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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
王国の街サルーンとの交流

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17話 8日目

8日目 午前7時


凛が建てた屋敷のダイニング、そこに美羽達の姿はあった。

ただ本当にいるだけ。

会話どころか、誰1人として口を開こうとしない。


お通夜みたく、沈み切った空気がダイニング中を漂っていた。


と言うのも、本来であればキッチンで笑いながら調理を行い、出来上がった料理を食す。

感想も兼ね、感動したり喜んだりして楽しい時間を過ごす。


そして今日の予定について話し合い、実際に行動し始める…はずだった。


しかし、この場に皆を引っ張り、最も頼れる存在(リーダー)である凛はいない。

未だ目覚める気配を見せず、自室で眠ったままの状態だからだ。


不安は刻一刻と(つの)り、更に気分を落ち込ませ、場を沈鬱(ちんうつ)とさせた。




昨日、夜の時間になっても凛は自室から出て来ず、静かなまま。

それが美羽達は気掛かりではあったが、翌朝になれば流石に起きるだろうとの期待から早めに就寝するとの運びに。


しかし横になったは良いものの、やはり凛が心配。

彼を除く者達はいずれも数時間。

長くても半日以内には進化を終えているからだ。

それが気掛かり→不安へと繋がって中々寝付けず、眠れたとしても浅いものへ。


やがて時刻は午前4時前に。

美羽が階段を下りたを皮切りに、彼女の足音が聞こえた者が1人、また1人と続き、最終的に全員がリビングへ。

やはり凛は姿を見せず、それから1時間。

2時間、3時間が経った現在でもそれは変わらなかった。


これ以上は待ち切れないと判断した美羽達は、凛の様子を見てみるとの意見で一致。

膳は急げとばかりに一斉に立ち上がり、彼の部屋へ。


そしていざ(昨日は顔を見たと同時に目を閉じられ、内装を見ずに出たので)改めて入ってみれば、室内は壁掛け時計、魔石付きコンテナ、大きめの作業台、そしてベッドとシンプルな装い。

それでもやはり男の人の部屋と言う事で(月夜と小夜以外の)女性陣がドキドキし、凛の得も言われぬ可愛らしい寝顔で更なる追撃が。


火燐は「チクショウ、可愛過ぎんだろ」と真っ赤にしながら顔を背け、エルマ、イルマ、紅葉は「何だかいけない事をしてるみたい(です)…」なんて漏らしつつも満更ではない様子。

