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ゆるふわふぁんたじあ(改訂版)  作者: 天空桜
プロローグ
14/257

12話

ドドォォォォン


首と胴(ついでに両腕も)が分かたれたオークキングが倒れ、「ふぅ」と漏らしつつ凛は刀を鞘に収める。


「初めて本当の戦闘をしてみたけど…特に何とも(感じ)ないな。この調子ならこれからも…ん?でもそれって━━━」


そんな彼が安堵の後、神妙な面持ちで呟いた内容。

それは人型の魔物を倒した事に対する罪悪感や忌避感。

嫌悪感についてだったりする。


凛は里香(ついでに白神も)の手により、驚異的なまでにパワーアップ。

その際、彼女の気遣いで精神耐性も一緒に上げられていた。


しかしその(むね)は凛本人に知らされておらず、人に近い見た目。

所謂(いわゆる)人型の魔物ことオークキングへ今しがた止めを刺した事に対し、何も感じない。

冷酷非道な人間になってしまったのだろうかと考え始めたところだ。


「マスターーー!」


「おーい!凛ー!」


「…!」


そこへ寄せられた、美羽や火燐の声。

凛は自分の元へ集まろうとする彼女達の存在に気付き、其方(そちら)へ意識を向ける。




「皆、怪我とかしてない?大丈夫?」


そう気遣う凛の言葉は、間違いなく本心から来るもの。


「ボクは大丈夫だよー!」


「あたしも大丈夫ー!」


「全然余裕。」


「私もです…。」


「オレは一瞬ヒヤッとしちまった部分はあったが、楓のサポートのおかげで無傷だ。」


その優しさが嬉しいのだろう。

美羽と翡翠は笑顔で。

雫はお澄まし、楓は穏やかな笑みを浮かべ、火燐はニヤリと笑いながらでの答えとなった。


「そうなんだ。雫、楓、2人共グッジョブだね!」


彼女らの反応を受け、上にいる立場として褒めるべきだと凛は判断。

親指を立てた右手を、前へ突き出す。


「ぐっじょぶ…?」


「よくやったとか、頑張ったって意味の言葉だよ。」


「ほう。」


「雫はアイシクルレインでオーク達の数を減らしてくれたし、楓は火燐をサポート。だから称賛を込めてグッジョブ…って言わせて貰ったんだ。」


「成程。」


初めて聞く言葉に雫はこてんと首を傾げたものの、凛の説明に得心(とくしん)がいったのだろう。

ちいさいながらもこくこくと何度も頷いていた。


「いえ、私の役目は皆さんのサポートをする事ですから…。」


もう1人の立役者である楓は、急に褒められたのが影響して恥ずかしくなったらしい。

少し困った様子で(うつむ)いていた。


「さて、僕と美羽は…こんな感じでオーク達を集めていくね。」


凛はすぐ近くにあったオークキングの死体に触れ、無限収納へ収納。


『…!』


「回収が終わったらすぐに僕達も向かうからさ、皆は先にエルマさん達の所へ向かっててくれる?」


火燐達はオークキング程の巨体が一瞬で消えた事にビックリ。

だが凛はそんな彼女達を一切(かえり)みずに、美羽以外の4人。

主に火燐の方を向いて指示を出す。


「…どんな理屈で、しかもオークキングがどこへ送られたのかは分からねぇが…確かに全員で運ぶよりも効率が良い、みてぇだな。雫、翡翠、楓。凛の邪魔しちゃわりぃし、オレらだけでエルマ達んトコに行ってようぜ。」


そう漏らした火燐の表情は、情けないや腹立たしい等が入り混じった複雑なもの。

ただそれを凛に悟らせまいと後ろを振り返り、雫達も火燐の心境が分かるからか物憂(ものう)げな顔に。


凛は凛で、オーク回収を早く終わらせなきゃとの考えから「うん、お願い。なるべく急いで終わらせるからねー」と告げて別なオークの元へと走り出し、何とも言えない空気だけが残された。




