23話
このお話は改定前の23、24、25話に当たる部分を1つにまとめたものです。
この様な感じで、複数話を1話としてまとめたり、逆に引き延ばしたり、後から出て来るのを持って来たりする場合があります。
「はぁ…全く。昔から君は変わらないな。」
ゴーガンは溜め息をつくも、その表情は悪くない。
むしろ満更でも、との表現が付きそうな優しい笑みだった。
「…あ、そう言えば、例の屋敷は凛く…凛殿が魔法で建てたんだったか。ハンナ辺りが喜びそうな話だね。」
「ハンナ?」
「元パーティーメンバーの1人さ。炎系魔法を得意とする魔法使いでね。魔法で家が建てられる…なんて聞いたら、きっと興味を持つと思ったんだ。」
「成程、そうでしたか。ただ…主に使用するのは土魔法でして。家全体で考えた場合、炎魔法だとあまりお役に立てないかもです。」
「だよねぇ。」
「それに、意識を明確にしないと希望のものが造れなかったりしますし…後は、かなりの根気と集中力を必要とする、地味な作業がメインって感じでしょうか。」
「ハンナは派手好きだし、力押しな部分が多少、いや大いにある。何より飽きっぽい性格だから向かないだろうな…失礼。一先ずこの話は置いといて、僕もそのフォレストドラゴンを見てみたい。案内がてら、このまま解体場へ向かうとしようか。」
話は終わりとばかりに立ち上がったゴーガン先導の元。
部屋の入り口にある扉、廊下、階段…的な感じで移動。
道中、冒険者達の視線を集めるのだが…凛達は気付かないフリを敢行。
足を止めでもしたら立ちどころに人が群がり、確実に質問責めに遭うと考えたからだ。
そのままゴーガンやガイウスの後ろに付く形で歩みを続け、冒険者ギルドの右側にある素材を買い取る為のカウンター。
その横の通路を通り、奥に設置された扉を開放。
それから10メートル程の通路を経て再び開扉し、部屋の中へ。
室内は縦100メートル、横200メートル、高さが15メートル程と中々の広さ。
魔物や作業中の人達を見るに、どうやらこの部屋がギルドの解体場に当たる区画らしい。
解体場は鉄級のウルフやグラスラビット、犬を二足歩行にした様な見た目のコボルト。
銅級のオークやアッシュウルフ、ブラウンラビットに大型の蜘蛛であるビッグスパイダー。
ホブゴブリンより進化し、2メートル弱にまで背が伸びた銀級のレッサーオーガ。
同ランク、且つビッグスパイダーを1回り大きくさせ、全長1メートルを超えたフォレストスパイダーと思われる者達の亡骸が。
それらを職人数名で捌き、慣れた手付きで道具を使う様子が窺えた。
後に、レッサーオーガとフォレストスパイダーは例の金級冒険者パーティー(男性剣士、女性魔法剣士、女性弓士、男性魔法使いの組み合わせらしい)のものだと判明。
彼らはワイバーン襲来時街の北におり、凛がガイウスへチャーハンを振る舞う頃に北門を抜けたのだそう。
初めて体験する街の慌ただしさに戸惑いながら冒険者ギルドへ向かい、情報収集&対策中に凛達がやって来たとの運びに。
「ワッズはいるかーーーい!」
「誰だぁ!俺の名前を呼ぶやつぁよ!」
ゴーガンの声に反応し、30メートル程離れた場所から不機嫌そうに立ち上がる、1人の男性。
「…ってギルドマスターじゃないですかい。今日はどうしたんです?」
しかし相手がゴーガンだと分かるや途端に(少し怖い)笑顔となり、こちらへ歩み寄って来た。
身長187センチのワッズは、40歳手前の風貌。
ゴーガン程ではないが、がっちりとした体格で強面、更にはスキンヘッドと。
今は作業着姿だが、スーツ等を着せればヤの付く職業に見えなくもない。
「呼び出してすまないね。今日はこちらの凛殿が、フォレストドラゴンを見せてくれるとの目的で来たんだ。それと、こう見えて男性だそうだよ。」
「へぇ…え?男?このナリで…ですかい?」