残る美羽、雫、翡翠、楓の4人だけが心細そうに彼を見詰める。


ややあって、試しに美羽が呼び掛け、軽く体を突いたりするも凛は起きない。

彼女と代わった火燐が耳元で叫び、激しく揺さぶっても結果は同じ。


美羽達は残念がり、それでも何か良い案がないかを模索。

しかし今はどうしようも出来ないとだけ分かり、後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にする。


それから4時間強が過ぎた正午頃。

丸1日以上を経て、ついに待ち焦がれた瞬間が訪れた。


遠くからバタンと扉が閉まる音から始まり、廊下を歩き、階段を下りる。

その1つ1つの音を美羽達は聞き逃すまいと耳を澄ませ、近付いて来る毎に緊張感が増していく。


やがて見慣れた足、胴体、顔の順で体貌を確認。

そのシルエットへ吸い寄せられる様にして移動を始め、階段を降り切ったところで合流。


美羽が号泣しながら待望の人物━━━凛へ抱き着き、(暁達男性陣を除く)全員が多かれ少なかれ涙した。




凛は半人半神(デミゴッド)から、サクサクルースと言う種族へ進化。

神輝金(オリハルコン)級。

それも上位の強さとなり、『万物適性上昇』とのスキルを得る。


これはあらゆる面での適性が上がるとの効果が。

一見すると性別や種族問わず恩恵がある風に感じられるが、誰にでも得手不得手はあるもの。

短所を補うとのメリットは魅力的ではあるが、美羽の時と同様。

ほぼ2人だけの専用スキルとの意味合いが強い。


加えて、万物創造を始めとした各種スキルの性能が向上。

リンクの幅が少し広くなり、念話の届く距離が延びただけでなくイメージをより伝えやすくなる等の利点も得られた。


それと、現時点に()いて。

まだ凛もナビも気付いていないものの、格がより神へと近付き、それに(ともな)って自分の体の構造を少し弄れる様にも。




合流後、凛は引き続き階段上がり口付近で美羽達と談話。

そこで思い出されるは、現状へ至るまでの経緯(いきさつ)だった。


ナビから自身に関する報告は受けておらず、真っ先に壁掛け時計を確認。

「あれ?そこまで時間が経っていない?」「いえ、どうやらマスターは丸1日以上お休みになられた様です」的なやり取りを元に(驚愕のあまり)その場で軽く跳び上がり、まずは無事を知らせなければとの想いで一直線にここまで来た。


と言うのも、美羽はイェブへ。

火燐達は炎の精等へそれぞれ進化したのだが、名前だけなら向こうの世界で聞き覚えがあったからだ。

自分も()()に連なる種族へ進んだのではと考えた凛は、自室を出た際に地球の情報と照らし合わせるよう、予めナビに頼んでもいた。


《検索の結果、サクサクルースは『アザトースの雌雄同体の落とし子』と呼ばれている、との情報が得られました。》


「雌雄…同……体………。」


結果を聞いた凛が崩れ落ちる。


ナビからサクサクルースに進化したと告げられてから嫌な予感がし、払拭の意味合いも込めつつ調べて貰った結果がコレ()


