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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
一章【閲覧注意】最恐心霊スポットをアイドルと一緒に凸してみた!

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喧嘩でもしました?


「……ふぅ……」


 翌日、俺はいつも通りの時間に出勤して、いつも通り教壇に立っていた。


「……!」


 日本史の教科書を開くと、偶然開いたページがちょうど『平安時代』についてだった。

 


 ……____あなたは、『玉藻前(たまものまえ)』という妖怪をご存知ですか?

 ……____アレが最近、復活したんですよ。

 ……____時は平安時代末期、かつて……。

 


「平安時代……か……」


 令和の現代から遡れば1000年以上も前、京都で栄えていた雅やかな時代

 HARUHIのご先祖様は、そんな平安時代の中を生きていた……。


 当時の平安京は、鬼や怨霊が跋扈する、陰と陽の世界が隣り合っていた時代とも言われている。

 なんとも厨二心をくすぐる表現だ。

 けど実際は、衛生概念の悪さや、当時のインフラ設備が全く機能していなかったから、盗賊やら疫病やらといった極めて現実的な問題を、そういった曖昧な存在に喩えていたに過ぎない。


 だから実際には、目に見えない怪異なんて存在するわけがない。

 

 ……と、つい昨日の夕方までは、そう信じて疑わなかった。


「せんせー?」

「え、あ、はい……?」


 ふと昨日のことを思い出していると、女子生徒に話しかけられた。


「何ぼーっとしてんの? ちゃんと授業してくださーい」

「あぁ、……ごめん……」


 そう言うと、女子生徒は再び机に視線を向けた。

 いや、厳密には机の下で隠し見ているスマホだろう。

 俺の授業を真面目に聞いている生徒なんてほんの一握り。大多数の生徒達は、机の下で隠したスマホを操作して、俺の容姿や名前を弄り倒したり、ソシャゲに興じているかのどちらかだ


「えっと、じゃあ……」


 でも内気な俺に、そんな彼らを注意する度胸や勇気はない。

 変に騒がれて学級崩壊を起こされるよりは遥かにマシだからだ。

 

 俺は無理やり気持ちを切り替えて、片手にチョーク、片手にタブレットを持ち直した。



 ******



「はぁ〜〜〜〜〜〜……」


 ……いや集中できるわけねぇじゃん!!

 昨日の今日だぞ!!


 帰宅したのも日を跨いだ後だったし!

 おかげさまで寝不足だよ!


 俺は職員室に戻ってくるなり、自分のデスクに突っ伏してしまった。


「どうされましたか? 在保(あきやす)先生!」

「……葛木(かつらぎ)先生……お疲れ様です……」


 意気消沈している俺とは打って変わって、快活な声色で話しかけながら、隣のデスクに腰掛けてきたのは葛木茂(かつらぎしげる)先生だ。

 陰キャな俺とは正反対の、陽キャ通り越してパリピみたいな性格に、生活指導と体育を担当しているだけあって見た目も爽やか、男女構わず生徒達の多くから大変な支持を集めている、人気教師だ。


「元気ないですね〜。もしかして、“サキちゃん”と喧嘩でもしました?」

「……!」


 そして何を隠そう……。

 俺に“彼女”を紹介してくれたのも、この先生だ。


 半年ほど前、葛木先生が紹介してくれた女性は、『玉森サキ』と名乗った。

 綺麗で、清廉で、可愛くて……。まさに理想的な女性だった。

 でも、その正体は……。


「あれ……? もしかしてガチ……?」

「……」


 葛木(かつらぎ)先生的には冗談で聞いたつもりだったんだろうけど、俺が引き攣った顔をしてしまったせいで、申し訳なさそうに眉を下げた。


「あ〜、まぁ……、付き合ってれば喧嘩の1回や2回はありますって! むしろ1回も無い方がヤバいから!」

「……そう、ですよね……」


 俺は先生に何も言えなかった。

 

 別に直接的な喧嘩をしたわけでもない。彼女はライブ中突然豹変し、HARUHIに襲いかかって行った。そしてHARUHIに撃退された後は、煙のように姿を消して、そのまま行方をくらませてしまった。


 別れたわけでも、まだ関係が続いているとも言えない。

 今、俺と彼女の関係は宙ぶらりんの状態になっているんだ。


「そうだ! 今日仕事が終わったら、飲み行きません? 仲直りするための作戦を立てましょう!」

「いや、それは……」

 

 正直今は放っておいてほしい。

 まだ昨日の衝撃を現実として受け入れられていないところもあるんだ。


 しばらくは一人で静かに……。


「先生、スマホ鳴ってる」

 

 そう思った矢先、机に置いていたスマホがふるふると震え、通知を知らせていた。

 何だろうと思って画面の通知欄を見てみると、


《今日仕事終わり次第事務所来い》


 HARUHIから、たった一言のメッセージが届いていた。


(現実だった……)


 このたった一言で、俺は昨日の出来事が間違いなく現実で起きたことであるのを、思い知らされた。


「すみません……今日はちょっと……別件があって……」



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