18話 9日目
今回も長めです。
9日目 午前8時前
「はぁ…。」
凛達が住まう家より凡そ1キロ程離れた街、サルーン。
街の中央にある屋敷、その執務室にて、1人の男性が溜め息をついた。
男性の名はガイウス。
歳の頃は40歳半ばだろうか。
鷹を思わせる鋭い目付き、口元にはきっちり手入れされた髭を蓄え、ライトブラウンの色の髪を短く刈り上げた髪型をしている。
ガイウスはここサルーンの領主を務め、現在執務室の奥にある机に着席。
机の上に置かれた、1枚の羊皮紙を厳しい目で睨むとの状況だ。
辺境の街サルーン
そこはアウドニア王国で最も南東に位置する街。
少し東へ進むとダライド帝国。
西に向かえば、商業国家ミョルソドとの国境線にぶつかる場所にある。
北には山脈が広がり、南には大森林たる死滅の森が鎮座。
街から北西・北東・西南西方面へ数十キロ進むと、王国・帝国・商国の都市がそれぞれ存在。
ただそこまで遠くないが元で、南から死滅の森の魔物が。
端にある事が関係し、東の帝国方面からは過去に何回もちょっかいを出される…と言った感じで悪い要因が幾つも重なり、不人気の街扱い。
人口も2000人を切り、街と言うにはギリギリの規模。
屋敷と呼べる建物は、領主の館位。
ド田舎にある辺境の地として、衰退の一途を辿る。
そんなサルーンだが、8日前から大騒ぎになっていた。
理由は、外壁から見える位置に立派な屋敷が建ったから。
それも、何の前触れもなく…だ。
アルフォンス達警備からその様な報告を受けたガイウスは、死滅の森。
及び件の屋敷周辺にいる魔物にも、何らかの変化が生じるのではと危険視。
そこから昨日に至るまでの間、見張りを強化するのは当然として。
冒険者ギルドと連携し、即座に対応出来るよう待機。
及び道具類を掻き集められるだけ掻き集め、不測の事態に備える等。
戦闘と睡眠時を除けば割とのほほんとした凛達とは裏腹に、かなり物々しい雰囲気が街全体を覆っていた。
しかしそうまでして手の込んだ準備をするも、屋敷や死滅の森に動きらしい動きは特に見せず徒に日々が過ぎるばかり。
痺れを切らせたガイウスがアルフォンス達を派遣。
危険を承知で建物の調査へ向かわせたとの流れに。
尤も、街の外壁から見えていたのは、やや小高い坂道の先にある屋敷の3階部分。しかも裏側だけ。
凛達は2階から下しか使っておらず、日中はほとんどを死滅の森内にて過ごす。
夜になると明かりは点けるも、遮光カーテンを用いているので(裏側から見て)やはり真っ暗。
通行人は少なく、凛達が姿を見せる前か見せた後、若しくはどちらかが引き上げてからになる。
全ては悲しい擦れ違い、情報不足が招いた結果と言えよう。
ともあれ、部下を連れたアルフォンスがサルーンを出発。
4時間程の後に無事帰っては来たのだが、謎の赤い箱を抱えながらでだった。
ガイウスは不思議に思ったものの、まずは顛末を聞いてからだと判断。
そこからアルフォンスに説明を求めるまでは良かったのだが…やれ出されたお菓子が美味しかっただの。
やれ見える範囲、全てに於いて質が高く、紅茶も良い香りで上品な感じがしただの。
やれ主と思われる人物がオーガを従えて現れた挙げ句、美男美女しかいなかっただのと意味不明な報告ばかり。
ガイウスはアルフォンスへ対し、怒りを通り越して呆れ顔になったのは言うまでもない。
そんなこんなで紆余曲折あったものの、ようやく赤い箱の話へ。
中身は2つの球で、深碧色をしたのがフォレストドラゴンの宝玉。
もう片方の無色透明の球は、全て魔力で構成された魔石だと報される。
あまりのインパクトにガイウスは椅子ごと後ろへ引っ繰り返り、心配するアルフォンス達の手を払い除け、軽くふらつきながら起き上がる。
容易には信じられないが、現時点で嘘だと決め付けるには早過ぎる。
どちらにせよ真偽を確かめる必要があるとして、2つの球を鑑定するよう頼んだのが昨日の終わり。
それから一夜明けた現在。
彼の手元には纏められた鑑定結果が。
ガイウスは羊皮紙、続けて机の上に置かれた箱入りの2色の球に視線を移し、再び溜め息をつく。
「宝玉は恐らく本物、偽物である可能性が限りなく低い。魔石は高純度の魔力で出来ており、どちらも相場は不明…か。」
宝玉とは、端的に語ればレアドロップ品。
それなりに長く生きた龍の心臓部分横にある部位で、魔法を増幅し、魔力の流れを円滑するとの効果が。
勿論そのまま使用した方が得られる恩恵は大きいのだが、並の者だと手に余るどころか勿体ないまである。
