15話
「…アイシクルレイン。」
凛が走り、彼の後を美羽達が追い始めてすぐ。
杖を前に掲げた雫による先制攻撃、氷系魔法が1つ━━━アイシクルレイン発動が、開戦の狼煙となった。
直後、オーク達の真上に大きな魔方陣が出現。
その魔方陣から、幅10センチ、長さ50センチ程の氷柱が無数に降り注いで来る。
アイシクルレインのアイシクルとは、氷。
つまり水と風が合わさった複合、更には中級魔法へ該当される魔法だ。
そんなアイシクルレインだが、術者が指定した座標(ほぼほぼ上空だが)に、半径30メートル程の魔方陣を展開。
範囲内に氷系初級魔法アイスニードルを、10秒間降らせ続けるとの効果を持つ。
そしてそのアイスニードル。
1つ1つが600ミリのペットボトル位と中々に大きく、また通常の場合だと1回の使用で生み出される本数は3本。
しかしながら込めた魔力や状況に応じ、本数を減らしたり増やす事も可能だったりする。
アイシクルレインが発動してしばらく。
魔法陣が消え、それに付随して氷の雨もピタリと停止。
下にいるオーク達は半分以上が身体中穴だらけとなり、倒れ込む形で息絶えていた。
残りの半数近く。
その内のオークが7体とオークアーチャー2体が、同じく体の何箇所かを穿たれながらもどうにか立つ姿を確認。
ただ、ダメージを受けた者はいずれもオークかオークアーチャーのみ。
上記以外の個体はいずれも健在だった。
その1つであるオークメイジ。
彼らは3体中3体が、魔力による球体状の障壁…魔力障壁を自身の周りに纏い、無傷。
ハイオークやオークジェネラル達は、手に持った2本のバスタードソードやブロードソード、盾や槍を駆使。
氷柱を破壊したり防御、身体強化を施す等していずれも軽傷。
或いは無傷でやり過ごしていた。
「お、雫やるじゃねぇか。」
「ブゥーッ!!」
火燐は雫が放った魔法の結果に満足しつつ、傷だらけになりながらも仕掛けて来たオークの攻撃を(少し体をずらす形で)回避。
「オレも負けてらんねえな!…っと。ん?」
「ブ、ブゥ…。」
(おいおい。凛の奴、コレが申し訳ないっつー代物かよ。普通にヤベーやつじゃねぇか。)
お返しとばかりに袈裟斬りをお見舞いする火燐。
結構な力を込めたとは言え、彼女はこうも簡単に両断出来ると思わなかったらしい。
ほとんど抵抗らしい抵抗を感じないままオークを斬り伏せ、軽く驚いた様子で大剣を見やる。
(雫は…驚いてるか。無理もねぇ。オレが気付いたんだ、あいつも分からねー訳ねぇわな…つか、絶対間に合わせでってレベルじゃねぇだろ、コレ。もし本気でってなった場合、どこまで…?)
続けて何となく後ろに水を向ければ、仲間である以上にライバルの雫が足を止め、難しい顔で杖をガン見。
それに釣られ、自分も複雑な思いに…となったのは仕方ないのかも知れない。
アクティベーションで創られたものはあくまでも量産品。
故に、質もそこそこでしかない…と凛は思っている。
しかし、その量産品を用意した本人(?)であるナビが妥協を許さなかった。
チタンや鋼等の硬い金属を圧縮し、強度を向上。
加えて、雫や楓が持つ杖の先には、無色透明な水晶が装着。
消費魔力を抑え、魔法を増幅させる等の効果が付与されている。
結果、量産品にも関わらず、高位の冒険者が持ってもおかしくない位にぶっ飛んだ性能へ仕上がったとの流れだ。
「えい。」
「ぶべらっしゅ!」
そして先程も述べた通り、強度は折り紙付き。
強度がある=鈍器としても優秀だと捉えた雫は、向かって来たオークを殴り倒したりもしていた。
「「ブゥ!」」
視点は火燐へ。
好機だと捉えた2体のオークアーチャーが、それぞれ弓を引く。
放たれた矢は真っ直ぐ火燐へと迫るも、ひたすら大剣を眺める彼女は思考の真っ只中。
逃げるどころか、動く素振りすら見せないでいる。
尚も矢は空中を進み、あわや大惨事…になるかと思いきや。
2本の矢は、いつの間にか展開していた魔力障壁により無力化。
カンッカンッと弾かれた音により火燐がハッと我へ返り、オークアーチャー達は「「ブモッ!?」」と驚きを露に。