雌雄同体。

つまり1つの個体に雄と雌の繁殖器官がある事を指す。


それを凛は、自分は性別上男なのに女の見た目をしているからだと解釈。

また蝸牛(かたつむり)蛞蝓(なめくじ)蚯蚓(みみず)にアメフラシに条虫(じょうちゅう)等と同じ分類であるのもショックで、それが追撃となって力が抜けたとの流れに。


注目すべきは、雌雄同体よりもその()にある部分なのだが…。


「マスター!?」


「お、おい!?大丈夫か!?」


ともあれ、良くも悪くも(個人的には悪い意味の方が強いと思っている)斜め上に進化したとして落ち込む凛。

しかし周囲は異なり、実は彼はまだ体調が万全ではない。

自分達へ顔を見せる為に無理をしたんじゃないかとの考えから、美羽と火燐が慌て、雫達もハラハラした様子で彼に寄り添う。




「…僕は半人半神から、サクサクルースって種族に進化した訳なんだけど…。」


近くで心配がる美羽達を他所に、凛は四つん這いのまま口を開く。


唐突な語り出しに美羽が「う、うん?」と応え、火燐達も何か急に語り始めたぞ?とばかりに顔を見合わせる。


「名前自体は有名と言えば有名でね。僕もまさかとの思いが強い。」


「へー、そうなん━━━」


「けどさ、異名を聞いてしまうとちょっとね…。」


「異名?」


「雌雄同体。」


『雌雄同体…?』


「何だそりゃ?」


「簡単に言えば、1つの体に雄と雌の部分を持つ生き物の事…こんな感じでね。」


尚も疑問符を浮かべる美羽達へ、凛は蝸牛を始めとする生物達のイメージをリンク越しに表示。

美羽達は揃って顔を歪め、苦笑いを浮かべる等して嫌悪感を露に。


だがそれは、彼女らがナビとリンクしているからこそ分かると言うもの。

対象外であるエルマとイルマに伝わるはずもなく、揃って首を(かし)げていた。


その視線に逸早(いちはや)く気付いた楓は、近くにあった(凛がメモ用に用意した)紙とペンを使い、手早く描き始める。

1分程でサラサラっと書き終えたイラストは、短時間にしては結構リアルな出来。


渡された絵を見たエルマ達はかなりドン引き。

何気なく見た事に対して後悔、そんな表情だった。


因みに、今回のやり取りで楓に絵の才能があると判明。

後に、細かい描写から可愛くデフォルメ化したものまで、割と何でも描けるのも分かった。




その後、美羽達から5分程励まされ続けたものの、凛への効果は今一つ。

そこへ火燐が『凛は強い上に可愛いんだから別に良いじゃねぇか』と口を滑らせ、彼を益々落ち込ませてしまう。


凛はその場で体育座りをし、死んだ魚のような目でぶつぶつと呟く事態にまで発展。

いくら美羽達が言葉を投げ掛け、体を揺さぶろうが何の反応も示さなくなった。


これに怒った美羽は火燐に厳しい口調で指摘。

火燐は火燐でたじろぎながらも自分は悪くないと言い出し、それが切っ掛けで口論に。


そしてそれは5分を過ぎても収まらず、最終的に火燐VS美羽&雫&翡翠の構図で睨み合いに。

イルマと紅葉はオロオロし、他の者達は心配そうに火燐達を見つめるばかりだった。




その様な中、(おもむろ)に席を立つ1人の青年。

その青年は濃いオレンジ色の髪をしており、凛が目覚めてからは離れた位置で控え、今の今までずっと黙っていた人物でもある。


彼の行動は否が応でも皆の注目を集め、バッチバチに火花を飛ばす美羽達ですらそちらに意識を向ける程。

その視線を知ってか知らずか、当人はまっすぐ凛の元へ。


彼の少し手前の位置で立ち止まり、かと思えばその場に(ひざまず)き、静かに(こうべ)を垂れる。


「…凛様。この度の進化、心よりお(よろこ)び申し上げます。」


「…?」


凛はどこか聞き覚えのある声だと思い、虚ろな視線を青年に移す。


「その声…もしかして暁?」


「はい。貴方様より名前を(たまわ)りました、暁でございます。」


青年━━━暁の答えにより、目だけでなく顔全体にまで生気が戻った凛は、やがて立ち上がるまでに回復。


「ありがとう。暁こそ、妖鬼への進化おめでとう。」


「はっ。勿体なきお言葉。」


むしろ嬉しそうにお礼や祝辞を述べる程で、暁は恐縮した様子で更に頭を下げる。


そんな暁を立たせ、先程とは打って変わって明るい声色で語り合う凛。

そこへ安堵した美羽達も加わり、益々賑やかさが増した。