なので適当な大きさに砕く。
又は形を整えた後、魔法使いが使用する杖の先端に嵌められたり、剣の装飾品の一部として埋め込まれる等。
戦闘を補助する媒体として使われる事がほとんど。
しかし長く生きたからと言って必ずある訳ではなく、折角討伐したのに宝玉を得られなかった場合の方が圧倒的に多い。
今回はたまたま。
それもあっさりと1体目のフォレストドラゴンから入手出来たものの、出ない時は百体以上倒しても全く出なかったりする。(逆に、今までの経験を元にしっかりとした戦闘を行っていれば、短時間で凛に倒される事はなかったとも)
その為、滅多に市場へは出回らず、出ても白金貨や白金板は下らない貴重なもの。
莫大な資産へ変わる金の卵にもなれば、(狙われるとの意味で)破滅へ一直線との可能性もあるフォレストドラゴンの宝玉━━━因みに、情報は既に取得済み━━━だが、凛は単純に珍しいものとして。
一緒に入れた魔石は凛が自身の純粋な魔力のみで創り上げ、何らかの用途として役立てて欲しい…みたいな感覚でそれぞれガイウスに贈っていた。
それと魔物からも、宝玉と同じく心臓部分横の位置で魔石と呼ばれるものが採取出来る。
ただしこちらは球状ではなく、種類によっては楕円だったり三角。
一風変わったものだと星型だったりハート型なんてのも。
その魔石が(水を出したり光を照らす等の)魔導具の燃料となるのだが、採取出来る魔物は基本銀級から上且つ10体に1体位の頻度。
見付けたらラッキー的な感覚だ。
凛はその点はナビ越しに知ってはいたものの、魔導具そのものが高価。
貴族や豪商、高位の冒険者以外はあまり必要視されないまでは気付いていなかったりする。
「全く、とんでもないものを贈ってくれたものだ。これが偽物であれば、苛立ちこそすれどれだけ気が楽だったか…。」
ドラゴンに宝玉が存在する事自体は把握済みではあったが、あくまで情報のみ。
それも若かりし頃に見た、百年以上前の文献での話だ。
実際に目の当たりにしたのは無論初めてだし、とてもではないがポンッと気軽に渡して良いものでもない。
ガイウスは頭を抱えたくなるのをどうにか抑え、精神を落ち着ける目的で瞼を閉じ、深呼吸。
数回繰り返し、幾分か冷静になった事で何かに気付いたのだろう。
はっとした表情を浮かべ、すぐに考える素振りを見せる。
「…いや待て?ここは反対に、フォレストドラゴンを倒せるだけの強者と繋がりが持てる好機だと捉えれば…ふむ、ならば行動は早いに越した事はないか。おい、誰か。」
「はっ。」
「アルフォンスに、至急ここへ来るよう伝えてくれ。」
「分かりました。」
扉の向こうにいた男性へ指示を飛ばし、力が抜けたのだろう。
ふーと息を漏らし、深く椅子に腰掛ける。
その頃、凛達はと言うと。
死滅の森へ向かう為の身支度を、銘々が自室で整えているところだった。
昨晩、凛は美羽、火燐、雫、翡翠、楓、紅葉、暁の7人に、新たな武器と服を下賜。
それらは各自が出した希望や要望を元に、或いは凛の判断に委ねるとの形で用意したものだ。
美羽達は貰ったばかりの衣装を自慢したり、試着した姿を見せ、互いに喜び合う。
それは今も変わらず、朝食後に自室へ向かう足取りも実に軽やか。
そんな美羽達を、エルマ達や旭達が羨ましそうに見ていた。
彼女ら、彼らは美羽達の後ろを歩く事が多い。
凛が武器等を与えている時もこっそりと、自慢や自室に戻ってから着替えた際も割と近くにいたり。
楽しそうに前を歩く美羽達を目標に、エルマ達は自分も近い内に貰えるよう頑張らねば…と密かに闘志を燃やしていた。
5分後
美羽は新たな2振りの剣━━━白と黒の双剣に、同じ色を基調としたリボン、シャツ、ミニスカートを装着。
それとお気に入りの黒いニーソックスに身を包んでいた。
そして部屋に設けられた姿見越しに、おかしい箇所がないかをチェック。
「ふふっ、今日から宜しくね♪ブラン、ノアールっ♪」
確認を終え、笑顔を浮かべた彼女はクルッとその場で1回転。
左右の腰に差した双剣の鞘をポンポンと撫でる。
火燐はワインレッドのシャツ、黒いパンツ姿なのは変わらず。
彼女のお気に入りのスタイルであり、単純に性能アップだけを求められた形だ。
「…オレは凛を、そして皆を守れる位に強くならなきゃいけねぇ。だから…お前も応えてくれよ?ルージュぅ。」
そして赤い刀身の大剣を黒い鞘から抜く等し、静かにやる気を漲らせていた。
雫は何故そうなったのかは分からないが、セーラー服が良いと申し出た。
