百十二話 弱者なりの足掻き
「アタイが殺されたら・・・二人を殺す・・・!?貴様正気か・・・!?」
「そうだよ?軽い自慢話になってしまうが、ボクは生まれて一度も嘘を吐いたことがないんだ」
そのような提案を平然とした顔で口に出すテレナシアの人間性を疑ってしまう。
仮に人間ではなかったとしても、こんな残虐な提案を平然とした顔で言えるだろうか?
メネツェアがテレナシアを咎めようとするのは分からない話ではない。
だが、その忠告に一切耳を傾けない。
残虐な提案を取り消そうとしないテレナシアに、メネツェアはどうすることもできなかった。
降参しても、メネツェア達が殺される運命は覆らないだろう。
しかし、最強の龍王であったゼクスシードがやられてしまったとなると、どう考えてもメネツェアに勝ち目はない。
運命が「死」を選べと言っているようだ。
そしてテレナシアはついに決心した。
「いいだろう、その挑戦受けてやる!」
「え?いいの?さっきの戦闘を見た限り、君が一番弱そうだったけど?」
「アタイは強い。なんせアタイは『炎龍王』メネツェアなんだからよ?」
「ふーん、君、そういうの何て言うか知ってる?詭弁って言うんだよ?」
「黙れ!」
龍王の中で一番劣っていることは彼女自身も良く知っている。
テレナシアにそれを見抜かれたことに腹を立てていたのだ。
言われなくても分かっているのに、『弱い』という単語をわざわざ使ってくる辺り、余計に質が悪い。
この勝負は無謀な挑戦で終わるかもしれない。
しかし、絶対に勝てないと決まったわけじゃない。
小馬鹿にするテレナシアの不意を突いて、致命傷になる一撃を食らわせてやろう。
メネツェアは力ずくで自分に掛けられておる縛りを打ち砕こうとするが、どうやら気持ちの問題で解決できるものではないらしい。
「あー、ごめんね?すぐに解くから・・・っとその前に」
テレナシアは、地べたに座っているドレイニーに『ステイト』をかけた。
するとドレイニーは抵抗することなく、そのまま縛られる。
「随分と大人しくなって、ボクは大助かりだよ?さて、今度は君にかけた魔法を解く番だね?」
テレナシアは、ゼクスシードが『ステイト』の解除の際に使用した『マジック・キャンセル』を使った。
すぐにメネツェアにかけられていた『ステイト』は解除され、メネツェアは息苦しい束縛から脱することができたのだが、すぐさまテレナシアは新たな呪いを彼女に振りかけた。
「カース・エスケープ」
テレナシアがそういった瞬間に、メネツェアの首にドクロマークが刻まれたレリーフの首輪が装着された。
メネツェアにとって見たことも聞いたこともない魔法だった。
「貴様、これは一体何なんだ?こんな魔法聞いたことがないぞ?」
「これは魔法ではないよ?」
「だったら、何だというんだ?」
「んー、それは答えられないかな?効能だけは別に教えても構わないけど?」
「それでいい、頼む」
テレナシアは普段通りのニッコリした笑顔でその首輪を指さし、
「それをつけている限り、あなたは私の前から逃げられない。この言い方が一番わかりやすいかな?」
「なるほどな、アタイが戦いを放棄しないように未然に防いだというわけか」
「念には念を入れよっていうでしょ?」
「そういうかどうかはわからないが、貴様は本当に多くの魔法を会得しているようだな?貴様ほど興味深い奴に今まであったことないぞ?」
「ふふ、魔法のことならあまり詮索しない方が良いよ?きっと絶望するだけだから」
「もうすでに絶望しているがな」
メネツェアは二丁の拳銃を取り出し、テレナシアは『刀』を構える。
勝率は恐らく一%未満ぐらいだ。
だが、決して0ではない。
その一%未満の勝利を願って、メネツェアは走り出した。
単純に正面から攻めようものなら、簡単に殺されるのは間違いない。
メネツェアは左右に動きながら鉛弾を撃ち続けた。
「ふふ、君、さっきと何も変わってないじゃない。ここはボクの剣技の見せどころかな?」
するとテレナシアはその鉛の弾を全て刀で一寸の狂いもなく切り裂いた。
「へえ、やっぱり貴様は凄いな?だったらこれならどうだ!?」
メネツェアは二丁の拳銃を正面に構え、一斉射撃を始めた。
固定しながら射撃を繰り返していても、テレナシアに切り裂かれてしまうのは目に見えている。
だからこそ、メネツェアは角度、高さ、横幅を変えながら撃ち続ける。
「なかなか良い作戦だね?ボクじゃない誰かなら殺せていたかもね?」
テレナシアは魔法のバリアを張るでもなく、回避するでもない、『刀』一本でその連射される鉛弾に臨んだ。
その僅かにずらされて放たれる鉛弾の軌道を予測し、そこに刀の刃をピンポイントで当ててきた。
結果、先に力尽きたのはメネツェアの鉛弾のようだ。
彼女が拳銃に鉛弾の補充をしている間の隙をテレナシアは狙った。
拳銃は近距離攻撃があってこその武器であり、単体ではリロード時間が大きな穴となってしまうのだ。
テレナシアに刀で攻撃され、メネツェアは必死に拳銃のリロードをするが、回避することで精一杯だったためになかなかリロードが終わらない。
「どうしたの?このままじゃ死んじゃうよ?」
テレナシアの刃は次第にメネツェアを取られるようになり、彼女の腕や太ももに傷跡が残る。
このままではまずい・・・!こうなったら・・・・!