「みたいだね。」
「みたいだねって…ま、ま、まぁフォレストドラゴンは話でしか聞いた事がなかったんでさぁ。俺としても是非見てみたいですねぇ!」
ワッズも職人達も、これで男は無理があるだろ!と全力で物申したい衝動に駆られる。
が、街長や上司がいる手前グッと堪え、無理矢理作った笑顔で凛の方を向く。
「凛…だったか。俺ぁ作法が苦手でな、至らないと思うだろうが、勘弁してくれや。」
「いえ、お気になさらず。」
「(声まで可愛いのかよ。益々信じがたいぜ…)あんがとよ。そんで出す場所だが、こんな状態でも大丈夫そうか?」
ワッズに尋ねられ、「そうですね…」と部屋を見回した凛はそこそこ広いスペースがあるのを発見。
「あ、あの辺りでしたら出せそうです。あちらをお借りしても?」
「構わないぜ。」
「ありがとうございます。」
ワッズから了承を得、早速目的の場所へと移動。
「それでは今から出しますので、皆さんはここから動かないで下さいね。」
部屋にいる者全ての視線を集めつつ、凛は無限収納からフォレストドラゴンを取り出す。
若干斜めの体勢で胴体を、少しだけ離れた地点に頭を置かれたフォレストドラゴン。
凹んだ形跡が幾つか見られるも、他は綺麗なままだった。
「ふぇー!おっきいねーー!」
「流石、凛様です…!」
美羽と紅葉は話を聞いただけで、実際に見るのは今回が初めて。
なのでフォレストドラゴンを、しかも感動だったり興奮した様子で2人は見て回る。
『………。』
それ以外の面々はと言うと、フォレストドラゴンの巨体さは勿論。
今この場で再び動き出すのではないかと思われる位、圧倒的存在感に当てられ、物の見事に固まってしまっていた。
ただ、ゴーガンだけは口元に左手をやる等。
感心した面持ちで移動を開始。
続けて我に返ったのはワッズ。
且つ素早く駆け寄った結果、ゴーガンよりも早くフォレストドラゴンの元へと辿り着く。
「すっっげぇぇぇっ!!何箇所か凹んじゃぁいるが、ほとんど完璧な状態じゃねぇか!これ程の強さを持った魔物をこんな形で倒せるとは…お前さん、めちゃくちゃ強いんだな!恐れ入ったぜ!」
途中で凛側を向く場面があったものの、彼も美羽達と同様。
様々な角度からフォレストドラゴンを眺め、観察するまでに。
「そうだよー!マスターは凄いんだからーーー!」
「凛様は偉大なのです!」
そこへ、何故か美羽と紅葉も合流。
3人がフォレストドラゴンの周りをぐるぐる回ると言う、謎の光景が繰り広げられた。
ゴーガンはゴーガンで、マイペースにフォレストドラゴンを注視。
遅れたガイウス達も似た感じで、凛は何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。
やがて、一頻り見て満足したのだろう。
真っ先にワッズが帰還。
「待たせたな、それで買い取りだったか?」
「はい。ガイウスさん達にもお伝えはしましたが、僕は冒険者になるつもりはありません。価格は控えめで大丈夫です。」
「なんて勿体ない…。」
「それと、骨や鱗等の素材になりそうな箇所はそちらにお任せしますが、食べられる部分は譲って頂けるとありがたいです。フォレストドラゴンがこの大きさですし、解体に時間が掛かるかと…なので今回はこちらだけ、との形で。」
「お前さん、何もないところから(フォレストドラゴンを)出したってこたぁ、空間収納スキル持ちなんだろ?…つか、まだ他にも出せるってのかい?」
「そうですね…規模で言えば、このフォレストドラゴンの十数倍位かな?あ、これ、現在収めている魔物達の目録です。」
凛は少し考える素振りを見せつつ、無限収納から1枚の紙を取り出す。
「はあっ!?」
流石に嘘だろ。
そう思いつつ、ワッズは差し出された紙を引ったくり、目を皿の様にして見始めた。
「…なになに?
