13話
オーク。
それは2足歩行する豚の魔物の総称の事を指す。
豚の名を冠する通り、ピンク色の肌に、太った体格。
しかも一般的な成人男性よりも大柄なのがほとんど。
ならばさぞかし動きが鈍いのだろうと思いきや、実は脂肪で覆われているのは表面部分だけ。
内側は厚い筋肉で満ち、見た目の割に意外と素早かったりする。
理性のない個体が大部分を占め、本能の赴くままに行動。
にも関わらず野生が為せる業か頭の回転がそれなりに早く、場合によっては熟練者ですら危うい時も。
そんなオークだが、1人で倒せるまでになって初めて一人前として扱われる。
なので銅級への昇格試験に於いて、オーク討伐が課題で出る位、ポピュラーな魔物とも。
討伐後、(緊張が解けるのが影響してか)肉は柔らかいものへと変化。
しかもそこそこに美味く、且つ市場に良く出回るとの観点から、こちらでも基準扱いに。
彼らは単体よりも集団での行動を好み、しかも性欲が旺盛。
雄がほぼ全部の割合を占める事から、他種族。
その中でも取り分け人間や亜人、獣人の女性を中心に襲い掛かり、子供を生ませようとする。
その子供は100%オークとして生まれるを理由に、良くも悪くも見付け次第討伐並びに駆逐が推奨されている。
話は戻り、オークと戦っている少女の全貌が明らかに。
彼女は見た目が16歳位。
白い髪を左側に寄せたサイドテールで、頭の上には淡い光を放つ天輪、背中には白い翼を。
倒れている少女も、同じく見た目が16歳位。
黒い髪を右側に寄せたサイドテールの髪型で、背中に蝙蝠の様な黒い羽、ついでに先端が尖った尻尾まで生やしていた。
白髪の少女対オーク達との戦闘が開始されてから、現時点で20分以上が経過。
目の前にいるオークだけならまだしも、倒れたもう1人の少女にも気を配っているとの状況だ。
体格の違いによる身体的疲労は勿論。
プレッシャーから来る精神疲労もかなり溜まった影響で足は震え、剣と盾を構えるのがやっとと言う状態でもある。
(うっ、意識が…あたし達、ここで終わっちゃうの?けど、それならせめて、イルマちゃんだけでも…。)
はぁ…はぁ…と息を荒げる白髪の少女━━━天使族のエルマは、限界以上に肉体を酷使した影響から意識が朦朧とし、危うく気を失いそうになるのをどうにか堪え、そんな事を思う。
突然目の前にいるオーク達に襲われ、2体は魔法でどうにか撃退出来たものの、そこで魔力が尽きてしまった。
接近戦を余儀なくされ、結果はご覧の通り。
オーク達は数的優位を利用し、後ろに倒れている黒髪の少女イルマに攻撃を仕掛けようとする。
エルマはそれが陽動だと分かってはいるものの、彼らが動けばこちらも動かざるを得なくなり、否が応でも消耗させられる。
それらが繰り返し行われたせいで全身至る箇所に擦り傷や打撲傷を負い、痛みによる危険信号から気が遠退きそうになるのを必死に我慢。
「ブゥゥッ!」
やがて3体いる内のオーク1体が駆け出し、掛け声と共に右手に持つ棍棒を大きく振りかぶる。
「あ…。」
対するイルマ。
極度の疲労から反応が遅れ、今からどう対応しても間に合わないと判断。
目をギュッと瞑り、せめて痛くありません様にと願いながら身構える。
「危ないっ!!」
そこへ、凛の渾身の体当たりがオークに炸裂。
大人と子供…は言い過ぎにしても、体格差がかなりある。
なのでオーク側が有利かと思いきや、軍配が上がったのは凛。
彼がその場に残り、オークは「ブヒイイィィィィィ…」と情けない声と共に、斜め上方向へと飛んで行った。
「…?…え?あれ?」
離れた場所からドドーーーーンと音が聞こえた気もしたが、エルマ的にそれどころではない。
攻撃が来ないのを不思議に思い、探る様にして目を空けてみれば、そこにいたのは黒髪の少女だったからだ。
オークが忽然と姿を消し、(反動により)何やら目を回しているみたいだが、とんでもない美少女の出現はインパクト抜群。
思いっ切り面食らい、置かれた現状等すっかり忘れてしまっていた。
「…って言うか誰!?」