今朝方、暁は銀級のオーガから金級の妖鬼へ進化を済ませていた。

額に生える角はそのままに、2メートル以上あった身長は180センチ程にまで縮小。

否、凝縮したとも取れる強靭な肉体に加え、精悍(せいかん)な顔付き、濃いめのオレンジ色をしたミディアムヘアーへと変貌を遂げる。


事の起こりは昨日。

細かく言えば凛が急遽進化の為に休んでしまって以降、美羽達は彼が起きるのをリビングでひたすら待っていた。


午後になってからもそれは変わらず、火燐だけが苛々した様子でリビング内をうろうろ。

好奇心旺盛な彼女は、あまりじっと待つのが得意でない。

むしろ、即断即決を地で行く(せっかちな)性格故に向いていないとも。


やがて限界を迎えた火燐がストレス発散しに行くと告げてリビングからいなくなり、微妙な空気だけが残された。


ただ、出て行ったのが火燐とは言え、彼女1人では危険。

万一の場合があっては凛に申し訳が立たなくなると考えた美羽は、行きたい人は火燐の後を追って良い旨を伝える。


雫達は美羽から出された提案を元に話し合いを行った結果。

翡翠と楓が屋敷に残り、(美羽以外の)他のメンバーは少しでも強くなりたいを根拠に火燐の後を追うとなった。


ついでに、しれっと残ろうとした旭を暁が無理矢理引っ張り、3時間近く経ってから帰途。

理由は(ある意味)最も目立っていた暁が進化可能だと分かったからで、火燐も暴れまくった事でそこそこ頭が冷えた…との話を、凛は遅めの朝食を摂りながら伺った。


「…そうだったんだ。皆、色々と迷惑を掛けてごめん。」


予想外だったとは言え、皆に対し申し訳なく思ったのは確か。

凛は椅子から立ち上がり、深くお辞儀をする。


これに慌てたのは彼以外の全員だ。

凛の常日頃の行いや活躍は、誰が見ても称賛すべき事柄。


アフターケアやフォローも素晴らしいの1言で、彼の働きぶりに皆が心酔しきっている。

そんな凛が不在となれば心配するのは当然だし、むしろ迷惑を掛けているのは自分達の方。


しかしながら、下手な慰めは却って逆効果。

返答に困った火燐達の視線は、凛の隣に座る美羽の方へと向かう。


「マスターはボク達とは比べ物にならない位、すっごい眠気に襲われたんだもん。こればっかりは仕方ない…だから、この話は終わり!」


これ以上の問答は受け付けません!とばかりに、美羽がパンッと拍手。


「そんな事より、マスターに質問があるの。」


「そんな事って…酷いなぁ。で、質問って?」


「マスターが起きた位から力が湧いて来る感じがしたんだけど…何かした?」


「それは僕が進化した影響だね。ナビが成長して、リンクの幅が広がった。スキルも全体的に成長したって聞いてるよ。」


簡単ではあるが、万物適性上昇スキルを個人に合わせて調整。

身体能力の向上もこれに当て嵌まり、各々が得意とする属性はより優位に。

苦手な分野は気持ち緩和される運びとなった。


彼ら彼女らは凛(厳密にはナビ)からの恩恵を享受する立場。

特に美羽は満遍(まんべん)なく適性を持つとの観点から、殊更変化を感じ取ったのかも知れない。


「…と言う事はつまり、ボク達はまだまだ強くなれる?」


「うん…と言うか、今もナビがめちゃくちゃ張り切りながらスキルを改造していたり…。」


『?』


凛は答えている様で答えになっていない反応を示しつつ、「はは…」と遠い目をする。

彼の突然の心境の変化に美羽達は付いて行けず、急にどうしたんだろう位にしか思わなかった。




凛の進化により、万物創造スキルの性能が向上。

それに伴い、万物創造から創り出した『天歩』を始めとするスキルやビットの機能性等もアップした。


ならば統括するポジションであるナビの処理能力も上がるのは必然。

ただナビ自身、諸々の確認作業を行うと同時に、自身が至らないせいで(マスター)に余計な負担を与えてしまったとも考えた。


凛から求められたサクサクルースに関しての情報を開示した後、スキル改造を施して良いかの承諾を求める。


スキルの使い勝手が良くなれば今後の行動がスムーズに進行。

そう判断した凛はナビの申し出を許可するのだが…これが間違いの始まりだった。


同じスムーズとの意味でもナビは少し違った方向で捉え、()の内にや()る事は()てやっ()しまお()勘案(かんあん)