「ブガガッ!!」
ならばと、オークアーチャーの近くにいたオークメイジがファイアボールを行使。
「…残念だったな。」
「「ブヒィィッ!!」」
しかし冷静にさえなってしまえばこちらのもの。
火燐は軽々避けた後、オークアーチャーへ急接近。
瞬く間に2体共倒してみせた。
「…火燐ちゃん、油断し過ぎですよ…?」
「わりぃわりぃ。助かったぜ楓。さて…。」
火燐に魔力障壁を施したのは楓。
訝しがる彼女に軽く詫びを入れつつ、火燐は先程魔法を放ったオークメイジの方を向く。
「そのオークメイジ、いっただきぃっ!」
「ブ、ブゥ…?」
臨戦態勢を取るオークメイジ。
しかしそんな彼へ対し、真っ先に対応してみせたのは翡翠だった。
少し離れた位置にいる翡翠がテンション高めで矢を放ち、吸い込まれる様にしてオークメイジの側頭部へ。
オークメイジは「え、えぇ…?」と気の抜ける様な声を最期に、矢が刺さったのとは反対方向へと体を傾けていく。
「あーーーーー!?翡翠おまっ!!」
「へへーーーっ♪」
その光景を目の当たりにした火燐が不満を吐露するも、翡翠はどこ吹く風。
ただただ得意気な顔を浮かべるばかりだった。
「…ん。終わった。」
一方の雫。
ハイオーク達を倒し終えた彼女は、やりきった感を出しつつ一息ついたところだった。
と言うのも、雫が小柄。
加えて先刻の殴打を見るに、もう同じ魔法は撃てない…とでも考えたらしい。
指揮役であるハイオークが余裕の表情で生き残ったオーク達を雫へけしかけ、しかし悉く彼女が放つアイスニードルにより一方的に駆逐。
やがて全ての部下達が倒れ、仕方ないとばかりに自身が相手を務める。
雫はオーク達と同様、アイスニードルを射出。
1度や2度どころか、何度放ってもハイオークが持つ双剣によって砕かれ、一切通用しなかった。
当然雫にとっては面白いはずもなく、自然と渋面に。
攻撃する気も失せ、ハイオークを睨むだけに留まる。
それをハイオークは、魔力が心許なくなったと判断。
フッと漏らし、不敵に笑ってみせた。
それは優越感から来る行動。
だが戦闘中に、ましてや(あくまで思い込みとは言え)ちょっと有利になったからとして良いものではない。
現に雫はハイオークのドヤ顔を見てムッとなり、初級のアイスニードルではなく中級。
アイシクルレインと同じ立ち位置にある、アイシクルショットを放ってみせた。
アイシクルショットは対象の真上ではなく、術者の前方に魔方陣を生成。
アイシクルレインと同じく10秒間、直線方向に氷柱を飛ばすと言うものだ。
範囲こそ幾分か狭まるものの、先程のアイシクルレインとは異なり、氷柱1つ1つが一升瓶程にまでサイズアップ。
かつ発射速度が上がり、比例する形で殲滅力も増大。
ハイオークは余裕の態度から一転。
あっという間に防ぎ切れなくなり、ほぼ原型を留めない状態で事切れる結果となった。
「「ブ、ブヒィ…。」」
あれから1分近くが経ち、翡翠の矢と楓による岩の杭。
それと火燐の斬撃により、オーク2体の討伐が完了。
「よし、今倒したオークで最後だな。オレ達じゃ凛の加勢は厳しい、だったらせめて美羽の役に立つ位の事はしねぇとな。急いで合流すんぞ!」
「分かった!」
「分かりました…。」
「ん。」
火燐はオーク達が再び起き上がらないかの確認後、皆に声掛け。
翡翠に楓。
それと丁度到着した雫はそれぞれ火燐の言葉に頷く等して応え、一斉に動き出した。
時間は少し巻き戻り、美羽がオーク達の元へ辿り着くより少し前。
2体いるオークジェネラルの内、片方の全身鎧に身を包んだ個体は、左手に持った大きめの丸盾を上に掲げた状態で固定。
意識、構え共にアイシクルレインから身を守る事に専念している様だった。
故に、美羽は防御の構えを解き、動き始めるまでにそれなりの時間を要するのではと思案。
もう片方である、槍を持ったオークジェネラルを標的として定めた。
槍を持っているオークジェネラルはもう1体と異なり、動きやすくする為になのか腕や腹部が露出。
