14話
「改めまして、僕の名前は凛。君達がオークに襲われてると分かって助けに来たんだ。なので事情を聞きたいところなんだけど、まずは回復してからにしようか…ハイヒール。」
天使族は光属性に適性があり、(ボロボロながら)天使であるエルマもまた然り。
そんな彼女は凛が武器だけでなく回復魔法まで扱えると分かり、即座に内心で「えっ、ハイヒール!?」とツッコミを入れる。
(この子、強いだけじゃなくて光に適性が…それに少なくとも上級はあるんだ!良いなぁ…。)
ただそれも一瞬の事。
エルマ自身あまり魔法が得意ではなく、加えて今は適性が初級にまで下がった状態。
その彼女に凛が施したのは上級回復魔法ハイヒール。
傷だけでなく骨折まで治療してくれる効果を持つそれを扱えるだけに留まらず、まだまだ余裕がありそうな雰囲気。
少なくともと零した所以はそこで、超級か。
将又最上級ですらもしかしたら使えるのではないかと、どこか諦めを含んだ羨望の表情で彼を見やる。
リルアースでは生活魔法や闇、無、それと複合属性を除く炎・水・風・土・光の5属性に回復魔法が存在。
光属性は初級〜最上級で、炎・水・風・土属性は中級と上級のみとの構図だ。
後者は光属性で言う初級と中級の効き目しかないものの、あるのとないのとでは雲泥の差。
パーティーだったり行商、有事等の際は特に重宝がられる。
肝心の光属性は女神教が躍起になって動いており、フリーで出会える確率はまずないに等しい。
可能性があるとすれば、女神教の目が届かないよう上手く立ち回る。
或いはそもそも機会すら作らせないを目的に、可能な限り外へ出さず、屋内で過ごさせる等して徹底的に秘匿…的な感じだろうか。
1度連れ去ってしまうと会うのが難しくなり、適性次第では高い地位に据え置かれて余計に困難へ。
それが身分の違いへと繋がり、今生の別れになるケースも少なくないから来ている。
ともあれ、そんな回復力に差がある光属性だが、超級と最上級になればどちらも失った部位を戻す効果がある。
しかし、今は超級のエクストラヒールまでしか使える者がおらず、世界的に見ても人数はそう多くない。
理由は勿論、必要以上に危険を冒さないから。
ここでも安定を求めるとの弊害が。
加えて費用の問題。
初級回復魔法ヒール、及び中級回復魔法ミドルヒールは擦り傷や軽度の斬り傷を回復。
上級回復魔法ハイヒール、それと超級回復魔法エクストラヒールに関しては先述の通り。
そして最上級回復魔法パーフェクトヒールに至っては、(戦闘や事故等で発生した)瀕死レベルの傷や損傷まで完治。
更に聖なる光により、あらゆる状態異常を瞬時に無効化。
病気(地球で言うところのガン)ですら、ある程度の効果を及ぼす程だ。
だが属性に適性がある=攻撃魔法も回復魔法も同じ位使える人材は稀。
大抵が攻撃側。
若しくは防御や回復に重きが置かれ、それをカバーする目的でもう片方を使用する流れとなる。
上級の攻撃魔法は扱えても回復魔法は使えない、又は反対と言う者はザラ。
そもそもこの世界では熟練と呼べる魔法使い自体が希少。
回復魔法まで使える者は更に希少と言うのも重なり、腕の良い魔法使いを巡っての争いも決して少なくないのだとか。
「…これで大丈夫だと思う。」
凛が翳した手を下ろす。
本来、エルマは傷の具合からして、ヒールでも十分と言えば十分。
しかし凛は念の為にと言う意味も込め、ヒールではなくハイヒールを選択肢として選んだ。
「…回復ありがとうございます。凛様ですね、あたしはエルマと言います。」
「エルマさん、僕は様付けで呼ばれる程偉くないよ?」
エルマは年頃の外見、つまり大人だ。
なのでちゃんは論外、いきなり呼び捨ても何なのでさん付けを選んだ。
「そうなんですか?先程の動きに加え、ハイヒールも使えるからあたしてっきり…。」
「ま、まぁ僕の事は置いといて。エルマさんと、その…。」
追求されては不味いと判断した凛は、適当に話を濁しつつ未だ目覚めない黒髪の少女━━━イルマに視線を移す。
「あそこで倒れてる子の事ですよね?彼女はイルマって言います。」
「イルマ…顔だけじゃなく、名前まで似てるんだね。」
