百十一話 度重なるピンチ
※グロテスク成分あります・・・
「随分と命知らずの女の子だね?まあボクはそういう女の子も好きだけどね?」
ドレイニーに向かって牙を立てようとするテレナシアの攻撃を、ゼクスシードがかろうじて受け止めた。
「早く逃げろ!死ぬぞ!?」
「いや、だから国王の領地で何してるのって」
「説明している余裕がない。さっさとここから立ち去るんだ!」
テレナシアの攻撃をはじき返し、彼女を後ろへと追いやる。
「また邪魔者が増えたってことでいいのかな?これ以上時間を費やしていたらキリがないからさっさと終わらせることにするよ、ごめんね?」
再び斬りかかろとするテレナシアに対抗するようにゼクスシードは前へと飛び出した。
だが、
「何・・・!?」
テレナシアの姿が一瞬にして消え去り、完全に見失ってしまったのだ。
恐らくは、瞬間移動系統の魔法でも使ったのだろう。
ゼクスシードが四方八方探すと、テレナシアはある少女の後ろに静かに立っていた。
そして優しい笑顔を作りながら、刀をゆっくりと振り上げる。
「早くその場から逃げて!」
ゼクスシードがドレイニーに指示を出すが、彼女はその場から移動しようともしない。
彼女には絶対的な自信があったからだ。
ドレイニーは、龍王戦で見せた『空間操作』をすぐさま使った。
『空間操作』は時を操る『古龍種』にしか使えない能力だ。
だから現状、その効果を受け付けないのは『古龍種』であるドレイニーとゼクスシードだけだった。
刀を振り上げたままフリーズするテレナシアに向けて、ドレイニーが詠唱を始める。
「ドレイニーの名において、上級魔法を召喚す・・・」
ドレイニーがそう言いかけたその時、
バリンッ!
空間が切り裂かれるように切れ目が入り、止まっていた時が再び動き出した。
どうして・・・っ!?
今までに『空間操作』を破られてたことがなかったのだろう。
ドレイニーは完全に取り乱している様子だった。
ドレイニーの視界の先には、光沢を一層輝かせる刀。
その刃から目を離すことができない。
死ぬ?死ぬの?死ぬ死ぬ死ぬ・・・・・・
「では、君はこれでさようなら」
思考がまとまらないドレイニーに容赦なく刀が振り下ろされる。
視界の先が真っ赤だ・・・私は死んだ・・・?目が充血してるのかな・・・?このまま時間とともに消滅するのかな・・・?
全身に力が入らないようだ・・・
体が重くて起き上がれない・・・
こうやって死んでいくんだ・・・思ったより怖くないな・・・
初めての「死」の体験。
ドレイニーはそのまま目を閉じようとした、その時だった。
ゴホ・・・っ!ゴホ!
ドレイニーの腹部付近で誰かが苦しそうに咳ばらいをしている。
目を開き、腹部の方にめがけて視界をなぞると、
「う、うわああああああ!」
そこには背中をざっくり斬られたゼクスシードの姿が。
流血が激しく、辺りに血だまりができている。
ドレイニーは自分の目元を必死に擦った。
すると、手にゼクスシードのものであろう血が大量に付着していた。
どうやら彼女の返り血を食らったらしい。
うっぷ・・・
血生臭さに慣れていないドレイニーに、突如吐き気が襲い掛かる。
ドレイニーはそれを必死に手で抑え込みながら、血まみれのゼクスシードから距離を取った。
その一部始終を見ていたテレナシアがドレイニーに向けて告げた。
「君の傲慢な態度がこんな状況を招いたんだけど、龍王様に何か言うことないのかな?」
テレナシアがドレイニーに問いかけるも、怯えて会話どころではない。
そんなドレイニーに、テレナシアは刀に付着した血しぶきを、振り払うように彼女の顔へと飛ばした。
「自覚ないの?平和な世界で暮らしてきた君がとった愚かな行動が招いたことなんだよ?」
「私の・・・せい?」
「そうだよ?君がこの場に残らなければ、こんな結末にはならなかったんだよ?」
私の・・・せい、私のせいだ・・・・私の・・・
ドレイニーが地面に頭を擦り付け、精一杯の謝罪の文を読み上げようとした時だった。
「早く・・・逃げて・・・」
声を絞るようにゼクスシードはドレイニーに告げると、テレナシアは悲しそうな顔で、