そんなナビが最初に手を付けたのが『効率化』スキルだった。


効率化に効率化を何回か上乗せし、10分程で『超効率化』にアップグレードさせるのだが、その効果が凄まじい。


魔法や身体強化と言った。

魔力を使う消費量そのものを、それまで20%から60%へダウン。

効果や威力は、プラス50%から150%にアップ。


魔法の詠唱に至っては、25%から最大100%カット。

つまり、魔法適性の高い者は()メージ()るだけ()魔法の()動が可能となった。


更に、魔物を倒して得られる魔素量が既存の5倍から50倍へと増大。

その事で、成長する際に必要な魔素を大幅に削減出来るまでに。




他にも、成長した天歩は手からでも、慣れれば念じるだけで発動出来たり。

応用と言うか、元々足場のみだったのが(地上、空中問わず)ちょっとした上り坂や下り坂が創れる様になっただとか。


周囲20キロ圏内を調べる『サーチ(探索)』や、視認した(魔物の死体や薬草等の)ものを収納する『遠隔収納(リモートストレージ)』(通称リモスト)。


武器や防具の生成に特化し、その武具に炎属性等を付与出来る『武具創造(バトルギアクリエイト)』と言ったスキルが、凛の知らない内に勝手に創られていた。


これらの説明を凛は苦笑いで行うのだが、10分以上を費してようやく終わる程。

あまりの情報量の多さに、美羽達は思考だけでなく体までもフリーズさせた。


因みに、先程得られる魔素量が5倍から50倍へと伝えたが、それは正確な情報ではない。


ナビは凛に内緒でリンクを弄り、倒した本人に50倍の魔素を吸収させるのとは別に、等倍(1体)分の魔素をリンク越しにこっそりと送る仕組みを作成。

これは凛へ対する忠誠心が(ほとばし)った結果によるもので、本人(?)は内助の功のつもりでいる。


今はまだ配下が少ない為に効果を実感しにくいが、数十、数百、数千…と。

配下の数が増えれば増える程、凛の強化へと繋がる仕組みでもある。


ついでに、進化しようとした時に得られる情報が、それまでの2つから3つ先に増えた。




食事を終えた凛は美羽だけを連れ、死滅の森表層中部へ。

そこでポータルの回収と小屋の解体。

及び可能であれば昨日の黒い亀の魔物(アダマンタートル)を確保出来ればと思ったのだが…


「やっぱりないか…そりゃそうだよね。」


2体共、忽然(こつぜん)と姿を消していた。


あれから1日と少しが経った影響からか、良く見れば引き()られた跡が。

自分が去ってからすぐに持って行かれたかも知れないし、もしかしたら直近の可能性も。


どちらにせよ、いなくなったのであれば仕方ないと諦めるしかない訳で。

どうしたの?と首を傾げる美羽に何でもないと返し、作業へと移る。


午後1時半頃、死滅の森入ってすぐの浅い場所(凛の屋敷から徒歩数分)にいる火燐達と合流。

それから30分程、皆で近くを散策。


するとナビを通じ、サルーン方面からこちらへ向けて誰か来る事が分かった。


探索は中断。

少々名残惜しいが、皆で家路に就くとの運びに。


屋敷の全貌が分かるところにまで戻ると、そこには3人の男性が。

上司と思われる男性が部下の男性2人に指示を出し、屋敷の周りを調べている様だった。


上司と思われる男性は20代半ばの見た目。

短く切り揃えた金髪に、首から下が鉄製の鎧を着用。

他の男性2人は鉄鎧に加え、鉄で出来た兜まで身に付けている。




(見るからに不審者だけど、声を掛けない訳には…って、そう言えばこの世界に来てから人と話すのはこれが初めてだ。)


