19話
「え?それって…ゴブリンがゴブリンを、との解釈で合ってる?同族なのに?」
《はい。その認識で間違いありません。捕らえられたゴブリン族は雌。状況証拠でしかありませんが、彼の個体には希少価値がある、高貴な身分、敵対勢力側にいた存在、ユニークと。様々な可能性が考えられます。》
「成程ね…となると、距離が問題か。うーん、さっきみたく僕だけ先に…いや…でも…。」
ナビからの回答を受け、凛は囚われたゴブリンに対し興味が湧いた様だ。
右手を顎に当て、助け出すまでの道筋を描きながら独り言ちる。
「…と言うかよ、皆で飛んで向かえば良いだけの話じゃね?わざわざ走る必要なんてねぇだろ。」
「あ、そっか!地上を走るだけが選択肢じゃない、飛んで向かっても良い訳だ。さっきは少しでも早くエルマ達を助けなきゃとの考えしかなかったから、すっかり忘れてたよ。」
(凛さん、そんなにあたし達の事を心配して…ん?今、飛んで向かうとか言わなかった?)
凛と火燐。
2人のやり取りを聞いたエルマが感動しそうになり、しかしすぐに現実へと引き戻された。
「ま、どっちみち凛が最初に到着しそうだけどな。」
「…火燐ちゃん火燐ちゃん。」
「ん?エルマか、いきなりどうしたよ?」
「火燐ちゃん達って…全員空を飛べるの?」
「ああ。空を飛ぶ、ってだけならオレ達全員出来るぜ。」
「それ…さっき説明にあった半人半神や半人半精霊とか言うのが関係したりする?」
「そーだな。ま、精霊っつっても、オレ達みたくほぼ人間にしか見えないって奴は少ねぇだろうが。」
「成程…。」
ニカッと笑う火燐とは裏腹に、難しい表情を浮かべるエルマ。
翼もないのにまさか飛べるなんて事はないよね…ないよね?と半ば願望に近い視線を火燐に向け、今度はニヤリと笑われる。
それはある種の答えでもあり、エルマの隣にいるイルマは火燐を注視。
ふんふんと鼻を鳴らし、どうやって飛ぶのかが如何にも興味ありますと言った感じだ。
因みに、先程凛が地上を駆けた速度は時速70キロ位。
これが空を飛ぶ場合だと、最高時速100キロよりも先にまで上がったりする。
その後、凛達は魔力を用いてその場に浮遊。
目の当たりにしたエルマ達がショックを受けるなんて1幕があったものの、皆でゴブリンの集落へと向かう。
《マスター、おめでとうございます。》
「ん?ナビ、何がおめでとうなの?」
《オークキングの解析終了に伴い、私。並びに万物創造が成長。新たに、魔石の精製が可能となりました。》
道中、思い掛けない報告により空中でズルッと滑る凛。
「せ、成長?それに精製…?」と漏らす彼に、注目が集まったのは言うまでもない。
《はい。マスター方が様々な種類のオークを討伐して下さったおかげです。私が無限収納内で(オーク達を)解析し、情報を取得。得た情報は万物創造にも反映され、成長へと繋がりました。》
「なんて便利なシステム…。」
《今回の場合、オークキングの体内に魔石が含まれていたのが成長要因となり、魔石精製が可能に。今後の情報次第では、より質の高いものが万物創造で…との可能性も十分にございます。》
「…と言う事は、万物創造を成長させ、品質の高いものを生み出せればより強い魔物と戦える様になる。そしてその強い魔物を倒し、解析して…を繰り返していけば良いんだね?」
《はい。その通りです。》
「成程、要は好循環を目指せば…あ、なんか洞窟っぽいのと、入口に誰か配置されてるのが見えて来た。もしかして、あれがゴブリン?」
『…!』
ナビの声が聞こえ、何とも言えない顔の美羽は別として。
不思議がったり、まーた何かやってんなと含みのある視線を背に前へと進み、やがて目標を発見。
見えたのは視力が強化された凛だけだったものの、彼がここで嘘をつく理由がない。
つまりは本気だとして、場に緊張が走る。
「ナビ、また後で続きを聞かせてね。」
《畏まりました。》
一旦会話を切った凛は、ゴブリンの集落から500メートル程手前に着地。
彼に続く形で、美羽達も次々に降り立った。
1行が飛行中に出した速度は時速50キロ弱。
これはエルマとイルマに合わせた速さで、彼女達以外は余力を残した状態となっている。
「やっと着いた…ここまで本気なの…いつ以来だろ…。」
「だね…それに…疲れてるのって、私達だけみたいだよ…。」
「うぅ…空を飛べる種族としての自信が…。」
逆に返せば、2人だけが疲れた状態。
地に足をつけてからも平然とする凛達に対し、彼女達は明らかに疲労感を隠せていない。
目の前で打ち合わせをする凛達を尻目に小声で話し合い、共に撃沈していた。
因みに、凛達は移動中魔力障壁を纏い、空気抵抗や風の影響等。
マイナスに繋がる要因を、可能な限りカット。
対するエルマとイルマは、翼をはためかせながらでの飛行。
緩和するものは何もない為影響をモロに受け、2人だけが白と黒のワンピースっぽい衣装のスカート部分を押さえての着地ともなった。
状況確認を済ませた凛達は、ゴブリン達の集落近くにある大岩へ。