なので凛は赤いリボンが付いたセーラー服一式に加え、薄水色でフェルトの様にふわっとしたベレー帽を彼女に進呈。
それらを着用した雫が、両手で青い長杖を持ち上げる。
「ん。ブルー…一緒に頑張る!」
ふんす、と鼻息1つ。
相変わらずのジト目無表情ながら、こちらもやる気に。
翡翠は白い服に黒のジャケット。
若葉色のミニスカートに、黒いニーソックス姿だ。
加えて、何やらご機嫌らしく鼻歌交じりに着替えていた。
「んっふふー、ヴェールー♪これからたっっくさん活躍の場を用意するから楽しみにしててねーーー♪」
左目を閉じ、左手で持った緑色の弓を顔の近くへ運んだ後、バーーンと右手で軽く射る仕草を取る。
楓は白い長袖のシャツに薄茶色の上着。
ややミニの赤いフレアスカートに黒いタイツに加え、(こちらは毛糸だが)雫の色違いとも言える白いベレー帽を着衣。
「少しでも皆さんのお役に立てる様に頑張りましょうね…?マロンちゃん…。」
茶色い枝の様な形をした杖を両手で掲げた彼女は、犬や人形と話すみたいに優しく語りかける。
黒地に紅葉の刺繍が施された和服を纏い、肩の上に桃色の羽織を乗せる紅葉。
腰に巻いた金色の帯には、鮮緑色と樺色の鉄扇が閉じた状態で刺さっている。
鮮緑色の鉄扇を颯、樺色の鉄扇を圷と言い、どちらも風と土属性に特化した魔力媒体を使用。
魔力媒体は、フォレストドラゴンの宝玉から得た情報を元に創られている。
「凛様から頂いた期待に応えなければ…颯、圷。私に力を。」
紅葉は目を閉じ、まるで2本の鉄扇に祈りでも捧げるかの如く右手を添える。
白い羽織付きの赤地の和服を着た暁が、刀身だけでも120センチ程はある大太刀を左手で所持。
「不動…揺るぎない信念、か…凛様、貴方様から頂いた想い。この暁、決して無駄にせぬとここに誓わせて頂きます。」
やがて、顔の前に大太刀を移動。
紅葉と同様、目を閉じ、不動越しに自らを律していた。
凛は白いシャツに黒いジャケット、黒いパンツ姿となり、最後に玄冬と名付けた刀を左手で持つ。
「…ん。魔力を糸みたいに細く伸ばした生地を元に服を用意してみたけど…案外悪くないかも。それじゃ、行くとしますか。」
そして姿見で確認を済ませ、軽く気合いを入れた表情で部屋を後にする。
因みに、凛の口から出た『魔力を糸みたいに』と言うのは、魔力を極細繊維にまで細く伸ばしたもの。
『魔力糸』と名付けたそれを凛が頭の中でイメージし、ナビが無限収納内で編んで完成。
こう見えて、防弾ベストの数倍の防御力を誇る。
それと凛、美羽、火燐、雫、翡翠、楓の武器に関しては(里香から託された)ヒヒイロカネを使用。
残念ながら紅葉と暁の分までは行き渡らず、2人だけ武具創造スキルを用いる形となったものの、なるべく早く彼女らにも渡そうと決意する。
「しかし今朝は驚いたな。美羽から何故か怒られる羽目にもなったし。」
起床時、いつの間に潜ったのか右腕に美羽が、胴体の左側部分に雫が抱き着いていた。
しかも雫に至っては、うにゅう…と涎を垂らしそうな顔で寝ており、どうしたものかと思いながら入口の方を見やれば、そこには紅葉の姿が。
ドアの隙間からハイライトの消えた瞳が覗く様は、ある種ホラー。
凛は驚きのあまりつい声を上げてしまい、それにビックリした美羽と雫が目を覚ます。
しかし何事もなかったの如く再び寝ようとする雫に、3人して突っ込みを入れたのは記憶に新しい。
当時を思い出し、1人ふふっと思い出し笑いをする。
それから1時間が経った午前9時頃
1行は死滅の森の中を散策。
凛から新装備を賜った者達は使い勝手の良さ、動きやすさにニッコリ。
それに比例して魔物の討伐数も以前の倍以上に増え、エルマ達や旭達の負担軽減へ繋がってこちらもニッコリ。
また活躍して自分達にもとの思いから、今まで以上に連携を密に。
結果多くの魔物を屠り、比例して沢山の魔素を得るとの好循環へ。
そして今も、エルマとイルマが手を取り合いながら喜ぶ一方。
そのすぐ近くで暁が一太刀でバトルマンティスを切断。
首を斬られたバトルマンティスは小さく断末魔を上げ、ゆっくりと地面に倒れていった。
暁は刀身に付いた血を地面へ振り払い、不動を納刀。
そのタイミングで凛に見られているのか分かり、斜め前にいる彼の方を向く。
凛は今の姿の暁を気に入っており、1つの理想像として認識。
妖鬼に進化してすぐ…それこそ昨日だけでも何回か彼の元を訪れ、その度に暁は嬉しいやら恐縮すると言った感じで応えていた。(その様子を旭がにやにやとした目付きで見、後でしっかりと拳骨を貰っていたが)
