22話
領主程の人物が、紹介目的だけの為にわざわざ。
それも自らの足で冒険者ギルドへ訪問。
前代未聞の事態に、冒険者達は唖然。
ギルド職員達の動きも、まるで時間が切り取られでもしたみたくピタリと止まる。
その様な感じで冒険者ギルド側が静寂に包まれ、しかしゴーガンと呼ばれた男性だけは異なり、静かに嘆息。
困り顔を浮かべ、右手で後頭部をポリポリと掻く。
「全く…心臓に悪い事は止めてくれよ。今日は会う予定は特になかったはずなのに、いきなり呼ぶから何事かと思ったじゃないか。」
「すまん。だがお前の反応を見るのが面白くてな。」
ガイウスの言葉は本心なのだろう。
ジト目を向けるゴーガンを他所にガハハハ、と笑いながら応えた。
「少しはこちらの事も考えて欲しいんだけど…と。君の反応を見る限り、それは難しいんだろうな。」
ゴーガンは表情こそ諦めを現したものだが、その眼差しは優しい。
最近のガイウスは精神的に余裕がなく、いつもカリカリしていたからだ。
執務中に荒れたとの話を聞いたのは1度や2度ではないし、20年来の付き合いである自分と衝突した事もしばしば。
そんなガイウスが上機嫌になる程の人物とはどんなものか。
正直気にならないと言えば嘘になるが、深く追求し過ぎるなと頭の隅で警笛が鳴るのもまた事実。
なので少し。
ほんの少ーしだけ探る意味で、凛に視線を移してみる。
「…それで?僕に紹介したい人と言うのは、隣にいる可愛らしい黒髪のお嬢さんの事かな?」
「そうだ。」
ゴーガンの問い掛けにガイウスが首肯。
そしてすぐ、「…ああ、そうだった」と思い出した様な顔付きに。
「? どうかしたのかい?」
「いや、私も聞いた時には大層驚いたものでな。後に誤解や混乱を招かぬよう、この場ではっきりと伝えておく。」
訝しんだ様子でゴーガンの問いに答え、かと思えば体の向きを冒険者側へ。
ただ、急に水を向られた冒険者達からすれば、ビックリ以外の何物でもない訳で。
何だ何だ?と疑問に思うのは極少数。
驚きのあまり体を強張らせ、どんな怖い発表が始まるのかと身構える者が大部分を占めていた。
おかげで冒険者ギルドを包むのは沈黙、ただそれのみ。
反対に酒場の方は変わらず賑わいを見せ、そんなの関係ないとばかりにガイウスは凛を指し示し、
「こちらは凛殿と言って、この通り物凄く整った顔立ちをしている。が、男性だそうだ。」
そう告げた。
『えーーーーーーーー!?』
ゴーガンは「…へぇ」と呟くだけに留まるも、彼以外は別。
元々冒険者ギルドにいた全員がこれでもかと目を見開き、驚愕へと表情を歪めた。
「皆、落ち着け。気持ちは分かるが━━━」
その衝撃は計り知れず、続けて行われるガイウスの説明に誰も耳を貸そうとしない。
否、聞き入れるだけの余裕がないと解釈すれば良いだろうか。
漏れなく全員がパニック状態へと陥り、最早話どころではなくなってしまった。
ガイウスは「ぬぅ…」と苦い表情。
アルフォンスともう1人の警備の男性が仕方ないですよ…と苦笑いを浮かべるのも仕方ないと言える。
そんな混沌渦巻く中、ゴーガンだけは凛の事をじーっと観察。
視線に気付いた凛は軽く頭を下げ、ゴーガンも会釈でそれに応える。
あれから3分が経った。
依然として騒がしさは収まらず、ガイウスは話が進まないとして大きく咳払い。
そのわざとらし過ぎる動作に冒険者達は黙らざるを得ず、強制的にそちらへ意識を向けるしか選択肢は与えられなかった。
「ひとまず、凛殿が女性でない事は分かったな?」
こうして、黙った者達をガイウスが睥睨。
その端々で「いやいや、あの顔で男性は無理があるでしょ」との声が返って来そう。
否、実際に小声で漏らす者もいたが、努めて無視を決め込む。
「…それと、凛殿は街を救ってくれた救世主でもある。」
続けて、先程小声で話していた男性2人組の方を見やる。
「つまりは恩人だ。その凛殿に何か害を与えようものなら、私が許さん!相応の罰があると覚悟しておけ!」
「「長!もう言いませんから許して下さい!」」
険しい顔で睨め付けられた2人は慌てて椅子から降り、必死に土下座。
それでもガイウスの厳しい態度は変わらず、何度も頭を下げる様は微妙に哀愁を誘う…気がしなくもない。
