15話 2日目
「…ん?いつの間にか寝ちゃってたのか。ナビ、今何時?」
天界で修行を終えた凛が、下界に降りてから2日目。
リビングにあるソファーにて目を覚ます。
《現在、午前4時50分です。》
「んぅーーー…ふぅ。いつもより1時間位早い、かな?でもまぁ、その分料理を沢山作れると考えれば丁度良いか。」
上体を起こし、その場で背伸びした凛は洗面台へ。
顔を洗い、「よし」と気合いを入れつつ鏡越しに自身を見やる。
それから30分後。
キッチン内を動き回り、3つの料理を並行して作る彼の姿がそこにはあった。
実に忙しなく、見方によっては時間に追われている風にも感じられる。
しかし意外と言うか、その表情は笑みを携えたもの。
置かれた状況とは裏腹に、楽しそうですらある。
「いやー、しかし予想はしていたけど、甘いものへ対する情熱は異世界でもやっぱり変わらないんだな。」
訂正、楽しそうではなく楽しいの間違い。
この様な状況下でも微苦笑を湛え、昨晩の事を思い出すだけの余裕があるのだから。
夕食時、凛は手持ちのデザートを全て放出するも、人数が人数故になのか繋ぎ程度にしかならなかった。
最初に出したプリンはその存在に気付いた雫が大部分を確保してしまうし、次のケーキ類はその雫を警戒+未知の技術が詰まってるを理由に秒で消え失せた。(文字通り物理的にで、これには凛もビックリ)
続くクッキー等の焼き菓子も似た様な感じ。
ならばとクレープ、パンケーキ、フレンチトーストを出して見せたのが不味かった。
他と違い、最後の3種は然程時間を掛けずに用意出来るからだ。
またトッピングやソース次第で、それも然程手間を掛けずして味を変えられると聞けば女性陣が食い付かないはずもなく、ひたすら焼いては提供するを繰り返す。
チョコレートやキャラメルと言ったソース類に、メープルシロップや蜂蜜。
ジャム、バター、ホイップクリーム、各種果物は言い出しっぺである美羽が用意し、好みで使うよう伝達。
これに火燐達は大・興・奮。
毎回違う味付けを試しては食べ進めるを繰り返し、やがて翡翠はキャラメルソースを。
楓はメイプルシロップが特に気に入ったらしく、好んで使うまでに。
途中、美羽からネギを使ったデザートをとのリクエストを受け、パンケーキの延長線(?)であるねぎ焼きを用意。
焼き上がった生地に、刻んだ長ネギを主体としたソースを掛け、こちらも大層喜ばれた。(他の者は美味しいとは言えなさそうなビジュアルに引いていたが)
しばらくして、火燐はホットケーキの3段重ね。
雫はホイップがしこたま乗ったプリンを最後に、食事を終える。
皆一様にして幸せそうな表情を浮かべ、エルマとイルマはぽっこりお腹のままソファーで就寝。
他もお腹が出ていないと言うだけで似た様相を呈していた。
更に火燐に至っては、ホットケーキが刺さったフォークを右手に持ったまま。
しかも食べかけのホットケーキが乗った皿に、顔から突っ込む形で爆睡。
「何だか火を操るお兄さんみたいな寝方をするなぁ」と、凛は半ば呆れた笑みで彼女の介抱へ。
何度か起こされる形で火燐がようやく目を覚まし、それに伴って上体を起こすのだが…顔にソースやらホットケーキの破片が付きまくった状態だった。
それを見た凛は「あちゃー」と漏らし、可能な限り火燐の顔を拭いてから部屋で休むよう指示。
寝惚けながらも部屋へ向かう姿を確認してから美羽達も起こし、同じく部屋で寝る旨を伝え、エルマとイルマを別室へと運ぶ。
それから1時間程で片付けを全て済ませ、安心感から気が緩んだのだろう。
ソファーへ座るや一気に疲労感が押し寄せて来るのを感じ、軽く欠伸。
体勢を座るから横へ移行した彼は、今日1日の事を思い返す。
昨日までは自分と美羽、マクスウェルの3人だけだったのが、初日である今日だけで火燐達やエルマ達が食卓に加わった。
明日からは紅葉達もそこに入り、益々賑やかになるだろう。
その場合、今までと同じ感覚だと圧倒的に料理の量が足りなくなる。
新たな拠点も用意しなきゃだし、やる事は山積み…等と思考中に意識を手放し、先程起床したとの構図に。
それから程なくして、慌てた様子の美羽、翡翠、楓の3人がリビングに姿を見せた。
3人共起きてすぐ来たらしく、軽い寝惚け眼だったり、所々寝癖等が付いたままのオマケ付きで。
「もーマスター!どうしてこんな早い時間から料理してるのー!?」
「美羽、おはよう。」
「うん♪マスターおはよう♪…じゃなくて!早く始めるなら言って欲しかったの!そしたら、ここまで慌てて起きる必要なかったのにー!」