何事もなければ第1街人発見!となったかも知れないが、今は真面目な時。

なるべく緊張を表に出さず、凛は男性達の元へ歩み寄る。


尚、里香達やマクスウェル達。

エルマ達や紅葉達は純粋な『(人間)』ではない為、敢えて除外とする。


「あの…僕達の家に何かご用でしょうか?」


「…!失礼しました。貴方がこ…!?」


金髪の男性的に、屋敷の所有者と思われる人物から声を掛けられたと解釈。

後ろを振り向き、『貴方がこの立派な屋敷の主様で相違ないでしょうか』と尋ねようとするも、言い終える事は叶わなかった。


視点が変わり、真っ先に見えたのが凛━━━ではなくオーガ(旭達)で、彼の存在に驚愕したからだ。

近くにいた部下2人もそれは同様。

揃って絶望の顔を浮かべていた。


オーガは金級の強さを持つのに対し、上司の男性は金級寄りの銀級。

部下2人はそれ以下の腕前でしかないからだ。


い1()体だけならまだしも、残る黒い2体(月夜と小夜)は流石に無理だと判断。

軽い様子見のつもりが、とんでもない事態に発展したと受け取らざるを得なかった。


「がこ…?あ、後ろにいるオーガは言葉を理解していますし、襲う事はないのでご安心下さい。それと、一応僕がこの子達の主になります。」


そんな彼らの決死な覚悟とは裏腹に、凛が言い放ったのがそれ。

何事もないかの如く明るく振る舞う彼女()に、男性3人は絶句。


「ここで立ち話もなんですし、詳しい話は中で致しましょうか。皆さん、どうぞこちらへ。」


ニコニコ微笑む凛に金髪男性はすっかり毒気を抜かれ、「はぁ…」と生返事。

火燐達が先に歩き、男性達を誘導する形で凛と美羽が続く。


男性達は困惑しつつ、案内されるまま入ってすぐ左にある客間へ。

他の面々はリビングで待機となった。


美羽に1言2言告げた凛も客間へ向かい、男性達を椅子に座るよう促す。

それからそう時間が経たずしてノック音が聞こえ、トレイを持った美羽が入室。


男性達が座るテーブル、その眼の前の位置にクッキーやチョコチップクッキー、ビスケットが乗った皿。

それとカップに注がれた紅茶を置く。


男性達はまさかここでお菓子が出されるとは思わず、先程までの極度の緊張状態から一転。

出されたお菓子や飲み物へ釘付け状態に。


毒殺も考えたが、そんな回りくどい手段を取る位ならここへ至るまでに何かしている。

むしろ見た目と言い香りと言い、自分の中の本能が受け入れろと全力で(ささや)くすらあった。


その後、恐る恐る食べて良いかを尋ね、凛が快諾。

それを合図に物凄い勢いで食べ始め、あっという間に完食。

あれだけあったクッキーが空になり、内1人が一気に頬張り過ぎて喉を詰まらせる…なんて場面があった程だ。


凛が笑顔で2皿目を用意するよう頼み、クスクスと笑いながら了承の意を示した美羽が客間を後に。

そこで改めて金髪の男性こと、アルフォンスが屋敷に来た目的について話をし始める。




アルフォンスはサルーンの警備隊長をしており、凛が屋敷を建てた土地は王国。

厳密にはサルーンの管理下にある。


そのサルーンを治める長━━━領主からこの屋敷の調査へ向かうよう命じられ、2名の部下と共にここまでやって来たとの事。


アルフォンスは経緯を話すと並行し、部屋の内装を何度かチラ見。

最後に凛へ焦点を当てる。


客間は数点の調度品に絨毯、テーブルとシンプルな造り。

しかしその1点1点が見るからに品質が高く、これ1つで自分の給料何ヶ月分だろうか…とも。


それ以上に気になるのが、正面に座る凛と名乗る小柄な女性。

先程はオーガに目を奪われたが、彼女の立ち振る舞いから恐らく目の前にいる少女がこの1団の代表に相違ない。


加えて、少なくともこれまでの人生では相見(あいまみ)えた覚えがない。

そして恐らく今後もこれ以上は経験しないであろう、非常に非常に整った顔立ち。


最早美少女と言う枠組みから外れ、且つ名前に(たが)わず凛とした(たたず)まい。

彼女の他に美羽。

それとお代わりと共に入って来た紅葉(?)なる女性も大変容姿に優れているが、更に上をいく美しさだ。


自分には愛する妻がいて良かった。

しかし並の男性なら一溜(ひとた)まりもないのでは、なんて考えながら視線を部下達へ。


ただ、悲しいかな。

部下達は完全に我を忘れ、一心不乱にお菓子を(むさぼ)っている様だった。

