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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
王国の街サルーンとの交流
26/257

23話

このお話は改定前の23、24、25話に当たる部分を1つにまとめたものです。


こんな感じで、複数話を1話としてまとめたり、逆に引き延ばしたり、後から出て来るのを持って来たりする場合があります。

「はぁ…全く。昔から君は変わらないな。」


ゴーガンは溜め息をつくも、その表情は悪くない。

むしろ満更でもない、との但し書きが付きそうな様子の笑顔だった。


「…あ、そう言えば、例の屋敷は凛殿が魔法で建てたんだったか。ハンナ辺りが喜びそうな話だね。」


「ハンナ?」


「元パーティーメンバーの1人さ。炎系魔法を得意とする魔法使いでね。魔法で家が建てられる…なんて聞いたら、きっと興味を持つと思ったんだ。」


「成程、そうでしたか。ただ…主に使用するのは土魔法でして。家そのもので考えた場合、炎魔法だとあまりお役に立てないかもです。」


「だよねぇ。」


「それに、意識(イメージ)を明確にしないと希望のものが造れなかったりしますし。後は、かなりの根気と集中力を必要とする、地味な作業がメインって感じでしょうか。」


「ハンナは派手好きだし、力押しな部分が大いにある。何より飽きっぽい性格だから向かないだろうな…失礼。ひとまずこの話は置いといて、僕もそのフォレストドラゴンを見てみたい。案内がてら、このまま解体場へ向かうとしようか。」


話は終わりとばかりにゴーガンが立ち上がり、部屋の入り口にある扉へ。

自ら先導し、皆を連れる形で移動を始める。


その道中、凛達は冒険者達の視線を集めるのだが…気付かないフリを敢行(かんこう)

