11話
ヒヒイロカネ。
緋緋色金とも表記され、赤みを帯びているのもある意味納得の代物でもある。
「ヒヒイロカネ!?え、これもリルアースにあるの!?」
「どうかしらねぇ…探せばあるかもだけど、少なくとも私は知らないわね。」
「なら一体どこで…まさか。」
ある考えへと至ったのか、凛が目を見開いた。
「凛ちゃんの想像通り、日本よ。いつか使うと思って、コツコツ集めていたの。」
「まさか日本にあるなんて…全然知らなかった。」
「それはそうでしょう。でもね、凛ちゃん。良く考えてみて頂戴?偶然とは言え、魔法を発動させる事が出来た…つまり地球にも一応は魔素自体は存在する。なら魔法金属も、って思うのが妥当でしょう?」
「確かに、改めて考えるとそうなのかも…でもどうやって?」
「それは勿論パクっ…拝借させて貰ったに決まってるじゃない。」
(今絶対パクったって言おうとした。)
凛の疑わしげな視線を前に、里香は目を閉じ、文字通り(情報を)シャットアウト。
その攻防は数秒間続き、先に折れた里香が話を進めるとの意味合いでコホンと咳払い。
「ともあれ、その塊は凛ちゃんの好きに使ってくれて良いから。」
「え、でも…。」
「大丈夫よ。既に新しいのを用意する形で戻した訳だし…これで以上ね。」
「何と言うか、最後は驚きの連続だったんだけど。でもまぁ、あっという間の1ヶ月だったなぁ…。」
話は終わりとばかりに里香が締め、凛が苦笑い。
「僕達、これから世界を回らなきゃか…当然だけど、向こうとは全然違うんだよね。」
凛が地球にいた時の事を思い返す。
彼こと八月朔日一家は(里香が得た資金で)年に数回家族旅行を行い、日本だけでなく世界中を訪問。
有名どころは粗方押さえてあり、同じ世界を回るにしてもすんなりいかないだろうなぁとの考えに至る。
「そうね。けど、凛ちゃんが今後強くなる。そして死滅の森の問題を解決した場合、そこに凛ちゃんの国を興して貰っても構わないから。」
「え…?(死滅の森って、日本が幾つも入る様な広さなんだよね?それを解決なんて、僕達だけじゃまず不可能だと思うんだけど…。)」
「あら、不思議そうな顔ね?私は凛ちゃんならやれると思ってるわよ。その時は、瑠璃ちゃんと一緒に住まわせて貰うから。」
「凛様、宜しくお願いします。」
「えぇ…。(あれー?既に確定事項なの…?)」
里香が笑顔で告げ、それに便乗した瑠璃がお辞儀。
いきなり無理難題を突き付けられた凛は困惑するしかなかった。
「まぁ半分は冗談として…。」
(((((もう半分は本気なんだ…。)))))
「凛ちゃんは世界最強と言っても過言じゃないウェル爺から合格を貰えた訳だし、充分にやっていけると思うわ。」
里香の言葉に釣られ、視線がマクスウェルに集中。
その彼は平然を装ってはいたものの、良く見れば鼻がヒクヒクと微動。
嬉しさが隠し切れていないのが丸分かりだった。
「凛ちゃんは半人半神で、美羽ちゃんも少し位は下がるけど同じく半人半神。火燐ちゃん達4人は私とイフリート達から生まれた半人半精霊ってところかしらね。
生を受けて間もない子達ばかりとは言え、普通ならまずあり得ない、豪華なメンバーよねぇ。」
「確かに、改めて言われてみるとそうかも…。」
「あ、そうそう。その内、凛ちゃんを利用しようとする輩が出て来ると思うのよ。嫌だと思ったら、断ったり、突っぱねたりしてくれて全然良いからね。」
「うん、分かった。」
姉の毅然とした態度に、凛は冗談ではなく本気の助言だと判断。
真っ直ぐ彼女を見据え、力強く頷いた。
「うんうん。凛ちゃん、ちょっとだけ美羽ちゃんを借りるわね?」
「? 分かった。」
かと思えば、何やら相談事の様子。
キョトンとする凛を他所に、里香は美羽を手招き。
2人はそのまま少し離れた場所へと移動して行った。
(…美羽ちゃん。凛ちゃんって、色々な意味で凄かったでしょう?)