オークキング 1体
オークジェネラル 4体
ハイオーク 6体
オークメイジ 4体
オークアーチャー 6体
オーク11体
ゴブリンキング 1体
グレーターゴブリン 3体
マーダーゴブリン 4体
ホブゴブリン 12体
ゴブリン 33体
ゴブリンウィザード 3体
ゴブリンソーサラー 5体
ゴブリンメイジ 9体
ゴブリンシューター 6体
ゴブリンスナイパー 10体
ゴブリンアーチャー 16体
キラーマンティス 12体
バトルマンティス 24体
フォレストスパイダー3体
ビッグスパイダー 15体
ワスプ 10体
パラライズビー 2体
サイクロプス 8体
ブラウンベアー 4体
ダイアウルフ 11体
フォレストウルフ 20体
アッシュウルフ 38体
ワイバーン 13体
土竜 2体
ランドドラゴン 11体
キマイラ 2体ぃ…?
こ、ここまでかよ…最早、凄過ぎて言葉が出ねぇぜ…。」
紙から顔を離すや、思いっ切り頬を引き攣らせた。
強さに程度はあるものの、凛がワッズに渡したリストに載っていた魔物は以下の通り。
鉄級 ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー
銅級 ホブゴブリン、ゴブリンソーサラー、ゴブリンスナイパー、オーク、オークメイジ、オークアーチャー、アッシュウルフ、ビッグスパイダー、ワスプ
銀級 グレーターゴブリン、ハイオーク、バトルマンティス、フォレストスパイダー、パラライズビー
金級 マーダーゴブリン、オークジェネラル、ゴブリンキング、ゴブリンウィザード、ゴブリンシューター、サイクロプス、ブラウンベアー、フォレストウルフ、ワイバーン、ランドドラゴン
魔銀級 オークキング、キラーマンティス、ダイアウルフ、土竜、キマイラ
因みに、ワスプは体長1メートル程の蜂の魔物で、それを進化させたパラライズビーは1メートル50程。
尾の先端にある針を用いてワスプは攻撃を、パラライズビーは相手を麻痺状態にするが特徴。
サイクロプスはレッサーオーガから進化した魔物で、1つ目を持つ身長3メートル程の巨人。
ダイアウルフはフォレストウルフが進化した個体。
それまでの緑色から白っぽい体毛へと変わり、体長は2メートル50センチ程に。
キマイラは体長3メートル程の大きさで、獅子の頭部に山羊の胴体、それと毒蛇の尻尾を持つ。
胴体部分には山羊の頭も生えており、魔法攻撃を仕掛けて来る。
そして頭部とは別に胴体と尻尾にある頭にも意志があり、それぞれが違う行動が出来る為、厄介な魔物とされている。
それと、本来であればここに火燐達が倒したワイバーン50体も加算。
しかし凛は報告を受けるや咄嗟に浮かんだ『とある』目的の為、敢えて除外している。
何かの間違いではないかと、何度も何度も一覧表を見直すワッズ。
その彼が述べた内容は本当なのか、実は大袈裟に数字を増やしているのではないか等の意味で他の職人達はざわついていた。
ガイウスにとってもそれは同じで、生唾を飲み、大量に冷や汗を掻く。
しかしながら、立場上追及しない訳にはいかない。
可能な限り心を鎮め、平坦な声色で凛に尋ねてみる。
「…凛殿。」
「はい?何でしょう?」
「貴殿の空間収納には、その紙に記載されたもの『全て』が収まっているのか?」
出来れば嘘であってくれ。色々な意味で。
その願いは「そうですけど…」と、不思議そうな返事と共に脆くも崩れ去った。
ならばと助けを求めるとの目的で視線の先をゴーガンに変えるも、お手上げとばかりに目を閉じ、首を左右に振るだけ。
ガイウスは色々と諦めざるを得なくなり、嘆息。
しばらく口を真一文字に結んだ後、意を決した表情に。