色気より食い気とは良く言ったもので、合間に美羽と紅葉から注がれた紅茶を(すす)るを繰り返すとの醜態っぷりに、内心で目眩を覚えた程だ。


しばらくして満足したのか、落ち着きを取り戻す部下2人。

そこでようやく美羽と紅葉がとんでもない美人だと分かり、デレデレとだらしない顔に。


誤魔化(ごまか)す様にしてカップの中身を飲み干し、笑顔の彼女らが紅茶を注ぐ。

これに気を良くした2人は、嬉しさを隠そうともせずニマニマ。

再びカップが空になるを合図にお代わりが入り、男性陣は更にご満悦。


以降、飲み干す→お代わり→飲み干す→お代わりが繰り返され、嫌な顔1つ見せない美羽達。

ひたすら(もてな)され、有頂天になる2人を尻目に、アルフォンスは情けない姿を曝す馬鹿共(部下2人)を叱り付けたい衝動に駆られる。

しかし今は事情を説明中。

状況的に難しく、冷ややかな目を彼らに向けるしかなかった。




アルフォンスの説明が一通り終わった後、凛がした事…それは謝罪だった。

この土地が王国の管轄だと知らなかったとは言え、勝手に家を建てたからだ。


しかし、家から歩いて行ける距離に死滅の森があるとの利便性や、最近はすぐ近くにある高い木を目印に、その木の根元でおやつを食べる時間が楽しみ等。

今の生活が気に入っている旨をアルフォンスに伝える。


ただ、死滅の森=文字通り危険な場所とのイメージしかないアルフォンスにとって、森が近いとの利便性が全く理解出来なかった。

また伝え方が仕草込みで可愛らしいとは思ったものの、木の良さと言うのもイマイチ良く分からず、苦笑いを浮かべるだけに留まる。


後に、事情を()いた凛・美羽・火燐達以外の面々は「やっぱり、進んで死滅の森に挑む物好きはいないんだ」と思ったとか何とか。




それからも話をする(かたわ)ら、お菓子や紅茶をご馳走になるアルフォンス達。

気付けば1時間以上を凛の屋敷で過ごし、壁に掛かる時計を見たアルフォンスが時間が合っているかを確認。

正確だと分かるや、即座に「これ以上長居するのも悪い」と席を立つ。


同時に動いたのが凛。

いつの間に用意したのか、彼は机の引き出しの中(に見せ掛けて無限収納)から横長で深紅色をした箱を取り出し、テーブルの上に置く。

続けて、「こちらを手土産に、サルーン領主にこの土地に住む権利ないし、何らかの便宜を図っては貰えないか」の言伝(ことづて)を頼み、アルフォンスはやや難色を示す。


と言うのも、その箱が横1メートル。

縦と高さが50センチ位と中々の大きさだったからだ。


付け加えれば、箱の中身が気になる。

とっっっても気になる。


試しに持ってみたところ、そう重くはない事から、恐らくではあるが剣等の武器の類いではない。

ならば中身の正体は一体?となり、緊張した面持ちで箱を開けて良いかを凛に尋ね、承諾を得る。


恐る恐る箱の蓋に手を掛け、空けてみると、箱の中には直径30センチ程の球が2つ入っていた。

左が深碧(しんぺき)色の球、右が無色透明の球との内訳だ。


アルフォンス達は揃って不思議そうにし、しかし凛から球の詳細を聞いて目玉が飛び出る程驚いた後、とても受け取れないと辞退を申し出る。

凛は残念がり、せめてこれ位はとの気持ちから(袋に入った状態の)クッキーをどこからか(無限収納から)用意。


「そうですか、分かりました…こちらは先程のと同じクッキーになります。先程の件とは一切関係なくせめてもの気持ちですので、宜しければ皆さんで召し上がって━━━」


「こちらを長に渡せば良いのですね?」


「「我々にお任せ下さい!」」


しかしそれを差し出されるや否や、途端にキリッとした表情で箱を抱えるアルフォンス。

部下2人も、1人がクッキーを(うやうや)しく受け取り、もう1人はアルフォンスの後ろで綺麗な敬礼を行う等。

ある意味見事な連携を披露してみせた。


畢竟(つまるところ)、クッキーを気兼ねなく持ち帰る為の理由が欲しいのだろう。


そんなアルフォンス達の変わり身の早さに美羽と紅葉がずっこけそうになり、反対に凛は良いのかな?と若干困りながらも笑顔で頭を下げる。


「あ、ありがとうございます。すみませんが宜しくお願いしますね。」


「「「畏まりました。」」」


その言葉を最後に、アルフォンス達は客間、及び屋敷を去って行った。

それもこれまでにない位、最高の笑顔を残して。


3人はアルフォンス達を見送るのだが、凛は微苦笑で。

美羽達は「渋らず最初から普通に受け取れば良かったのでは?」と言いたげな表情を彼らの背中へ向ける。