(あ、はい。ボクじゃ思い付かない手段だったりとか、美味しい料理が作れて凄いなぁって思いました。)
(そうなのよ。凛ちゃんの料理は美味しい…じゃなくて、違うのよ。凛ちゃんの力が強大過ぎて、お近付きになりたいって人が今後出て来ると思うの。王国や帝国、神聖国が良い例ね。)
(王国、帝国、神聖国…。)
(ええ。けど、例え王族や国の偉い立場にいる人でも、権力を振り翳したり、強引に迫ろうとする事は許されない。何故なら、彼らは人。新たな神として加わる凛ちゃんとは『格』が違うのだから。
と言ってもまだ半分だし、来たばかりだから経験も浅い。それでも神には違いない訳だし、多少偉いだけの人が神を害するなんて以ての外。火燐ちゃん達へは既に伝えてるんだけど、そんなのが出て来たら最悪排除してもらって構わないから。)
(…過激なんですね。)
(いくら可愛いと言っても、他人は他人。どちらが大事かなんて比べるまでもないし、当然の処置よ…けど凛ちゃんは優しいから、人を傷付ける事を嫌がると思うのよねぇ。私が世界の管理で碌に動けない以上、これからは貴方達に頼るしかないの…お願い出来るかしら?)
(分かりました!マスターの事は、ボク達が全力で守ります!)
(ふふっ、流石美羽ちゃん。話が早くて助かるわー。)
(えへへ…。)
しばらくして、小声での会話を終えた2人が戻って来た。
「…お姉ちゃん、2人で何を話してたの?」
「ふふっ、いくら凛ちゃんでも内容は話せないわ。美羽ちゃんと2人だけのひ・み・つ・なのよ。」
「それじゃ美羽━━━」
「ダメです!創造神様とのひ・み・つ・なのですよー♪」
「「ねー♪」」
「???」
凛が尋ねるも、2人して悪戯っぽい笑みを浮かべ、口元に人差し指を当ててはぐらかされるだけ。
益々訳が分からなくなるも、下手に踏み込んだせいで自ら地雷を踏む必要はないと考えを放棄。
一先ず追求を止め、分かったとだけ告げた。
「…時間ね。そろそろ皆を下へ送ろうと思うんだけど、忘れ物はない?」
「うん、大丈夫。」
「ボクもです!」
『大丈夫です。』
その答えを受け、里香が右手を動かそうとしたところで凛から待ったが掛かる。
「あっ、そうだった!お姉ちゃん、向こうより味が少し落ちちゃうけど、良く食べてたオムライスを渡しておくね。」
「やったー、ありがとーー!後でゆっくり食べさせて貰うわぁー!!」
サフランライス+デミグラスソースがふんだんに掛かったオムライスが余程嬉しかったのだろう。
里香は凛からオムライスを受け取るや否や皿ごと上に掲げ、白鳥の湖を思わせる舞いを披露。
『………。』
謎の踊りは5秒程続き、翡翠と楓は興味深そうに本人を。
火燐と雫の2人は、里香ではなくオムライスを齧り付く勢いで凝視。
マクスウェルに至っては、右手を額に当てながら「威厳もへったくれもないわい…」と天を仰ぎ、瑠璃と美羽は珍しいものでも見たような顔付きに。
「…そう言えば凛ちゃん。ポータルを設置すれば、ここへ行き来出来る様になるわよ。」
その後、冷静さを取り戻した里香が再び咳払い。
先程の醜態はなかった事にして話を進められた。
「本当?あっちの世界よりもキッチンが使いやすかったし、設置してみようかな。お姉ちゃん、やり方を教えてくれる?」
「勿論よ。私達は普段、やる事があるからあまりここにはいないけど、それでも数ヶ月に1回位は集まる。その内、凛ちゃんと会うかも知れないわね。」