日付が変わった今日もそれは変わらず、凛は落ち着いた様子の暁に納得。
首肯を交えながら彼に話し掛ける。
「うん。不動の扱いにも結構慣れたみたいだね。」
「はい。凛様から頂いた助言のおかげです…と同時に、まだまだ遠く及ばないのも理解しました。」
「この世界に来る前から何となくは分かってたし、こっちに来てからはずっと訓練を続けてるからね。流石に慣れた…と言いたいところなんだけど、僕も師匠に勝てる気は全くしなかったり。」
「え…。(凛様がこうもあっさりとお認めになられるとは…一体、凛様のお師匠様はどれ程の御方なのだろうか?)」
暁は凛の衝撃発言に呆けそうになるものの、次の言葉で否が応でも現実へと引き戻される。
「…ん?屋敷に誰か近付いてる?」
「…!」
凛は探索の合間合間にサーチを使用。
強い魔物や大きな群れ等の危険がないか、具にチェックしていた。
今しがた、屋敷の周りに数体の魔物がいるのとは別に。
誰かがサルーン方面から、それも結構な速度で移動している事が判明。
「…!」
「この方角は…サルーンか。となると、アルフォンスさんかな?」
大凡の見当を付けた凛は、昨晩開発した使用後に消滅するタイプのポータルをその場に設置。
「皆ー、森の探索は中止!屋敷に戻るよー!」
『はーい!』
そう促すと真っ先に美羽が突っ切り、火燐達も次々と通り抜け、最後に殿役の凛が潜る。
それを合図にポータルは役目を終え、小さな粒子となって消滅した。
屋敷の敷地内へ移動後、「おぉー、帰って来たー」とちょっぴり感動する一同。
苦笑いを浮かべた凛が、1人門を出たタイミングでアルフォンスと遭遇。
サルーン側からだと屋敷の正面へ向かうには回り込む必要があり、お互いが顔を覗かせた形だ。
アルフォンスは前回と異なる部下が2名。
それと馬車や牽引する為と思われる、馬2頭と一緒だった。
「お、おぉ…凛殿!わざわざ出迎えありがとうございます。」
まさか出迎えて貰えると思っていなかったのだろう。
やや大仰気味にアルフォンスが驚き、それでもやはり嬉しいのか自然と口角が上がる。
「いえいえ。今日はどうされました?」
「それがですね、街長…領主から凛殿を迎えに行けと遣いに出されまして…。」
「あらら…それは災難でしたね。」
「本当ですよ…。」
本来であれば、アルフォンスは本日非番。
妻と過ごす予定が、突然の呼び出しによりパーになってしまった。
凛からの慰めはありがたいが、こうも良い様に使われては納得いかないと言うもの。
口にこそしなかったものの、その顔には不満が有り有りと映っていた。
「ですので申し訳ありませんが、私達とご同行願えないでしょうか?」
それと、どうやら昨日のやり取りが功を奏し、心の距離は大分近いものとなった様だ。
アルフォンスはやや申し訳なさそうにするも、どこか柔らかい印象であるのが見て取れた。
「分かりました。昨日の話についてですね?」
「恐らくは。ですが私が見る限り、長は箱を大事にしている様子でしたし、意外とすんなり許可が下りるかも知れません。それと昨日のクッキーですが、嫁に渡したところ大変喜ばれました。貴重なものをありがとうございます。」
そう言って、アルフォンスは深々と頭を下げる。
サルーンにも一応クッキーと呼ばれるものはあるものの、材料はほぼ小麦粉と水のみ。
砂糖は非常に高く、入れたくても中々入れられないのが実状だ。
故に、甘さをほとんど感じる事が出来ず、舌を通じて分かるのは素材の味のみ。
食感も、ボソボソとするか硬いかのどちらかだったりする。
水と小麦粉以外の原材料である牛乳やバター等の乳製品、それに卵も砂糖と同様、この世界では貴重。
しかも(砂糖を含め)取引は大都市や王都で行われる傾向にあり、街や村にまでは滅多に行き渡らない。
そんな高級品の数々を。
しかもふんだんに使ったクッキーを、追加のお土産としてまで渡した凛に物凄く感謝していた。
それこそ、アルフォンスと一緒に来た部下2人が同僚へ自慢し、奪い合いの喧嘩にまで発展する位には。(部下2人の顔ぶれが昨日と異なるのはそれが原因)
話は戻り、凛はアルフォンスを宥めつつ、話の続きを促す。
「喜んで頂けて何よりです。えぇっと、向かうのは勿論構わないのですが、馬車は何人乗りになりますか?それと、僕達は違う服に着替えた方が良いのでしょうか?」
「3人ですね。なので、凛殿とは別に2人…と言う事になります。」
「成程。」
