今は緊急事態です
「えっえっなになに!?」
「せんせっ、突然どうしたの!?」
双子は何が起こっているのか理解できず、ただ俺の手に引かれて走り続けている。
「弓削先生! 来ていますか!?」
「は、はい!」
よかった。
とりあえず職員室に戻って、カバンと鍵を持って、急いで学校を出よう。
倉庫の鍵はもういい。明日弓削先生と仲良く怒られよう。
とにかく今は、一刻も早くこの学校を出ないとまずい。
そう俺の直感が叫んでいる。
誰もいない校舎なのをいいことに、俺たちは廊下を全速力で駆け抜け、職員室まで戻ってきた。
人工的な灯りがこんなに心強いと思ったのは初めてだ。
俺たちは中に入ると、勢いよく扉を閉めて、意味はあるかどうかはわからないが、鍵も閉めた。そしてようやく一息つくことができた
「か、勘解由小路先生っ……! あれはなんですか……!?」
弓削先生が、息を切らしながら尋ねてきた。
「……七不思議の、七つ目が……っ」
俺は乱れた息を整えながら、自分のデスクへいき、机の上に無造作に置きっぱなしになっていた例のノートを手に取った。
「『かつて、いじめを苦に倉庫で自殺してしまった生徒の魂が、今も彷徨い続けている……』……だったんです」
「! じゃあ……さっき私が見たのは……」
やっぱり弓削先生にも見えていたみたいだ。
弓削先生も霊感が強いのか。
「ね、ねぇねぇ……、篤美ちゃんも、せんせーも、倉庫で、見たの……?」
「おれたち、何にも見えなかったよ……?」
双子は何も見えていない状態で、俺に引きずられるようにここまで走ってきたから、何が何だかわかっておらず、ただ不安げな瞳で俺たちを見つめている。
俺はカバンの中にそのノートを突っ込み、再び双子の手をとった。
「今は一刻も早く学校を出よう。詳しいことは明日、ちゃんと話す。だから——」
俺が二人を落ち着かせながら話している時だった。
「えっ!?」
「今度はなんですか……!」
職員室を明るく照らしていた照明が、突然全て落ちてしまった。
「樹! 美月! 弓削先生! いますか!?」
俺は急いでスマホのライトをつけて、3人がいるか確認した。
「はい、私はここに」
「お、おれもいるよ〜」
弓削先生もすぐにスマホのライトをこちらに向けてくれ、樹もぎゅっと繋がれていた手を握り返してくれた。
「美月は!? 返事!」
「み、美月〜?」
「美月さん!」
美月だけ返事がない。
スマホをポケットから出す時、一時的に手を離してしまったのが仇となったか。
俺はスマホのライトを頼りに、美月の姿を探した。
「! いた! 美月!」
美月はいつの間にか、職員室を出て廊下に立っていた。
俺は急いで入り口まで行くと、引き戸の取手に手をかけた。
「……! 開かない……!」
けれどもなぜか、引き戸は鍵を開けても、ぴくりとも動かなかった。
誰かが引き戸を開けられないように強く押さえつけているかのように。
「クソっ! 美月! 聞こえてる!? 開けて一緒に……」
俺が引き戸を強く叩いて美月に呼びかけるも、美月は廊下に立ち、目の前を一点に見つめながらびくともしない。
「み、美月!? どこ行くの!?」
俺たちが引き戸と格闘している間に、美月は誰かに導かれているように、ゆっくりと歩き出した。
「……こっちも開かないなんて……!」
弓削先生も、もう一つの職員室の扉の前に行って開けられるか試していたみたいだけど、そちらもなぜか開かなかった。
こんな時、握力アスリート並みのHARUHIがいてくれれば……!
「仕方ありません、勘解由小路先生、樹さん。下がってください」
「は、はい?」
「今は緊急事態です」
「えっ、弓削先生、何を——」
俺が戸惑いながらも引き戸から一歩引いたその瞬間。
「ふっ!」
弓削先生が思い切り、職員室の扉を蹴破った。
「スゲェな!!?」
普段の弓削先生からは想像もつかないパワープレイに、思わず俺と樹の声が被ってしまった。
……なんか以前もこんなことがあったような気がするな……。
「篤美ちゃんカッケェ〜〜!!」
「す、素晴らしい脚力をお持ちで……」
「運動不足解消と、ストレス解消も兼ねて、定期的にキックボクシングに通っていますので……」
あるじゃねぇか他に趣味!!
弓削先生はちょっと照れくさそうに、ズレたメガネの位置を戻している。
なんていうか……、弓削先生といい、HARUHIといい、ミチルさんといい……。
俺の周りにいる女性はみんな……、物理的に逞しいな……。




