18話
「…そう言えば、そろそろ良い時間だし、一緒にお昼ご飯食べない?勿論、2人が良ければだけど。」
「えっ、良いんですか!?」
「私達、実は昨晩から何も食べてなかったんです…。」
「もうお腹ペコペコで…こちらからお願いしようかと思ったところでした…。」
かと思えば出された提案に良い食い付きを見せ、イルマがお腹に両手を当てて恥ずかしそうにする様に、凛はクスリと笑う。
気分転換もかねた、話題変更が功を奏した喜びもそこに含まれている。
「なら丁度良かった。火燐達も一緒に食べよ?」
そう言って、凛は無限収納から4メートル四方のブルーシートを取り出し、地面へ広げる。
これに火燐は「あ、ああ…。」と戸惑い、雫達。
更にはエルマ達も唖然とする。
「美羽、今日のお昼はどうしよっか?」
「そだねー…んーでも人数が人数だし、好みとかもあるでしょ?まずは色々出してみて、後は追々…って感じで良いんじゃないかな。」
「それもそうか。じゃあさ…。」
反面、凛と美羽は何のその。
火燐達の困惑等全く気付かないまま靴やブーツを脱ぎ、慣れた様子でブルーシートの上を歩いていく。
それから2人は会話を交えつつテキパキと(タッパーの様な容器に入った状態の)料理や使い捨ての皿等を並べ、やがて作業を終える。
ブルーシートの中央部分には、各種サンドイッチやおにぎり。
鶏の唐揚げ、玉子焼き、エビフライ、コロッケ、ウインナー、ミートボール。
フライドポテト、ポテトサラダ、林檎やオレンジと言った果物をカットしたものが鎮座。
それらを真顔でロックオンする火燐達。
元気印の翡翠に、控えめな楓ですら同じなのが面白い。
反対に、エルマとイルマは初めて見るものばかりを根拠にフリーズ。
又は慌てており、違いの差が浮き彫りに。
「準備出来たよー!皆、履き物を脱いで来て貰える?」
「えー、っと凛。さっき創造神様に何かを渡した時も思ったんだが…それは食いもんなのか?」
火燐、雫、翡翠、楓の4人は互いに神妙な面持ちで目配せを行い、代表として火燐が質問。
「その辺も踏まえて説明するからさ、まずは食べてからで良いかな?僕もお腹も空いちゃった。」
「あー…はいはい、分かったよ。こっちに来いって事だな。」
満面の笑みを崩さない。
又は誤魔化しとも取れる凛の返答に、火燐は渋々と歩き始め、雫達も彼女の後に続く。
「え?え?エルマちゃんどうしよう。もしかして私達、とんでもない人達と知り合いになったんじゃあ…。」
「イルマちゃん落ち着いて。まだ『そう』だとは決まってない。それに、あたし達の聞き間違いだって可能性もある。」
「そ、そうだよね!」
その一方、エルマとイルマが『創造神様』と言う単語に過敏に反応。
「え、今創造神様って言った?言ったよね?」と顔を突き合わせ、こちらも誤魔化す(先送りとも)形で相談していると、彼女達が移動していない事に気付いた翡翠と楓が戻って来る。
「2人共ー、どうかしたー?」
「「…!」」
「気の所為でしょうか…? 何だか顔色が悪い様な…。」
「何でもないです何でもないです!い、いやー、お昼ご飯楽しみだなー!」
「そ、そうだねー?何が出て来るんだろー!」
「「?」」
冷や汗を流す等し、やや急ぎ目に向かうエルマ達。
それは右手と右足、左手と左足が一緒に出ると言う。
ぎこちない所作でのものとなり、翡翠と楓は不思議に思いつつ彼女らの後を追う。
エルマ達もブルーシートの上に座った後、凛が食事の内容を説明。
その際、先程までと同様に2人をさん付けで呼ぶ。
しかしエルマ達から、自分達は助けられた側と言う名目(実際はもしもの為の意味合いが強い)の元、さん付けは不要。
反対に、呼び捨てにして下さいとの旨を淡々と。
…ではなく、必死に。
それこそ何度も何度も頭を下げ、拝み倒す勢いで乞われてしまう。
凛は如何にも釈然としませんと言いたげな姿勢を示しながらも、渋々了承。
改めて、自分達に関する旨の説明を行った。
「凛様は創造神様の弟様…つまり私達よりも全然強く、しかも大変偉い御方…。」
「うわーん!やっぱり聞き間違いじゃなかったー!さっきは偉くないって言ってたのに全然偉いじゃないですかーーー!!」
エルマとイルマは段々と顔が青くなっていき、やがて蒼白へ。
最後はイルマが体だけでなく声まで震わせ、エルマは自暴自棄になり、収拾が付かない事態にまで発展。
「いや、偉いのは姉であって。ただの偶然…って、2人共。ひとまず落ち着い━━━」
「「無理です!知らなかったとは言え、数々のご無礼、本当に申し訳ありませんでした!!」」