火燐は里香やイフリートから、出来るだけ凛の手助けをするよう頼まれており、それは雫達も同じ事が当て()まる。

しかし地上に降りて早々、自分達では解決出来ない場面に直面。


全員で行動を開始して1時間。

いや実際には30分位しか経っていないにも関わらず、凛の手を(わずら)わせる形となった。


凛は姉で、創造神でもある里香直々にリルアースの管理を任された存在。

言わば神の使徒。

半人半神である点を考慮すれば、未来の現人神(あらひとがみ)と取れるかも知れない。


自分達はそんな凛の直属の部下。

彼は仲間だと(のたま)ってくれたものの、非常に栄誉あるポジションに就かせて貰ったのに変わりはない。


凛の為。

()いては世界の為に頑張ろうと思った矢先に(つまず)き、その事が従者としても。

そしてこれから一緒に行動する仲間としても申し訳なく思えたのだろう。


歩き始めたかと思えばすぐに立ち止まり、小刻みに体を震わせる火燐。


それは悔しさでいっぱいの表れ。

雫、翡翠、楓の3人も、少なからず思うところがあるのか揃って沈痛な面持ちに。


「…火燐ちゃん、大丈夫だよ。」


そんな暗い雰囲気を壊したのは美羽。

小声ながら、彼女は出来るだけ優しい声色で火燐に話し掛け、一瞬だけ驚かれた後に「…美羽か」と返される。


「エルマさん達を助けるって決まった時から、マスターよりも多くのオークを回収するつもりでいたんだ。」


「…そうか。」


「火燐ちゃん達がマスターのお役に立ちたい想いなのはすぐに分かったし、ボクも同じ気持ちだから…。」


「美羽…そうか。そうだよな。オレ達の中で最も傍で見ていたのは、他でもないお前だもんな。だったらより強く思うのは当然、なのにオレは…。」


「マスターがああやってオークを仕舞(しま)えるのは無限収納って言って、使うにはナビ様の協力が必要なんだ。だから火燐ちゃん達にも出来ないか、後でナビ様に頼んでみるよ。」


「すまねぇ。が、オレらとしてはそうして貰えると助かる。」


「分かった、任せて。」


美羽は凛の特別な眷属であると同時に、彼女にとっても主は特別な存在。

そしてこれまで散々不甲斐ない思いをして来たとの過去から、火燐達にシンパシーを感じていた。


火燐との小声での話し合いの最後、ウインクする形で締める。




「…?美羽ー?どうかしたー?」


そうこうしている内に、凛は美羽がまだ来ていない事に気が付いたのだろう。

オーク回収の手を止めて周辺を見回し、何故か火燐達と一緒にいる美羽へと声を掛ける。


「ごめんなさーい!すぐ行きまーーす!それじゃ、ボクも行ってくるね。」


美羽はそう返事を返した後に火燐の方を向き、左手をぶんぶんと振りながらその場を去って行った。


「…火燐、嬉しそう。何か良い話でもあった?」


続けてやって来たのは雫。

彼女は自然と口角が上がった火燐が気になり、声を掛けた次第だ。


「あいつも…オレ達と同じだった。」


「?」


「いや、どうやら美羽も今のオレ達みたいな経験(不甲斐ない想い)を何度かしている、ってのが分かったんだよ。それとオークの回収…無限収納とか言ったか?が俺達にも出来るかどうか、後で聞いてみるってさ。」