ニッコリ笑顔からムキーと憤慨へ早変わりする美羽に、凛が「はは、ごめんごめん」と諭す。
「昨日だけでも人数が増えたでしょ?だから料理やデザートの量を増やさなきゃなぁ…なんて考えてる内に寝ちゃってたみたいでさ、目覚めたのが少し前の時間だったんだ。かと言ってもう1回寝るのもと思ったから、そのまま始めたって訳。」
「そうなんだ。デザートかぁ…ねぎ焼き、美味しかったなぁ…。」
先程の怒りはどこへやら。
昨晩食べたねぎ焼きを思い出した彼女はかなり緩んだ表情となり、涎まで垂らしそうになる。
(ねぎ焼きをスイーツ感覚で食べるのって、多分美羽位じゃないかなぁ…。)
しかし凛が苦笑いで自分を見ているのが分かり、コホンと咳払い。
真面目な表情に戻った後、自身の後ろにいる2人を両手で指し示す。
「あ、そうだった。翡翠ちゃんと楓ちゃんも今日から手伝いたいんだって。2人共、料理に興味があるみたいだよ。」
「それで美羽と一緒に来たんだね。翡翠、楓。2人共ありがとう。」
「ううん、こちらこそ。昨日は美味しい料理を沢山食べさせてくれてありがとー!」
「私からも…凛君、ありがとうございます…ですがまさかテーブルで寝ちゃうなんて…恥ずかしい…。」
「皆お腹いっぱいになるまで食べてたもんね。どれも美味しそうにしてくれたのは見てて伝わったし、僕としては向こうの料理がこちらでも受け入れられるんだと分かったのは大きいかな。」
「美味しそうって言うか、本当に美味しくてびっくりしちゃったんだけどね。あたしはいつかシルフ様に料理を教えてあげなきゃって思ったの。特にクレープ!」
「教えて…って事は、翡翠も食事にあまり良い思い出がなかったりする?」
「流石に火燐ちゃん程じゃないけどね。シルフ様は保存食って言って、色々なものを持って来たの。でもそれがどれも不味くて不味くて…。」
「私は単純に興味からですね…。昨日出された料理、どれも美味しい物ばかりで驚いちゃいました…それに、料理も皆の方が楽しいだろうなぁって思いまして…。」
「ボクもまだ簡単なお手伝いとか下準備、後片付け位しか出来なくて、残りは全部マスターに任せっきりだからなぁ。実は翡翠ちゃん、楓ちゃんとあまり変わらなかったりするんだよね…。」
「それでも充分に助かってるよ。3人共、これから宜しくね?」
「「「はい!」」」
元気の良い女子達をキッチンに招き入れた事で、一気に華やかに。
それに伴って賑やかにもなり、凛は調理を進めるのと並行してカットした食パンにサンドイッチの具材を挟ませる。
他にも、炊き上がった魔導炊飯器のご飯でおにぎりを作ったり、サラダ類を作るお手伝いを美羽達にして貰った。
姉以外での女性と料理をするのは久方振りではあるものの、彼女達は終始声を弾ませ、上機嫌で作業に臨む。
そんな光景に、凛の顔にも自然と笑みが零れる。
調理の最後、本日の締めとして昨晩好評だったクレープを皆で作製。
思い思いに具材を乗せ、ソースをかけて巻いたものを無限収納へ仕舞い、片付けへと移った。
話は変わり、先程翡翠の口から出た保存食。
それは保存の為に塩気を多くした肉や魚に、小麦粉と水を混ぜて焼いただけのものの総称を指す。
いずれも下処理を全くせず、そのまま形とした為に臭い・固い・不味いの3拍子が揃った、本当にただ長期保存を目的としただけの食べ物。
後者はともかく、前者はしっかりと加工した高品質のものがあるものの、相応にして値段も高い。
庶民にはまず手が出せず、もし持っているのがバレた場合、喧嘩に発展する事態にまで至る事例も少なくない。
それ位、屋外でのちゃんとした食料品は珍しいとの表れでもある。
ついでに、地球へ来る前の里香が作った事があり、その美味しくなさに1口食べて渋い顔になる位だった。
これは(あくまでも多少と言い張っている)里香が苦手な料理や、加工技術の未発達が原因として挙げられる…のだが、あくまで昔の話。
少なからず向こうの知識がフィードバックされ、また幾人かの転生者。
並びに転移者のおかげもあり、今は美味いとまではいかなくとも、まぁ食べられるかな?位には落ち着いている。
因みに、イフリート達は食事を摂ろうと思えば摂れるものの、魔素があれば生きていけるので食事自体は不要。
しかし火燐達は異なり、凛と一緒に行動する事を前提として用意した為、精霊よりも人間に近く設定。
その為、火燐達にはイフリート達にはない空腹感と言うものが存在している。