「…その救世主と言うのがどんな意味なのかは分からないけど、こっちはこっちで忙しいんだ。何でも颯爽と現れ、あっという間に10以上ものワイバーンを倒し終えた人物がいるとか。
他にも空を飛んで戦っただとか、ワイバーンの1体を従え、しかもそのワイバーン人間に変えたなんて報告もあってね。僕達は情報の整理に追われてるんだよ。」
右手を顎に当て、考える仕草を取るゴーガン。
視線は未だ凛に固定、ガイウスが出向く位なのだから或いは━━━
「そう、そのワイバーンを討伐したのが他ならぬ凛殿だ。もし彼らがいなかったと仮定した場合、この街は怪我人で溢れ返っていたであろうよ。」
ガイウスの意見は真面目そのもの。
冗談の要素は1欠片も見受けられず、どこからかゴクリと生唾を飲む音が。
「へぇ…?それじゃ、詳しい話は僕の部屋で聞こうか。」
ゴーガンはゴーガンでより詳細をご所望らしい。
やはりと断定しながら踵を返し、来た道を戻って行った。
「分かった。凛殿も宜しいか?」
「分かりました。」
ガイウスがゴーガンの後を追い、次いで凛。
彼に抱き抱えられ、オロオロとする女性に寄り添う形で美羽と紅葉…と言った感じで移動を開始。
1行は2階にあるギルドマスター部屋へと向かう。
凛達が冒険者ギルドのフロア部分からいなくなった後。
男性2人組は(ガイウスが戻って来るかもとの懸念から)土下座状態のまま、体勢を維持。
他の者達は、凛がどんな人物なのか。
どの様な手段でワイバーンを片付けたのか。
誰も突っ込まなかったが、どうして身の丈以上の体格の女性を抱き抱え、しかも平然としているのかとひそひそ話。
だが、自分達は実力不足が理由で戦闘に参加していない。
つまり憶測でしか語れず、すぐに手詰まり。
すると、隣の酒場から大きく叫ぶ声が。
こちらは考え事で頭がいっぱいなのに呑気な。
文句の1つでも言ってやろうかと立ち上がった瞬間、聞こえて来るは先程の凛の戦いぶりについて。
冒険者達は互いに見合って頷き、この機を逃す手はないとの思いで合致。
一斉に立ち上がり、酒場へ移動。
酔っ払った状態の男性から話を伺い、凛が剣技・魔法共に優れた使い手だと分かるや挙って驚きを露に。
その頃、当の凛はと言うと。
まさか自分が噂になっている等と全く予想だにせず、ゆったりとした足取りで美羽達やガイウス達と共にギルドマスター室へ入ったところだ。
部屋の中にはゴーガンを補佐する、副マスターと思しき男性。
冒険者風の男女4名が椅子に座っているとの状況。
彼らはゴーガンに呼び出され、話し合いに参加した者達。
同時に、サルーン唯一の金級冒険者を含めたパーティーでもある。
ゴーガンは凛がワイバーン討伐を行った本人との旨を報告。
下にいた者達と同様、この場にいた彼らからも大きく驚かれた。
しかしそれ以上に浮かばれるは安堵の表情。
街に被害がなくて良かった。
不思議と後遺症が残らなかったが何かしたのか?等々。
詰め寄られた4人組パーティーの質問に、答えられる範囲で答える凛。
それと最後のは、(周りに気付かれないよう凛が密かに発動した)周辺一帯が範囲となるエリアハイヒールの効果によるもの。
大小様々な怪我を治した彼だが、それも風魔法の応用だと濁していた。
ともあれ、矢継ぎ早に凛へ問い掛ける4人を見たゴーガンは、長くなりそうだと判断。
これより込み入った話をするからと、やんわり出て行くよう促す。
冒険者パーティーだったり関係者はすんなり応えてくれるも、副マスターだけは「自分にも聞く権利がある」と主張。
しつこく食い下がり、最後はガイウスの一喝ですごすごと退出させられる羽目に。
部外者がいなくなり、多少面子は変わったものの先程と同様、凛サイドとサルーンサイドで座り直す一同。
水色髪の女性は凛サイドでゴーガンはサルーンサイド、アルフォンス達はガイウスとゴーガンの後ろに控えるとの形だ。
女性は最も信頼する凛の隣を希望するも、それは叶わなかった。
美羽は凛が着席するや、流れる様にして。
時間差で反対側へ向かおうとした矢先に紅葉が腰を下ろし、「何か?」と般若の如き黒いオーラ漂う笑顔を向けられ、恐怖したからだ。
「い、いえ…何でもないっす…」と半泣き状態で彼女の横へ座り、向かい側から何をやってるのだ…的な視線を向けられたとか何とか。
