百六話 初対面
沈んでいた太陽が東の空を登ってから、どのくらいの時間が経過しただろうか。
四時間程度、夜の街でバルカンを探し回ったリアラ達は、一度家へと戻り、無事に帰ってくることを願ったがバルカンは未だ帰っていなかった。
その間、二人は一睡もしていなかった。
エナは気持ちに余裕がなく、なかなか寝付けなかったのだ。
そんなエナを心配したリアラは、彼女に付きっ切りで長い夜を過ごした。
夜から二人の間に会話はなく、時計の秒針の刻む音だけが部屋に響き渡る。
そんな空気の中、リアラは前触れもなく立ち上がった。
「このままじゃあ埒が明かない。もう一回探しに行ってくる」
「ええ、お願いできる?」
「任せて、必ず見つけ出してぶん殴ってやるから」
エナがリアラに同行しないのには、もちろん理由がある。
それは、バルカンが帰ってきた時に部屋に誰もいないとバルカンが家に入れなくなってしまうからだ。
バルカンの部屋の机の上に、この家の合鍵が置かれていた。
つまり、バルカンは家の鍵を持っていないということになる。
昨夜は戸締りせずに家を空けてしまったが、本来そんな不用心なことはしてはならない。
昨夜の反省を生かした一家の内、リアラはジリジリと照り付ける太陽の元へと飛び出した。
「暑いな・・・」
お父さん、ちゃんと水分補給してるかな・・・
水分補給しないと熱中症になりかねない今日の暑さ。
喧嘩しているとはいえ、さすがに心配にもなる。
リアラはさっそく探し始めようと家の敷地から抜けると、後ろから声が掛けられた。
声のする方へと振り返ると、そこには泥だらけになったゼクスシードの姿があった。
こんな状況下でも、リアラはつっこまずにはいられなかった。
「ちょ!ゼクちゃん!?どうしたの!?泥だらけじゃない!?」
「あ、うん。色々探してたら汚れちゃって・・・それよりハッスンは家に戻った?」
自分の服装よりもバルカンの身の心配を優先するゼクスシード。
そんな彼女にとって、この報告はあまりにも酷だが、嘘を吐くわけにもいかなかった。
「まだ、帰ってないんだ・・・」
「そっか・・・私、あっちの方をもう少し探してみる!」
「あ、ゼクちゃん!」
走り去ろうとするゼクスシードをリアラは呼び止めてしまった。
振り返るゼクスシードの額は汗で輝いており、髪はぐっしょりだ。
だからこそ、聞かずにはいられなかった。
「ゼクちゃん、なんでそこまで必死になれるの?うちの問題なのに、なんで・・・?」
「理由がないといけないの?」
ゼクスシードの目は笑っていない、真剣な眼差しだった。
そんな眼光を向けられては、何も言い返せなくなってしまう。
そんなリアラに、ゼクスシードは微笑みながら、
「そうだね、理由を作るなら・・・大切な私のパートナーだから・・・かな?」
ゼクスシードはリアラにそう言い残し、再び走り去ろうとしたが、今度は誰に呼び止められることなくその場に立ち止まった。
どうしたんだろう・・・?
あまりにも不自然だったために、心配になったリアラはゼクスシードに声をかけた。
「どうしたの?大丈夫・・・?」
「リアラちゃん・・・どうしよう・・・」
青ざめたゼクスシードの手元には一通のメッセージが表示されていた。
そこに書かれていたのは、
「国王様に召集をかけられたんだね?」
「どうしよう、リアラちゃん・・・ハッスンもまだ見つかってないのに・・・」
「お父さんのことは私に任せておいて、ゼクちゃんは国王様のところへ行ってきなよ?」
「でも、ハッスンは私とパートナーを組んだの。恐らくこの招集はパートナーと行動する依頼だから・・・」
「あー、なるほどね」
龍王の二人体制で行う依頼は恐らく、過酷なものなのだろう。
そんな依頼に、いくら龍王と言えどゼクスシードを一人で活かせるのはあまりに心配だ。
そこで、リアラはゼクスシードにある提案をした。
「その招集に私もついて行けないかな?」
「え、リアラちゃんが?」
「いや、その依頼をゼクちゃんと一緒に受けるってわけじゃなくて、国王様に状況を説明したいかなって・・・ダメかな?」
普通に考えて、龍王しか招集がかけられていないのに一般の竜人が入っていい領域ではない。
だが、ゼクスシードの身の安全を考えると、この方法しか見当たらなかった。
リアラはバルカンの実娘であるために、有効的な証人になるだろう。
まあ、リアラを連れて行くか連れて行かないかはゼクスシード次第なのだが。
ゼクスシードは悩むことなく一言で、
「うん、いいよ!」
「え、本当にいいの?」