「そう…。」


雫の返しは素っ気ないものだったが、その顔は穏やかなもの。

また、美羽の行いに胸を打たれ、火燐や雫の中で彼女の株がグーンと急上昇した瞬間でもある。


「んじゃま、いつまでもここで立ち話ってのもなんだし、ひとまず向かうとしますかね。」


先程よりも数段弾んだ火燐の言葉に、首肯で応える雫達。

以降は談笑を挟みながらエルマ達の元へ向かう事となった。




火燐達が戻ると、エルマは木を背もたれにしてお休み中。

相方であるイルマの頭を自身の膝に乗せ、左手を左肩、右手を頭の上に乗せている状態だった。


「すぅ…すぅ…。」


「エルマ…は寝てるか。イルマを(かば)いながら戦ってたんだ、そりゃ疲れもするわな。」


「ふふっ。」


「そうだね。」


「ですがお2人共、無事に済んで良かったです…。」


「だな。取り敢えず…オレ達も凛達が来るまで待ってようぜ。」


「ん。」


「そうだね。」


「そうしましょうか…。」


そんな安心した様子の2人に火燐達は(ほだ)され、苦笑いや優しげ。

軽い微笑だったり笑顔で彼女達を眺める。


続けて、(おもむろ)に地面へと腰掛ける火燐。

彼女に(なら)い、雫達も近くに座り込む。




そこから始まるは、自己紹介と言う名の話し合い。

何故なら火燐達4人は、凛と合流する少し前に初めて顔を合わせたばかり。

つまり知り合って間もなく、ほぼ相手の事を知らないからだ。


美羽より後に生まれ、イフリートを始めとする大精霊達と1対1で訓練。

凛がマクスウェルと最終試験をしている間に里香が迎えに訪れ、ようやく面識を持ったとの流れだ。


生まれた意味や(こころざし)こそ同じだが、互いの趣味趣向に関する情報は皆無。

故にここぞとばかりに喋り、最初は小声だったのが、話が進むにつれ次第に声が大きくなっていった。(主に火燐や翡翠が)


「ん…?あれ…ここは?」


それにより目が覚めたのは、エルマ…ではなくイルマ。

軽く頭を浮かせた彼女の、エルマより少し大人しめ、且つちょっとだけ低い声に火燐達は会話を中断。


「あ、わりぃ。起こしちまったか?」と告げる火燐を皮切りに、雫達もイルマがいる方向に水を向ける。


(もっと)も、火燐達は凛や美羽の影響でそこまでないと思っているみたいだが、彼女らも相当な(2人に準ずる)美女・美少女。

そんな見目麗しい者達から一斉に見られたイルマは、「いえ…」とたじろぐしかなかった。


「えぇっと、貴方達は?」


「オレは火燐。んで、こっちが雫に翡翠、楓だ。」


「私は…。」


「知ってる、イルマだろ?…何で分かるの?って顔してんな。答えは簡単だ、オレ達はオークに襲われてると分かって助けに来たんだよ。その間、エルマが頑張ってくれたみてぇだな。」


「そうだった!!エル…。」


火燐の口から友人の名が聞こえた事で一気に覚醒。

イルマの目に活力が宿る。


ついでに体の方にも力が入り、勢い良く起き上がった弾みでイルマの側頭部。

それとエルマの(あご)が激しく衝突。


ゴチンッとの音と共にイルマは悶絶。

ついでに、強烈な目覚ましを喰らったエルマも痛みに(もだ)える羽目になった。


「うーわ、痛そうな音…。」


「ん…。」


「あらら…。」


「だ、大丈夫です、か…?」


それを目の当たりにした火燐達は困らざるを得ず、再び楓の回復魔法のお世話に。


「エ、エルマちゃんゴメンっ!その…大丈夫?」


「凄く痛い…けど、イルマちゃんが何事もなくて良かったよ。」


「うん、ごめんね。こんなボロボロになるまで戦わせちゃって…。」


回復を終えた2人は向かい合う形で正座。

互いに軽く涙を浮かべ、無事を喜び合った。


「そんなエルマに追撃を行う…イルマめ、やりおる。」


「…雫、ここは無事に再会出来て喜ぶ場面(シーン)なんだ。大人しく黙ってようぜ。」


「あい。」


しかし、先程のやり取りはシリアスを通り越し、ギャグに近いまである。

雫からは茶々を入れられ、火燐に宥められるとの声が聞こえた2人は居た(たま)れなくなり、「あはは…」と困惑。


「んんっ。あたしは大丈夫!それよりも、イルマちゃんに後遺症がないかが心配だよ。頭に石をぶつけられて血は出るし、そのまま気を失って木から落ちちゃうしって感じだったから…。」