「そうなんだ。僕もちょくちょく顔を出すようにするよ。」
「ええ、お願い。ポータルは便利な移動手段だし、皆と一緒に行動出来るから役に立つわよ。それじゃ、使い方の説明をするわね。」
「分かった。あ、出来ればヒヒイロカネについても。」
「はいはい。そう言うと思ってメモを用意してる。」
「やたっ、流石お姉ちゃん。」
「もう、調子良いんだから。」
凛は里香と共に、少し離れた地点へと移動。
ポータルについて聞き、ヒヒイロカネの説明がされたメモを受け取る。
「無事に習得出来て良かったよ。」
「お疲れ様。ポータルは扱い的に最上級魔法よりも難しいんだけど…それをあっさりやってのけるなんて、流石凛ちゃんね。」
「ゲームとかで割とあったりするからね。それに、ナビのサポートのおかげってのもあるし。」
《恐悦至極》
「それもそうね…それじゃ皆、私の前に集まって頂戴。」
「分かった。」
『はい。』
凛達は里香からの指示に従い、彼女のすぐ前の位置に集まる。
「最後に凛ちゃん。私が招いておいて何だけど、管理者の立場を重く受け止めないで、責任を感じ過ぎないで。柵に囚われず、楽しく生きて欲しい…と言うのが私の願いよ。」
「うん、分かってる。マクスウェル様を見ていたら、こっちでもお姉ちゃんは優しいんだなってのがすぐに分かったし。」
「もう、ウェル爺ったら…。」
「ふふ。またね、お姉ちゃん。」
「ええ、しばらくしたらまた会いましょう…転移。」
里香は申し訳なさそうな表情から苦笑いへと変わり、最後は笑顔で凛達を送り出した。
「…行ってしまいましたな。」
マクスウェルがしみじみと呟く。
「ええ、そうね。私の都合で家族を巻き込むかも知れない。そう思って、2人の姉と凛ちゃんに私の力のほんの一部を渡していたんだけど…まさか巻き込んでしまうとはね。本当、凛ちゃんには申し訳なく思うわ。」
「フォルトゥーナ様…。」
フォルトゥーナとはリルアースになるよりも先。
厳密には地球へ転生する前の里香の名で、風貌も白神と黒神の生みの親なだけあってそちら寄り。
つまり西洋風の見た目だったりする。
「もう、またその名前で呼ぶ。昔ならいざ知らず、今はあの子の姉なのよ?」
等と宣う通り、里香は凛の姉。
クスクスと笑う彼女は、日本人特有の幼く見える目鼻立ちだ。
勿論今の彼女も悪くはないが、マクスウェル的には以前の方が好み。
至高にして孤高。
他を寄せ付けない絶対的な覇気を纏うフォルトゥーナを盲信していたとも。
「失礼した…ですがこればかりは仕方ありませぬ。2ヶ月前、死滅の森深層に現れた個体が、嘗ての侵略者の影響を受けているのかも知れないのですからな。しかも、成長速度も早いと来れば…。」
「誤魔化された気もするけど、まぁ良いわ。とは言え、私達だと森へは直接介入出来ないし、魔素の濃さの影響で精霊達も中層までしか行けない。シロちゃんを通じて転生者にスキルを渡したりしたけど、皆が皆程々で満足しちゃってるか、非業の死を遂げるかのどちらかしかないものねぇ。だからこうして最後の手段を用いざるを得なくなった…ままならないものね。」
「ですな。しかしどうにもなりますい。」
「全くよ。本当、どうしてこうなったんだか…。」
「では、我々も戻りましょうぞ。」
「ええ。」
複雑な表情で話を終えた里香とマクスウェル。
2人は異なる仕事を熟す為、それぞれ違う場所へと向かうのだった。




