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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
序章 『HARUHI』

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俺の新しい手下


 

「ここは……」

「おら、ボケっと突っ立ってんな。とっとと入れ」

「あいてっ」


 ライブハウスでの話が一段落すると、今度はHARUHIが所属しているという事務所に連行された。

 都内の一等地に構えられている事務所。


 絶対に俺みたいなキモオタクソド陰キャが来ていい場所じゃない。


 入り口で戸惑っていたら、後ろからやってきたHARUHIに尻を軽く蹴られた。

 地味に痛い。


 振り返ると、ステージ衣装から普段着に着替えたHARUHIが不機嫌そうに立っている。

 全身真っ黒のスウェットを着込んで、頭には帽子をかぶって、長い髪をまとめて隠している。

 メイクを落とせば、ぱっと見はただの男の子だ。


 先日メジャーデビューを果たしたばかりのHARUHIだけど、これまでスキャンダルらしいスキャンダルを起こしたことは一度もない。

 

 まだそこまで世間様に知られていないから、すっぱ抜いたところでお金にならないから。なのかもしれないけれど、アイドルを名乗って活動している以上、細心の注意は払っているのだろう。


 舞台の裏口から、目の前にいる男の子が出てきたところで、誰もこの男の子がHARUHI本人であるとは考えないからだ。


(……男かぁ……!!)


 場所を移動する。となったとき、HARUHIは俺がいる目の前で堂々と着替えを始めた。

 思わず俺はHARUHIに背中を見せたが、当のHARUHIは恥ずかしがっている俺を見てゲラゲラ笑いながら「野郎同士なんだから別にいいだろうが」と言い出した。

 

 そう言われて、恐る恐るHARUHIを見てみると……、立派な胸板を晒して、見事なパンイチ状態のHARUHIと目が合った。

 俺は現実を見せつけられて、膝から崩れ落ちた。

 いや、ドスの効いた低い声で脅されていた時から、なんとなく察しはついていたけど……!! けど……!!

 

 その可愛い顔面に野郎の体はズルい……!!!

 

 その後もHARUHIはもそもそと着替え、顔の化粧を落として、帽子で長い髪を隠すように被れば、ライブスタッフの一人だと言われても疑いようのない見た目へと変貌した。


「はぁ……」

「事務所は8階です」


 落ち込んでいる俺をガン無視して、ミチルさんは俺をエレベーターに突っ込んで、8階のボタンを押した。



 

 ******


 

「芸能事務所、株式会社『藤の花』……?」


 8階でエレベーターを降りて、曇りガラスの扉に下げられていた社名。

 ここがHARUHIの所属している事務所か……。


「どうぞ」


 ミチルさんに促され、中に入ってみると、そこには会社でよく見るオフィスが広がっていた。

 規則的に並んでいるデスク、その上にはノートパソコンの電源がオンになったまま置かれている。


 中に入ってすぐ左手には、コピー機が稼働していて、中から印刷された紙が何枚も出てきている。


「……誰も……いない……?」


 電気も煌々(こうこう)と点いているし、コピー機も、ついさっきまで誰かが操作したような痕跡もある。

 けれども、従業員らしき人は誰一人としていなかった。


「いるだろうが」

「へ?」


 HARUHIにそう言われて、俺はもう一度、事務所内を見渡した。

 けれどもやっぱり誰もいない。


「いや、誰も……」

「あら、見慣れない子♡」

「どぅうェ!?」


 突然、耳元で誰かの囁く声が聞こえ、俺は聞こえた耳を押さえながら振り返りつつ後ずさった。


「ヤダ、驚かせちゃってごめんなさい」


 そこにはハイセンスな服を身に纏った……、40代ごろだろうか、見た目はイケオジだ。

 けど口調は……。


(今度はオネェかよ……!!)


 この事務所は一体どうなっているんだろう……。

 見た目と中身のギャップがエグすぎて風邪を引きそうだ。


「俺の新しい手下」

「あら、そうなの?」


 今の所まともなのミチルさんくらいじゃないか……!?

 混乱しまくっている俺をよそに、そのオネェは再び俺との距離を詰めてきて、


「初めまして、アタシはリウっていうの。この事務所の代表よ、よろしくね♡」

勘解由小路(かでのこうじ)……、在保(あきやす)です……」


 挨拶と共に、俺に名刺を渡してくれた。そこには本当に『代表取締役』と書かれている。

 リウ。と名乗ったこのオネェは、俺やミチルさんより背が高く、びっくりするほど足が長い。めちゃくちゃ高いヒールを履いているせいもあるかもしれないが、それでも背筋がピンとしていて、その辺のモデルなんかよりよっぽどカッコいい。


勘解由小路(かでのこうじ)……、なるほどね」

「なるほど……とは?」

在保(あきやす)ちゃん! ウチのハルちゃんのライブで、色々やらかしてくれたらしいわね」

「うっ……」


 オネェだけど代表を名乗るだけある……。俺のやらかし(厳密には彼女だけど……)はとっくに伝わっているようだった。


「その節は……、なんとお詫び申し上げれば良いか……」

「ライブそのものはハルちゃんがなんとか誤魔化せたらしいけれど……、諸々の賠償はこの事務所に請求が来るでしょうね」

「はい……」

「それで、ただ『ごめんなさい』で済むと思っているのなら……」


 先ほどの軽快なノリとは打って変わって、静かに追い詰めてくるように、低い声で言いながら、リウさんは人差し指で俯いていた俺の顎を持ち上げてきた。


「大学を出てすぐ教員になったから、一般的な社会常識すら心得てねぇ指導者気取りの世間知らず。……て、思われちゃうわよ?」


 そして綺麗に整った顔を、息がかかるほどまで近づけて、教師が一番言われたくないだろう急所を的確に突く言葉という名の刃物を、突きつけてきた。

 

「お、仰る通り……。返す言葉も……、ございません……」


 ライブハウスでも似たようなことをHARUHIにもされたけど、HARUHIとはまた違う、物理的に殺されそうな恐怖ではなく、社会的に殺されそうな恐怖と威圧感を感じた俺は、震えながらもなんとか言葉を搾り出した。


 

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