「そうだったんだ…頭に何か硬いものをぶつけられたとの覚えしか━━━」


「皆ーー!お待たせーーー!」


エルマが半ば無理矢理話を進めようとし、イルマが考える素振(そぶ)りを見せた直後。

美羽を(ともな)った凛による、元気の良い声が届けられた。


「…ちょ、ちょっとエルマちゃん!知らない子が手を振りながらこっちへ向かって来てるのもだけど…何より可愛過ぎない!?」


「あー、うん。実はあたしも、助けて貰った時にそう思ってたんだよねー…。」


これに驚いたのはイルマだ。

気絶していた為に経緯(いきさつ)を何も知らなかったのもあるが、凛の人間離れした容貌(ようぼう)にえっ!?と目を見開き、口元に両手を添える。

かと思えば慌ててエルマの手を引っ張り、ヒソヒソ話を開始。


2人のコミュニケーションは凛が到着しても終わらず、不思議がる彼とは別に、美羽は笑顔でVサイン。

それを見た火燐達は安堵し、抱いた懸念(けねん)はひとまず解消されたと判断。

再びイルマ達を見やる。




その後、エルマがイルマを落ち着かせ、互いに自己紹介を行った。


「「改めまして皆さん。助けて頂き、ありがとうございました。」」


並び立った2人はアイコンタクトの後に声を揃え、凛達へ深くお辞儀。


2人は天使と悪魔。

身長はどちらも155センチ、髪色はそれ(種族)に見合う白と黒。

エルマの方が若干つり目&声が高く、イルマが少したれ目&声が低い。

髪型は左右違う方向へ分けたサイドテール…位の差異。


違いを述べるとすれば以上で、ほぼ鏡に映しただけの同一人物の様にも感じられる。


「こちらも無事に助ける事が出来て良かった。それにしても…2人共よく似てるよね。双子って言われても全く違和感がない位に。」


凛の言葉に同意とばかりに美羽達が頷き、褒められたと捉えたエルマとイルマは手を取り合って喜ぶ。


「そうなんですよ!けど、私は天使でイルマちゃんは悪魔。」


「残念ながら、種族としての仲は物凄く悪いです…。」


「あ、やっぱり?2人を見てると、もしかしたらって思ったんだけど…違うんだ。」


「はい…ですが、大昔(1500年程前)には協力していた時期もあったそうですよ?」


「そうなんだ?(前に、お姉ちゃんが言ってた戦いの事かな?)」


「ただ、しばらくして落ち着いてからは、互いの集落へ攻め入る様になったらしいです。」


「…物騒な話だね。」


「はい。その結果と言いますか、協力していた時に溜まった鬱憤を晴らすのも兼ね、どちらも盛大に高威力の魔法をぶつけ合い、双方に甚大な被害が出たと聞いてます。」


「えぇ…?」


「このままではどちらかが滅び、もう片方も種の存続が危ぶまれるとの意見から、代表同士による停戦協定が結ばれたのだとか。それからは毎年10人ずつ選び、試合形式で競い合うと言うやり方に変えたそうです…それでも、普通に死人は出るみたいですが。」


「毎年亡くなる方が出てるなら、停戦協定を結んでる意味が…。」


「それだけ、お互いを嫌っているとの表れなのかも知れません。でもそのおかげと言うか、あたし達は試合会場で出会う事が出来ましたし。」


「…会場と言いましても、大きな雲を魔法で強化。固定し、戦いやすいよう場所を整えただけなんですけどね…。」


「ま、まぁ、実際そうなんだけど…今はひとまず置いといて。それで、あたし達はあまりにも似過ぎるから、お互い何を言って良いのか分からない。そんな状態で最初の出会いは終わりました。」


