百五話 付け狙う理由
見事に貫通しているバルカンの胸部から、血が止まることなく流れ続けている。
だが、バルカンはその痛みすら感じることがなかった。
俺は・・・死んでしまったのか・・・?
痛みを感じないとなれば即死だったのか?
しかし、バルカンの意識は己の中で生き続けている。
バルカンの身に何が起こったのか見当もつかない。
そんなバルカンに語り掛けるようにテレナシアは、
「まさか自分が死んでしまったとでも思ったのかい?君自身のユニークスキルを使えば死ぬことはないだろ?」
俺の・・・ユニークスキル・・・?
「なんだ、まだ寝ぼけているのかい?「根性」だよ「根性」」
「根性」・・・
バルカンの記憶の蓋が開き始めようとしていた。
何か・・・何か思い出しそう・・・
だが、忘れてはいけないのは、テレナシアと体を共有しているということだ。
バルカンが何かを思い出してしまえば、テレナシアに情報を漏らすということになる。
バルカンは必死に記憶の蓋を閉めた。
するとテレナシアが不貞腐れたような言い草で、
「なんだい、君の記憶を見せてくれるんじゃないのかい?」
俺がお前にそんなことをする義理はない。
「そうか、君はまだ自分の置かれている状況を理解していないんだね?なぜボクが君の体に槍を突き刺したのかを」
「根性」を試しに使いたかったからじゃないのか?
「残念だけど不正解。手も足も出ない君に同情して、少しだけボク自身のことを教えてあげよう」
テレナシアはバルカンにあるものを見せた。
それはガラスでできていた何かであり、跡形もなく壊された物体だった。
おい、こんなものを見せて何になる?
破損物を見せられても得られる情報はない。
この時まではそう思っていた。
バルカンの問いに対して、テレナシアの口からは信じられない言葉が飛び出してきた。
「これは六純天使によって作られたボクへの「呪い」だよ?」
この壊れたガラクタが「呪い」?
「そう、ボクは六純天使によって本来の力をこの中に封じ込まれていたんだけど、君の槍がそれに届いたようでよかったよ」
テレナシアの話によれば、胸を突き刺した時に破壊したんだとか。
確かにバルカンの「根性」を使えば死ぬことなく、六純天使の「呪い」を解除できる。
・・・・ん?ちょっと待てよ。それじゃあ、まずいことになったんじゃないか?
要するに、六純天使によって封じられていた大賢者の本来の力が目覚めてしまったということになる。
バルカンの思考回路を汲み取ったテレナシアは、
「君が考えていることで間違いないね。ボクの力に対抗できるのは六純天使だけだから、君は大人しくそこで龍王が殺されるのを見届けてね?」
おい!ふざけんなよ!!!どうしてそこまで龍王を殺そうとするんだ!?
根拠がないのなら龍王を殺す意味がない。
それなりの何かをテレナシアは抱えているはずだ。
するとテレナシアははゆっくりとその口を開いた。
「なぜかって?それはね、六純天使に力を貸している彼らを許せないからだよ?」
だったら俺もその仲間だよな!?なんで殺さない!?
「そんなの決まってるじゃないか、君の体を使って簡単に殺せるようにするためだよ?」
なぜ六純天使をそれほどまでに憎んでいるのだろう。
そんなことはさておき、どうやら龍王を殺す理由としては六純天使に力を貸しているから。
だったら話は簡単だ。
バルカンは表に出ているテレナシアの意識に語り掛けた。
なあ?六純天使と縁を入れば殺されずに済むのか?
「まあ、こちらに加担してくれるのなら殺しはしないかな?」
だったら俺が他の龍王に縁を切るよう頼みこん・・・
「それは無理だね」
バルカンが最後まで言うのを防ぐように、テレナシアは話を遮った。
彼女は大賢者と仲良しごっこをしようと目論むバルカンに、変えることができない事実を突きつけた。
「いいかい?竜人族は古くに六純天使とある契約を結んだ。その契約内容が絶対的信仰。その契約を破った竜人は神の裁きで殺される。だから、竜人が、ましては龍王が六純天使を裏切るとは考えにくいな?」
大賢者であるテレナシアと闘わなければならないのか?何か回避できる施策はないのか?
バルカンは必死に打開策を考えたが、なかなか思いつかない。
「君には少し眠ってもらおうかな?余計なこと考えられても困るしね?」
お、おい!待って!待ってくれよ!!!