アイシクルレインを高速回転させた槍で防ぎ、並行して美羽の事を注視。
彼女の動向をしっかりと探るとの油断なさが窺えた。
「…!」
そうこうしている内に止んだ氷の雨。
槍を持ったオークジェネラルはそれが分かるや否や防御姿勢を解き、迎撃の構えを取る。
「ブモォッ!!」
続けて、それまで両手に持っていた槍を左手だけに持ち替えるオークジェネラル。
少し引いた後に左足を前に踏み出し、鋭い突きを放つ。
「そう来ると思ってたよ!」
「ブォッ…!?」
美羽はその流れを予期していた。
タイミングを見計らい、槍を突き出すと同時に跳躍。
「でぇぇぇぇやぁっ!!」
空中で姿勢を整えた彼女はオークジェネラルから後方へと降り立ち、低い姿勢で前方へ疾駆。
白と黒の双剣を抜き放ち、オークジェネラルの腰と胸部分を横一文字に両断。
見失った美羽を探し、振り返ろうとした時には既に彼女はすぐ目の前の位置に。
当然ながら対応が間に合うはずもなく、驚愕に満ちた顔ままオークジェネラルは綺麗に3分割されるとの運びに。
「ブ…ブォォォォォォ!!」
ただそれは、もう1体のオークジェネラルを怒りを買う行動でもあった。
残された個体、丸盾とブロードソードを左右の手に持ったオークジェネラルは、仲間を倒されたのを目の当たりにし、激昂。
大きな雄叫びの後にギンッと美羽を睨み、彼女がいる方向へ一直線にダッシュ。
「…ブモォォォォォッ!!」
道中、オークジェネラルは態勢を維持しながらにして丸盾を前に構え、体当たり攻撃。
「くっう…!」
「ブモォッ!!」
「きゃあっ!」
それを美羽は双剣を斜めに重ねる形で防御。
だが、更に力を加えられた事により、無理矢理空中へと弾き飛ばされてしまう。
「はぁー…びっくりした。」
しかし、美羽としては慣れたもの。
彼女は凛やマクスウェルから幾度となく弾かれ、投げ飛ばされたからだ。
それらの経験から慌てる事なく空中で体勢を整え、オークジェネラルから20メートル程離れた地点に着地。
「今度はボクから行くよー!」
再度前傾姿勢を取り、勢い良く地面を蹴る。
「…。」
対するオーク。
黙ったまま剣と盾を前にやり、迎撃する構えでいる。
「やっ!」
ガィン
「ブゥゥ…ブモッ!!」
「おっと!」
低い姿勢のまま、右手に持つ白い剣を右上方向へ掬い上げる美羽。
オークジェネラルはそれを丸盾で滑らせ、おかえしとばかりにブロードソードを振りかぶるも、バックステップにより避けられてしまう。
「ブウ、ブッ!」
「まだまだ!」
オークジェネラルは更なる追撃をとブロードソードを横薙ぎ。
若しくは丸盾を使う等する。
それらを美羽は軽い跳躍だったり、天歩による2段ジャンプで回避。
そのまま、同じく天歩で生成した足場を利用し、空中にいながらにしてオークジェネラルへと吶喊。
オークジェネラルは驚きこそしたものの、どうにか丸盾で防御。
攻撃失敗を悔しがる彼女を尻目に、今攻撃されては堪らないとして仕切り直しを図った。
それから2人は数分程度、斬り結んでは離れるを繰り返す。
「モブァッ!!」
しかしオークジェネラル側が焦れ、一気に勝負を決めようとでも思ったのだろう。
気合いを入れ、丸盾を前に構えつつ渾身の力でブロードソードを振り下ろした。
「はぁぁぁああっ!!」
対する美羽は冷静そのもの。
双剣で攻撃を受け止めた後、交差する形で斬り上げ攻撃を放った。
それは彼女の華奢な体には不釣り合いな程に強い力。
加えて、ここへ来て初めて大きく優位に立った場面でもある。
オークジェネラルはショックを隠し切れなかった。
彼女の見た目に反する力強さは勿論。
武器だけでなく、前方に構えていた丸盾までもが上方向へと弾かれ、強制的に万歳の様な体勢にさせられたのだから。
「やあぁっ!!」
「ブ、ブヒ…!」
そんな隙だらけの状態を美羽が見逃す道理はなく。
今度は袈裟斬りと逆袈裟斬りをぶつけ、オークジェネラルの胸に大きな傷を付ける事に成功。
オークジェネラルは驚愕に満ちた顔のまま、ゆっくりと仰向けに倒れていくのだった。