ややあって、ゴーガンから切り出す…と言うか自己紹介が始まり、凛、美羽、紅葉の順で続く。
次に最近起きた出来事。
加えて凛達に関する事についての説明だったり補足が入り、一通り終えるやゴーガンは考え込む様になる。
(こことは違う世界?それに南の草原に家を建てた人物とは、凛…殿の事だったのか。住みながらにして死滅の森へ挑むと言っていたが…正気か?後、ゴブリンの集落が壊滅したとは聞いていたが、少ないながらも生き残りが。それが紅葉君とは。姫と呼ばれていた存在で、進化を機に今の姿になっただって…?情報が多過ぎる上、確かめようにも精査が難しいものばかりじゃないか、参ったな。)
ゴーガンは表に出さないだけで、内心ではそのあまりの情報の多さに混乱していた。
それから更に30秒程時間を掛け、ひとまず理解する事に。
確証はないが、友人を信じるに重きを置いた結果だ。
視線を水色の髪の女性へ移し、釣られて皆もそちらを見やる。
「じ、自分は!今は人間の見た目っすが、元々はワイバーンと呼ばれる者っす!」
緊張から、声を上擦らせる女性。
ついでに何故か立ち上がり、選手宣誓張りに軽く見上げながらでの名乗りとなった。
これに凛達やアルフォンス達が失笑し、ガイウスが呆れる。
だがゴーガンだけは異なり、冗談を言われたと捉えた様だ。
「…巫山戯てるのかな?」
それまで閉じていた目を少し開け、女性に鋭い視線を向けた。
「ぴっ!」
女性は恐怖のあまり悲鳴を上げ、慌てて凛の後ろに避難。
かと思えばひょこっと顔を出し、
「…ほ、本当っす!自分、嘘は言ってないっすよ!」
そう言って、凛を盾にする。
以降、「う"ーーー」と唸り、涙目で睨み返す彼女。
対するゴーガンはコレで本当にドラゴンか?と思いつつ「ふぅん」と返し、女性を見る目が段々冷たいものへと変わっていく。
そんな彼の肩へ、ポンッと手を置く存在が。
「ゴーガン、その辺にしておけ。気持ちは分からんでもないが、『あれ』はそう何度も見たいものではないのだ…。」
ガイウスだった。
彼の発言の意味や意図が分からないゴーガンは数回瞬きし、「『あれ』…とは?」と尋ね返してみる。
「体の一部分だけを本来のワイバーンのものに戻す…と言う試みを先程行ったのだ。正直見れたものではなかったが…取り敢えず信じる事にした。」
本音を言えば『心の安寧の為』が強いのだが、ガイウスは自ら墓穴を掘る趣味はない。
また必要もない為、黙るとの選択肢を選んだ。
「…分かった。君が信用したのであれば、僕も倣わない訳にはいかないな。」
「うむ。そうして貰えると助かる。」
ガイウスに宥められ、渋々引き下がるゴーガン。
またガイウスはガイウスで、先程の衝撃場面は2度と見たくない。
加えて再度美羽から突っ込まれては敵わないを理由に、密かに安堵していたりする。
一方の女性。
少しでも落ち着かせる目的なのだろう。
先程から彼女の頭に凛の手があり、されるがままの状態だった。
「となると、件のワイバーンから女性にと言うのが彼女に当たる訳だ。」
「そうだな。」
女性が静かなのは、単純に撫でられる行為が気持ち良かったから。
そこへ更にゴーガンが引き下がったのも重なり、安心感が一気に前面へ出たのだろう。
(あ…なんだ…か…眠……く………。)
口元から涎を垂らし、幸せそうな表情でうつらうつらとし始める。
「しかし、ある意味…今回の出来事は僥倖だったのやも知れぬ。」
そこへ発せられた、ガイウスの声。
見れば軽く考える素振りを取っており、隣に座るゴーガンが不思議そうにする。
「それは…出費が抑えられたどころかプラスになりそうだからかい?」
「違う。と言うか、別に俺は吝嗇家等ではないぞ?無い袖は振れぬが、最悪どうにか掻き集める位はした…まぁ、臨時収入が得られるのはありがたい…ではなくてだな。」
話してて恥ずかしくなったのだろう。
コホンと咳払いしてから「全く、恥を掻いてしまったではないか」とボヤき、「僕もまさかここまで話が大きくなるとは思わなかったけどね」と苦笑いで返される。
「いやな、俺達はこうして森にいる魔物と会話する機会を得られたが、普通ではまず有り得ない事だ。やりようによっては、今までの後手から先手に回れるのでは…と思ってな。」