「…凛殿。恐らくだが、この世界で最も優れた空間収納の使い手は誰かと問われたら、貴殿になるのではないかと私は思う。」
「僕も同じ意見だ。」
「えっ!?そうなんですか?」
「あぁ。俺は昔、王都で冒険者をやっていた。その時に見た空間収納の使い手は、どんなに大きく見積もってもフォレストドラゴン数体分。つまり、この部屋の半分位しかない。」
「そんなに小さいのですか…。」
「貴殿の様子から察するに、ちゃーはん以外の料理も空間収納内に収められているのではないか?」
「そう…ですね。入ってます。」
ガイウスからの問いに、凛は少なくないショックを覚える。
どれだけ空間収納スキル持ちを集めようが、死滅の森に挑んでからそう経たずして空間収納が一杯となるに違いないと考えたからだ。
仮令銀級の魔物だろうがそれは同じ。
むしろ低い階級程群れる傾向にある為、時間短縮がより顕著に表れるのではとも。
そうとは知らないガイウスは体の向きを変え、フォレストドラゴンの胴体部分へと歩み寄る。
そして首元を撫で、
「何よりフォレストドラゴンの斬り口についてだが…俺の経験上。魔法でと言うより、魔力で強化した刃物による切断ではないかと思うんだが…相違ないか?」
と告げ、首から上だけを凛がいる方向へ。
ゴーガンも同意見らしく、ガイウスから1拍置いた形で彼を見据える。
「よく分かりましたね…こちらの刀を魔力で強化し、身体強化を施した状態で一気に首を斬り落としました。」
ガイウスからの問いに、凛は軽く驚きつつ笑顔で応対。
次に、無限収納から玄冬…ではなく、当時使っていた打刀と同じものを取り出す。
「変わった形の武器だな?…失礼。初めて見るが不思議と手に馴染む…ふむ、中々の業物だ。」
ガイウスは初めて見る打刀に興味津々。
凛から受け取るや縦・横・斜めに傾け、鞘から抜いたりしていた。
「もし興味がおありでしたら差し上げましょうか?」
「ぬ…?だが…。」
「そちらと同じものがまだ何本かありますし、1~2本位でしたら問題ないですよ。」
「そうか…すまないな。自分でも思った以上に気に入ってしまった様だ。ありがたく頂戴しよう。」
初めて見る形状の武器、しかも高品質のものが得られて嬉しくなったのだろう。
ガイウスが頬を軽く緩ませながら納刀し、軽く会釈。
となると、羨ましがる人物が出るのは必定。
ゴーガンもその1人で、如何にも不満そうな顔付きに。
それに気付いたガイウスは、やや気まずげな様子でゴーガンと面を合わせる。
「…不満なら受け付けんぞ?」
「大体君はだね、長としての自覚が足りなさ過ぎるんだよ。僕だってその、刀…だっけ?良いなぁとは思ったけど、(ギルドマスターとの)立場上控えていたと言うのに。それを君は…あの時だって━━━」
そこから、何故かゴーガンによる説教が開始。
ガイウスは打刀を左脇に挟み、あーあー聞きたくない聞きたくないとばかりに後ろを向き、耳を塞ぐ。
だがゴーガンはお構いなしに続行。
とばっちりを受けたくないワッズ達は、視界に入らないのを良い事にこっそりと距離を取る。
見兼ねた凛が無限収納内に左手を入れ、ガイウスと同じ打刀を用意。
「ゴーガンさんも。宜しければこちらをどうぞ。」
その言葉を待っていたゴーガンは途端に満面の笑みへ切り替わり、
「おや、良いのかい?いやー、すまないね。」
「いえいえ。」
なんて言いつつ、凛から受け取る形でしっかり打刀を確保。
((((((((凄く良い笑顔。刀を貰えた事が余程嬉しいんだ(いのか)(いのですね)…。))))))))
凛は笑顔で応えたものの、彼以外の者達は違う。
(足を止める等して)面食らい、妙な一体感が生まれた瞬間と相成った。
