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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
三章 劇的ビフォアアフター!

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ニガサナイ

「美月! 待って!」

「あ、待ちなさい樹!」


 そうこうしている内に、樹が美月を追いかけて、単独で走り出した。

 俺と弓削先生も急いで後を追いかける。


「美月! 捕まえた!」


 先を走っていた樹が、2階へと通じる階段下で、美月の腕を掴んだ。


「美月! どうしたの? 大丈夫?」


 両肩を掴んで何度も揺すっているけど、美月は抜け殻になっているかのように、視線も合わず、全く反応を示さない。


「美月! しっかり!」


 俺が呼びかけても、美月は応えない。


「美月ぃ〜」


 だんだん樹の声が弱々しくなっていく。

 これまでの見えない恐怖に加え、片割れの様子がおかしくなったことで、樹もかなり参ってきている。


「どうすれば……、」


 どうすればこの状況を打破できるのか、と、考えた時、俺は昨日HARUHIに教えてもらった護身術のことを思い出した。


 『音を出すことで魔除けとするんだ』とHARUHIは言っていた。


 昨日教えてもらったばかりだし、今まで一度も成功したことはない。

 だけど今こんなところで手をこまねいていても仕方ない。

 

「……よし」


 俺は一縷の望みをかけて、HARUHIに教えてもらった通り、握り拳を作った。

 そして——。


 パンっ____。


 と、心地の良い乾いた音が、廊下に響いた。

 

「えっ、何の音……?」

「勘解由小路先生、今何を……」


 弓削先生と樹が、揃って怪訝な顔をして、意味不明な動作をとった俺を見つめた。


「……あれ?」

「あ! 美月」

「美月さん、大丈夫ですか?」


 だけど、美月が正気を取り戻したことで、二人はほっと息を撫で下ろしていた。

 樹は涙目になりながら美月にしがみついている。


「……」


 俺は美月が元に戻ったことに安堵しながらも、周囲に怪しい影や、幽霊がいないか見渡した。

 倉庫にいた男子生徒の幽霊も、その他怪しい影も見当たらない。

 もしかしたら、俺の弾指(たんじ)がしっかりと機能してくれたのかもしれない。


 今度こそ外に出られる。


 そう思った時——。


「……?」


 ふと、明かりが俺たちを照らした。

 見上げてみると、階段の踊り場、大きな窓の向こう側に、大きな月が浮かんでいた。

 ずっと雲で隠れていたのが、ようやく顔を出したことで、俺たちを照らしてくれたのだろう。


 まるで吸い込まれてしまうそうなほどに、月は静かに輝いている。


「——サナイ」


 どこからともなく、声が聞こえた。


「? 樹、今何か言った?」


 美月は不思議そうに樹を見るも、樹は無言で首を横に振った。


「じゃ、せんせ……?」

「いや……」


 もちろん俺も、言葉は発していない。


「——ガサナイ」


 再び、声が聞こえる。

 全員の顔が青ざめた。


 今すぐ走り出したい。

 けれども、体は金縛りにあっているかのように動かない。


「ニガサナイ」


 今度ははっきりと、声が聞こえた。

 俺はゆっくりと、目線だけを、声が聞こえた足元へ向けた。


「……っ!?」


 人間は本気で驚くと、声が出なくなる。


 月明かりで発生した俺たちの影から、青白い男の顔が生え出て、こちらを睨みつけていた。


「ひゃっ……!」


 弓削先生にも見えているらしく、小さな悲鳴が上がった。


「……っ! 玄関まで走るよ!」


 俺は固まった体を強引に動かして、再び双子の手を引いて走った。

 

「もう何なの〜〜!?」


 俺の手を引かれながら、美月が泣き言を漏らしている。


「勘解由小路先生! 今度は追いかけてきています!」

「クッソ……!」


 走りながらチラリと後ろを見やると、先ほどの男子生徒とは違う。見知らぬ30~40代くらいの男の首が宙を舞い、その傍らには首のない胴体だけの存在が、俺たちを追いかけてきている。


「気持ち悪いな……!」


 俺たちは必死に廊下を走り抜け、ようやく職員専用の玄関までやってきた。

 靴に履き替える暇もなく、俺はドアノブに手をかけ開けようとした。

 しかし——。


「また開かないのかよ!!」


 どんなにドアノブをガチャガチャと回しても、扉は一向に開く気配がない。

 お約束といえばお約束の展開だけど、今だけは本当に勘弁してほしい。


「在保(あきやす)先生! どいて!」


 モタモタしている俺に痺れを切らした弓削先生が、再びパワープレイで蹴破ろうとした。


「はっ!」


 弓削先生の華麗なハイキックが扉を蹴り付ける。


「……嘘」


 だが、それでも扉はびくともしなかった。


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