「全く酷いな、ボクを避けようとするなんて。こう見えてもボクの心はガラスでできてるんだよ?」
「ふ、それなら・・・何度でも心を・・・再生できるじゃないか」
「あのね、ボクが言いたいのはそういうことじゃないんだけど?打たれ弱いって言いたいんだよ?」
「早く・・・逃げて・・・!」
「人の話を聞いてくれないかな!?」
テレナシアは手に持つ刀をゼクスシードに突き立てる。
もちろん、心臓に。
次の瞬間、ゼクスシードは光となって消えていった。
「さーて、残る龍王は一人だね?」
恐怖のあまり、腰を抜かしているドレイニーは使い物にならないだろう。
かといって、リアラは拘束されていて身動きが取れない状態。
この最悪の状況から一人でも多くの生存者を残すことを第一に考えなければならなかった。
だからこそ、一人の龍王は立ち上がったのだ。
テレナシアにある提案を持ち掛けて。
「なあ?貴様の狙いは龍王だろ?この子達は無関係だ。解放してやってくれ」
ターゲットが龍王なら話は簡単だ。
龍王であるメネツェアがこの場に残り、後の二人を逃がす。
これこそがメネツェア達に打てる最善の手だった。
「確かにボクの狙いは龍王を殺すこと。他の竜人は正直どうでもいいんだよね?」
「だったら・・・っ!」
「でも、逃がした竜人が復讐心を抱いたら?その時君はどう責任取ってくれるんだい?」
「わ、わたしは復讐なんて・・・」
「君は確かリアラちゃんだったね?復讐しないと綺麗に言い切れる?お父さんの仇とか言って襲い掛かってこない?」
「貴様、なんでそんなに警戒をしている?貴様の力量があればこちらが復讐しようと簡単に捻り潰せるはずだ」
すでに龍王二人を殺したテレナシアは一体何に怯えているのか?
彼女の力量を以ってすれば、恐怖の二文字などどこにもあるはずがない。
「そうだね、ボクの力を以ってすれば、君達を簡単に捻り潰すだろうね?けど、それで解決できないから怖いんだよ」
「貴様が抱える恐怖ってなんだ?できる範囲でならアタイがなんとかするから」
「んー、それは無理だと思うよ?」
「なぜそう言い切れる?やってみないとわからないだろ?」
「そんなことないんだな?だってボクが抱いてる恐怖っていうのは・・・」
一拍空けたテレナシアの口から出た言葉は、単純かつ意外な言葉だった。
「つまるところ、各々が抱く『本能』だから」
「『本能』?」
メネツェアにはなぜテレナシアが『本能』に恐れているのか見当も付かなかった。
恐らく、リアラもドレイニーも表情を窺う限り、理解をしていないようだった。
そんな三人衆にテレナシアは躊躇うことなく全て話した。
「いいかい?人種ほど『本能』で生きる生物はいないんだよ?人種は論理的に考える傾向があるがそれは違う。感情、欲望のストッパーが外された時に、初めて『本能』が働くんだ。そのストッパーの力が、人種は極めて弱い。だから『本能』で動きがちになるんだよ。『雷龍王』も『古龍王』もボクとの戦闘において論理的に動いていたと思うかい?」
三人は何も反論することができなかった。
テレナシアの話に共感してしまったからだ。
そんな三人の中で、最初に言葉を発したのはメネツェアだった。
メネツェアは考え込んでいるように、
「要するに、何が起こるかわからないから、邪魔する者は殺すってことか?」
「ご名答〜」
「そんなふざけた話があっていいものか!彼女達がそんなに信用ならないか!?」
「うん、信用ならないね」
即答するテレナシアだったが、何か良いことでも思いついたのだろう。
目を輝かせる様子は、まるで玩具を買ってあげた時の子供が見せる反応のそれだった。
そしてテレナシアがメネツェアにある提案をした。
その提案はメネツェア達にとっては地獄の契約に等しかった。
その提案の内容はというと、
「君がボクを追い詰めることができたら全員見逃してあげよう。但し、君がボクに殺されたらここで全員死んでもらうよ?」
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