足を止めでもしたらたちどころに人が集まり、確実に質問責めに遭うと考えたからだ。


そのままゴーガンやガイウスの後ろに付く形で移動を続け、冒険者ギルドの右側にある素材を買い取る為のカウンター。

その横の通路を通り、奥に設置された扉を開放。


それから10メートル程の通路を経て再び開扉(かいひ)し、部屋の中へ。

その部屋は縦100メートル、横200メートル、高さが15メートル程と中々の広さだった。


どうやら、この部屋がギルドの解体場に当たる区画らしい。




解体場は鉄級のウルフやグラスラビット、犬を二足歩行にした様な見た目のコボルト。

銅級のオークやアッシュウルフ、ブラウンラビットやレッサーオーガ、それと大型の蜘蛛であるビッグスパイダーと思われる魔物達の亡骸が。


そして、それらを職人が解体しているのが窺えた。


「ワッズはいるかーーーい!」


そんな中、ゴーガンは部屋に入ってすぐに叫び、


「誰だぁ!俺の名前を呼ぶやつぁよ!」


30メートル程離れた場所から、1人の男性が不機嫌そうに立ち上がる。


「…ってギルドマスターじゃないですかい。今日はどうしたんです?」


しかし相手がゴーガンだと分かるや途端に(少し怖い)笑顔となり、こちらへ歩み寄って来た。


身長187センチのワッズは、40歳手前の風貌。

ゴーガン程ではないが、がっちりとした体格で強面、更にはスキンヘッドと。

今は作業着姿だが、スーツ等を着せればヤの付く職業に見えなくもない。




「呼び出してすまないね。今日はこちらの凛殿が、フォレストドラゴンを見せてくれるとの目的で来たんだ。それと、こう見えて男性だそうだよ。」


「へぇ?フォレストドラゴンは俺も話でしか聞いた事がなかったんでさぁ。是非見てみたいですねぇ!」


ワッズはゴーガンと笑顔で話した後、凛の方を向く。


「凛…だったか。俺ぁ作法が苦手でな、至らないと思うだろうが、勘弁してくれや。」


「いえ、お気になさらず。」


「あんがとよ。そんで出す場所だが、こんな状態でも大丈夫そうか?」


ワッズに尋ねられた凛は「そうですね…」と言いながら部屋を見回し、そこそこ広いスペースがあるのを発見。


「あ、あの辺りでしたら出せそうです。あちらをお借りしても?」


「構わないぜ。」


「ありがとうございます。」


ワッズから了承を得、早速目的の場所へと移動。


「それでは今から出しますので、皆さんはここから動かないで下さいね。」


凛は部屋にいる者全ての視線を集めつつ、無限収納からフォレストドラゴンを出す。


若干斜めの体勢で胴体を、少しだけ離れた地点に頭を置かれたフォレストドラゴン。

凹んだ形跡が幾つか見られるも、他は綺麗なままだった。


「ふぇー!おっきいねーー!」


「流石、凛様です…!」


美羽と紅葉は話を聞いただけで、実際に見るのは今回が初めて。

なので2人はフォレストドラゴンを、しかも感動だったり興奮した様子で見て回る。


『………。』


それ以外の面々はと言うと、フォレストドラゴンの巨体さは勿論。

再びこの場で動き出すのではないかと思われる位、圧倒的存在感に当てられ、固まってしまっていた。


そんな中、ゴーガンが口元に左手をやる等。

感心した面持ちで移動を開始。


続けて我に返ったのはワッズ。

且つ素早く駆け寄った事で、結果ゴーガンよりも早くフォレストドラゴンの元へと辿り着く。


「すっっげぇぇぇっ!!何箇所か凹んじゃぁいるが、ほとんど完璧な状態じゃねぇか!これ程の強さを持った魔物をこんな形で倒せるとは…お前さん、物凄く強いんだな!恐れ入ったぜ!」


途中で凛側を向く場面があったものの、彼も美羽達と同様。

様々な角度からフォレストドラゴンを眺め、観察するまでに。


「そうだよー!マスターは凄いんだからーーー!」


「凛様は偉大なのです!」


そこへ、何故か美羽と紅葉も合流。

3人がフォレストドラゴンの周りをぐるぐる回ると言う、謎の光景が繰り広げられた。


ゴーガンはゴーガンで、マイペースにフォレストドラゴンを注視。

遅れたガイウス達も似た感じで、凛は何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。




やがて、一頻(ひとしき)り見て満足したのだろう。

真っ先にワッズが戻って来た。


「ガイウスさん達にもお伝えはしましたが、僕は冒険者になるつもりはありません。なので、買い取り価格は控えめで大丈夫です。」


「なんて勿体ない…。」


「それと、骨や鱗等の素材になりそうな箇所はそちらにお任せしますが、食べられる部分は譲って頂けるとありがたいです。フォレストドラゴンがこの大きさですし、解体に時間が掛かると思います。なので、今回はこちらだけに致しますね。」


「お前さん、何もないところから(フォレストドラゴンを)出したってこたぁ(事は)、空間収納スキル持ちなんだろ?…つか、まだ他にも出せるってのかい?」


「そうですね…体積で言えば、このフォレストドラゴンの十数倍位かな?あ、これ、現在収めている魔物達の目録(リスト)です。」


凛は少し考える素振りを見せつつ、無限収納から1枚の紙を取り出す。


「はあっ!?」


流石に嘘だろ。

そう思いつつ、ワッズは差し出された紙を引ったくり、目を皿の様にして見始めた。




「…なになに?


オークキング 1体

オークジェネラル 4体

ハイオーク 6体


オークメイジ 4体

オークアーチャー 6体

オーク 11体


ゴブリンキング 1体

グレーターゴブリン 3体

マーダーゴブリン 4体

ホブゴブリン 12体

ゴブリン 33体


ゴブリンウィザード 3体

ゴブリンソーサラー 5体

ゴブリンメイジ 9体


ゴブリンシューター 6体

ゴブリンスナイパー 10体

ゴブリンアーチャー 16体


キラーマンティス 12体

バトルマンティス 24体


ビッグスパイダー 15体


ワスプ 10体

パラライズビー 2体


サイクロプス 8体


ブラウンベアー 4体


ダイアウルフ 11体

フォレストウルフ 20体

アッシュウルフ 38体


ワイバーン 13体


土竜 2体

ランドドラゴン 11体


キマイラ 2体ぃ…?


こ、ここまでかよ…最早、凄過ぎて言葉が出ねぇぜ…。」


紙から顔を離したワッズが、気持ちぐったりした様子で呟く。




強さに程度はあるものの、凛がワッズに渡したリストに載っていた魔物は以下の通り。


鉄級 ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー


銅級 ホブゴブリン、ゴブリンソーサラー、ゴブリンスナイパー、オーク、オークメイジ、オークアーチャー、アッシュウルフ、ビッグスパイダー、ワスプ


銀級 グレーターゴブリン、ハイオーク、パラライズビー、バトルマンティス


金級 マーダーゴブリン、オークジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンウィザード、ゴブリンシューター、サイクロプス、ブラウンベアー、フォレストウルフ、ワイバーン、ランドドラゴン


