は良かれと思って『効率化』と『森羅万象』スキルを用意するのだが、託した相手が微妙に間違い(?)だった。
ナビは元々妥協を許さない性格な上、先程凛を苦しませてしまったとの失態を犯した。
これを切っ掛けに、凛の利益になるのであれば自重しない事を学んだ。
学んでしまった彼女が後にやらかし、報告を受けた凛が唖然。
どうしたものかと盛大に頭を抱える羽目になるのだった。