ゴーガンの機嫌が良くなったのを皮切りに、それからしばらく行われた談笑。
途中、思い出した顔付きになった凛がワッズの方を向く。
「あ、ワッズさん。因みになんですけど、フォレストドラゴンの解体ってどの位で終わりそうですか?」
「ん?職員総出で掛かりゃ、遅くても明日にゃ終わると思うが…何か急ぐ理由でもあんのか?」
「あ、いえ。可能であればオークキングの肉も食べてみたいなぁ、なんて思いまして。」
「ああ、成程。魔銀級の魔物だもんな、そりゃ気になって当然か。だったらよ、少しばかり遅れはするが、何人かをオークキングの方に回せば今日の夕方には終わるぜ。」
凛の質問に対し、考える素振りを見せたワッズがニカッと笑う。
「本当ですか!?最悪フォレストドラゴンは明後日とかでも構いません。是非それでお願いします!」
「(うおっ、ビックリした!)お、おぉ…分かったぜ?」
余程嬉かったのだろう。
或いは、ダメ元で伝えてみたら殊の外上手くいったが正解かも知れない。
ともあれ、いつの間にか両手を握られ、縦にぶんぶんと振られるとの行動に驚き、ワッズは声を上擦らせてしまう。
彼が男なのは分かっている。
分かってはいるのだが、包まれた両手は柔らかく、上目遣いで見詰められたものだから本当に男なのか?との疑問が再浮上。
女だと錯覚しそうになる。
顔が熱を帯び、ふと気付けば周りにいる職員達がニヤニヤしながらこちらを見ているではないか。
コイツら後で絶対〆ると心で決めつつ、ワッズは凛からそっと離れる。
そして咳払いを交え、出来るだけ平静さを装うも…その両頬はしっかりと赤いままだった。
「んんっ。それじゃ、作業がしやすい 位置にオークキングを出してくれ。」
「はい!」
ワッズから言われるがまま、凛はフォレストドラゴンのすぐ近くにオークキングを出す。
5分後
オークキングも損傷が少ないとの話で盛り上がる一方、退屈そうな水色髪の女性。
それが分かった凛は彼女に気を配り、適当なところで話を切り上げる。
「それでは、後程また取りに伺わせて頂きますね。」
「おう!なるべく早く終わらせるからよ!」
「宜しくお願いします。」
やり取り後、再びゴーガンが先頭を歩く形で移動を始め、凛達は解体場を退出。
そのまま通路を抜け、再び冒険者ギルドの広間へ。
因みに、ガイウスの分の打刀は凛が預かっており、(この時点で)打刀を持つのはゴーガンのみ。
冒険者組は凛達が再び姿を見せた事にも勿論驚いたが、それ以上に関心を寄せたのはゴーガンの左手。
離れた時にはなかった横長の黒い物体が握られ、注目の的となっていた。
「それじゃ、僕は自室に戻るとするよ。」
そう言って、ゴーガンは2階へと向かう。
鼻歌を歌い、弾む足運びとかなりご機嫌な様子で。
今まで片手だったのが両手。
しかも大事そうに抱えてとの光景に、少し見ない間に何かしらの出来事が起きたのは誰の目にも明らか。
(ゴーガンめ、刀を貰えて嬉しいのは分かるが…よもやあれ程とはな。俺は態度に出さぬよう、気を付けるとするか。)
ガイウスもそれは同じ。
ここまで浮かれるのは初めてな友人を見送りつつ、自らを律していた。
「…では、我々も屋敷へ向かうとするか。そろそろ、凛殿の住民票が出来る頃合いであろうしな。」
「はい。分かりました。」
視点を凛に変え、来た時と同じ配置でギルドを去って行った。
「…あんなに機嫌の良いギルドマスターを見たの、俺初めてなんだけど。」
ギルド受付前から偉い人達が離れ、緊張が緩んだのだろう。
ポツリと零れ落ちる様にして誰かが呟いた。
「えぇ、本当よね…。」
「全くだ…。」
「何だったんだろうな…。」
それを皮切りに。
或いは乗っかる形で数名が続く。