凛はどうにか彼女達を宥めようとするも、却って逆効果。
畏れ多いとの言葉を残し、2人は瞬時にブルーシートの端へと移動。
その場で平伏し、揃って微動だにしなくなった。
「参ったな…。」
これに困ったのが凛。
彼的に今後の事を思い、正直に伝えたとの認識。
だが現実はただただ強いショックを与え、完全に裏目に出ただけで終わってしまった。
そうなると、途端に心配になるのが人情と言うもの。
凛はエルマ達を慮り、寄り添われた挙げ句顔を上げるよう伝えられた2人は、彼の機嫌を損ねたくないとの思いから断固拒否。
その後、2人は平伏したまま再び体を震わせ、イルマに至ってはこの場で生を終えてしまうと思い至ったのか泣き出してしまう。
「…そしたら命令って事にするよ。」
「…え?」
「…ふぇ?」
「エルマ、イルマ。2人共畏まらないで、怖がらないで。僕はただ、君達と普通に接したい。友達になりたいだけなんだ。ただどうしても創造神の弟の肩書きが気になる、遠慮すると言うなら無理強いはしない。だから…。」
「…その言い方はズルいです。ううん、分かったよ…凛さん。」
「ホントだよ…でもありがとう、凛さん。」
凛が寄り添い、真摯に向き合った事で(多少ぎこちないながらも)ようやく2人に笑顔が。
一時はどうなるかと不安になった美羽達もほっと一息つく。
「まだ少し固いけど…まぁ良いか。でも割と最近まで一般人だったのは本当だからね?」
等と宣う凛が本当に一般人なのかはさて置き。
これ以上はいけないと踏んだエルマとイルマは、ひとまず濁す事を選択肢として選んだ。
「あー、うん。そこは疑ってない、かな…?」
「ただ何と言うか、とんでもないお方にとんでもない使命を与えられちゃったんだなぁ…としか。ごめんなさい…。」
「いや、まぁ。分かってくれたのならそれで十分だよ…それで、これから2人はどうする?旅を続けるとかかな?」
「あたし達、冒険者で言うところの鉄級位の強さしかなくってさ。だから戦える魔物はかなり限られるし、今のところ行く当てってのは特になかったりするんだよねぇ…。」
「私のせいだよね。エルマちゃんごめん…。」
「いやいやいや!あたしが実力不足だからで━━━」
「だったらさ、僕達と一緒に行動しない?」
戦闘が苦手なイルマのせいにはしたくないとエルマが弁明中、(色んな意味で遮るとの形で)凛から提案が。
「えっ…でも良いの?あたし達、凛さん達の足を沢山引っ張ると思うんだけど…ねぇ?」
「う、うん。」
「強さは関係ないから大丈夫。」
憂う2人に凛がキッパリと告げ、それよりもと続ける。
「さっきも伝えたけど、僕は2人と友達になりたい…どうかな?」
「友達かぁ…あたし、少し前まで天使族が暮らす集落…あ、天界って場所にいたんだ。」
「私達悪魔がいるのは魔界だよ。」
「天界に魔界。どちらも天使と悪魔がって意味なんだろうけど…またベタな。」
実に無難とも取れる名前に凛が苦い顔になり、エルマが「ホントだよね」と笑みを零す。
「でね、私がいた集落には1万人位?の人が住んでるんだけど、いつもニコニコと笑顔を浮かべててね。何か失敗しても怒られるなんて事は1度もなかった。」
「へー。穏やかな人が多いんだ。」
「それがあたしは逆に怪しく思えてさ。何か裏があるんじゃないかと疑って、受け入れられなかったんだよね。ある時、全くの別人って位に豹変する場面があるんだと分かったら尚更。」
「え…?」
「その…集落では、悪魔は滅ぼすべき存在だ…みたいな事を、昔から。それこそ私が小さい頃よりもずっと前から言われてたみたいなの。」
「笑顔で?」
「笑顔で。何回も何回も同じ事を、しかも笑顔で迫って来るんだもん。恐怖でしかなかったよ…。」
「それは…。」
「そのおかげかな?あたしはイマイチ理解したいとの考えにはならなかったんだ。だから集落ではちょっと浮いた存在になってたし、かと言って今更集落に馴染もうとも思えなかった。他の天使は教えを素直に従ってるんだろうなーなんて考えたら、仲良くなんてとても…。」
「僕もちょっと…。」
「だからなんだろうね。上が焦れて、見聞を広めるとの目的で外に。悪魔と戦う為の試合会場へ連れ出される形になったんだ。
そこでイルマちゃんに出会えた訳なんだけど…イルマちゃんのところって、別な意味で酷いんだよね?」
「そうだね…私が住む魔界は殺伐としてると言うか、他人を蹴落として自分が上に行くって割合が多いんだ。実際、そんな人程高い地位にいたりするし。私はそれが嫌で、里からよく出てたんだぁ…。
