百十三話 切り札
俺は・・・気絶していたのか・・・?
テレナシアに気絶をさせられてから、どのくらいの時間が経過しただろうか。
バルカンの体の所有権がテレナシアに渡されたせいで、外で何が起こっているかもわからない。
ただ一人、暗い世界に取り残されていた。
おい!テレナシア!さっさと体を返せ!
こんな安直な呼びかけで簡単に応じると思わなかったが、テレナシアはすぐさまバルカンの目の前に現れた。
機嫌が良さそうな顔をして、
やあ、少し早い目覚めだったね?
テレナシア、なんでそんなに機嫌が良さそうなんだ?
それは君が無事目覚めてくれたからだよ?
茶化すな!他に理由があるんだろ?
単にバルカンが目覚めただけでこれほどまでにご機嫌になるわけがない。
それ相応の理由があるはずだ。
それに気が付いた時、バルカンの全身に鳥肌が立った。
歴史を知る者だからこそ、その理由以外考えることができなかった。
お、おまえ・・・っ、まさか・・・っ!
酷く怯えているバルカンにテレナシアは何も告げることなく彼の額に手を添える。
そして彼女は言った。
ボクが見てきたものを全て見せてあげよう。ボクの口から言うより、見た方が説得力ありそうだしね?
テレナシアの手から、バルカンが気絶していた時間帯に起こった出来事が、勝手に頭の中に流れてくる。
その光景に疑いを示すことなく、バルカンは膝を屈してしまう。
普通なら疑うところから始まるのだが、彼はこの時代の歴史を知る者。
その光景を歴史が上手くリンクしているため、疑う余地がなかったのだ。
どうだい?仲間を殺された気分は?
どうだい・・・だと?お前、本気で俺に聞いてるのか?
本気だとも、以前にも言ったけどボクと君は周りからの信用の無さで繋がってる。ボクは君がこれまでにどんな思いをしてきたのか全て知っている。初めて会った時も君だけがボクの野望を知り得ていた。だけど、他の龍王達は君の思いをどこまで汲み取ったのかな?あんな、あからさまに様子がおかしかったのに警戒の一つしていたかな?していたのなら、こんな結末にはならなかったはずだよ?要するに君には信用がなかったんだ。だからボクの方が君の仲間に近いわけで、それで仲間ではない龍王達を殺して気分はどうだい?って聞いたんだよ?
確かに、どちらの方が理解があるかと比べたら、間違いなくテレナシアだ。
だが、
でもそれは、俺が何も言えなかったからであって・・・
『呪い』が彼の発言を拒ませたせいで、龍王達に理解が伝わらなかっただけだ。
そう言いたげなバルカンにテレナシアは彼の頬を撫でるように、
それはあまりにも都合が良くないかな?本当の信用、信頼が存在していれば口に出さずとも意思疎通はできるはずだよ?それを怠ったということはつまるところ、そういうことなんじゃないかな?
ちがう・・・っ、違う違う違う!
何か伝えるためには口に出さないと伝わらない。
それはどの世界にも言えることだ。
バルカンは間違えたことを言っていない。
テレナシアの方が間違えている。
バルカンは自分にそういい聞かせながも、テレナシアのペースに飲まれないようにする。
しかし、当然テレナシアはバルカンの考えていることを容易に把握できる。
なんせ、似た者同士なのだから。
そこまで深く考える必要はないよ?ボクは仲間で六純天使に加担する龍王は敵。手を取り合う十分な理由だと思うよ?
手を指し出すテレナシアの顔に邪悪な影は見当たらない。
もしかしたら、バルカンのいるべき場所はここだったのかもしれない。
信用されるのはとても居心地がいい。
理解者が一人でもいるだけで全てが報われるのだから。
そして、バルカンがテレナシアの手を取ろうとした時だった。
脳裏に龍王達とドレグレア、ドレイニー、そしてリアラとエナの姿がふと思い浮かんだ。
暖かかったあの日常。
帰れるものならもう一度、あの場所へと戻りたい。
だが、大半はテレナシアによって殺されてしまった。
同じ日常へと戻ることは、もうできないだろう。
だけど・・・!だけど・・・っ!
バルカンは差し出されるテレナシアの手を振り払った。
テレナシアはびっくりした様子で、
びっくりしたー、どうしたのかな?
・・・・れない・・・・
ん?なんだって?うまく聞き取れないよ?
お前とは仲間になれないっていったんだ!
テレナシアは予想外の返答に耳を疑ったのか、しばらくは何も口に出さなかった。
しかし、すぐに気持ちを平然とさせ、いつもの極上のスマイルで微笑んだ。
君は茨の道を行くのかい?それはあまりに無謀だと思うけど?
