エピローグ
2話同時掲載です。
春風が若葉を揺らし、柔らかな陽射しが街を包んでいた。
あれから、一年。
クララは今日も依頼を受け、旅へ向かう支度を整えていた。
変わらない朝。変わらない日常。
ただ、一つだけ以前と違うことがある。
もう、彼女がその手に、古いランタンを提げることはない。
その代わりに。
「オーエン、行こう」
「ああ」
隣を、大柄な男が静かに並んで歩いている。
二人はいつものように、賑やかなギルドの扉をくぐる。
「おはようございます、クララさん。オーエンさん」
カウンターの奥から、サラが笑顔で迎えてくれた。
酒場の一角では、朝から集まった冒険者たちが、相変わらず並び立つ二人を見てニヤニヤと笑い声を上げている。
「あの二人、ほんと仲良いよな。今日も二人だけで行くのか?」
「いつも一緒だもんなぁ。……そういえばさ、ついにあのランタンは卒業したのか?」
悪気のない冒険者たちの噂話に、サラは小さく肩をすくめてみせた。
「いいえ」
そして、少しだけ誇らしそうに微笑む。
「形が変わっただけです」
「クララさんは昔から、大切なものを、ちゃんと大切にしている人ですから」
その言葉が聞こえたのか、クララは照れくさそうに笑い、隣のオーエンを見上げた。
「今日もよろしくね」
「ああ」
それだけの、いつものやり取り。
けれど、今の二人には、その短い返事だけで十分だった。
ギルドの扉を押し開け、一歩を踏み出した時。
隣を歩くオーエンが、いたずらに、そっと自分の指先に小さな灯をともす。
かつてランタンの中で揺れていた琥珀色の光が、人の手の中で静かに揺れた。
それは、何百年ものあいだ、暗闇の中で旅人を導いてきた孤独な灯ではない。
二人で歩むこれからの未来を、静かに照らしていくための、新しい灯火だった。
終