「炎龍王」メネツェアの名において、中級魔法を降臨する!『炎牢』!」
メネツェアが中級魔法を詠唱すると、メネツェアの周りに煌めく炎の牢獄が現れる。
自己防衛の魔法を放たれては、さすがのテレナシアも引かざるを得ない。
そのまま強行突破も可能だったが、その先まで見据えての行動だった。
戦は、必ずと言っていいほど『予想外』が付くものだ。
だが、それ以上に気になることが。
それを重々理解していたテレナシアの目の前で、メネツェアは『炎牢』からゆっくりと姿を現した。
そしてテレナシアはその気になる疑問をメネツェアにぶつけた。
「君、どうして『中級魔法』なんかを?まさか『上級魔法』が使えないってわけではないでしょう?」
誰がどう考えても、『中級魔法』よりも、威力も高い『上級魔法』を使うべきだと思う。
しかし、この謎に満ちたメネツェアの行動は、彼女の戦闘スタイルを活かすことに繋がっていたのだ。
「もちろん『上級魔法』は使える。だが、『中級魔法』でよかったのだ」
「君の言っていることが一ミリ足りとも理解できないんだけど・・・」
「そうか、理解できないのなら、実際に体感してもらった方が早いな?」
するとメネツェアは、鉛弾に中級程度の炎の魔法を含ませて、一発だけテレナシアに向けて放った。
その安い挑発に引っ掛かるように、テレナシアは『刀』で切り裂こうとする。
「ん?」
テレナシアはこの弾丸にある違和感を覚えた。
それはなかなか切り裂けないということだ。
今までの鉛弾なら、糸を切るように簡単に切り裂けたのだが、思うようにいかない。
それどころか、この熱気。
どう考えても、中級程度の炎の魔法ではない。
間違いない、この熱気と威力は『上級魔法』に匹敵する威力だ。
魔法に人一倍敏感なテレナシアはすぐにわかった。
その弾丸を受け流すように後ろへと追いやり、テレナシアはメネツェアを盛大に讃えた。
「素晴らしい、君、やればできるじゃないか?そうか、君が中級魔法を使ったのは、自分の魔法値を下げ過ぎずにボクを追いやるためだったんだね?」
「そういうことだ、最後まで取っておきたかったが、バレてしまった以上仕方がない」
「これが君のユニークスキルなのかい?」
「そうだ、これがアタイのユニークスキル『品性』。使用したあらゆる魔法をワンランク上の物として使用できるスキルだ」
「使い勝手の良いスキルだね?ぜひとも入手したいものだ」
「アタイは絶対負けない!だからこのユニークスキルが貴様に渡ることなどない!」
「さて、それはどうかな?」
『刀』を再び構えるテレナシアに、メネツェアは警戒態勢を取る。
様々な攻撃パターンを考え、それに応じた対処法を頭が固いなりに考えた。
だが、そのパターンだけは読めなかった。
テレナシアは構えていた刀を突如下ろしたのだ。
理由は不明だが、彼女はどこか遠くの方を見つめながら、
「とうとう目覚めてしまったか・・・」
と、一言だけ言い放って刀を構え直した。
その一言にメネツェアは疑問を抱いたが、彼女の真剣な表情を見るからに、こちらの話に乗ってくれるとは思えなかった。
メネツェアはその目覚めだ何かに警戒をしながら、戦に臨むのだった。
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