里香はイフリート達と共に火燐達を生み出した後、随分前に(無限収納へ)入れたままだった保存食の事を思い出し、丁度良いとの判断から大量にイフリート達へ移譲。(丸投げとも言う)
しかし肝心の味についてはすっかり忘れており、かつイフリートが受け取った時は若干の緊張状態から起きなかった豪胆さが2回目。
つまり火燐へ渡そうと再び手にした際に前面へ表れ、保存食に火が付いて瞬時に燃え尽き、炭と化した。
ここでもやはりイフリートの大雑把な性格が如何なく発揮され、もはや完全に別物となった保存食を全く気にする事なく火燐へ。
それを火燐は何とも言えない顔だったり、時に悲しそうな表情を浮かべながら食べる。
そう言った経緯から、彼女は人一倍食事へ対して貪欲になったのかも知れない。
他の面々はと言うと。
翡翠と楓はしょっぱいや固い等と言いながらもそもそと食べ、雫はウンディーネから肉と魚の保存食のみを食べさせられた。
加えるならば魚が大部分を占め、味付けも塩だけとシンプル。
食べるに連れて生臭さが際立つ様になり、耐え兼ねた雫がウンディーネに理由を尋ねたところ、4人の中で最も小柄だから。
成長するにはカルシウムが必要なんでしょ?との答えが返り、(別な意味で)体中を衝撃が走った。
そもそも雫の見た目をイメージしたのはウンディーネだし、彼女は人間ではないのでカルシウム云々は全く関係ない。
他にも間違った点は色々とあるのだが…ともあれ、雫はしょっぱいものを口にし過ぎた影響により凛達の中で最も甘味を求めて今に至る。
閑話休題
午前6時半前
「皆が手伝ってくれたおかげで、予定していた時間よりも早く終わっちゃったか。ただ待ってるのも何だし…僕は大部屋で軽く素振りでもしてこようかな。」
「あっ、じゃあ、ボクとの手合わせをお願いしても良い?昨日は嫌な終わり方だったから鬱憤が溜まっててさぁ…。」
「嫌な終わり方?…あー、成程。ゴブリンキングか。」
「そそ。紅葉ちゃん達の事もあるし、ボクだけわがままを言って離れる訳にはいかなかったから…。」
「と言う割には、ねぎ焼きとかしっかりと堪能…。」
「マースーーターーー?」
「分かった分かった、僕が悪かったよ。僕と美羽はこれから大部屋へ向かうけど、翡翠と楓はどうする?」
腰に両手を当て、前屈みでジト目を向ける美羽。
これに凛は降参の意を示し、顔だけ翡翠達の方へズラしながら尋ねる。
「んー、そだねー…あたしは普段、凛くん達がどんな訓練してるのか見てみたいかも。」
「私もです…。」
「分かった。それじゃ、このまま皆で行こうか。」
「「はーい♪」」
「はい…♪」
上機嫌な美羽達を連れ、凛はリビングダイニングルーム横の大部屋へ。
そんな凛達の様子をじっと覗き見る、2つの影。
「…行っちゃった。」
「うん。皆、楽しそうに作業してたよね。」
「そうだねぇ…。」
「「良いなぁ…。」」
エルマとイルマだ。
彼女達はキッチンの賑やかさで目を覚ましてはいたものの、楽しそうな雰囲気を壊したら申し訳ないとの懸念から参加を辞退。
しかし諦め切れないとの思いから今までずっと眺めており、後で自分達もメンバーに加えて貰うと決意。
その為の作戦会議をしに、2人はベッドへ戻る。
「…?」
同時刻、別な部屋で1人の女性が目を覚ました。
その女性は黒髪を腰までの長さに真っ直ぐに伸ばした…所謂姫カットと呼ばれる髪型。
若干下を向いているせいか表情は分からなかったが、綺麗な鼻筋で唇には艶があり、黒髪から2本の角が覗いていた。
(私は…。)
寝起きで頭が回らないのだろう。
上半身を起こした女性は角と角の間に右手を当て、回復するのを待つ。
そして少しばかり良くなった頃、何か硬い物同士がぶつかる音が彼女の耳に届けられ、聞こえた方角。
入口の方に意識を向ける。
気付けばベッドから下りており、これまた無意識の内に掴んだベッドのシーツを体に纏わせながらゆっくりと歩みを進める。
その数分前に時間を戻し、場所は大部屋へ。
翡翠と楓は入口横の壁、凛と美羽は中心付近にそれぞれが立っていた。
凛と美羽は向かい合い、凛は練習用の鞘付き木刀を。
美羽は同じく練習目的で用意した2本の木剣を各自所持するとの構図だ。
「まずは、名付けの後遺症がないかの確認から始めるね。」
「うん分かった!マスター、いつでもどーぞっ♪」
美羽の言葉を受けた凛が踏み出し、武器による打ち合いが開始。
昨日の名付けの影響も考え、初めは手加減して…との意味合いらしい。
彼の攻撃を受ける美羽は、普段よりも幾分か弱く感じ、不思議そうにする。
しかし時間が経つ毎に少しずつ力と速度が上がっていくのが分かり、自分もそれに応えなければとの考えへ。