「…あれがゴブリンか。」
岩影から、入口に立つゴブリン2体の確認を行った凛がポツリと1言。
どちらのゴブリンも身長1メートル位。
緑色の肌で、痩せた人間を醜悪にした外見。
少し尖った耳を携えているのが特徴だ。
2体いる内の片方が非常に眠いのか大きな欠伸をし、もう片方のゴブリンから注意を受けるとの現状。
彼らは冒険者が討伐を許される鉄級の強さで、スライムや1本角の兎の魔物ホーンラビットより少し上の存在。
狼の魔物ウルフと同等に扱われ、1対1。
且つ、正面での戦いであれば間違いなく雑魚の部類に入る。
しかしこれが集団になると難易度が途端に跳ね上がる。
場合によっては上位の冒険者ですら危険な目に遭う可能性があり、にも関わらず得られるものがショボい。
割に合わないを理由に、上位冒険者は基本的に無視。
鉄級や銅級と言った、低位の冒険者位しか彼らを倒そうとする者はおらず、大小問わずそこそこの数で被害報告が上がっているとの事。
「(ナビによると)ゴブリンはオークよりも力が弱い分、狡猾で悪知恵が働くんだって。僕はゴブリン達がどう動いても対処出来るつもりで構えるから、戦闘は美羽達に任せるね。」
凛の指示に美羽達が頷き、さぁいざ実行。
となる寸前、「あの…ちょっと良いですか」と待ったの声が。
「ん?イルマ、何か気になる点でも?」
声の主はイルマ。
彼女は元気なさげに下を向いており、やがて口を真一文字に結び、意を決した様子で真っ直ぐ凛を見据える。
「エルマちゃんが今持ってる武器って、凛さんが用意したんだよね?」
「そうだね。」
「出来ればで良いんだけど、私にも用意して貰えたらなぁって…。」
「勿論構わないけど、イルマは戦闘が苦手だったんじゃ…。」
「そうなの。そうなんだけど…今までみたく、争いが嫌だから逃げるとか、私が原因でエルマちゃんや皆が傷付くのはもう嫌なの。だから…だから私も戦う!」
イルマは目に涙を溜めながらも、その表情は毅然とした想いで満ちていた。
「イルマちゃん…うん、一緒に強くなろうね。」
彼女の姿勢に感化されたのはエルマ。
自分の為にそこまで…と嬉しさと涙が溢れ、イルマの背中にそっと左手を当てる。
他の面々は2人に優しい視線を向けており、ゴブリンの事はすっかり記憶の彼方。
ここに第3者がいた場合、戦闘を目前に何をやっているんだとツッコミが入る事間違いなしのやり取りだ。
「そっか…分かった。それじゃイルマ、武器は何が良い?」
「私、動くのは苦手だけど、魔法ならそこそこ使えるから、杖をお願いしたいかな。その、自分のは壊れちゃって…。」
「成程、それで(杖を)持ってなかったんだ。」
「うぅ…ごめんなさい。」
「大丈夫。それじゃ早速だけどナビ、実験がてら杖の先端に付ける形で魔石の精製を試してみても良い?」
《畏まりました。》
それから1分経過後、凛の両手には雫達のものとはちょっとだけ異なるマジックワンドが。
「…はい。石の部分だけ少し違うけど、後は雫や楓のと同じものだよ。その内、イルマにもきちんとした杖を用意するから待っててね。」
「うん!凛さんありがとう。」
凛から受け取った杖を胸の前へ運び、穏やかな笑みを浮かべるイルマ。
後に、この杖は大事に扱われ、宝物として飾られる様になったとか何とか。
それと、新しい杖は既存のものよりも威力が少し上がり、反対に消費魔力がより抑えられ、更に使い勝手が良くなったらしい。(byナビ)
「さて、それじゃ改めて入口へ向か…う前に、エルマ、イルマ。顔色が悪いよ…大丈夫?」
「むしろ…こんな酷い臭いなのに、どうして凛さん達は平気なの…?」
「うぅ…気持ち悪い…。」
場が落ち着いたのを確認した凛が、再度見張り役のゴブリン達を見やる。
続けて青い顔をした2人に問い掛け、得られた答えを確かめる目的も兼ね、敢えて臭いを嗅いでみる。
長い間風呂に入っていないであろう野生味のある香りに、卵の腐った感じをプラス。
そこに血生臭さも加わり、思わず「あー」と零れる位には酷かった。
「納得した。取り敢えず、僕達は息をしなくても大丈夫な体とだけ…。」
「「何それ羨ましい…。」」
「なんかゴメン。ひとまず言えるのは、犠牲になったであろう人達や魔物達。それと本人達が臭いの原因ってところだろうね。一応対応策はあるし、2人がどうしても辛いなら休んでて良いよ?」
「その提案はありがたいんだけど、折角ここまで来たし、試練だと思って頑張るぅ…。」
エルマの言葉に、両手で鼻と口部分を覆ったイルマが同意とばかりにコクコクと頷く。
因みに凛が述べた対応策とは、空気を綺麗にする空気清浄機みたいな役割を持つ魔法の事。
臭いだけでなく空気そのものを浄化し、スッキリだったり清潔感を齎すものだったり。
「分かった。なるべく早く終わらせるから、無理だけはしないでね?」
最後に、誰でも出来るからと口で息をする方法を勧める凛。
2人からありがとうとお礼を述べられ、すると今度は翡翠に声を掛けられるのだった。