「それじゃあ、まあ後で・・・」
待てよ!!!おい!!!!おいっ!!!!!!!
テレナシアのその言葉を最後に、バルカンの意識は失われた。
ーーーーーーーーーーーーー
バルカンが家を飛び出してから数時間が立った頃、彼の部屋の前で立ち尽くす一人の少女。
「ハッスン・・・大丈夫かな・・・?」
バルカンのことが心配になり、再び彼の部屋の前まで来てしまったのだ。
誰からどう見ても、バルカンの様子がおかしかったのは明白だった。
だからこそ、ゼクスシードは気になってしまったのだ。
彼が一体何を抱え込んでいるのかを。
パートナーとして、見過ごせる状態ではなかったというわけだ。
「入っても大丈夫かな・・・?」
次第には部屋の前でうろつきだすゼクスシードを見かけたリアラは、
「ゼクちゃん?そんなところで何してるの?早くこっちにおいでよ?」
「あ、でもハッスンが・・・・」
「あんな奴放っておいて大丈夫だよ。ゼクちゃんを傷つけたんだから」
「でも、私もハッスンのこと全く知りもしないのに・・・あんな偉そうな態度とって・・・」
「いや、ゼクちゃんは悪くないよ。悪いのははっきりしないあいつなんだから」
「でも・・・・」
悲しい顔をしながら、ゼクスシードはバルカンの部屋を窺う。
そんな表情をされては、父親と喧嘩中の娘でも仕方なく声をかけてしまう。
「ねえ、ゼクちゃんが話がしたいって」
リアラは力強く扉を叩くも、中からの応答はない。
「寝てるのかな?」
「どうだろ?拗ねてるだけじゃない?」
「え、ハッスンって拗ねるの?」
「拗ねる拗ねる、ここ最近は拗ねてばっかだよ。前までそんなことなかったのにね?」
「そうなんだ・・・ちょっと見てみたいかも・・・?」
「ゼクちゃんのお願いなら仕方ないか・・・ちょっと離れててね?」
「あ、うん」
ゼクスシードはリアラの指示通りに少し離れた場所で待機していた。
リアラはドアノブを押したり引いたりしてみるものの、やはり鍵がかかっているか、それとも何かが引っかかっているのか、どちらにせよ開く気配がなかった。
「おーい、ゼクちゃんが話しあるって」
いくらリアラが呼びかけても中からの反応はない。
「仕方ない。これだけは使いたくなかったんだけど・・・」
するとリアラは右手に拳を作り、それを構えた。
何をしようとしているのか、理解できたゼクスシードは、
「や、やめて!そこまでしなくていいから!」
「せい!」
リアラはゼクスシードの言葉に耳を傾けることなく、扉を自力でこじ開けた。
扉を封じていた棚は跡形もなく吹き飛び、部屋の中がよく見える。
開いた窓から入る月の光はとても綺麗で、二人は思わず見惚れてしまった。
そして、感動は驚きへと変換される。
部屋の隅から隅を探してもバルカンの姿がない。
「ハッスン・・・?ハッスン!ハッスン!」
普段からおっとりした様子のゼクスシードが、非常に珍しく取り乱す。
そんな彼女に付き添うようにリアラは、
「大丈夫だよ!多分、気分転換に散歩でも行ってるんだよ?だから・・・」
「ダメだよ!あんな精神状態で出歩いちゃ!危ないよ!」
ゼクスシードは部屋にリアラだけを取り残して、慌てて外へと飛び出していく。
むしろ、少女一人で出歩く方がよっぽど危ない。
龍王と言えど、中身はまだ少女だ。
何かあってからでは遅い。
リアラも急いでゼクスシードの後を追うように外を出ようとするが、
「リアラ?どこいくの?」
「お母さん、お父さんが部屋にいないの」
「え!?嘘!?」
エナも取り乱すように外へと飛び出し、あてもなく長い道を走っていく。
「どう考えてもお母さんについて行った方がいいよね・・・?」
ゼクスシードの中身は少女でも、実力は相当なもの。
どちらかといえば、平凡な母の方がよっぽど危険だ。
「お母さん!ちょっと待ってよ!」
三人は行方不明になったバルカンを探すために、暗い夜道を駆けるのだったが、彼を見つけることは出来なかった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークをつけてくださった読者様、本当にありがとうございます!
これからも期待に応えられるよう、精一杯頑張っていきたいと思います!
面白いなと感じてもらえたなら、評価の方をよろしくお願いします!