彼女も徐々に段階を上げ、2人の攻防は激しさを増していく。
5分後
カッ、カカン
凛は美羽が繰り出した連続攻撃を鞘と木剣で防いだ後、距離を取る目的でバックステップ。
「うん。今のところ、特に問題はないみたいだ…美羽、何か手数の多そうな魔法を放ってみてくれる?」
「うん分かった。今のボクで使える魔法と言ったらあれだよね…行くよ!エレメンタルアロー!」
美羽は笑顔で頷き、かと思えば真面目な表情で早口で3秒程詠唱を行った後、エレメンタルアローを発動。
すると、彼女の頭上の位置に、炎・氷・風・土で出来た球状の塊が出現。
1つ1つがバスケットボール位の大きさがあり、そしてそれぞれの球から、嘗て雫が放ったアイスニードル。
それと同じ大きさの4種類の属性を帯びた矢が次々と撃ち出され、結構な速度で以て凛に迫る。
エレメンタルアローは複合系上級魔法の1つ。
炎・水・風・土属性全てに、しかも上級以上の適正がある者でしか使えないとの制限付きだ。
今回、美羽は自分の頭上に纏めて呼び出す形でエレメンタルアローを行使。
しかし本来、(凛みたく空間認識能力に長けた人物とは別に)見えている範囲であれば、配置場所を自由に選べるのに加え、各属性の矢を任意のタイミングで5発ずつ発射する事も可能。
なので確実に当てようと時間を掛けても良し。
今みたく一気に攻め立てるのもまた良しの使い勝手に優れた魔法でもある。
美羽が発動させたエレメンタルアローにより、マシンガンみたく放たれる4つの属性を帯びた矢の様な弾。
「はぁっ!よっ、よっ、てぇぇいっ!!」
それらを凛は木刀と鞘に魔力を纏わせて打ち消す。
或いは避け、弾き返して別な矢に当てる等する。
やがて、風の矢を消滅させたのを合図に風の球が消失。
他の炎・氷・土属性の球は既になくなっており、木刀を鞘に収めた凛がビットを1基、その場に喚び出す。
「ありがとう。それじゃ最後に、以前と変わらずにビットが使えるかだね。最初はこの1基だけで、特に問題なさそうなら少しずつ増やしてみるよ。」
「はーい!」
美羽の快活な返事を受け、凛はビットを操作。
少し離れた位置にいる美羽へ対し、威力を弱めた魔力弾を撃ち出してみる。
それを美羽は真横に回避。
凛は彼女の跳んだ方向へビットを動かし、今度は2連続で魔力弾を発射。
美羽が着地と同時に振るわれた左右の木剣でカンカンッと弾かれ、明後日の方向へと飛ぶ。
一連の流れを確認した凛は美羽の正面だけでなく側面、背面から魔力弾を撃つ事計10発。
その全てを美羽は躱すか防ぐかして凌ぎ、操作するビットを1基から2基に増やす。
それから5分が経った。
凛は4基のビットを駆使し、様々な角度から魔力弾を射出。
それらを美羽は2本の木剣で弾き、魔力を纏わせて打ち消す。
更にステップで避けたり、アクロバティックな動きで躱したりもしていた。
やがて攻撃を止めた凛は、自分の近くへビットを移動。
それを満足したと捉えた美羽が、トトト…と彼の下へ向かう。
「うん、ビットの練習はこんな感じかな。協力ありがとう。」
「どういたしまして♪ボクも、マスターみたいにビットを上手く使いたいんだけどなー。でも攻撃の度に動かしては狙いを定めるのもだし、4点に配置しての防御…的な感じで切り替えるのが難しい…。」
凛が操作するビットは攻防一体を兼ねたもの。
それぞれが独立しての単発攻撃を常とし、数基を連結させ、ガトリングガンみたいな動きでの連射だったり、エネルギーを収束させてのチャージショットも可能。
ただ、上記の方法は普通の者が相手なら通用するが、凛とまともに付き合える場合はそれに含まれない。
つまり美羽クラスになると簡単に見切られ、弾速も地球で言う銃弾の3割位なのでやはり躱されてしまい、すぐに距離を詰められる始末。
これは美羽に散々見せびらかした凛が悪いのだが、ともあれ今回は通常の運用として。
それと翡翠や楓に今のが基本だと知って貰うのも兼ね、1基ずつ動かすとの運びに。
それと美羽の言う4点防御。
所謂Iフィー◯ドバリアだけでなく、単基毎に球状。
或いはビーム◯ールドみたく範囲を絞る事で、より強固にした防御膜が展開出来るとの機能がビットには備わっている。
「ならさ、まだ試作段階ではあるんだけど…この板状のビットを使ってみる?美羽も動かすだけなら出来てたしさ。」
凛は話しながらビットを消し、代わりに無限収納から1枚の鉄板の様な物を取り出す。
その板は厚さが3センチ、高さ50センチ程で縦に長い正二等辺三角形の形をしている。