魔銀級 オークキング、キラーマンティス、ダイアウルフ、土竜、キマイラ


因みに、ワスプは体長1メートル程の蜂の魔物で、それを進化させたパラライズビーは1メートル50程。

尾の先端にある針を用いてワスプは攻撃を、パラライズビーは相手を麻痺状態にする。


サイクロプスはレッサーオーガから進化した魔物で、1つ目を持つ身長3メートル程の巨人。


ダイアウルフはフォレストウルフが進化した個体。

それまでの緑色から白っぽい体毛へと変わり、体長は2メートル50センチ程に。


キマイラは体長3メートル程の大きさで、獅子の頭部に山羊の胴体、それと毒蛇の尻尾を持つ。

胴体部分には山羊の頭も生えており、魔法攻撃を仕掛けて来る。

そして頭部とは別に胴体と尻尾にある頭にも意志があり、それぞれが違う行動が出来る為、厄介な魔物とされている。


それと、本来であればここに火燐達が倒したワイバーン50体も含まれる。

しかし凛は報告を受けるや咄嗟(とっさ)に浮かんだ『とある』目的の為、敢えて除外している。




ワッズは何かの間違いではないかと何度も何度も一覧表(リスト)を見直し、彼が述べた内容は本当なのかとの意味で他の職人達はざわついていた。


ガイウスにとってもそれは同じで生唾を飲み、盛大に冷や汗を()いていた。

しかしながら、立場上追及しない訳にはいかない。

可能な限り心を鎮め、平坦な声色で凛に尋ねてみる。


「…凛殿。」


「はい?何でしょう?」


「貴殿の空間収納には、その紙に記載されたもの『全て』が収まっているのか?」


出来れば嘘であってくれ。

その願いは「そうですけど…」と、不思議そうな返事と共に脆くも崩れ去った。


ならばと助けを求めるとの目的でガイウスはゴーガンに視線をやるも、お手上げとばかりに目を閉じ、首を左右に振るのみ。


ガイウスは色々と諦めざるを得なくなり、嘆息。

しばらく口を真一文字に結んだ後、意を決した表情に。


「…凛殿。恐らくだが、この世界で最も優れた空間収納の使い手は誰かと問われたら、貴殿になるのではないかと私は思う。」


「僕も同じ意見だ。」


「えっ!?そうなんですか?」


「あぁ。俺は昔、王都で冒険者をやっていた。その時に見た空間収納の使い手は、どんなに大きく見積もってもフォレストドラゴン数体分。つまり、この部屋の半分位しかない。」


「そんなに小さいのですか…。」


「それと凛殿の様子から察するに、先程の料理の様なものも空間収納内に収められているのではないか?」


「そう…ですね。入ってます。」


ガイウスからの問いに、凛は少なくないショックを覚える。


彼的に、どれだけ空間収納スキル持ちを集めようが、死滅の森に挑んでからそう経たずして空間収納が一杯になるのではと思った様だ。

仮令(たとえ)銀級の魔物だろうがそれは同じ。

むしろ低い階級程群れる傾向にある為、時間短縮が顕著に表れるのではとも。


そうとは知らないガイウスは体の向きを変え、フォレストドラゴンの胴体部分へと歩み寄る。


そして首元を撫で、


「何よりフォレストドラゴンの斬り口についてだが…俺の経験上。魔法でと言うより、魔力で強化した刃物による切断ではないかと思うんだが…相違ないか?」


と告げ、首から上だけを凛へ向ける。

ゴーガンも同じ意見らしく、ガイウスから少し遅れる形で彼を見据える。




「よく分かりましたね…こちらの刀を魔力で強化し、身体強化を施した状態で一気に首を斬り落としました。」


ガイウスからの問いに、凛は軽く驚きつつ笑顔で答える。

次に、無限収納から玄冬…ではなく、当時使っていた打刀と同じものを取り出す。


「変わった形の武器だな?…失礼。初めて見るが不思議と手に馴染む…ふむ、中々の業物(わざもの)だ。」


ガイウスは初めて見る打刀に興味津々。

凛から受け取るや色んな角度から眺め、鞘から抜いたりしていた。


「もし宜しければ差し上げましょうか?」


「ぬ…?だが…。」


「そちらと同じものがまだ何本かありますし、1~2本位でしたら問題ありません。」


「そうか…すまないな。自分でも思った以上に気に入ってしまった様だ。ありがたく頂戴しよう。」


初めて見る形状の武器、しかも高品質のものが得られて嬉しいのだろう。

ガイウスが頬を軽く緩ませながら納刀し、凛へ軽く会釈をする。


となると、羨ましがる人物が出るのは必定。

ゴーガンもその1人で、如何にも不満そうな顔付きに。


それに気付いたガイウスは、やや気まずげな様子でゴーガンと面を合わせる。


「…不満なら受け付けんぞ?」


「大体君はだね、長としての自覚が足りなさ過ぎるんだよ。僕だってその、刀…だっけ?良いなぁとは思ったけど、(ギルドマスターとの)立場上控えていたと言うのに。あの時だって━━━」