「それと服装についてですが、長は元冒険者でして。本人も堅苦しいのは嫌だとよく仰ってますし、特に申し付け等はありませんでした。以上の観点から、私としましてはこのままでも宜しいのではないかと。」
「分かりました。」
あれ?昨日と格好が違いません?何なら自分らの鎧よりも遥かに高そうに見えるんですけど…との思惑を抱かれたのはさて置き。
最低限聞きたい事を終え、納得の意を示した凛は、視線をアルフォンスから美羽達へ。
「…それじゃ、誰が一緒に行く?」
「勿論オレが…と名乗りを上げたいところだが、それは皆同じ想いだろう。」
火燐の意見に、旭、月夜、小夜以外の全員が当然とばかりに頷く。
最近…それこそ先日、身を削られる想いを彼女達はしたばかり。
凛だから大丈夫、との考えは間違いだったと思い知らされたのが未だ強く根付いているのだろう。
「だから、ここは舐められない為にも、強い順で行くってのが妥当じゃねえかとオレは思う。」
「と言う事はー、ボクとー!」
美羽が勢い良く右手を挙げ、
「私ですね。」
両手を軽く前に組んだ紅葉がスッと前に出た。
「…特に反対意見はないみたいだし、美羽と紅葉で決まりかな?」
凛は「他に何か?」と見回すも、皆口を閉ざしたまま。
敢えて例えるなら、火燐と翡翠が仕方ないかぁと言いたそうな仕草を。
唯一の男性と言って良い暁が苦々しい顔をした位で、残りの面々は同意とばかりに首肯。
「迷う事なくすぐに立候補なさるとは…お2人共大変お美しいだけでなく、とてもお強いのですね。」
これに感心したのはサルーンの面々。
凛、美羽、紅葉以外にも綺麗所が。
更に言えば翼(若しくは羽)の生えた天使と悪魔、唯一のイケメン男性こと暁の存在も勿論気にはなるものの、それらを差し引いて見た目トップの3人がそのまま強さでも上位を占めた事に驚いたのかも知れない。
「ええ、まあ。美羽様と私は、共に黒鉄級を超えておりますし…それでも凛様へは遠く及びませんが。」
「紅葉ちゃん。今の『鬼姫』に進化してから、更に可愛くなったもんね。」
「も、もう、美羽様…誂わないで下さい。そ、それでは、私は先に馬車へ向かわせて頂きます…!」
「あ、紅葉ちゃん!待ってー!」
衆目を浴びたのが悪かったのだろうか。
恥ずかしさを隠す様にして紅葉が足早に馬車へ向かい、その後ろを美羽が慌てて追い掛ける。
因みに、紅葉は黒鉄級だと申したが、実際は鬼姫へ進化した事で黒鉄級上位に。
見た目が更に良くなっただけでなく、『降霊術』なるスキルを取得。
その彼女より上である美羽は、まだまだ進化の兆候は見られないものの既に神輝金級の強さだったりする。
「え…どちらも黒鉄級以上…?となると、フォレストドラゴンを倒したのはもしや…。」
ただパッと見、3人が3人して戦闘とは全く無縁そうな風貌。
凛は少々幼いが男装をした麗人、美羽は如何にもお姫様、紅葉はやんごとなき身分…みたいな感じだろうか。
強くなる目的で死滅の森へと宣う位なのだから、足繁く通っているのは想像に難くない。
だから良くて(鬼人が魔銀級なので)相応の腕前だと思いきや、世界中で鑑みても絶対数が少ない黒鉄級と来た。
しかも紅葉の口振りからして、凛は今となっては伝説の存在である神輝金級の可能性が。
その凛に視線を向けてみれば、彼女は火燐達と談笑中。
何やら美羽に促され、はいはいと言いながら苦笑いで足を動かす始末。
(軽い視察のつもりが、もしや途轍もない御方と知己を得たのでは…?もしや長はこれを見越して…?)
重ねて言うが、外見上は信じられない程に整った美女・美少女(ついでに暁も加えれば美男)の集まり。
にも関わらず、実際は自分どころかそんじょそこらではまずお目に掛かれない程の実力者集団であると分かった。
分かってしまった。
未だ外見や玄関、客間しか確認していないが、冷静に考えればあんなレベルの屋敷が短時間で建つのは明らかにおかしい。
フォレストドラゴンの宝玉のインパクトに意識が持っていかれたものの、彼女らはそのドラゴンですら圧倒出来るだけの強さを持っている事になる。
五体満足どころか、見た感じ傷1つ負っていないのがその証左。
宝玉であの大きさなのだ、本体も相応のものになるはず。
鱗、皮、骨、血…ドラゴンに捨てる場所はないと言われているが、まさか処分したのだろうか?
他にも気になるのが死滅の森だ。
かの森を狩り場とするならば、フォレストドラゴン以外の魔物も相手にしたはず。
それら(の死体)は一体どこへ?
その場に放置?
実は自分達が知らないだけで、屋敷内に保管する場所があったとか?
それとも近隣へ売りに?
