秋-2
ギルドは相変わらず依頼を終えた冒険者たちが忙しなく行き交い、賑わっていた。
サラは、カウンターの奥で手際よく書類を捌きながら、クララからオーエンの正体を聞かされた日の驚きと、最近気づいた”ある変化”を思い返していた。
数日前、クララが受付で手続きをしている間、少し離れたベンチで待機していたオーエンに、カウンター越しにそっと声をかけた。
「オーエンさん」
「なんだ」
オーエンが表情を変えずに応じる。
サラは頬杖をつき、悪戯っぽく微笑んだ。
「最近、クララさん、笑うことが増えましたよ」
「そうか。……良いことだ」
「……それだけですか?」
「?」
心底不思議そうに首を傾げるオーエンを見て、サラは(あぁ、天然だ……)と心の中で苦笑した。
彼はクララが楽しそうなのを純粋に喜んでいるだけで、そこに自分がどう関わっているかなど、まるで意識していない。
けれど、面白いのはそれだけではなかった。
また別の日、クララが依頼の貼られた掲示板を眺めていた時のことだ。
サラはまたクララの少し後ろで待機していたオーエンを手招きし、世間話のトーンで話しかけた。
「オーエンさん。最近、ディンさんと仲良しですよね?」
「ああ。良い奴だ。俺の旅の経験談をよく聞いてくれる」
「ふふ、そうですね。……それで、ディンさんって、クララさんのことをどう思っていると思います?」
サラのちょっとした探り。
オーエンは腕を組み、大真面目に考え込んでから答えた。
「仲間、だろう?クララは信頼されている」
(あちゃあ……こっちも鈍い)
サラが心の中で額を押さえていると、オーエンが「だが」と言葉を続けた。
「ディンは時折、俺とクララが話していると、ちらちらとこちらを気にしてくる。声をかけてくれれば良いのに。あれは……何なのだろうか」
(それはただの嫉妬です、オーエンさん)
サラは笑いを噛み殺しながら、さらに一歩、踏み込んでみた。
「じゃあ……オーエンさんは? オーエンさんは、クララさんのこと、どう思っていますか?」
オーエンは再び、少し考えるように視線を落とした。
しばしの沈黙。
「……大切だ」
「どういう意味で?」
「……分からん」
眉間に薄く皺を寄せ、本気で困ったようにオーエンは言った。
「クララも、クロニク達も、ルーカスも、ディンも。皆、大切だ。……だが、彼女へのそれは少し違う気がする。……何が違うのか、言葉が分からん」
サラは小さく肩をすくめた。
(そこまで分かっているなら、もう答えは出ているようなものなんですけど)
他にも、クララとオーエンが並んで帰路についた後のこと。
カウンターに残されたディンが、妙にため息を繰り返しているのを、サラは見逃さなかった。
「ディンさん。……元気ないですね」
「え? あ、いや……別に普通だけど」
「クララさんが、他の男性と一緒にいるからですか?」
「ぶっっ!!」
ディンは口に含んだばかりの水を、盛大に床へ吹き出した。
「ゴホッ、ゴホッ! な、何言ってんだよサラ! 違うって!」
「違うんですか?」
「……いや、その」
言い返そうとして、ディンは言葉を詰まらせる。
「……分かんねぇんだよ」
彼がぽつりと漏らした声は、小さかった。
「何がです?」
「なんでこんなにモヤモヤすんのか」
必死に取り繕おうとするディンだったが、サラのジト目に見据えられるうちに、だんだんと声が小さくなっている。
「……鈍い人ばっかり。」
「え?」
「何でもありません。」
**
帳簿を閉じ、小さく息をつく。
もどかしくはある。
けれど、不思議と心配はしていなかった。
サラは窓の外へ目を向ける。
視線の先では今日もクララとオーエンが肩を並べて歩いていた。
二人の距離は、前よりもほんの少しだけ近く見える。
その変化に気づいていないのはーーきっと当の本人たちだけなのだろう。
「......クララさんも、隅に置けませんね。」




