うるせぇのが来た……
「こんちは〜っス! お兄ちゃ〜ん来たよ〜!」
「うるせぇのが来た……」
しんと静まり返った室内。
そんな時、底抜けに明るい声が突如、室内に響き渡った。するとHARUHIは途端にげんなりとした表情になってしまった。
「あれ、誰もいない……? と、思ったらいるじゃ〜ん! ヤッホ〜ハルちゃん! 元気?」
「お前のせいで失せた」
「またまた〜そんなこと言っちゃって〜、あれ、君は? ……あ! もしかして、お兄ちゃんが言ってた新人くん!?」
「え」
仕切りの向こうから姿を見せたのは、ヒールを履いたリウさんよりさらに長身の、いかにもチャラそうな男……。正直俺が一番苦手としているタイプの人間だ。
でも顔を見た瞬間。俺はどことない既視感を、この男に覚えた。
「初めまして〜! お兄ちゃんから聞いてるよ〜在保君だよね! 俺は九条綱紀! 気軽にツナって呼んでね!」
「ツナ……って……、もしかして、あのツナ!?」
「そのツナだよ〜! まさか知っててくれてるカンジ!? 超嬉しい〜!」
『ツナ』という愛称を聞いてすぐに思い出した。
俺の勤務先でも、休み時間になれば生徒たちがみんな動画を見て盛り上がっている。
登録者数は300万人越えの超人気動画配信者。『ツナちゃんねる』のツナ!
底抜けの明るさと純粋さ、リアクションのデカさ、加えてちょっと天然でバカっぽいところが特に受けているらしい。
動画はゲーム配信はもちろん、それなりにお金をかけてそうな大胆な企画ものから、どういう思考回路をしていれば、そんな馬鹿馬鹿しい企画を思いつくのか。と思うほどの、ぶっ飛んだ企画もの。時には心霊スポットに突撃したりなど、活動内容も多岐に渡っている。
「知らないわけがないですよ! HARUHIと同じ事務所に所属していたんだ……! しかもお兄ちゃんってことは……」
「そ! お兄ちゃんはウチの代表!」
「リウさんが昨日言ってた弟って、ツナのことだったのか……!」
でも、顔立ちはあんまり似てないな……。強いて言えば、身長が高いくらいかな……。
「腹違いなんだけどね〜」
「あ、そ、そう……なん……」
「もう一人弟がいるらしいんだけど、その弟とお兄ちゃんが同じなんだって!」
そんな……。複雑そうな事情をペラペラ軽い感じで話していいのか……?
「それにしても、名前が在保か〜。ハルちゃんと二人揃ったら『やすやすコンビ』じゃん!」
「やすやすコンビ……?」
「ばっおま……!!」
やすやすコンビ……?
どういう意味だ……?
そう首を傾げていると、なぜかHARUHIが焦り出した。
「聞いてない? ハルちゃんの本名、や……もごっ」
「バカ! 余計なこと言うな!」
おそらくツナがHARUHIの本名を言おうとしたのか、その前に本人が急いで口を塞いで静止させた。
そう言えば、俺はHARUHIの本名を知らない。
昨日ミチルさんが安倍氏庶流倉橋家の末裔と言っていたから、おそらく名字は『倉橋』なんだろうけど……。名前は想像がつかない。だからちょっと気になる……。
「テメェも、知ろうと思うなよ」
「え〜……」
「返事は『はい』か『YES』だ!」
それどっちも意味同じでは……?