しかしそれだと騒ぎにならないはずがない…等々。
一度考え出したら止め処なく疑問が生まれ、急に恐ろしくなったアルフォンスはぶわっと大量の汗を掻く。
「アルフォンスさーん!早く行かないと長さんに怒られますよーーー!」
そこへ、馬車の中から顔を出す形で凛が声を掛ける。
「…!あ、はい!すぐに向かいます!」
我に返ったアルフォンスは急いで馬車へ走り寄り、凛達と共にサルーンの街へと戻る。
(凛殿達は大丈夫。私にですらこれだけ気を回して下さるのだ、長に…いや、街にとって益となるに違いない。)
そう、半ば自分へ言い聞かせる様に考えながら。
小高い丘の向こうに消えるまで凛達は手を振り続け、火燐達もそれに応える。
「さ、て…そんじゃ、オレ達はオレ達でやれる事をしますかね。」
「ん。」
「そだね。」
「頑張りましょう…!」
凛達が見えなくなったのを機に火燐が呟き、彼女の言葉に雫達が同調。
ちらほらと現れ、日を追う毎に増えていく見物人をいないものとし、火燐達指導の元。
残ったメンバーによる訓練が、屋敷近く(門の内側)で開始。
途中、短時間しか探索が出来なかったが原因で物足りない感がある火燐も「おりゃぁぁ!」と素振りをし、勢い余って大剣から(少しではあるが)炎が噴出。
「…あ、やべ」と本人が漏らし、周りから目を丸くだったり呆れ顔を向けられる…なんて場面も。
その後、2〜3分程馬車に揺られた凛達は、サルーンへと到着。
入口にある門の前には、受付待ち状態の者が何名か並んでおり、しかし警備隊長ことアルフォンスの顔パスですんなり通る事が出来た。
街の中も変わらず進行。
道中、凛達が乗る馬車に注目が集まるのだが、外からだと馬車内部は見えない仕様に。
その場に居合わせた者達は、やや残念そうな顔で馬車を見送るしかなかった。
ややあって、街の長が住んでいるとされる屋敷にまで辿り着いた1行。
ここでも先程と同様、アルフォンスの顔パスで。
敷地内で凛達は馬車から降り、アルフォンスが前。
部下2名が後ろに控える形で1行は歩き始める。
屋敷に入ってすぐ。
アルフォンスは到着した旨を報告すると離れ、代わりに2人いる警備の内の1人が案内役に。
そこでクラシックタイプの服に身を包んだメイドと遭遇。
丁寧な所作で頭を下げられた。
凛は会釈を返しつつ、内心で「瑠璃も良いけど、メイドさんと言ったらこれだよね」と感心。
そのまま3人は応接室に案内され、10分程の後に届けられるノック音。
それに凛が返事すると即座にドアが開き、ガイウスが前。
アルフォンスが後ろと言う形で姿を見せる。
「お待たせして申し訳ない。私がサルーンの長ガイウスだ。本日は宜しく頼む。」
椅子に座る凛達へガイウスは歩み寄り、左から美羽、凛、紅葉の順で一望。
最後に真っ直ぐ凛を見据え、その様に言い放った。
テーブルを挟む形で、凛達が座るソファーの向かい側に腰掛けるガイウス。
アルフォンスと部下1名が彼の後ろに控え、メイドを呼んで紅茶の準備をするよう指示。
(アルフォンスからの報告によれば、3人共黒鉄級以上の強さを持つ…だったか。そんな風には全く見えんが、俺を前にしても臆する様子はなかった。
例え女でも、強い者は強いとの表れなのだろうな。さて…。)
凛に焦点を定めたものの、どう話を切り出そうかと決め倦ねるガイウス。
その間にも状況は動いて回り、メイドが各人の前にソーサーを置き、その上にカップが…と言った感じでお茶の準備が進められていく。
「…まず始める前に。」
「…!」
目の前にいる人物が、何か伝えたそうにソワソワ。
それを、こちらに気を遣っているとでも思ったのだろう。
凛の方から口火を切った。
「隣に座る2人…美羽と紅葉は女性ですが、僕はこう見えて一応男だと言う事を先にお伝えしておきます。」
『…!?』
凛の発言で部屋全体に激震が走り、ガイウスだけでなくアルフォンスや部下達。
そしてメイドまでもが大きく目を見開く。
ただ、今はガイウスのカップに紅茶が淹れられている真っ最中。
誰がどう見ても美少女。
しかも3人の中で1番だと思った人物が実は男だったのがショックなのは分かるが、あまりにもタイミングが悪い。
そう時間が経たずしてカップから紅茶が溢れ、尚も注がれ続けたせいか最終的にガイウスの左太ももへと到達。
「…!熱!?」
テーブルの上を伝ったおかげである程度緩和されたものの、それでも熱い事に変わりはない。
ガイウスはかなり驚いた様子で椅子から飛び退き、ハッとなったメイドが「も、申し訳ありません!」と謝罪の後、慌てて彼の太ももを拭き始める。
「馬…。」
これにガイウスは「馬鹿者!」と叱責しそうになるも、我を忘れていたのはこちらも同じ。
すぐに自分も人の事は言えないとの考えに至る。
「いや…大丈夫だ。」
軽く体を震わせて怒りを鎮め、複雑な様相でメイドが持つナプキンを奪い取り、自らの太ももを拭く。
程なくして、メイド数人掛かりで零したお茶の掃除へと移行。
凛は話を切り出すタイミングを間違えたかなと反省しつつも、ひとまず話を進める事に。
「では改めまして…凛と申します。今回、僕が呼ばれた理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