そこから、何故かゴーガンによる説教が開始。

ガイウスは打刀を左脇に挟み、説教は聞きたくないとばかりに後ろを向き、耳を塞ぐ。


だがゴーガンはお構いなしとばかりに説教を続行。

とばっちりを受けたくないワッズ達は、こっそり離れて行く。


見兼ねた凛が無限収納内に左手を入れ、ガイウスと同じ打刀を用意。


「ゴーガンさんも。宜しければこちらをどうぞ。」


するとゴーガンは満面の笑みを浮かべ、


「おや、良いのかい?いやー、すまないね。」


なんて言いつつ、凛から受け取る形でしっかり打刀を確保。


((((((((凄く良い笑顔。刀を貰えた事が余程嬉しいんだ(いのか)(いのですね)…。))))))))


凛は笑顔で応対したものの、彼以外の者達は違う。

(足を止める等して)面食らい、そんな事を思いながらゴーガンを見ていた。




ゴーガンの機嫌が良くなったのを機に、それからしばらく行われた談笑。

途中、思い出した顔付きになった凛がワッズの方を向く。


「あ、ワッズさん。因みになんですけど、フォレストドラゴンの解体ってどの位で終わりそうですか?」


「ん?職員全員で掛かりゃ、遅くても明日にゃ終わると思うんだが…何か急ぐ理由でもあんのか?」


「あ、いえ。可能であればオークキングの肉も食べてみたいなぁ、なんて思いまして。」


「ああ、成程。魔銀級の魔物だもんな、そりゃ気になって当然か。だったらよ、少しばかり遅れはするが、何人かをオークキングの方に回せば今日の夕方には終わるぜ。」


凛の質問に対し、考える素振りを見せたワッズがニカッと笑いながら答えた。


これに凛は喜びを露にし、ワッズの両手を取る。


「本当ですか!?最悪フォレストドラゴンは明後日とかでも構いません。是非それでお願いします!」


「(うおっ、ビックリした!)お、おぉ…分かったぜ?」


凛が嬉しそうにワッズの両手をぶんぶんと振るものだから、ワッズは驚いた挙げ句、声を上擦(うわず)らせてしまう。


どうやら、ワッズは凛が男だと分かっていながらも彼の柔らかい両手に包まれ、上目遣いで見つめられた事に照れてしまったらしい。


周りにいる職員達がニヤニヤとした表情で自分達を見ているのに気付き、コイツら後で絶対(シメ)る等と思いつつ、凛から離れる。


そして咳払いを交え、出来るだけ平静さを装うも…その両頬はしっかりと赤くなっていた。


「んんっ。それじゃ、作業がしやすい位置にオークキングを出してくれ。」


「はい!」


ワッズから言われるがまま、凛はフォレストドラゴンのすぐ近くにオークキングを出す。




5分後


オークキングも損傷が少ないとの話で盛り上がるも、水色髪の女性が退屈そうだった。

それが分かった凛は彼女に気を配り、適当なところで話を切り上げる。


「それでは、後程また取りに伺わせて頂きますね。」


「おう!なるべく早く終わらせるぜ!」


「宜しくお願いします。」


やり取り後、再びゴーガンが先頭を歩く形で移動を始め、凛達は解体場を後に。


そのまま通路を抜けた1行は、再び冒険者ギルドの広間へと戻る。


因みに、ガイウスの分の打刀は凛が預かっており、(この時点で)打刀を持つのはゴーガンのみ。

冒険者達は凛達が再び姿を見せた事にも勿論驚いたが、それ以上に関心を寄せたのはゴーガンの左手。


離れた時にはなかった横長の黒い物体が握られ、注目の的となっていた。


「それじゃ、僕は自室に戻るとするよ。」


そう言って、ゴーガンは2階へと向かう。

それも鼻歌を歌う等、かなりご機嫌な様子で。


今まで片手だったのが両手。

しかも大事そうに抱えてでの為、少し見ない間に何かしらの出来事(イベント)が起きたのは誰の目にも明らかだった。


(ゴーガンめ、刀を貰えて嬉しいのは分かるが…よもやあれ程とはな。俺は態度に出さぬゴーガンみたくならない様、気を付けるとしよう。)