「そうなんです!あたしは天使でイルマちゃんは悪魔。種族的には敵対している者同士だから仲は悪いですけど、あたし達はとーーーっても仲が良いんですよ!」
先程までの控えめの姿勢とは打って変わり、(身振り手振りを交え)嬉しそうに説明するエルマ。
それはイルマのすぐ傍で行われ、「う、う〜ん…」とイルマが魘された顔をしている様な気がしなくもない。
凛はそんな2人を微笑ましく思い、くすりと笑いながら「エルマさんが必死でイルマさんを守る位だもんね」と返す。
「はい!それで、あたし達はちょっとした事情で2人旅をしているところです。」
「え、君達2人だけ?それだと危ないんじゃ…。」
「仰る通り。ですがまぁ、あたし達は見ての通り、翼があります。なので危なさそうな場面に遭遇しても、飛んで逃げてました。」
「…けど、この近くで休憩していたところをオークに襲われた、と。」
「そうなんです!と言うか良く分かりましたね!?」
「何となくそうじゃないかなぁって思って…。」
「そんなに分かりやすかったかな…?あ、話を戻しますね。気付いたら既に下からオーク達が石を投げてる状態で…しかも運悪く、その石がイルマちゃんの頭に当たっちゃって…。」
話しながら、エルマはイルマの前でしゃがみ、優しい手付きで彼女の頭を撫でる。
「(地面に向かって)落ちて行くイルマちゃんをどうにか支え、あたしが守らなきゃって思いでひたすら頑張りました…。」
エルマは言葉にこそしなかったものの、慌ててイルマの後を追い掛け、翼をはためかせながら落下速度を低減。
右手でエルマの体を抱き抱え、反対の手で持った盾でオーク達からの攻撃を防いでいた。
「あれ?今更ながら、良くあんな器用な動きが出来たな…。」
「見てないから多分としか言えないけど、物凄く集中したとか。イルマさんを大事に思うあまり、普段以上の力を発揮したとかじゃないかな。」
「あー、確かに。何が何だかと言う感じではありましたね。すっごく集中していた事だけは覚えてますが…後は凛様が来るまで、ひたすらイルマちゃんを守りながらオーク達と戦ってたって感じです。かなり限界に近かったですし、もし凛様が来て下さらなかった場合の事を考えると…。」
「…だね、間に合って良かったと心の底から思うよ。これがもっと遅かったらなんて…想像したくもない。」
「はい…あたしも同じです…。」
眉を顰める凛にエルマが同調、顔を真っ青にした。
オーク達の襲撃をこうして凛が未然に防いだ訳だが、これが後1分でもズレてたらエルマは気絶。
1時間もすれば既にオーク達の集落へ連れ去られているだろうし、明日以降だとどうなっていたか分からない。
良くてオーク達の子を宿しているかも知れないし、生きているかどうかすら怪しい。
どちらにせよ、『普通』に戻る事はまず困難だと捉えて良いだろう。
凛の救出は正に間一髪。
PTSDにならずに済んで良かった、と密かに胸を撫で下ろした。
「もうすぐここは戦場になる。だからイルマさんは安全な場所へ━━━」
「マスターーー!!」
今後の方針について凛が話していると、遠くから叫ぶ声が。
これにエルマが何事かと身構え、聞こえた方角に視線をやればそこにいるのは数人の少女。
パチパチと目を瞬かせ、あれ?見間違いかな?と言いたげな顔を凛に向ける。
「大丈夫、僕の仲間だよ。だから安心して。」
「良かったー!オークキングが来るって聞いてたのに、実際に見えたのは女の子ばかりなんですもん。あたしの目がおかしくなったのかと思いましたよ。」
「オークキング?…あー、さっきのやり取りが聞こえてたんだ。なら勘違いしても仕方ない、のかな?」
「やっと追い付いた!」
凛とエルマが会話のやり取りをしている間に美羽達が到着。
笑顔の美羽が先頭で、その後ろに火燐達が続く形だ。
「皆、お疲れ様。かなりギリギリではあったけど、どうにか間に合う事が出来たよ。こちら、天使族のエルマさん。あちらにいるのは悪魔族のイルマさんね。」
「初めまして、ボクは美羽って言います!」
「わわっ!こちらこそ初めまして!あたしはエルマです!」
凛の紹介を受け、美羽が挨拶。
それに恐縮しつつエルマも応え、ペコペコと頭を下げ合う。
(背中に翼が!触らせてってお願いしたら触らせてくれるかな?)
