クッソの役にも立ちませんね
「……では、話を戻します。妖狐玉藻前が復活したことで、安倍家は嫡流の土御門を筆頭に、行方を追い続けていたようですが……。相変わらずクッソの役にも立ちませんね。おかげで危うくウチのHARUHIが……」
……ん?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんですか」
また俺が話の腰を折ったことで、ミチルさんは少しばかり語気を強めながら俺を見た。
ミチルさん、顔はビックリするレベルの美形で、笑顔もすごく綺麗。なんだけど……、目が全然笑ってないんだよなぁ……。だから余計に怖い。
……って、違う!
俺が言いたいのはミチルさんの怖さじゃなくて……!
「安倍家……? 嫡流……って……?」
先ほどの伝説でもちょろっと出てきた安倍晴明や、その子孫泰親と同じ姓が、シレッと再び登場していることに疑問を持った。
するとミチルさんは、「何言ってんだお前」みたいな顔をしながら
「陰陽師安倍晴明の血筋を引くお家のことですよ。現在嫡流……、本家と言った方が分かりやすいですか? 本家は土御門と名乗り、また分家は倉橋を名乗りながら、令和になった現在も、細々と活動を続けているのですよ」
……マジかよ。
平安時代に活躍していた、稀代の陰陽師とも呼ばれていた『あの』安倍晴明だぞ……?
「陰陽師……、安倍晴明の……血筋は……。今も続いていた……?」
「はい。そして……」
俺が目を丸くしながら驚いている中、ミチルさんは更に驚くべき爆弾発言をサラリと投下した。
「HARUHIはその分家、倉橋家の出身です」
……え?
「でえぇえええ〜〜〜!!??」
俺が大声を出して驚いている時も、HARUHIは相変わらず、でも無茶苦茶不機嫌そうな表情のままパイプ椅子にふんぞり返って、また新しい煙草にマッチで火を付けている。
陰陽師といえば、一昔前には大きなブームにもなった神秘的な職業の一つ。
俺も幼い頃にどハマりしたことがあるから、陰陽師の凄さというのはすぐにわかる。
「は、は、HARUHIが……!? あの、陰陽師……!?」
「違う! 俺は陰陽師なんかじゃない!! それに俺は、もうあんなクソ家とは縁を切ったんだ!」
けれどもHARUHIは全く嬉しくなさそうだった。
何も持っていない片手を机に勢いよく叩きつけて、自分が陰陽師ではないことを強調した。実家のことも『クソ』呼ばわり……。HARUHIも実家とは折り合いが悪いみたいだ。
机を勢いよく叩いた衝撃で、もう片手に持っていた煙草の灰が、パラパラと宙に舞って、虚しく床へと落ちていく。
「例え家族との縁を切ったとしても、あなたの体に流れている血が変わる訳ではありません。あなたに陰陽師安倍家の血が流れている限り、あの女狐は必ずあなたを殺しに来ますよ」
「チッ!」
ミチルさんが宥めるように、けれども淡々と告げると、HARUHIはデカい舌打ちを一度ついた。そして眉間に深い皺を寄せたまま、イライラを落ち着かせるように煙草を口に咥えた。
「どうして……、玉藻前はHARUHIを狙っているんですか?」
一瞬静まり返った室内の中で、俺は新たに浮かんだ疑問をぶつけた。
「どうしてって、HARUHIが陰陽師安倍一族の血を引く末裔の一人だからですよ」
すると黙秘を続けるHARUHIの代わりに、ミチルさんがまた答えてくれた。
「先ほど説明した通り、玉藻前の正体を見破ったのはHARUHIのご先祖様にあたる陰陽師安倍泰親です。討伐に一役買ったのも泰親……。つまり、ヤツは自分を追い詰めた泰親の末裔に、片っ端から復讐をしているんです」
「ふ、復讐……?」
「先日、本家である土御門が襲撃に遭ったと、ニュースでも少しだけ報道されていました。あの様子では……、しばらく本家は使い物にならないでしょうね」
「復讐……、だから……。じゃあ……、俺は……」
俺は、ここに来てようやく、自分がしでかした事の重大さを理解した。
「ええ、あなたは、そんな厄介なバケモノを、ノコノコとここまで運んで来た。ということです」
「そんな……」
俺は……、知らないうちに、“推し”を殺そうとする側に、立っていたのか……。
生まれて初めてできた、一時は将来さえ考えた、大事な“彼女”だと思っていたのは……。俺だけだったんだ……。
「先祖の血には抗えないんですかね……」
「……」
ミチルさんがボソリと呟いたけれど、今の俺にはその言葉の意味を聞く余裕はなく、ただ項垂れた。
こんなのって、……、どうして俺の人生はいつも、良かれと思ってやった行動が、全て裏目に出るんだ……。
「勘解由小路在保!」
俯いて、自分の陰を極めたような人生を嘆いていると、HARUHIの凛とした声が降ってきた。
「後悔している暇があるのなら体を動して、1日でも早く玉藻前をぶっ飛ばす力を身につけろ」
見上げると、パイプ椅子から立ち上がって、腕を組んで俺を見下ろしているHARUHIがいた。
「俺たちの先祖が遺していった尻拭いは、俺たちでどうにかやるしかねぇんだ」
どうしてだろう。
なぜかHARUHIが立っているだけで、天井に取り付けられている安っぽい照明も、後光のように神々しく見えてくる。
「……」
けれど、何をやっても裏目にでる俺が、果たしてHARUHIの役に立てるのだろうか。
HARUHIのためを思うなら、体を張って玉藻前を倒すより、HARUHIの壁役になって潔く死んだ方がまだマシなのではないだろうか。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜……」
そんなことを考えていると、HARUHIはクソデカいため息を一度ついた。
そして膝をついて、正座している俺と視線を合わせると、
「おねがい。あきやすくん」
「はぇ……?」
HARUHIが、両手でぎゅっと俺の手を握りしめて、女神のような甘い声で囁いてきたのだ。
い、今……。
お、お、お、推しに、名前呼ばれた……??
突然の展開に混乱して、思わず間抜けな声が出てしまった。
だが待て!
待て待て俺!! 落ち着け俺!!
見た目は可憐な女の子だけど、中身はただのヤニカスだぞ!!?
「このままだとはるひ。あの怖い狐のオバケに殺されちゃう……!」
もう俺は騙されないぞ!
「あのお化けを倒せるのは、もう……、あきやすくんしかいないの……!!」
心の中で葛藤を続ける俺をよそに、HARUHIは大きな瞳に涙を浮かべて、必死に訴えかけてくる。
「だからおねがい、はるひを助けて……!」
俺は……!!
……俺はぁ……!!
「……____それじゃあ……」
あぁ、神様。
「よろしく頼むぜ、王子サマ?」
バカで単純な俺を、どうかお許し下さい……。