凛の行動は進行上已むを得ない部分はあるものの、今ではなくとも良かった。
故にサルーン側から「(この状況で話を続けるのかとの意味で)メンタル強いな」と思われてしまう。
同時に、既に軽く疲れたとも。
「…部下から、貴殿らが死滅の森付近に建物を立て、そこに住んでいるとの報告を受けた…相違ないか?」
「はい、その通りです。以前過ごしていた場所が手狭になり、勝手ながらあの場所に新しい家を建てさせて頂きました。なので、出来ましたら住み続ける為の許可を頂ければと。」
凛の言葉を受け、ヒリヒリする痛みを我慢しつつ新たに用意された椅子へ座り直すガイウス。
そしてどこかの総司令みたく顔の前で手を組む構えを取り、嘘偽りは許さないとばかりに険しい目付きに。
「…単刀直入に聞こう。斯様な場所に家を建てた目的は何だ?単に周辺の景色が気に入っただけ…と言う訳ではあるまい。」
「僕が高い木を気に入っているのは本当の話です…が、1番の目的は強くなる為です。勿論、僕だけでなく皆で。少しでも早く…となれば、死滅の森以上に相応しい場所はないと思いまして。」
「…確かに。その話が本当ならば、これ以上ない答えではあるな。無論、正気かどうか別として…だが。」
「納得して頂けた様で何よりです…話は変わりますが、ガイウスさんは『姫』と呼ばれるゴブリンをご存知でしょうか?」
「(初対面でいきなりさん付けで呼ばれるとはな…ドラゴンの件と言い、先程の件と言い、見た目に反して少々肝が太過ぎやしないか?まぁ、それ位でないと代表は務まらぬやも知れぬな。)…噂は聞いた事がある。商国の入口にある、温厚なゴブリン達が住む集落で、数年前に生まれた存在…だったか。その『姫』と、貴殿らが家に住むのと何の関係がある?」
軽く苛立った風な口調にも聞こえるが、実は逆。
臆する気配は見られず、むしろ真っ直ぐ意見を述べる凛へガイウスは密かに好感を持つまでに。
そんなガイウスの内面を知ってか知らずか、凛は話を続ける。
「10日程前の話になるのですが、とあるゴブリンキングが『姫』を自分の所有物にする。その様な理由で集落は壊滅させられました。」
「…何?」
「僕達はその集落の中に生き残りがいるのが分かり、保護する事にしました。」
「ちょっと待ってくれ、聞きたいのだが━━━」
「まぁまぁ、一先ず落ち着いて下さい。話は終わってからでも宜しいかと。」
「ぐぬぅ…。」
いきり立つガイウスを両手で制した後、凛は左隣へアイコンタクト。
目が合った紅葉は真面目な様子で頷き、右手を自身の胸に当てる。
「…ここからは私が。『姫』と呼ばれていた者とは私の事でございます。」
『…!?』
これに目を見開いたのはサルーンの面々。
眼前にいる少女とも大人とも取れる傾国級の美女=ゴブリンとの図式が、とてもではないが成り立たなかったからだ。
何をどうすれば醜悪極まりないゴブリンがここまでの美貌を得たのか、その考えで頭がいっぱいになった瞬間でもある。
「凛様に保護して頂いた際に紅葉の名を賜り、私はゴブリンから妖鬼へと進化致しました。それから更に経験を積み、今は鬼姫に至る事が出来たのでございます。」
「妖鬼や鬼姫と言うのは、どちらも鬼人族に存在する1つの名称になります。例えるなら、騎士とか王女みたいな感じですかね?」
鬼姫は非常に稀な個体で、今の時代だと紅葉以外に存在しない。
それと同じ鬼人族でも、戦闘や暴力を振るう事を好む者は妖鬼ではなく『悪鬼』方面へと進むのだが、凛は敢えてその部分を説明せずに話を進める。
「そしてそのゴブリンキングに『姫』の情報を与え、集落へ向かうよう唆したのがグレーターゴブリンになります。」
「…グレーターゴブリン?聞かぬ名だな。ホブゴブリンとは違うのか?」
逸早く思考の坩堝から脱したのはガイウス。
動揺こそしたものの、元冒険者の肩書きは伊達ではないと言ったところだろうか。
「グレーターゴブリンはホブゴブリンを進化させたものになります。見た目はゴブリンとそう変わらないですし、ほとんどがゴブリンキングやオーガへ向かうので、あまり知られていないのかも知れませんね。」
「そうか…。」
ゴブリンがゴブリンキングだけでなくオーガにもなる。
周囲が気持ち騒いだ気がしなくもないが、ガイウスはゴブリンの生態に興味がなく、正直話の内容的にどうでも良いとすら思っている。
それでも一々話の腰を折っては進まないとして、促す意味も込めて返事だけは返した。
「私はゴブリンキングに捕らわれ、凛様方がいらっしゃるまでの間、檻の中での生活を余儀なくされました。その際、グレーターゴブリンが『自分はゴブリンキングの配下であると同時に、死滅の森に集落を構えるオーガ達とも通じている』と仰ったのです。」
「オーガ…?もしや、度々報告に上がるのと━━━」
「恐らく同じ個体かと。僕達が保護したゴブリンは全部で5名。その内、こちらの紅葉みたく鬼人と呼べるまでに成長したのは、彼女ともう1人だけ。
他の3名は現在オーガにまで成長を済ませ、早ければ今日か明日には妖鬼へ進化する予定です。なので、早ければ明後日以降にでもこちらから(サルーンに)接触しようかと話を推し進めているところでした。」