勿論アルフォンス達も、最初はあまりにも高価過ぎる贈り物を渡され(押し付けられ)そうになり、確実に説明を求められた挙げ句怒られると分かり切っていた。

だからこそ、凛から受け取るのを断るつもりでいたのだが…彼らの中で事情が変わった。


甘味の少ないこの世界に()いて、今しがた食べたクッキーは非常に希少なもの。

アルフォンス達はもう2度と口に出来る機会はないだろうと思い、内心かなり残念がっていた。


ところが、凛は交換条件等ではなく『せめてもの気持ち』としてクッキーを差し出してくれた。

この事により、アルフォンス達は凛と繋がりが持てる。

或いは関係を維持出来れば、この先もクッキーが貰えるのでは?との考えに天秤が傾いた。

傾いてしまった。


要は、言い方は悪いが(領主)を犠牲にするとの思いで合致。

少しの間我慢すれば幸福が待っているが共通の認識で、方針を切り替えたとも。




嬉しそうな様子のアルフォンス達が見えなくなるまで、凛達は屋敷前で待機。


そこから3人はリビングへ戻り、ソファーに座りながら軽く話し合いを行うのだが、今から死滅の森に行くにしては微妙な時間。

なので、このまま家で過ごそうとなった。


ならばと夕御飯の用意の為に凛がキッチンへ向かうも、先回りした美羽達によりインターセプト。

体に手を添えられ、強制的に元の位置にまで戻されてしまう。


それだけに留まらず、両隣に座った美羽と紅葉がガッチリホールド。

凛が「何するの」と見やれば、「そっちこそ何しようとしてるの」と物申したげな視線を返される始末。

ジト目同士がぶつかり、追加で周りからも反対の声を上げられれば折れるのは凛の方。


「はぁ…皆が僕を心配してくれるのはありがたいんだけど…料理のストックは使い切っちゃったんでしょ?」


凛が溜め息混じりでキッチンへ向かおうとした理由。

それは昨日から今日に掛け、食べ尽くした料理の補充の為だった。


いくら失意の底にあったとは言え、お腹は空く。

調理する意欲が湧かない=食欲もないとはならず、逆に寂しさを埋める目的だったり、一緒に作った思い出に(すが)るとの想いで口にした程だ。


この事は(ナビを含め)誰からも知らされてはいないが、せめて簡単なものだけでもと(のぞ)むつもりでいた。


「うん。でもマスターの世界には、お湯を注ぐだけで食べれる料理があるって聞いたよ?」


「どうしてそれを…ナビか。」


《はい。マスターが進化した事により、即席食品の生成が新たに可能となった旨を美羽様に報告致しました。》


凛がアルフォンス達と話をしている間、美羽はナビとやり取りを行い、手軽に食事が行える方法を探った。

そして得た情報と言うのが、新規で生成可能となった即席食品とレトルト食品。


状況を察した凛は、「成程ね」と複雑な表情になる。


「しかし正直、あれ(即席食品)を料理と呼んで良いものか…。」


《マスター。こちらで早速ご用意致しました。無限収納内にございますので是非お使い下さい。》


「ナビの手際が良過ぎる件…。」


そう言って、諦めた様子の凛が無限収納から取り出すは、ラーメン、うどん、そばを始めとするカップ麺。

粉末状のとうもろこし、じゃがいも、ほうれん草、人参のポタージュにクラムチャウダー、わかめスープ。

フリーズドライタイプの味噌汁やお汁粉、甘酒、卵スープだった。


それらに美羽が用意したお湯を注ぎ、皆で試食。

手軽なのに美味しいと高評価を得るも、あくまで試しでしかない。


案の定すぐに量が足りないとなり、火燐を中心に不満の声が続々と上がった。


凛はついでとばかりに万物創造を用い、デザートを兼ねる…かも知れない飲み物を準備。

スティックタイプのカフェラテ、キャラメルマキアート、抹茶ラテ、ココア、カフェモカ。

それとストレートティーやミルクティー、林檎や桃等のフルーツティー。


2分程でそれらはテーブルの上に並べ終わり、各々が希望したものを開封。

再びお湯を注ぎ、先程の(スープ等を含む)食べ物よりもこの飲み物の方が甘く、美味しいとして喜ばれた。


その後、美羽達から違う味を試したいだったり、同じものが飲みたいと。

様々な要望でお代わりする者が続出。


結局、凛1人だけが忙しそうに動き回るのだった。

万物適性上昇は全能力10%アップだと考えて頂ければ。

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