「…今更だが、ギルドマスターが左手に持っていたのは剣…か?さっきはなかったよな。」
『…!』
ゴーガンが何か持っていた風に見えたが、感違いではなかった。
これに漏らした男性以外の全員がハッとなり、アイコンタクトを交えての集合。
本日何度目かの、しかも短いスパンでの協議が再び開かれた。
ガイウスの屋敷に到着後、ガイウスとアルフォンスのみ凛達から離脱。
残る警備の男性の案内で先程の応接室に凛達は通され、その男性込みで雑談。
「…これが凛殿の住民票だ。確かに渡したぞ。」
「ありがとうございます…ではこちらも刀をお返ししますね。」
10分程で2人は姿を見せ、ガイウスが住民票を。
凛は打刀をそれぞれ相手に渡す。
「うむ。凛殿、色々あって疲れたろう。今日のところはこれでお別れだな。」
「今日の、と仰ると言う事は…。」
「ああ。明日は私も、凛殿が到着する頃を目処に解体場へ向かわせて貰うつもりだ。」
「成程…ガイウスさん、本日は色々と助けて頂き、ありがとうございました。」
凛がお辞儀し、一拍置いて美羽達も(水色髪の女性だけ更に遅れて)頭を下げる。
「うむ、ではな。」
ガイウスは満足げな様子で部屋から退室。
それを横目で確認したアルフォンスが凛へ黙礼し、後を追う。
「…それじゃ、家に帰ろうか。」
応接室のドアが閉まり、頭を上げた凛が1言。
「うん♪」
「はい!」
美羽と紅葉は満面の笑みで答えるのだが、女性だけ浮かない顔。
「自分は…。」
言葉を詰まらせ、座りながら目を伏せる。
女性はどうやら、今頃になって疎外感や孤独感に苛まれたらしい。
家に帰るとの言葉の意味は分からないが、群れのところに向かうのと恐らく同義。
温かく迎え入れられる事だろう。
翻って自分。
完全に他所者を理由にこの場で捨てられるのではとの考えが過り、少しでも心の負担を減らそうと判断。
俯いた状態のまま立ち上がり、覚束ない足取りで部屋を出ようとする。
「ん?どこへ向かうの?行きたい場所でも見付かった?」
「…自分、弱いっすから。主様のご迷惑になりたくないんで、このままお別れしようかと…。」
それに気付いた凛が話し掛け、女性は一旦止まるも、再び足を前へ。
「え…?」
しかし、凛が左手を。
美羽が右手を掴んで強制的にストップを掛けられ、女性は困惑。
「僕はたまたま君の主になったけど、それは君が臆病…言い換えれば他者を思い遣れるだけの優しさがあったからなんだよ。」
「主様…。」
「そうそう。それに今はまだまだかもだけど、スタートラインで考えたら強い方なんだよ?」
「す、すたーとらいん…?」
凛からの言葉に感動する傍ら、美羽の説明で途端に混乱へ陥る女性。
解釈したいと思う反面、聞き慣れない単語に四苦八苦している風にも見受けられた。
そんな女性の前に、紅葉が立つ。
軽く怒った風な表情を浮かべている事から、原因は不明だが怒られるとでも思ったのだろう。
体を硬直させ、緊張した面持ちに。
しかし、紅葉はふっと笑い、
「…先程も申しました通り、私は今でこそこの姿ですが、元はゴブリンだったのです。」
なんて告げるものだから、女性は目を思いっ切り面食らう。
「え、本当…だったんすね。てっきり冗談とばかり…それと何度か(ゴブリンを)森の上で見た事はあるっすけど、すぐに倒される記憶しかないっす…。」
「はい。ですがそんな私でも、凛様から配下にして頂き、ここまで至る事が出来ました。」
「確かに。自分とは比べものにならない位、強いと言うのが伝わって来るっす…!」
死滅の森に住まう者が為せる技か。
紅葉の強さを本能的に感じ取った女性が、おぅ…と冷や汗をタラリ。
その様子を見た凛と美羽は、紅葉に任せようと判断。
女性の手を離し、少しだけ遠ざかる。