「その次の年の試合会場でも会い、今度はきちんと話せたおかげで、一気に仲良くなる事が出来ました。」


「それを切っ掛けにあたし達は頻繁に会い、あっという間に十数年が経ちました。ですが、つい最近それを上司に知られて(バレて)しまいまして…元々中級だったのが下級に落とされ、そのまま集落を追放されちゃったって感じなんですよねー…。」


あははーとエルマは苦笑いを浮かべていたが、それが元で本来の実力を発揮出来ずに死にかけたのだから笑うに笑えない。

凛達やイルマも、出会い自体は大変喜ばしくする反面、窮地(きゅうち)(おちい)ったとの部分は微妙な反応を示した。




「イルマちゃんは戦いそのものが苦手だし、あたしも力を落とされて日が浅く、弱いままでして。一応はウルフとか、スライムみたいな魔物がメイン。出来ればもう少しの間だけでも、オークみたいな魔物とは戦いたくなかったのが本音ですね…。」


「けどその願いは叶わず、さっきの状態になってしまったと。」


「お恥ずかしながら…。」


凛の指摘に、エルマは気まずそうな顔でポリポリと頬を掻く。


「…そう言えば、そろそろ良い時間だし、一緒にお昼ご飯食べない?勿論、2人が良ければだけど。」


「えっ、良いんですか!?」


「私達、実は昨晩から何も食べてなかったんです…。」


「もうお腹ペコペコで…こちらからお願いしようかと思ったところでした…。」


かと思えば出された提案に良い食い付きを見せ、イルマがお腹に両手を当てて恥ずかしそうにする様に、凛はクスリと笑う。


「なら丁度良かった。火燐達も一緒に食べよ?」


そう言って、凛は無限収納から4メートル四方のブルーシートを取り出し、地面へ広げる。

これに火燐は「あ、ああ…。」と戸惑い、雫達。

更にはエルマ達も唖然とする。


「美羽、今日のお昼はどうしよっか?」


「そだねー…と言っても、人数が人数だし、好みとかもあるでしょ?まずは色々出してみて、後は追々…って感じで良いんじゃないかな。」


「それもそうか。じゃあさ…。」


しかし凛と美羽は何のその。

困惑している火燐達を歯牙にも掛けず靴を脱ぎ、ブルーシートの上を歩く。




それから2人は会話を交えつつテキパキと(タッパーの様な容器に入った状態の)料理や使い捨ての皿等を並べ、やがて作業を終える。


ブルーシートの中央部分には、各種サンドイッチやおにぎり。

鶏の唐揚げ、玉子焼き、エビフライ、コロッケ、ウインナー、ミートボール。

フライドポテト、ポテトサラダ、林檎やオレンジと言った果物をカットしたものが鎮座。


それらを真顔でロックオンする火燐達。

元気印の翡翠に、控えめな楓ですら同じなのが面白い。


反対に、エルマとイルマは初めて見るものばかりを根拠にフリーズ。

または慌てており、違いの差が浮き彫りに。


「準備出来たよー!皆、履き物を脱いで来て貰える?」


「えー、っと凛。さっき創造神様に何かを渡した時も思ったんだが…それは食いもんなのか?」


火燐、雫、翡翠、楓の4人は互いに神妙な面持ちで目配せを行い、代表として火燐が質問。


「その辺も踏まえて説明するからさ、まずは食べてからで良いかな?僕もお腹も空いちゃった。」


「あー…はいはい、分かったよ。こっちに来いって事だな。」


満面の笑みを崩さない。

又は誤魔化(ごまか)しとも取れる凛の返答に、火燐は渋々と歩き始め、雫達も彼女の後に続く。


「え?え?エルマちゃんどうしよう。もしかして私達、とんでもない人達と知り合いになったんじゃあ…。」


「イルマちゃん落ち着いて。まだ『そう』だとは決まってない。それに、あたし達の聞き間違いだって可能性もある。」


「そ、そうだよね!」


その一方、エルマとイルマが『創造神様』と言う単語に過敏に反応。

「え、今創造神様って言った?言ったよね?」と顔を突き合わせ、こちらも誤魔化す(先送りとも言う)形で相談していると、彼女達が移動していない事に気付いた翡翠と楓が戻って来る。