ガイウスもそれは同じ。

ここまで浮かれるのは初めてな友人を見送りつつ、自らを律する。


「…では、我々も屋敷へ向かうか。そろそろ、凛殿の住民票が出来る頃合いであろうからな。」


「はい。分かりました。」


視点を凛に変え、再びアルフォンスを先頭にとの配置でギルドを去って行った。




「…あんなに機嫌の良いギルドマスターを見たの、俺初めてなんだけど。」


ギルドから凛達がいなくなってすぐ、ポツリと呟かれる言葉。


「えぇ、本当よね…。」

「全くだ…。」

「何だったんだろうな…。」


それを皮切りに。

或いは乗っかる形で数名が続く。


「…今更だが、ギルドマスターが左手に持っていたのは剣…か?さっき(解体場へ向かう時)はなかったよな。」


『…!』


ゴーガンが何か持っていた風に見えたが、感違いではなかった。

これに漏らした男性以外の全員がハッとなり、アイコンタクトを交えての集合。

本日、と言うか短い間の内に行われた、本日何度目かの協議が開かれる合図となった。




ガイウスの屋敷に到着後、ガイウスとアルフォンスのみ凛達から離脱。

残る警備の男性の案内で凛達は応接室に通され、その男性込みで雑談。


「…これが凛殿の住民票だ。確かに渡したぞ。」


「ありがとうございます…ではこちらも刀をお返ししますね。」


10分程で2人は姿を見せ、ガイウスが住民票を。

凛は打刀をそれぞれ相手に渡す。


「うむ。凛殿、色々あって疲れたろう。今日のところはこれでお別れだな。」


「今日の、と仰ると言う事は…。」


「ああ。明日は私も、凛殿が到着する頃を目処(めど)に解体場へ向かわせて貰うつもりだ。」


「成程…ガイウスさん、本日は色々と助けて頂き、ありがとうございました。」


凛がお辞儀し、一拍置いて美羽達も(水色の髪の女性だけ更に遅れて)頭を下げる。


「うむ、ではな。」


ガイウスは満足げな様子で部屋から退室。

それを横目で確認したアルフォンスが凛へ黙礼、ガイウスを追う。


「…それじゃ、家に帰ろうか。」


応接室のドアが閉まり、頭を上げた凛が1言。


「うん♪」


「はい!」


美羽と紅葉は満面の笑みで答えるのだが、女性だけが浮かない顔。


「自分は…。」


言葉を詰まらせ、座りながら目を伏せる。


女性はどうやら、今頃になって疎外感や孤独感に(さいな)まれたらしい。

この場で捨てられるのではとの考えが(よぎ)り、少しでも心の負担を減らそうと判断。

俯いた状態のまま立ち上がり、部屋を出ようとする。


「ん?どこか行きたい場所でも見付かった?」


「…自分、弱いっすから。主様のご迷惑になりたくないんで、このままお別れしようかと…。」


それに気付いた凛が話し掛け、女性は一旦止まるも、再び足を前へ。


「え…?」


しかし、凛が左手を。

美羽が右手を掴むとの流れで強制的にストップが掛かり、女性は困惑。


「僕はたまたま君の主になったけど、それは君が臆病…言い換えれば他者を思い()れるだけの優しさがあったからなんだよ。」


「主様…。」


「そうそう。それに今はまだ弱いかもだけど、ス()()()ンで考えたら強い方なんだよ?」


「す、すたーとらいん…?」


凛からの言葉に感動する(かたわ)ら、美羽の説明で途端に混乱へ陥る女性。

解釈したい(応えたい)と思いつつ、聞き慣れない単語に苦労している風にも見受けられた。




そんな女性の前に、紅葉が立つ。

彼女は軽く怒った風な表情を浮かべている事から、女性は紅葉から怒られるとでも思ったのだろう。

体を硬直させ、緊張した面持ちに。


しかし、紅葉はふっと笑い、


「…先程も申しました通り、私は今でこそこの姿ですが、元はゴブリンだったのです。」


と告げるものだから、女性は目を思いっ切り面食らう。


「え、本当…だったんすね。てっきり冗談とばかり…それと(ゴブリンを)森の上で何度か見た事はあるっすけど、すぐに倒される記憶(イメージ)しかないっすね…。」


「はい。ですがそんな私でも、凛様から配下にして頂き、ここまで至る事が出来ました。」