紅葉は空いたばかりの女性の両手を取り、優しく微笑み掛ける。
「次は貴方様です。」
「…え?」
「凛様に拾って頂いたのを機に、私は生まれ変われました。次は他ならぬ貴方様の番…一緒に頑張りましょう。」
女性は最初、何を言われたのか分からなかった。
紅葉から真摯な態度で接せられた事に体が、心が拒絶反応を示したからだ。
何度も反芻する内にじんわりと解け、頬を何かが伝う。
「あれ…なんで…。」
「今まで…さぞ辛い想いをされたのですね。」
それは涙だった。
気付いた女性は戸惑い、そんな彼女を紅葉が優しく抱擁。
「うっ…ぐす…うあぁぁぁぁぁ!」
段々と我慢出来なくなり、やがて限界を迎えた女性が嗚咽を漏らした。
女性はこの通り臆病な性格に加え、仲間内であまり身体能力が高くないのも重なり、貶され続けた過去を持つ。
或いは、この通り見た目は良いので、(オス側が)気を引きたいが為にちょっかいを出し、その悉くが裏目に出た…とも。
今回のサルーンの件も、仲間が女性に自慢したいが為に起きた悲劇。
特に理由等は語られず、半ば無理矢理連れ出されたとの説明を受ける。
「…そうだったんだ。それじゃ、改めて宜しく頼むね。」
「はいっす。宜しくお願いしますっす!」
女性は始めこそ気まずそうにしていたものの、凛達が快く受け入れてくれたと分かり、安堵。
凛の申し出に、快く応じる位には活気を取り戻した。
それから1行は移動を開始。
凛と美羽が水色髪の女性と手を繋ぎ、後ろをニコニコ顔の紅葉が随行。
ただ、彼らは(外見上)美女・美少女のみで構成された1団。
関心を集めないはずがなく、物凄く目立っていた。
ただ当人達は話に夢中。
誰1人として外野に意識を向ける者はいなかったり。
やがて、街の南側に着いた凛達。
門番達との挨拶をそこそこに、外へと出る。
「…あ、そう言えば。さっきは僕も急いでたから見れず終いだったんだけど、君達ワイバーンって、どんな攻撃方法があるのかな?」
1分程進んだ頃、凛は隣を歩く女性に尋ねてみる。
エルマとイルマにも翼や羽が生えているものの、本人達はあまり空中戦を得意としていないらしい。
女性は今でこそ(翼の生えていない)女性の姿だが、凛は翼を生やした者が空中でどう立ち回るのかが気になっての質問だ。
考える意図でなのか、女性は歩きながら軽く上を見上げる。
「そうっすね…前足に生えた爪で引っ掻いたり、牙で噛み付いたり。体当たりしたり、尻尾を叩き付けたりってところっすかね。あ、それとたまに口から火の玉や炎を吐く位っす。こう、がおーっと。」
「おー、ブレス吐けるんだ!何だか強そう!」
「いやー、自分達そんなに強くないし、自分はその中でも1番下…みたいな感じっすからねぇ…。」
がおーの部分で可愛いと思われたのはさて置き。
凛は興奮気味になるも、困った笑いを浮かべる女性を見て一転。
真面目な表情で告げる。
「君はこのままで良いの?」
女性はその場で立ち止まり、下を向く。
「そんなの…そんなの…言い訳がないに決まってるじゃないっすか。同胞達は何も出来ないまま一方的に倒された。最後に自分が残り、『ああ、次は』と思ったらとても怖かった。そして助かるかも知れないと分かった時、みっともなく主様に命乞いをした。情けない自分が嫌になるっす…。」
体を震わせながらでの吐露に、凛はようやく女性の本音が聞けたと内心で喜ぶ。
しかしそれは表に出せない。
出す訳にはいかない。
何故なら、自分は目の前にいる女性の主人。
不甲斐ない姿は見せられないのだから。
自虐する女性とは反対に凛のやる気に火が点き、尚一層落ち着いた声色で宣う。
「そうか…ならば問おう。力が欲しいか?」