色は鈍色で頂角に底角、いずれの部分も刃物みたく鋭いのが見て取れた。
「これも一応ビットでさ…こうやって相手を斬ったり角の部分で突いたりするだけじゃなく、魔力を纏わせる事も出来る。」
凛は空中に浮いた板状のビットで弧を描き、頂角部分を前に突く動きを見せ、白いオーラを纏わせる。
「そしてこれは6枚1組になるよう設定してて…こう重ねたら即席の盾にもなるんだよ。」
続けて、無限収納から同じ物を5枚取り出し、頭上で縦・横・斜めにぐるぐると回す、または近くをヒュンヒュンと飛ばす動作をする。
最後、自身の前に鉄板6枚全てを重ね、高さ1メートル位、縦長の六角形を形成。
その光景に3人は「おぉーー!」と叫ぶのだが、微妙に意味合いが異なり、美羽は嬉しさや感激。
翡翠と楓は単純な…と言うか、どれだけ多彩なのかとの驚きから来ている。
その後、凛は六角形を崩し、6枚の内の5枚を無限収納へ仕舞い、残った1枚を自身のすぐ横の位置に固定。
「単体でも盾代わりに出来るから、攻撃と防御を同時に行う手段としても使えるよ。」
右手の甲をコツコツと平面部分に当て、盾としての役割がある旨を訴える。
「うわー凄ーーい!ね、ね、マスター。これ…本当にボクが使って良いの?」
目をキラキラさせた美羽が凛に問う。
地球で知識や技術、思考を培った凛とは違い、彼女は生まれてまだ1月。
如何に一般人から遠く掛け離れたスペックを誇る彼女でも、主と同じステージへ立つには足りないものがあまりに多過ぎる。
それを見兼ねた凛からの救済。
期待以上に嬉しさが湧き上がり、彼の想いに応えたいとの願望も瞳に込められている。
「うん。むしろ美羽用にと思って用意したものなんだ。」
「マスター…!」
「今は最終調整をしている段階でさ、完成までもうちょっとだけ掛かると思う。だから期待させて申し訳ないんだけど、出来るまで待ってて貰って良い?」
「もっちろん!楽しみだなぁ♪」
「分かった。それじゃ…まだ時間はあるみたいだし、もう少しだけ手合わせしよっか。」
「はーい♪」
凛は時計を見た後に無限収納から木刀を取り出し、美羽もそれに倣う。
「凛くん達ってさ、もしかして普段からあんな感じなのかな…。」
再び模擬戦が始まり、先程より幾分か上がったテンションやボルテージに比例し、より戦闘が激しいものになった中での翡翠の呟き。
彼我の実力差は明白で、目標にするには少々難易度が高過ぎない?とでも思ったかも知れない。
「分かりません…けどお2人共笑ってますし、本気を出したら更に激しくなるのかも…。」
「うへぇ…こりゃ、あたし達も置いていかれないよう頑張らないとだねぇ…。」
「はい…。」
今も尚笑顔で。
それでいて地上だったら相当な被害になるであろう技や魔法を連発する2人に、翡翠と楓の2人はげんなりとした表情を浮かべる。
そんな翡翠達以外にも、凛達の様子を見ている者がもう1人。
「…凄い、凄いです。凛様、美羽様。お2方共、素晴らしくお強いのですね。これでしたら…。」
先程のシーツを纏った女性が、リビングダイニングルーム側から大部屋の中を窺っていた。
彼女は表情の変化こそ少ないものの、その胸中は歓喜で満たされ、今後について想いを馳せる。
丁度そのタイミングで「んがっ」と目覚めた火燐が上体を起こし、大きな欠伸をする。
「ふぁ~あ、良く寝たぜ。雫…はまだ寝てやが…ん?美羽、翡翠、楓がいねぇな。」
火燐は右目を擦りながら辺りを確認。
すやすやと眠る雫は一瞥するだけに留め、姿が見えない3人を探そうとリビングダイニングルームへ。
「つか、顔がやたらベッタベタすんな…ここにも…って!誰だお前!?」
違和感を覚えた顔を触りつつ、洗面所に行こうとする彼女。
道中、大部屋の入口から向こう(火燐側からすれば外とも)を覗く怪しい人物(?)が立っている事に気付き、驚きのあまり出てしまう叫び声。
これにより雫が目を覚まし、隣の部屋からひょこっと顔を覗かせるはエルマ達。
火燐の声は当然大部屋にも届いており、打ち合わせも兼ねた雑談中である凛達の意識も、自然とそちらへ吸い寄せられる。
「火燐ーどうかした…ん?そこにいるのって、もしかして紅葉?」
「はい…。」
紅葉が本人だと認め、火燐が「はぁぁぁ!?」と更に驚きを露わにし、美羽達。
ついでにエルマ達も挙って『えーーーっ!?』と驚愕。
「…ん?皆、どうかした?」
ただ寝起きの雫だけは未だ状況を把握しておらず、手で左目をこしこしと擦る。