「うん!私、極度の人見知りだから誰かがいないとうまく話せないかも?」
「そういえばそうだったね」
初めてゼクスシードと言葉を交わした時は大きな壁のようなものを感じていたものだ。
それから長い年月が経過していたためにすっかり彼女の本性を忘れていた。
そしてリアラはゼクスシードの肩を掴み、最後の確認を取った。
「本当に大丈夫だよね?殺されたりしないよね?」
「大丈夫だよ。みんなそこまで酷い竜人じゃないから」
「そうだよね!大丈夫だよね!」
リアラの手はこれでもかというぐらい震えていた。
ゼクスシードはそんな彼女の手を握りながら、「ドラゴミーティング」と言い放ち、リアラ達は会議場へと瞬間移動を果たしたのだった。
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会議場についたリアラ達の前には、一人の男と一人の女が和気藹々と談笑をしていた。
ゼクスシードは迷うことなくその輪の中に入ろうとすると、二人はリアラ達の存在に気が付いた。
「やあ、ゼクスシード。それに・・・・あれ?リアラちゃん?」
「あ、初めまして・・・でよろしかったでしょうか?」
「俺が一方的に知っていただけだから初めましてだね?弟のシュベルゲンが世話になったね?」
「あ、シュベルゲンのお兄さんですか?」
「おう!「雷龍王」のベクトだ。ところでリアラちゃんはどうしてここへ?」
「実は・・・」
リアラはバルカン行方不明の件をベクトに話そうとしたが、当たり前のように邪魔が入った。
ショートカットの赤毛の女性が、
「ほう!君がハッスルマンの子供か!アタイはメネツェアだ!よろしくな!」
「あ、いつも「氷龍王」がお世話になっております。娘のリアラと言います」
「おいおい、ハッスルマンと違って元気もりもりしてないな?ダメだぞ?元気もりもりしないと!」
「は、はあ」
「ハハハ、気にしなくていいよリアラちゃん。メネツェアは見ての通り特殊だから」
「おいおい、特殊ってなんだ?どうみたってアタイは元気もりもりだぞ?」
「初対面の人にメネツェアみたいな態度は取れないって話だよ」
「なーに、いい子ぶっちゃってんだ?いつも見たくバカしろよ!」
「俺はしてないと思うが?」
ベクトとメネツェアが言い争いをしている中、リアラの袖口を優しく引っ張る手が。
どうやら仲間外れにされたと思ったらしく、ゼクスシードが輪の中に入れて欲しいアピールをしていたのだ。
極度の人見知りで何も話すことはないが、楽しげな会話に入りたいのだろう。
そんなゼクスシードの代わりにリアラは、言い争いをしている二人に、
「あの、大事な話があるんですが、いいですか?」
「おう、なんだ?」
「おうよ!アタイにかかればどんな依頼だろうと楽勝よ!」
「メネツェア、少し静かにしてくれないか?」
「今日はやけに優等生じゃねーか?元気もりもりじゃねーなー?」
そう言い残したメネツェアが静かになったところで、リアラがここに来た理由を二人に告げた。
「いきなりですが、バルカンが行方不明になったんです。それで今回の依頼、バルカンのパートナーだったゼクスシード様の辞退の許可をもらおうと参じた次第です」
「なに!?バルカンが行方不明だと!?」
「はい、昨夜からずっと・・・」
「どこかでハッスルしてんじゃねーか?」
「メネツェア。流石に口が過ぎるぞ?」
「ふんだ!それよりリアラ、あんたは今回の依頼の内容を知ってるのか?」
「いえ、私はゼクスシード様から聞いた話しか知りません」
「ということは、俺達と同じ境遇なんだな?まあ、依頼の内容がそこまで酷な物ではない限り、辞退は認められないと思うぞ?そこは国王の気分次第ってところかな?」
「そうですか・・・」
「それより、バルカンが行方不明ってどういうことだ!?呑気に会議なんてやってる場合じゃないぞ!?」
冷静沈着のイメージを保っていたベクトは酷く取り乱し、メネツェアは嘘かどうかを見極めるためにリアラをひたすら凝視していた・・・その時、
ガチャッ
そんな彼らの部屋に一人の人物がノックせずにいきなり入ってきた。
その人物を目にした途端、全員の思考が一気に吹き飛んだ。
その姿はリアラにとって日常茶飯事、目に焼き付いている姿だった。
そう、姿を現したのは紛れもないバルカンだったのだ。
元気そうなバルカンの姿を見て、リアラとゼクスシードは胸を撫で下ろした。
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