「2人共ー、どうかしたー?」


「「…!」」


「気の所為(せい)でしょうか…? 何だか顔色が悪い様な…。」


「何でもないです何でもないです!い、いやー、お昼ご飯楽しみだなー!」


「そ、そうだねー?何が出て来るんだろー!」


「「?」」


冷や汗を流す等し、やや急ぎ目に向かうエルマ達。


それは右手と右足、左手と左足が一緒に出ると言う。

ぎこちない所作でのものとなり、翡翠と楓は不思議に思いつつ彼女らの後を追う。




エルマ達もブルーシートの上に座った後、凛が食事の内容を説明。

その際、先程までと同様にエルマ達をさん付けで呼ぶ。


しかしエルマ達から、自分達は助けられた側と言う名目(実際はもしもの為の意味合いが強い)の元、さん付けは不要。

反対に、呼び捨てにして下さいとの旨を淡々と。


…ではなく、必死に。

それこそ何度も何度も頭を下げ、拝み倒す勢いで()われてしまう。


凛は如何(いか)にも釈然としませんと言いたげな姿勢を示しながらも、渋々了承。

改めて、自分達に関する(むね)の説明を行った。


「凛様は創造神様の弟様…つまり私達よりも全然強く、しかも大変偉い御方…。」


「うわーん!やっぱり聞き間違いじゃなかったー!さっきは偉くないって言ってたのに全然偉いじゃないですかーーー!!」


エルマとイルマは段々と顔が青くなっていき、やがて蒼白へ。

最後はイルマが体だけでなく声まで震わせ、エルマは自暴自棄になり、収拾(しゅうしゅう)が付かない事態にまで発展。


「いや、偉いのは姉であって…って、2人共。ひとまず落ち着い━━━」


「「無理です!知らなかったとは言え、数々のご無礼、本当に申し訳ありませんでした!!」」


凛はどうにか彼女達を宥めようとするも、(かえ)って逆効果。

畏れ多いとの言葉を残し、2人は瞬時にブルーシートの端へと移動。

ゆっくりと平伏(ひれふ)し、揃って微動だにしなくなった。


「参ったな…。」


これに困ったのが凛。

彼的に今後の事を思い、正直に伝えたとの認識。

だが現実はただただ強いショックを与え、完全に裏目に出ただけで終わってしまった。


そうなると、途端に心配になるのが人情と言うもの。

凛はエルマ達を(おもんぱか)り、寄り添われた挙げ句顔を上げるよう伝えられた2人は、彼の機嫌を損ねたくないとの思いから断固拒否。


その後、2人は平伏したまま再び体を震わせ、イルマに至ってはこの場で生を終えてしまうと思い至ったのか泣き出してしまう。




「…そしたら命令って事にするよ。」


「…え?」


「…ふぇ?」


「エルマ、イルマ。2人共畏まらないで、怖がらないで。僕はただ、君達と普通に接したい。エルマ達と友達になりたいだけなんだ。ただどうしても創造神の弟の肩書きが気になる、遠慮すると言うなら無理強いはしない。だから…。」