やがて、我に返ったと同時にエルマの口から出たのがそれ。
彼女の心の底からのツッコミに、呆然自失となったオーク2体をビクッと強張らせた。
「うぅ…失敗した。もう少し強めに身体強化を掛けておけば良かったかも…。」
「あ、あの…。」
頭を振り、自らの詰めの甘さに少し落ち込む凛。
話し掛けられた事に全く気付いておらず、「ナビ、オークの強さって…」と語り出す始末。
以後彼らだけで話が勝手に進み、エルマを困惑させていく。
「助けて頂いて…って、あれ?(あたしの声が聞こえてない?誰かと話でもしているのかな?)」
《はい。一般的なオーク族は銅級の強さとされております。オークは厚い皮下脂肪の下に引き締まった筋肉がある為、見た目以上に重く、物理攻撃が効きにくくなっております。》
「だから反動が大きかったのか…。」
《尚、近くにオーク族の集落があり、オークの派生であるオークアーチャーにオークメイジ。オークの上位個体であるハイオーク。更にその上位個体オークジェネラル、それらを統括するオークキングの存在が確認出来ました。》
「この近くにオークの集落があって、ハイオークやオークジェネラル、オークキングまでいる、と…。」
「あの!すみま…お、オークキング!?」
《はい。ただ、オークの断末魔に気付いた模様。オークキングが20体の配下を連れ、こちらへ向かって来ております。》
「あー…今の悲鳴で(オークキングに)気付かれちゃったんだ。」
「え…。」
「訓練は沢山積んだけど、実際の戦闘は初めてだし、多少の心構えとかしておきたかったんだけどなぁ…けど、そうも言ってられないか。」
「………。」
エルマは目の前にいる少女の独言。
それでいて、妙に確信めいた内容に付いていけなくなったのだろう。
いつしか「私に気付いて?」アピールも控え、2体のオーク共々押し黙ってしまう。
故に、油断していた。
それも完全にとの形で。
「…そこの君。」
「…!」
突然水を向けられ、何の心構えも出来ていないエルマが「は、はいぃぃ!ななな何でしょうかぁ!?」と返す。
勢いこそ良かったものの、若干どもりながらの返事に凛がクスッと笑う。
今の彼は、地球の時と異なり里香が施した(認識をズラすとの意味での)魔力フィルターがない状態。
その可愛さが十全に表現され、思いっ切り当てられたエルマが「あ、可愛い…(キュン)」と絆されていた。
「緊張しないで。それより、怪我は大丈夫?」
(ダメ…これ好きになっちゃうやつ…ってそれこそダメダメ!だって相手は女の子だよ!?でも、本当に可愛い…。)
「あれ?聞こえてないのかな?もしもーし?」
凛の笑顔を見惚れ、何やら葛藤している内に重ねられた質問。
エルマは半ば慌てて気を付けの構えを取り、「は、はい!!」と先程以上に元気良く(?)答える。
「たっ、助けて下さりありがとうございます!おかげで、大事に至らずに済みました!」
「良かった。そう言って貰えると、こちらも来た甲斐があるよ。」
微苦笑の後、優しい笑顔になる凛。
純粋に心配してくれているのが嫌でも伝わり、「こ、これは反則だよぉ…!」とエルマの目はハートに。
彼の性根の良さが元で、完全にメロメロ状態へと陥っていた。
「…あ、そうだった。僕が体当たりをしたオークは…?」
「…!あー、その…何と言いますか…。」
しかしす冷静さを取り戻し、気まずそうに明後日の方へと視線を移す。
彼女が向いた先…高さ10メートルの位置にオークがめり込んでいるのが視認出来、少し時間を置いて「あ、あれか!」との声が。
「え、もしかして(ぶつかって以降)動いてない?と言う事は…。」
「多分…あのまま死んじゃってるんじゃないかなぁ…なんて。」
「ですよねー…。」
2人はぐったりとしたまま動く気配のないオークを目の当たりにし、同じ考えへと至ったらしい。
揃って何とも言えず、浮かべるのは引き攣った笑みのみだった。
「…まさか、こんな形で初めて命を奪う形になるなんて、予想外も良いところだよ…。」
(え、初めて?)