「…進化と言うのはまだよく分からぬが、ゴブリンが鬼人族になれるのには驚いた。」
ガイウスはそれまでの何とも言えない表情から、ふと思い出した様子へと変わる。
「…ん?ゴブリンから鬼人?…つまり、俺達人間と会話をさせる為にわざわざ今の姿を取らせたと言う訳か。」
「はい。仰る通り、同じ話をするにしても、ゴブリンやオーガの様な魔物ではなく、人に近い姿なら聞いて貰えるのではと判断。実行している最中でした。ですがその前に、ガイウスさんの方から声を掛けて下さったので、僕としては助かったのが本音です。」
「助かった…と言うのは?」
「元魔物との但し書きは付きますが、一応紅葉はこの世界の住人と呼べるでしょう。ですが、僕とこちらの美羽は違います。こことは違う世界から来ました。」
凛は説明の最後に右手で美羽を指し示し、美羽が頭を下げる。
「違う世界?」
「はい。ですので、この世界にある街の暮らしを実際に見てみたかった…と言うのが、1つ目の目的になります。」
「…2人がこの世界の住人ではない、か。俄には信じられんな。」
ガイウスは腕を組み、訝しんだ表情に。
凛に美羽、確かにどちらも人間離れした美貌の持ち主なのは認めるが、それはそれ。
しかしここで嘘を言うメリットはないに等しい。話を盛る必要がないとも。
自ら歩み寄りたいと話しておきながら、不義理を働く意味も理由もないからだ。
混迷を極めるガイウスとは反対に、凛は想定通りとでも告げたいのか、軽い笑みを浮かべる。
「ふふ…失礼。そう仰ると思い、この様なものをご用意しました。」
凛は右手を正面斜め上方向へやる形で無限収納内を探り、袋に入った状態のクッキーを取り出す。
そのクッキーは、昨日アルフォンス達に振る舞い、帰る間際に渡したのと同一もの。
透明な袋の中に、200グラム位の量が収められている。
凛はサルーンの面々が驚くのを一切気に掛けず、クッキーが入った袋をテーブルの上に置いた。
「(今のは空間収納か?)…それは?」
「こちらはクッキーです。先日、そちらのアルフォンスさんに渡したのと同じ物になります。」
「渡した…?アルフォンス、私はその様な報告は受けていないのだが?」
凛が語る内容の真偽はどうあれ、不作為であるのは事実。
ガイウスは斜め後ろを振り返ると同時に睨み付け、それを誤魔化す様にしてアルフォンスが明後日の方を向く。
その行為はしばらく続けられ、やがて諦めたガイウスが嘆息。
凛の方向へ視線を戻した。
「…私も昔王都でクッキーを食べた経験はあるが、それでもここまで綺麗な見た目はしていなかったな。」
「こちらは僕の世界だと安くで…それこそ一般の人々が気軽に買える位にありふれたものとなります。」
「何と…!これ程のものがか!」
「はい。他にも出そうと思えば色々出せるのですが、それはまたの機会と言う事で。それより、僕としてはもう1つの目的の方が重要だと思っています。」
「…その、重要な目的とは?」
「どうやら死滅の森に異変が起きているみたいです。今後…いえそう時間を置かずして、森に近い街や村等に。下手をするとその先にまで死滅の森の魔物が襲って来る可能性があります。」
「バカなっ!!」
ガイウスが思わずと言った感じでバンッと机を叩き、勢いそのままに椅子から立ち上がる。
「ガイウスさん。焦る気持ちは重々承知しているつもりです。ですが、今は落ち着いて僕の話を聞いて下さい。」
「貴殿も、多少なりとも死滅の森に携わったのであれば分かるはずだ!彼の地は魔物が際限なく湧いて出る場所なのだとな!それらが近い内に街へ向かう…だと?落ち着ける訳がないだろう!!」
「僕も昨日分かった━━━」
凛は必死な形相を浮かべたガイウスを宥めつつ、更なる説明を加えようとする。
「大変です!!」
そこへ、叫び声と同時に応接室の扉が開かれた。
勢いそのままに、警備と思われる男性が室内へと入って来る。
「何事だ!?今は大事な話の最中なのが分からんか!!」
凛から齎された情報だけでもお腹いっぱいなのに、これ以上面倒事を増やすなとの思いが出てしまったのだろう。
声を荒げ、思いっ切り威圧するガイウスに男性がたじろいだ。
それでも男性は与えられた職務を全うするしかなく、意を決した表情で報告を行う。
「も、申し訳ありません!ですがワイバーンが!ワイバーンの群れが街に向かって来ております!!」
その言葉に、怒鳴ったガイウスは勿論。
室内にいる全員の動きが止まり、固まってしまうのだった。
凛「長さん」
雫「次いってみよー」
凛「それはちょうさん。僕のはおささん…って何やらせるの。と言うかどこからそのネタを。」
雫「内緒」
親と一緒にDVDを観たので凛は知ってるとの設定で。
雫は…謎ですね(笑)
美羽の衣装ですが、『を』から始まる方の世界の終わり的なデュエット曲っぽい感じだと思って頂ければ。
それと魔力糸について。
ニュアンス的にマジックストリングとしたかったのですが、ストリングはどちらかと言えば細い糸単体よりも重ねた紐とかの意味合いの方が強そうなのでスレッドにしました。