「…その言い方はズルいです。ううん、分かったよ…凛さん。」


「ホントだよ…でもありがとう、凛さん。」


凛が寄り添い、真摯(しんし)に向き合った事で(多少ぎこちないながらも)ようやく2人に笑顔が。

一時はどうなるかと不安になった美羽達もほっと一息つく。


「まだ少し固いけど…まぁ良いか。でも割と最近まで一般人だったのは本当だからね?」


「あー、うん。そこは疑ってない、かな…?」


「ただ何と言うか、とんでもないお方にとんでもない使命を与えられちゃったんだなぁ…としか。ごめんなさい…。」


「いや、まぁ。分かってくれたのならそれで十分だよ…それで、これから2人はどうする?旅を続けるとかかな?」


「あたし達、冒険者で言う所の鉄級位の強さしかなくってさ。だから戦える魔物はかなり限られるし、今のところ行く当てってのは特になかったりするんだよねぇ…。」


「私のせいだよね。エルマちゃんごめん…。」


「いやいやいや!あたしが実力不足だからで━━━」


「だったらさ、僕達と一緒に行動しない?」


戦闘が苦手なイルマのせいにはしたくないとエルマが弁明中、(色んな意味で(さえぎ)るとの形で)凛から提案が。


「えっ…でも良いの?あたし達、凛さん達の足を沢山引っ張ると思うんだけど…ねぇ?」


「う、うん。」


「強さは関係ないから大丈夫。」


(うれ)う2人に凛がキッパリと告げ、それよりもと続ける。


「さっきも伝えたけど、僕は2人と友達になりたい…どうかな?」


「友達かぁ…あたし、少し前まで天使族が暮らす集落…あ、天界って場所にいたんだ。」


「私達悪魔がいるのは魔界だよ。」


「天界に魔界。どちらも天使と悪魔がって意味なんだろうけど…またベタな。」


実に無難とも取れる名前に凛が苦い顔になり、エルマが「ホントだよね」と笑みを(こぼ)す。


「でね、私がいた集落には1万人位?の人が住んでるんだけど、いつもニコニコと笑顔を浮かべててね。何か失敗しても怒られるなんて事は1度もなかった。」


「へー。穏やかな人が多いんだ。」


「それがあたしは逆に怪しく思えてさ。何か裏があるんじゃないかと疑って、受け入れられなかったんだよね。ある時、全くの別人って位に豹変する場面があるんだと分かったら尚更。」


「え…?」


「その…集落では、悪魔は滅ぼすべき存在だ…みたいな事を、昔から。それこそ私が小さい頃よりもずっと前から言われてたみたいなの。」


「笑顔で?」


「笑顔で。何回も何回も同じ事を、しかも笑顔で迫って来るんだもん。恐怖でしかなかったよ…。」


「それは…。」


「そのおかげかな?あたしはイマイチ理解したいとの考えにはならなかったんだ。だから集落ではちょっと浮いた存在になってたし、かと言って今更集落に馴染もうとも思えなかった。他の天使は教えを素直に従ってるんだろうなーなんて考えたら、仲良くなんてとても…。」


「僕もちょっと…。」


「だからなんだろうね。上が()れて、見聞を広めるとの目的で外に。悪魔と戦う為の試合会場へ連れ出される形になったんだ。

そこでイルマちゃんに出会えた訳なんだけど…イルマちゃんのところって、別な意味で酷いんだよね?」


「そうだね…私が住む魔界は殺伐としてると言うか、他人を蹴落として自分が上に行くって割合が多いんだ。実際、そう言う人程高い地位にいたりするし。私はそれが嫌で、里からよく出てたんだぁ…。

試合会場には、天使を見たら考えが変わるんじゃないかって事で私は連れ出された。けど当時はエルマちゃんの事を考えるので精一杯で、試合内容は全く覚えてなかったりするんだよね。」


