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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
一章【閲覧注意】最恐心霊スポットをアイドルと一緒に凸してみた!

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別に疲れてねぇ


「来たな」

「お、お疲れ様です……」

「別に疲れてねぇ」

「……」


 挨拶だよ……!

 事務所の扉を開けると、普段着に長い髪をポニーテールにまとめたHARUHIが、仁王立ちで待ち構えていた。


 やっぱり見た目は可愛いんだよなぁ……。

 

「始めるぞ。座れ」

「はい……」


 特にこれといった会話もなく、俺とHARUHIしかいない静かなオフィスの中、早速特訓が始まった。


「まず初めに、見えない存在を見るためには、元から機能している五感に加え、第六感をある程度鍛える必要がある」

「第六感……?」

所謂(いわゆる)霊感みたいなもんだ。霊感が高ければ高いほど、見えない存在を捉えられる確率が上がる」

「はぁ……」

「幸いにも、お前は元々五感には優れている。霊感も人並み以上にある。後はストッパーさえ取り払えば、すぐ見えるようになるだろうよ」

「そう、なんですか……?」

「そうなんだよ。現に昨日、このオフィスの違和感を、お前はなんとなく感じていたはずだ」

「……と、言いますと……?」


 HARUHIは椅子に腰掛けながらも、誰もいないオフィスを見渡した。


「普通の人間は、『誰もいないオフィス』を見たら、『すでに従業員は帰宅しているんだろう』で思考を止める。目に見える情報が全てだと、現代の人間はそう思い込みがちだからな……。だがお前は違っただろう?」


 HARUHIはさらに、近くのデスクに置かれていた、湯気立った湯呑みを指差した。

 

「誰もいないはずなのに、なぜ湯呑みは温かいのか。なぜコピー機は動いているのか。そういった“説明のつかない違和感”を、お前は無意識に拾ってる」

「……」


 そういえば……。

 昨日、俺も同じ違和感を持った。

 

「日常の中に紛れ込んでいるわずかな違和感を察知し、理由を求め、知ろうと考える。それが第六感の基礎だ」

 

 俺は改めて、誰もいないオフィスを座ったまま見渡した。


 相変わらず何も見えないけど、耳を澄ましてみると、どこからともなくキーボードを叩く音が聞こえてくるし、なんとなくだけど足音も聞こえてきた。


 そう言えば昨日、リウさんが教えてくれた『かわいいもふもふの式神』とやらが座っていた椅子に顔を近づけたら、どことなくお線香の香りが漂ってきた。あと綿のような柔らかい感触もあった。

 つまりあれが……式神だったのかな?

 

 昨日感じた違和感を思い出していると、HARUHIが空いた椅子を指差した。


「以上の基礎を踏まえた上で聞くぞ。この椅子に座っている式神が見えるか」

「……」


 そう言われて、俺は指された椅子を凝視した。けれどもやっぱり、何も見えない。


「普段使いの眼球だけで捉えようとすんな。五感を使え、眉間に『式神を見るための目』があると思え」

「五感と……、眉間に目……?」


 HARUHIのアドバイスを聞いて、俺は一度目を閉じて、五感を研ぎ澄ましてみた。すると昨日と同じように、どこからともなくお線香の落ち着くような、心地よい香りが鼻をくすぐった。次に暗くなっている視界に、白い煙のような、モヤのようなものがゆらゆらと動いているのが見え始めた。

 

 あと少し。あと一歩で、その姿が捉えられる。そう確信した、その時。


『……____だからっ……! 変なこと言わないで! お願いだから普通の子になって……!』


「!」


 脳内を切り裂くような鋭い拒絶の声に、俺は弾かれたように目を開けてしまった。

 

「あ、……」


 激しく脈打つ心臓を押さえながら見た空の椅子には、当然、何も座っていない。


「す、すみません……。やっぱ……」


 俺は、やるせない気持ちでいっぱいになって、自分の腕を強く掴んだまま俯いた。


「……そうか……」


 HARUHIはただ、怒るでもなく一言つぶやいた。


 


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