「けど普通に倒すより(負担が掛かるとの意味で)マシだと思えば良い、か…?それに、今は時間もない。オークキング達が来る前に、ちゃちゃっと片付けてしまわなきゃだ。」
凛は初めて奪った命に思うところがあったものの、即座に気分を変え、立ち直る。
そして軽く困惑気味の少女を他所に体の向きを変え、視線の先にいた者…オーク達を見やる。
オーク達は自分達よりも小さな見た目にそぐわず、同族を吹き飛ばすだけの力を持つ不可思議な存在…凛を前に、どう動くか決め倦ねていた。
手を出した場合、間違いないなくやられるのは必須。
逃げようにも、激突する前の速度を見る限り叶わないだろう。
それらがせめぎ合った結果、動く事を躊躇い、注意深く見るしか出来ないでいる。
何より、向こうが歩み始めてからいつの間にか手にしていた武器。
アレはヤバい。
細身ながら、自分達の頭のものと張り合うか、それ以上の威圧感を放つではないか。
ただでさえ驚きと恐怖で体が動かないのに、こちらに水を向けられてギョッとするオーク達。
ふと気付けば斬り伏せられ、碌に声も上げられないまま意識を暗転させる最期となった。
(えっ、いつの間に武器を?しかも移動まで。あたしがあんなに苦労したオークをあっさり倒しちゃった…。)
黒髪の少女(?)がオーク達の方を向いたと思ったら、戦闘まで終わっていた。
ゆっくりめに視点を動かしたとは言え、ほんの数秒の内に刃物が握られ、通り抜け様に斬り伏せたと来た。
挙げ句、返り血1つ浴びずに。
(可愛い上に強いとか、一体何なのこの子ーーー!?)
故に混乱。
眼前にいる少女は庇護したくなる見た目に反し、実は卓越した技術の持ち主だった。
どこから武器を出したのかの不明点含め、あまりにも違い過ぎるギャップに、理解が追い付かずグルグルと目を回す。
「ふぅ…。」
「(…って、あれ?何か急に落ち込んだ感じになっちゃった。)…あ、あの。」
程なくして、難しい顔で嘆息する凛を目の当たりにし、再びクールダウン。
何か思うところでもあったのだろうかと心配になり、恐る恐るながら声を掛けてみる。
「…うん?」
「あ、いえ…顔色が優れない様に見えたので…。」
「一応、僕にとってはこれが初めての実戦でさ。あ、さっきのを除いた場合ね。」
「え?あ、そう…でしたね。(と言う割には、動きに全く澱みが感じられなかったけど。)」
「うん。しかも一応は人に近い見た目でしょ?だからちょっと思うところがあって…。」
「な、成程…?」
「けど、もう大丈夫。心配してくれてありがとう。」
エルマ的に、向こう側がお礼を述べるなんて予想外も良いところ。
こっちからしなきゃなのに!との戸惑いから、あれ?そもそもどうしてこうなったんだっけ?と混乱。
目をぐるぐる回し、どうにか「い、いえいえー!」と意思表示をしてみせるのだった。