しかしそれに答えるものは誰もおらず、凛は何とも言えない表情を浮かべつつも、ひとまず無限収納から赤いジャージを取り出す。
凛が用意したジャージは美羽がいつも訓練の際に使うもので、シーツの隙間から肌が見える=下は裸だろうからそれよりはマシだろうと考えての事だ。
「やっぱりか。自分で言っておいてなんだけど、2本の角が生えてるしもしかしてと思っただけで、あまり自信はなかったんだよね…美羽、悪いんだけどさ、取り敢えず紅葉にこれを着せて貰っても良い?」
「あ、うん、そだね。分かった、ちょっと行って来るよー。」
凛の言葉で我に返った美羽は赤いジャージを受け取り、早速紅葉の元へ。
その後、紅葉への対応は美羽に任せ、他の者達はリビングダイニングルームへ。
程なくして美羽とジャージ姿の彼女が合流。
紅葉の髪型は先程述べた通りで、歳の頃は20前後。
日本人と言うか、東洋人に近い顔立ちのせいか女子高校生に見えなくもない。
それでいて凛や美羽に近い━━━火燐達に勝るとも劣らない、非常に優れた美貌の持ち主。
その度合たるや、種族的に容姿の優れた者が多く、その部類に入るエルマやイルマよりも上な程。
当のエルマ達は西洋人の目鼻立ち。
これまで出会ったり見掛けた人達もこちら寄りで、鬼人に逢うのは初めて。
なので、凛に近からずとも遠からず的な外見に。
それと自らの容姿に自信を持つとかではないが、こうも魅力的な女性が多いのかと内心驚いてもいた。
更に、紅葉の魅力的な部分はもう1つ。
彼女の圧倒的な胸部装甲だ。
先刻はシーツで隠れていた為に気付かず、流石に翡翠級ではないにせよバストが大きいのは事実。
それを裏付けるかの如く、心做しか元気なさげに見える美羽を見る凛を除き、全員の視線が1点に集約された。
「なんだか少し窮屈な様に感じられます…。」
その紅葉が先にソファーに座り、最初に出たのがそれ。
胸に両手を当てながらの1言に、ほとんどの者が複雑な表情を浮かべ、
(紅葉ちゃん…翡翠ちゃんへ迫る位には大きかった…。)
(後で絶対にもぐ。)
一部と言うか、美羽は更に凹み、すっかり頭が冴えた雫は歯をギリギリギリギリ…と擦りながら怨嗟の視線を送る。
向けられた側である紅葉は、何故雫が怖い表情でこちらを見ているのかが分からず、得も知れぬ恐怖に体を震わせていた。
「ナビのログを見て分かったんだけど、紅葉は名付けの影響でネームドモンスターと呼ばれる存在になった。そしてゴブリンからホブゴブリン、レッサーオーガ、オーガを経て、妖鬼に進化したんだって?」
「はい。凛様の仰る通りでございます。」
「やっぱり。さっきの返事の時も思ったけど、話し方に淀みがなくなってるね。」
凛の言葉に、皆がハッとした顔になる。
元々ゴブリンだった紅葉が傾国級の美女へクラスアップ。
そのとんでもないインパクトのせいで、返事だけとは言え喋りが流暢となった事に誰も気付なかったからだ。
自分達が我を忘れる中、凛だけが冷静で謎の影が紅葉だと分かったのも彼。
今も些細ながらも違いを感じ取り、流石だなと皆が心の中で株を上げる。
「…! はい。この姿となったおかげでございます。それと先程、凛様達の訓練のご様子を拝見させて頂きましたが…素晴らしい以外の言葉が見付からず、ただただ驚くばかり。改めて、私が仕えるべき御方は凛様以外いないのだと思い直した次第でございます。」
『………。』
「…前から思っていたんだけどさ、紅葉の言葉遣いはちょーっと堅いかな。僕達はこれから一緒に過ごす訳だし、もっと気楽にしてくれて大丈夫だよ。」
「は、はい。気楽に、ですね。頑張らせ…頑張ります。」
「うん、その意気。いきなりだと難しいだろうから、少しずつ…だよ。」
「はい…!」
「それじゃ、皆集まってる事だし、時間も丁度良いから朝食にしよっか。僕は暁達が起きてるかを見て来る。」
「あっ、ならその間、ボクは朝食の用意をしておくね!」
「そう?ならお願いしようかな。」
美羽、凛の順で椅子を立ち、それぞれ動き出す。
2人以外の面々がそちらに視線を送る中、同じく凛達に視線を向けていた火燐が立ち上がる。
「んじゃあオレは顔でも洗…だった。なぁ翡翠、楓。お前らも大部屋にいたんだろ?皆で訓練とかでもしてたのか?」
キッチンで料理する美羽への配慮から、気持ち小さめな声量での質問。
「模擬戦ね。やったのは凛くんと美羽ちゃんの2人で、あたし達は見てただけ…って言うか。今のあたし達じゃとてもじゃないけど、あんなに高度な訓練は出来そうにないよぉ。もっともっと頑張らないと…。」
「正直、追い付くよりも突き放される一方になるんじゃないかと…。」