ガイウスの尤もな意見に、皆が納得。
凛もその中の1人で、それまで女性の頭を撫でていた手を離し、「ふぇっ…?」と寝ぼける彼女を他所に居住まいを正す。
「確かに、ガイウスさんの仰る通りかも知れませんね。僕達は1週間程前から森へ赴き、探索しては夕方に帰るを繰り返してきましたが、(強くなるを目的に)魔物の討伐しか行っていませんでした。これからは魔物に意識を向け、可能であれば対話を試みていこうと思います。」
「へぇ?森で継続的に探索を…君達かなりの実力者なんだ。ここは1つ手合わせ願いたいところではあるけど、今は止めておくとして…それで?ワイバーンさんは、どんな役立つ情報を持っているのかな?」
ゴーガンはギルドマスターでありながら、現役の魔銀級冒険者。
凛の話から強者であると感じ取り、手合わせしたい衝動に駆られる。
それを抑え、自らを律して視線を再び女性へ。
ゴーガンだけでなく全員からの注目の的となった彼女は、残念そうな顔に。
余程凛から離された手が寂しいのか「聞いてるかな?」とゴーガンから促され、アワアワと狼狽えた程だ。
「じ、自分も詳しくは分からないんすけど、最近、森の奥で1体の魔物が生まれたらしいんす。」
「魔物?たった1体の魔物がこの騒ぎを引き起こしたとでも?」
「そうだと言われてるっす。何でも、とんでもなく強く、しかも(森の)あちこちに現れては暴れ回るとかで…。」
「何だそれは…話の出所は確かなのかい?」
「自分も仲間の知り合いから聞いただけっすからねぇ…ただ、森全体がざわついているのは本当だと思うっす。」
「…魔物ならではの勘、かな?となると、あの話は正しいのかも知れない。」
「話?」
「うん。周辺の都市や街から来た冒険者や商人からの情報でね。死滅の森に生息する魔物が外で見掛ける様になった、との報告がここ最近増えて来ているそうなんだよ。」
「それは…一大事ではないか。となると、今後は我々が…いや、むしろ世界中が森の動向に気を配らねばならないのではないか?」
「そうなるね。慌ただしくなる事は安易に予想出来るし、王都へ報告すべきなんだけど…。」
「王都にいるじじい共が鼻で笑って終わるだけだろうな。むしろ、こっちでどうにかしろとか言い出すに違いない。無論、協力も何もなしでな。」
「あー…そうだね。金儲けと保身と地位向上にしか頭にない連中だ。普段は自分達が不利になる事はやりたがらない癖に、有利になると分かった途端周りを巻き込むんだもの。裏でコソコソ動くであろう姿が目に浮かぶよ。」
「だろう?それに、中途半端な戦力を街に送られてもな。食わせてやる程の余裕なんぞないし、ただでさえ俺達を辺境の田舎者だと馬鹿にしている連中だ。そんな奴らに義理立てする必要はあるまい…と言うか、これ以上の面倒事は勘弁どころか不要ですらある。」
「世界の危機かも知れないと言うのに、何ともままならないものだね…。」
「全くだ…。」
女性の言葉を受け、ガイウスとゴーガンは2人で話し合いを行うも、最後は揃って沈痛な面持ちに。
その間、凛は凛で何やら思うところがあったらしい。
珍しく難しい顔で、しかも腕組みしながら黙り込んでいた。
「マスター?どうかした?」
「いや…大丈夫。」
見兼ねた美羽が尋ねてみるも、返って来たのは答えにならない答え。
「そう…何かあれば遠慮なく言ってね?」
「分かってる、ありがとう。」
益々心配になり、同じく心配な様子の紅葉とアイコンタクトを送り合い、目を伏せて首を振る等する。
「…うむ、決めた。結論は出さず、保留とする。王国が当てにならない以上、どれだけ期待しようが無駄に終わると容易に見当が付くからな。であればこそ、我々が取る手立ては1つ。凛殿と親睦を深める事、これに集約される。」
「…!」
名前を呼ばれた事に反応した凛がガイウスの方を向くと、にやりと笑われた。
「…で、だ。凛殿、早速ではあるが、貴殿が先程出した『ちゃーはん』なる食べ物。こいつにも食べさせてやってはくれまいか?」
「? 分かりました、普通のでと言う意味ですよね…はい。」
不思議に思いはしたものの、ガイウスに促されるままチャーハンを用意する凛。
そんなに食べさせたかったのかな、等と考えつつゴーガンの前に置く。
(今のは…空間収納スキル?)