「分かる分かる。あたしもこう…イルマちゃんを見た瞬間ビビッと来たもん!」


「ふふっ。凛さん達は全然偉ぶらないし、何より一緒にいて心地良い感じがする。だから…。」


「凛さん達さえ良ければ、これからも一緒に行動したい…かな。」


「勿論だよ。2人共、これから宜しくね。」


「「こちらこそ宜しくお願いします!」」


笑顔で差し出す凛の両の手をエルマとイルマはガシッと握り、こちらも笑顔で応えた。




ふぉ()()ふぉふぁっふぁふぁ(終わったか)ーー!」


凛、エルマ、イルマによる暖かい、良い雰囲気が場を包む中。

彼らに聞こえて来るは何とも間の抜けた声。


「「「ん?」」」


「ん?(もっきゅもっきゅ)」


「(もっもっもっ)」


気になった3人がそちらを見やれば、(とぼ)けながらも両頬いっぱいに食べ物(主に鶏の唐揚げ)を詰め込んだ火燐。

同じく親の仇の様にカットフルーツを食べ進める雫が視界に映り、(たま)らずエルマとイルマが「ぶっ!」と吹き出す。


「火燐、雫。2人共がっつき過ぎじゃあ…。」


「それは仕方ないよマスター。」


「そうそう。こんなに美味しい食べ物があるんだって、あたし達も今知った位だしねー。」


「サンドイッチ、美味しいです…。」


凛が苦言を呈するも、逆に美羽と翡翠に説得され、サンドイッチを堪能(たんのう)する楓に「あー」と納得。


「そう言えばそうだっけ。まぁ、良いか。エルマ、イルマ。僕達も食べよ。」


「「うん!」」


凛は案内がてら美羽の横へ座り、反対側にエルマ達が腰掛ける。

それを合図に2人も食事を開始し、共に料理の美味しさから破顔。


エビフライが気に入ったエルマは、両手にフォークを持った状態で集中的に食べ進める。

イルマはそんなエルマを(たしな)め、しかしながら左手にはしっかりとフルーツサンドが確保されているとの状況だ。


「…今更なんだけど。僕、降りてからずっと考えてた事があるんだよね。」


突然の凛の独白に、全員が「?」と疑問符を浮かべる。


「いやさ。僕達って、お姉…創造神様から、この世界を任された形になる訳でしょ?」


その言葉に過半数が頷くも、残る美羽や火燐、雫は何を今更的な顔を返す。


「ただ、僕はこっちに来てから強くなる事ばかりに意識が向いていたし、美羽や火燐達は生まれてからまだ1月しか経っていない。一応合格は貰えたけど、本当なら僕達はもっと色々学ぶべきだったんじゃないかなって。」


少しだけ下を向く凛に釣られ、場を静寂(せいじゃく)が包む。

先程実力不足を痛感した美羽達は押し黙り、ざっくりとしか事情を知らないエルマ達はそうなの?と言った感じに。


「正直旅立つのは早かったんじゃないかなーとも思ったけど、そのおかげでエルマやイルマと知り合う事が出来た。」


「「!」」


「かなりギリギリのタイミングで肝を冷やしたけど…無事助けられたし、改めて最初に会ったのが2人で良かったと思ってる。」


エルマとイルマはいきなり凛から水を向けられ、驚いたのも束の間。

凛から出た2人で良かったとの意見に、こんなに凄くて強くて可愛い人が自分達と友達かぁ…との喜びの感情が湧き上がり、もじもじ。


すると今度は、彼女らを見た凛がテレテレ。

リルアースに来て初めての友人が天使と悪魔なのに加え、2人と知己を得られて良かったとの思いから来ているのかも知れない。


ともあれ、エルマ達は照れた凛を見て更にもじもじし、凛も凛でやはりテレテレ。

もじもじ、テレテレ

もじもじ、テレテレ

もじもじ、テレテレ

もじもじ…


「話進めてくんね?」


3人だけの世界に業を煮やした火燐から突っ込みが入り、そこでようやく我に返った凛がこほんと咳払い。


「僕達はこれから先も人々を救い、導く存在にならなければいけない。その為にはまず強くならなきゃだし、危険をいち早く察知する能力を用意する必要がある。

…能力の方は僕でどうにかするとして。人を救うのと強くなるのを兼ね、これからゴブリンの集落に向かおうと思う。(ナビによると)今はまだ無事だけど、捕らわれてる人が━━━」


「マスター。捕らわれているのって、人じゃないみたいだよ。」


「あれ、そうなんだ?僕はてっきり女の人だとばかり…ナビ、捕らわれていると言うのは一体…?」


説明中に美羽から指摘を受け、不思議に思った凛が少し上を向きながらでの問い。


《はい。どうやらゴブリン族の雌の個体の様です。》


そして得た答えに戸惑いを禁じ得ず、「え…?」と固まってしまうのだった。

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