「楓ちゃん、それは言わないで…。」
「そんなにかよ…こりゃ、本気で頑張れって事かねぇ…。」
火燐は沈む2人からの答えを受け、自ずと渋面に。
その後も彼女らの説明や確認が行われ、雫、エルマ、イルマの3人は彼女らのやり取りを静かに聞く。
そこへ、暁達を伴った凛が戻って来た。
と言っても、暁はホブゴブリンから金級のオーガへ進化しており、身長2メートル越え。
見た目は如何にも赤鬼、みたいな感じの風貌だ。
それに対し、休んでいた部屋を出る為の出口は2メートル位の高さしかない。
通り抜けようとして思いっきり額をぶつけ、その音で美羽や火燐達が気付くとの変わった登場方法となってしまったが。
暁の足は片方が浮いたままで止まり、その後やや窮屈そうに部屋を出る姿は中々にシュール。
美羽達が微妙な顔になるのも仕方ないと言えよう。
彼の後ろにいる旭と月夜は、双方共銀級のレッサーオーガに進化。
旭は身長180センチ位でオレンジがかった色の体。
月夜は身長170センチ位でやや紫がかった色の体をしており、2人共筋肉質な見た目へ。
小夜はホブゴブリンに進化。
大きさ的に通常の個体より小柄な様に感じられ、月夜と同じくやや紫がかった色の体となっている。
「暁達も起きてたみたいだから連れて来たよー。僕も美羽の手伝いに入るから、皆は準備が終わるまでもう少し待ってて。あ、立っている人は適当に座ってねー。」
暁の登場の仕方は、凛の中でなかった事になったらしい。
話しながら美羽と合流を済ませ、次々とテーブルの上に出来上がった朝食や皿等を並べていく。
一方の火燐達は凛のあっけらかんとした態度。
又は切り替えの早さに呆気に取られたものの、返事をしたり、座ったりする。
目的を忘れてしまった火燐は再び座ろうとし、そこを雫に指摘され、急いで洗面所へ。
速攻で準備を整え、戻って来た頃に凛達も座る。
テーブルの上には、透明な容器に入った牛乳。
それとコンソメスープ、コーンスープ、サラダ。
トースト、フレンチトースト、ベーコンエッグ、ヨーグルト、ホットケーキに、昨晩使ったものと同じジャムやソース等が置かれてある。
「一応用意してはみたけど、足らなかったりとか、昨日と同じだから違うのが欲しいとかあったら言ってね。それでは…頂きます。」
『頂きます。』
「い、頂きます?」
『…イ、イタダキマス。』
こうして朝食が始まるのだが、凛は朝食の一部に昨晩食べたものが入っているを理由にクレームが来ると思っていた。
しかし実際は真逆で、火燐達がホットケーキやフレンチトーストを中心に昨日とは違う組み合わせで楽しむ様子が窺えた。
この様な朝食は初めてな紅葉達は戸惑ったりもしつつ、彼女らだけでなく暁達男性陣にも甘いものが好評だと判明。
(予備で取っておくつもりだった)追加の料理を凛が出し、皆のテンションが上がる様を目の当たりにした美羽がふふっと笑う。
ついでに、凛と美羽の2人だけは野菜多め(美羽に至っては長ねぎ入り)のグリーンスムージーを飲み物枠でチョイス。
皆の興味は引いたものの、その緑色でドロッとしたどう見ても美味しくなさそうなビジュアルの液体。
謎の物体Xとも取れる飲み物を誰が飲むかで軽く揉めた。
そして結果的に選ばれたのは翡翠。
凛のではなく美羽のスムージーを借り、試しに1口飲んでみる。
しかし、野菜を多く入れているからか甘みよりも青臭さ等の負の部分が強調され、そこに長ネギの風味も加わってかなり微妙な反応に。
しかし凛がバナナや林檎を加えたものを新たに作り直した事で一転。
かなり飲みやすいものへと変化した。
渡された翡翠は目を瞑りながら再度口に含み、先程とはまるで別物と呼べる位に違う美味しさに目を見開き、一気に容器が空に。
それに当てられたのが火燐達だ。
先程のマイナス感情は遥か彼方へと消し飛び、翡翠と言う前列が発生したが為に自分も飲みたい飲みたいと言い出し、凛に白羽の矢が。
追加で人数分作らされる主を、美羽は哀れんだ表情で見ていた。
朝食が済み、凛は紅葉が赤いジャージのまま。
暁達は起こした時に急遽着て貰ったローブのままでは悪いと思い、火燐達の分も含めた皆の服を用意する事に。
現在の紅葉の姿を考慮して話し合った結果、暁達も紅葉の後を追う形で進化する可能性が高い。
その場合、日本人に近い顔立ちである彼女らは、洋服よりも和服が似合うのではないかとの意見に。
凛はその場で用意した簡単な黒い和服を紅葉に着て貰い、試しにと2本の鉄扇を帯に差す。
これが非常に様になり、紅葉は皆から絶賛され、恥ずかしそうにする。