「…ゴーガン。これは『ちゃーはん』と言って、違う世界の食べ物らしい。お前も食べてみろ。美味いぞ。」
ガイウスにそう言われ、ゴーガンはチャーハンを食べようとする…よりも早く、れんげの存在に興味が湧いた様子。
「…変わった形をしたスプーンだね。」
述べつつ、スプーンとは少し異なる形状のれんげを手に取り、まじまじと見る。
「しかし、君が美味いと言う位だから、既に食べたのだろう。ふむ、良い香りだ。」
しばらくチャーハンも眺め、香りを堪能した後にれんげで掬い、どれ…と口の中へ。
「ほう…確かに美味い。僕よりも色々な物を食べて来た君が言うだけの事はあるね。」
見た目からは想像出来ない複雑な味わいと香りに、ゴーガンは内心舌を巻く。
続けてガイウスに視線を動かせば、目を閉じ、分かっていないなぁ…とばかりに首を左右に振られる。
「驚くのはまだ早い。」
「ん?それはどういう…。」
「凛殿、あの液体をゴーガンのちゃーはんにも掛けてやってはくれまいか?」
「あの液体…?あ、海鮮あんの事ですね…失礼します。」
(海鮮、あん?海鮮は恐らく魚等を指す言葉だろうけど…あん、とは?)
そんな事をゴーガンが思っている内に、謎の液体(?)がチャーハンに掛かる。
「お待たせしました。どうぞ。」
「成程、(チャーハンは)この状態で完成とばかり思っていたんだけど…実は続きがあったのか。」
得心の行ったゴーガンが再度、それも琥珀色の液体こと海鮮あんが乗った状態のチャーハンを1口。
「…!何だこれは!美味さが更に増した!?」
弾ける風味。
鼻を抜ける馥郁に驚くあまり、目をカッと見開く。
そこからは一気に食べ進め、あっと言う間に完食する運びとなった。
その間、ガイウス、及びアルフォンスを含めた部下は、そうだろうそうだろうと満足げな様子で首肯。
それと、ワイバーンの女性はさっきの量では足りない…とでも表現したいのか。
指を咥え、物欲しそうにゴーガンを見ていた。
意外に健啖なのもそうだが、この切り替えの早さを含め、彼女は結構な大物なのかも知れない。
食後、ゴーガンとガイウスは双方共に笑顔。
「…いやぁ、美味かった。こんなに驚いたのは久しぶりだよ。」
「さもあろう。なんせ、俺も驚いたのだ。あまり表情の変わらないお前でも同じ反応を示すだろうと予想し、実際その通りになった。わざわざここに出向いてまで、食べさせた甲斐はあると言うものだな。」
「うん。今まで生きて来た中でも1、2を争う位かも知れない。」
「全く以て然りだ。」
「えっと、喜んで頂けて何よりです。それで、本日伺わせて頂いたのはですね…。」
「ん?今後についての話し合いで来たのかと思ったんだけど…違うのかな?」
「話し合いも勿論ですが、それとは別に魔物の解体と素材の買い取りをお願いしたいと思いまして。」
「おぉ、そうだった!凛殿達は(死滅の)森で狩りを行ってるらしくてな、途中フォレストドラゴンとアダマンタートルに襲われたそうだ。」
「…その件、僕は何も聞かされてないんだけど?」
「俺の方で口止めしたからな。下手に広まって目を付けられでもしたら面倒だと思ったのだ。」
「また君はそう言う…。」
「それで、だ。かの魔物らを倒したは良いものの、凛殿達の中で解体出来る者がいないらしい。俺はフォレストドラゴンの死体を確認したいと思い、裏の解体場を借りるつもりだったのだが…。」
「だったのだが?」
「お前に『ちゃーはん』を見せる事に意識が向き過ぎてしまってな!すっかり忘れておったわ!」
ガイウスは豪快に笑うも、面白いと喜ぶのは彼だけ。
他の者達は揃って崩れ落ち、紅葉はまぁ…と目をパチクリ。
「「「いや、ガイウスさん(君)が忘れてちゃダメでしょう(だろう)…。」」」
「いやぁ、すまんすまん!」
凛、美羽、ゴーガンの3人からじと目で突っ込まれるも、ガイウスはまるで無頓着。
謝罪の言葉こそ口にするものの全く悪びれた様子は見られず、逆にワハハハハと笑い飛ばして皆から呆れられるのだった。