(凛様もだけどこの美羽って人可愛い過ぎるよー。うぅ…笑顔が眩しくて直視出来ない…。)
ただ内心ではそんな事を思い、美羽は合間合間にエルマの翼をチラ見。
その美羽が尊いあまり、エルマは目を必死に閉じるとの但し書きが付くが。
エルマと倒れているエルマを見比べた雫達は「双子?」と言いたげな目線を凛へ送っており、当人は当人で「2人共、元気だなー」と、のほほん。
「凛。」
そんな感じで軽くグダり始め、話が進まないと判断されたのだろう。
火燐に促され、凛はんんっと居住まいを正す。
「ゆっくり自己紹介をしたいところだけど、そろそろオークキング達が到着する頃だし、後にしようか。それとゴメン、誰かイルマさんの回復をお願い出来る?」
「回復なら私が…アースヒール。」
凛の目配せに逸早く反応したのは楓。
イルマの下へ小走りで駆け寄り、土系上級の回復魔法アースヒールを発動。
彼女が持つ杖の先端から、淡く光る茶色い球みたいなものが放たれ、「え、もしかして今のも上級回復魔法?」とエルマが釘付けに。
初めて見るタイプの魔法にそのまま意識を持っていかれそうになるも、それは叶わなかった。
「エルマさん、今回は時間がなくて間に合わせのものになっちゃうんだけど…。」
と言って、凛がどこから(実際は無限収納)か鈍色の剣と盾を取り出したからだ。
「え…?い、いえっ、わざわざありがとうございます!(あれ?いつの間に剣と盾を?それにどこから出したんだろう…。)」
まさかの展開に自分でもビックリな速さでそちらを向き、沢山の疑問符を浮かべながら半ば半壊した武具とチェンジするエルマ。
「ひとまず、これで大丈夫だと思います…。」
そうしている内に楓の回復が終わったらしい。
やり切った顔を浮かべる彼女へ、早っ!?とのリアクションをエルマが取っていた。
「どうにか間に合ったか…。」
ギリギリとは言え、エルマ達を救うミッションを終えた事に凛は安堵。
続けて、ドドドド…と地響きが届けられる様になった後方を向く。
視線の先…500メートル程離れた地点。
こちらへ向け、真っ直ぐひた走るオークの集団を確認。
その集団のほとんどは、身長180センチ前後の者で構成。
棍棒だったり、刃の欠けた切れ味悪そうなボロボロの剣を持つオーク。
そのオークと同じ風貌でローブを羽織り、杖を持ったオークメイジ。
それと、同じく弓と矢筒を携えたオークアーチャーの姿も。
他に、身長2メートル程で剣を左右に持ったハイオーク。
ハイオークより40センチ位高く、重そうな全身鎧と槍。
或いはブロードソードと丸盾を携えた2体のオークジェネラルが、オーク達の前を走る。
そして、そんなハイオークやオークジェネラルの更に前方、身長が3メートル以上はあるオークキングがいた。
オークキングはオーク達を率いる形で先頭を走っており、(オークジェネラル含め)誰よりも質の良さそうな軽装を着用。
そして右手には、刀身だけでも凛の身の丈以上の長さを誇る、肉厚且つ重そうな黒い大剣を所持している。
「エルマさんはここで待機。イルマさんの守りをお願い。」
「はい!」
「火燐、雫、翡翠、楓はオーク達を。美羽は片方のオークジェネラルをお願い。余裕の出来た方が、もう片方のオークジェネラルとハイオークをって事で頼むね。」
「分かった!」
「ああ!」
「ん。」
「任せてー!」
「分かりました…。」
「僕は…先頭にいるオークキングの相手をさせて貰う!」
皆の頼もしい返事を背に、凛はオークキングへと焦点を定め、前方へと駆け出すのだった。