暁達には、肌の色と同じ系統の和服を着て貰った。
皆から中々似合うと褒められ、満更でもない様子を見せる彼ら。
1行は大部屋へ向かい、様々な武器を目撃。
凛によって床に並べられたそれらは、直剣、短剣、大剣、斧、大斧、短槍、槍、刀、大太刀、小太刀、薙刀、棍棒の12種類。
凛は武器を指し示し、この中に好みのものがあるかを尋ねる。
その結果、暁は大太刀、旭は小太刀を2本、月夜は薙刀と答え、各自に渡す。
小夜も月夜と同じく薙刀が良いと言われたのだが、彼女は少し小柄だ。
バランスが悪いとの意見が上がり、短槍2本で我慢して貰った。
それと、火燐達4人は凛が余裕が出来るまでは簡単な服で良いとなった。
なので雫、翡翠、楓は髪色よりも少し明るめのワンピース。
火燐はワインレッドのシャツに黒いズボンとなった。
準備を終えた凛達はポータルを使い、再びゴブリンの集落へ。
そこでナビに近くで誰か襲われていないかを探るよう頼み、特に被害らしき情報はないとの報告に、凛が安堵の表情を浮かべる。
「誰も近くで襲われていないのが分かったし、今日は森の中へ入ってみようか。暁も進化したら紅葉みたいな見た目になるかも知れないしね…そう言えば、改めて思ったんだけど、紅葉は姫って呼ばれてただけあって、かなり綺麗になったよね。」
凛が述べ、激しく同意とばかりに全員がこくこくと頷く。
「そんな…恥ずかしいです…。」
「それに…強さも美羽と同じ位になってる。」
「へーすげー。って事は、オレ達よりも紅葉の方が上じゃん。」
「で、ですが、私は今まで戦った経験がございません…と言うよりも動き方が分からないと申しますか…。」
「あー、そういやそうだった。わりぃ、今のは忘れてくれ。」
火燐は自分の発言で紅葉に気を遣わせたと思ったのだろう。
背を向け、手をひらひらと動かしながら前を歩く。
紅葉は身長が160センチ位にまで縮んでしまったものの、内包している魔素量が凄まじい。
強さは美羽に近い魔銀級の妖鬼となり、亜人と呼ばれる種族の1つ鬼人族へと進化。
それ以外にも、旭達が進化したレッサーオーガは銀級。
暁のオーガは金級で、いずれもまだ先へ進化出来る可能性がある。
「(ゴブリンだった紅葉が今は魔銀級の強さか。そりゃ魔素が減る訳だよね。)…そうそう。今日は仮の拠点を建てようと思うんだ。」
「拠点?あー…そーいや昨日、何か言ってたっけな。」
凛の言葉を受け、気恥ずかしさから前を歩いていた火燐が戻って来る。
「うん。けど集落があったここだと紅葉達に悪いでしょ?だからゴブリンさん達を供養した後、別な場所に建てようかなって。」
「凛様、ありがとうございます。」
凛の心配りに紅葉がお辞儀し、彼女に続く形で暁達も頭を下げる。
「僕にはこれ位しか出来ないけどね。」
「いえ、そのお気持ちだけで皆も救われるかと…。」
「ありがとう。皆は拠点の場所をどこにするとか、集落の建物をどうしたいって要望や意見はある?」
「拠点の場所ねぇ…ん?あそこはどうだ?エルマ達がいた木があったとこ。アレなら街にも近いし、(木の)高さも中々。離れた場所でも十分に目立つだろ。それと建物だが、オレは神界みたいな感じで良いんじゃねえかと思う。」
火燐の提案に、全員から同意を得られた凛が頷きで返す。
「分かった。特に反対意見もないみたいだし、それでいこうか。それじゃ皆、手分けしてゴブリンさん達の供養を始めよう。」
『おー!』
全員が一斉に動き、集落内。
及び近隣にまで散らばり、亡くなった人達の回収を行う。
作業自体はナビの協力もあって1時間程で終え、亡骸を凛が土魔法で開けた穴へと入れる。
そのまま土を被せ、土葬と言う形で埋葬したかったのだが、ここは地球ではなく異世界。
アンデッドとして甦る可能性があるとの懸念から、非常に申し訳ないが炎魔法で灰にした後に埋めるとなった。
彼らの供養を済ませた後。
凛は最終チェックと称し、無事な建物を一通り見て回る。
「ここに設置しておいたポータルは消した、と。それじゃ最後に、誰か来ても良いよう、幾つか非常食を置いておこうかな…よし、お邪魔しました。」
見回りを終えた凛は、集落の入口付近にある建物。
その中へ入ってすぐのところに、カ○リー○イト等の非常食やペットボトルの水を数点置く。
最後に再度両手を合わせ、亡くなったゴブリン達の冥福を祈り、皆と共に集落を去った。
それから1週間後
「これはぁ…?」
凛が用意した非常食。
それらを左右の手で持ち、不思議がる者が訪れるのだった。