試合会場には、天使を見たら考えが変わるんじゃないかって事で私は連れ出された。けど当時はエルマちゃんの事を考えるので精一杯で、試合内容は全く覚えてなかったりするんだよね。」
「分かる分かる。あたしもこう…イルマちゃんを見た瞬間ビビッと来たもん!」
「ふふっ。凛さん達は全然偉ぶらないし、何より一緒にいて心地良い感じがする。だから…。」
「凛さん達さえ良ければ、これからも一緒に行動したい…いえ、いさせて欲しい、かな。」
「その、私も…。」
「勿論だよ。2人共、これから宜しくね。」
「「こちらこそ宜しくお願いします!」」
笑顔で差し出す凛の両の手をエルマとイルマはガシッと握り、こちらも笑顔で応えた。
「ふぉっ、ふぉふぁっふぁふぁーー!」
凛、エルマ、イルマによる暖かい、良い雰囲気が場を包む中。
彼らに聞こえて来るは何とも間の抜けた声。
「「「ん?」」」
「ん?(もっきゅもっきゅ)」
「(もっもっもっ)」
気になった3人がそちらを見やれば、惚けながらも両頬いっぱいに食べ物(主に鶏の唐揚げ)を詰め込んだ火燐。
同じく親の仇みたいな顔付きでカットフルーツを食べ進める雫が視界に映り、堪らずエルマとイルマが「ぶっ!」と吹き出す。
「火燐、雫。2人共がっつき過ぎじゃあ…。」
「それは仕方ないよマスター。」
「そうそう。こんなに美味しい食べ物があるんだって、あたし達も今知った位だしねー。」
「サンドイッチ、美味しいです…。」
凛が苦言を呈するも、逆に美羽と翡翠から説得され、サンドイッチを堪能する楓に「あー」と納得。
「そう言えばそうだっけ。まぁ、良いか。エルマ、イルマ。僕達も食べよ。」
「「うん!」」
凛は案内がてら美羽の横へ座り、反対側にエルマ達が腰掛ける。
それを合図に2人も食事を開始し、共に料理の美味しさから破顔。
エビフライが気に入ったエルマは、両手にフォークを持った状態で集中的に食べ進める。
イルマはそんなエルマを窘め、しかしながら左手にはしっかりとフルーツサンドが確保されているとの状況だ。
「…今更なんだけど。僕、降りてからずっと考えてた事があるんだよね。」
突然の凛の独白に、全員が「?」と疑問符を浮かべる。
「いやさ。僕達って、お姉…創造神様から、この世界を任された形になる訳でしょ?」
その言葉に過半数が頷くも、残る美羽や火燐、雫は何を今更的な顔を返す。
「一応試験で合格は貰えたけど、本当なら僕達はもっと色々学ぶべきだったんじゃないかなぁって。美羽や火燐達は生まれてまだ1月しか経っていないし、僕もこっち(の世界)は初心者な訳だしね。」
少しだけ下を向く凛に釣られ、場を静寂が包む。
先程実力不足を痛感した美羽達は押し黙り、ざっくりとしか事情を知らないエルマ達はそうなの?的な感じで。
「正直旅立つのは早かったんじゃないかなーとも思ったけど、そのおかげでエルマやイルマと知り合う事が出来た。」
「「!」」
「かなりギリギリのタイミングで肝を冷やしたけど…無事助けられたし、改めて最初に会ったのが2人で良かったと思ってる。」
エルマとイルマはいきなり凛から水を向けられ、驚いたのも束の間。
凛から出た2人で良かったとの意見に、こんなに凄くて強くて可愛い人が自分達と友達かぁ…との喜びの感情が湧き上がり、もじもじ。
すると今度は、彼女らを見た凛がテレテレ。
リルアースに来て初めての友人が天使と悪魔なのに加え、2人と知己を得られて良かったとの想いから来ている。
ともあれ、エルマ達は照れた凛を見て更にもじもじし、凛も凛でやはりテレテレ。
もじもじ、テレテレ
もじもじ、テレテレ
もじもじ、テレテレ
もじもじ…
「話進めてくんね?」
3人だけの世界に業を煮やした火燐から突っ込みが入り、そこでようやく我に返った凛がこほんと咳払い。
「僕達はこれから先も人々を救い、導く存在にならなければいけない。その為にはまず強くならなきゃだし、危険の察知だったり対応出来る能力を用意する必要がある。
…能力の方は僕でどうにかするとして、まずは目下の事情から。救助と強くなるのを兼ね、これからゴブリンの集落に向かおうと思う。(ナビによると)今はまだ無事だけど、捕らわれてる人が━━━」
「マスター。捕らわれているのって、人じゃないみたいだよ。」
「あれ、そうなんだ?僕はてっきり女の人だとばかり…ナビ、捕らわれていると言うのは一体…?」
説明中に美羽から指摘を受け、不思議に思った凛が少し上を向きながらでの問い。
《はい。どうやらゴブリン族の雌の個体の様です。》
そして得た答えに戸惑いを禁じ得ず、「え…?」と固まってしまうのだった。