「確かに。自分とは比べものにならない位、強いと言うのが伝わって来るっす…!」


死滅の森に住まう者が()せる技か。

紅葉の強さ(ヤバさ)を本能的に感じ取った女性が、おぅ…と言いながら冷や汗を流す。


その様子を見た凛と美羽は、紅葉に任せようと判断。

女性の手を離し、少しだけ後ろに下がる形で距離を置いた。




紅葉は空いたばかりの女性の両手を取り、優しく微笑み掛ける。


「次は貴方様です。」


「…え?」


「凛様に拾って頂いたのを機に、私は生まれ変われました。故に次は貴方様の番…一緒に頑張りましょう。」


女性は最初、何を言われたのか分からなかった。

だが紅葉から真摯な態度(真っ直ぐ)で接せられ(見つめられ)、いつの間にか涙を流していた模様。


「あれ…なんで…。」


「今まで…さぞ辛い想いをされたのですね。」


気付いた女性は戸惑い、そんな彼女を紅葉が優しく抱擁。


「うっ…ぐす…うあぁぁぁぁぁ!」


段々と我慢出来なくなり、やがて限界を迎えた女性が嗚咽(おえつ)を漏らす。




女性は臆病な性格に加え、仲間内であまり身体能力が高くないのも重なり、貶され続けた過去を持つ。

或いは、この通り見た目は良いので、気を引きたいが為に(オス側が)ちょっかいを出し、その悉くが裏目に出た…とも。


今回のサルーンの件も、仲間が女性に自慢したいが為に起きた事。

特に理由等は語られず、半ば無理矢理連れ出されたとの説明を受ける。


「…そうだったんだ。それじゃ、改めて宜しく頼むね。」


「はいっす。宜しくお願いしますっす!」


女性は始めこそ気まずそうにしていたものの、凛達が快く受け入れてくれたと分かり、安堵。

凛の申し出に、快く応じる位には元気になった。


それから1行は移動を開始。

前を凛と水色の髪の女性、後ろを美羽と紅葉が歩く。


ただ、彼らは(外見上)美女・美少女のみで構成された1団。

関心を集めないはずがなく、物凄く目立っていた。

ただ当人達は話に夢中で、誰1人として外野に意識を向ける者はいなかったり。


ともあれ、街の南側に着いた凛達。

門番達との挨拶をそこそこに、外へと出る。




「…あ、そう言えば。さっきは僕も急いでたから見れなかったんだけど、君達ワイバーンって、どんな攻撃方法があるのかな?」


1分程進んだ頃、凛は隣を歩く女性に尋ねてみる。


エルマとイルマにも翼や羽が生えているものの、本人達はあまり空中戦を得意としていないらしい。

女性は今でこそ(翼の生えていない)女性の姿だが、凛は翼を生やした者が空中でどう立ち回るのかが気になっての行動だ。


質問を受け、女性は歩きながら考える仕草を取る。


「そうっすね…前足に生えた爪で引っ掻いたり、牙で噛み付いたり。体当たりしたり、尻尾を叩き付けたりって所っすかね。あ、それと。たまに口から火の玉や炎を吐く位っす。」


「おー、ブレス吐けるんだ!何だか強そう!」


「いやー、自分達そんなに強くないし、自分はその中でも1番下…みたいな感じっすからねぇ…。」


凛は興奮気味になるも、困った笑いを浮かべる女性を見て一転。

真面目な表情で告げる。


「君はこのままで良いの?」


女性はその場で立ち止まり、下を向く。


「そんなの…そんなの…言い訳がないに決まってるじゃないっすか。同胞達は何も出来ないまま一方的に倒された。最後に自分が残り、『ああ、次は』と思ったら、とても怖かった。そして助かるかも知れないと分かった時、みっともなく主様に命乞いをした。そんな情けない自分が嫌になるっす…。」


体を震わせながらでの吐露に、凛はようやく女性の本音が聞けたと内心で喜ぶ。


「そうか…ならば問おう。力が欲しいか?」


しかしそれは表に出せない。

出す訳にはいかない。

何故なら、自分は目の前にいる女性の主人。

不甲斐ない姿は見せられないのだから。


自虐する女性とは反対に凛のやる気に火が点き、尚一層落ち着いた顔でそんな事を(のたま)うのだった。

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