無謀だと誰が決めた?信用がないのなら勝ち取るまでだ
バルカンのその言葉を聞いて、彼女の心の中で何かが動いたのだろうか。
テレナシアは踵を返すようにバルカンの元から離れていき、そして女性らしい背広で語った。
君とは分かり合えると思ったんだけど、残念だったな?まあ、せいぜい楽しんでいってね?
一体何を・・・?
ふふ、それはボクが消えてからお楽しみで!
その言葉を最後に、テレナシアは完全に姿を消した。
そしてそれと同時に、バルカンの目の前に大きな映像が流れ始めた。
これは・・・っ!
そのスクリーンに映し出される彼女の姿に見覚えがあった。
ショートカットの赤髪の女性が血だらけになって戦っている。
見間違えるはずがない。メネツェアだった。
その視点から察するに、この視点は紛れもなく自身のものだった。
あの野郎・・・!仲間の『死』を黙ってみてろってか!?
バルカンは必死に乗っ取られた体を取り戻そうと気を強く持ってみたが、何も変化は起こらない。
早くしないと・・・っ!メネツェアまでやられちまう・・・っ!
バルカンはメネツェアが血を流しながら戦っている間にも、必死に体を取り戻そうと色々と試すのだった。
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カハ・・・っ!
メネツェアの体は限界まで来ていた。
鉛弾を魔法で包み込んだ、いわゆる『魔法弾』をあれから仕切りなしに使っていたせいで体の動きが段々を鈍くなっている。
そのせいで、テレナシアが振るう刀を避け切れなくなっていたのだ。
全身掠り傷だらけのメネツェアにテレナシアは優しく語り掛けた。
「なるほどね?君が他の龍王より劣る理由がようやくわかったよ?君のユニークスキルは魔法を使わないと発動しない。魔法には限界があるからあまり使えないっというわけだったんだね?」
「貴様にそれを言って何になるというんだ?」
「確かにそうだね、ボクが君のユニークスキルに興味を示したっというただそれだけの話だったんだ」
「まだ切り札を見せてもいないのにか?」
「どういうことかな?」
メネツェア自身には切り札と呼べる魔法があった。
これを使ってしまえばメネツェアは確実に死ぬだろうが、使わなくてもテレナシアによって殺される運命は決まっていた。
だからメネツェアは共倒れを狙ったのだ。
「そのままの意味さ、アタイのユニークスキルを最大限まで生かすことのできる切り札さ」
「なるほど、それは実に興味深いね?ぜひボクに見せてくれないかな?」
「当然だとも、貴様に負ける気はさらさらないんでな?」
虚勢を張るメネツェアの心理状態を見抜かれているのだろう。
テレナシアはその得体の知れない切り札に臆することなく、余裕の笑みを浮かべている。
「吠えずらかかせてやる!」
するとメネツェアを中心に赤く記された大きな魔法陣が展開され、そして彼女は唱えた。
「『炎龍王』メネツェアの名において、この身を代償に全ての万物を焼き払え!『炎帝ブレムトルム』!」
次の瞬間、魔法陣から火炎と比べ物にならない獄炎がメネツェアの身を焼き尽くす。
彼女の悲鳴が、静まり返っているこの場に響き渡る。
そんな中、テレナシアは目を輝かせながら、
「これだ・・・ボクが求めていたのはこれだよ!そうそうそうそう、これこれ。ようやく対等に戦えるようになったな?」
多数の魔法を知り得るテレナシアがそういうのだ。
この魔法は、恐らく今までの魔法とは比べ物にならないくらいの力を秘めているはずだ。
そしてその獄炎からゆっくり姿を現したのは、この魔法を唱えた張本人、メネツェアだった。
しかし、容姿がまるで変っていた。
今の尚、毛先が炎々と炎で焼かれており、背中にはドラゴンと思われる立派な羽が付いていた。
瞳はまるでこの世を見ていない、どこか遠くの世界を見ているようだ。
拳銃にも変化があり、銃口に獄炎が宿っている。
その変わりように、テレナシアが興奮を抑えきれなくなってしまうのは当たり前の話だった。
「おー!いいねいいね!ボクはこんな刺激を待ってたんだよ!」
次の瞬間、
バンバンバンッ!
銃声が三発鳴り響き、気が付けばテレナシアの心臓を三発とも貫いていた。
『根性』で何とか耐えきるテレナシアにメネツェアは見下すように言った。
「この先、タダでは死ねぬぞ?」
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