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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
三章 劇的ビフォアアフター!

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走れ!!

「……これか……?」


 懐中電灯を照らしながらあたりを見回してみると、棚に収納されていたバトミントンのラケットが、いくつか落下しているのが見えた。


 俺はそのラケットを拾おうと膝を折り屈んだ。


「……ん?」


 その時、倉庫特有の埃臭さとは違う。鼻をつくような臭いに、俺は思わず顔を顰めた。


「勘解由小路先生……? 大丈夫ですか?」


 入り口の方から、心配そうに声をかける弓削先生の声が聞こえる。


 それよりもこの臭い、どこかで一度嗅いだことがある……。

 ……そうだ。前にツナとHARUHIの動画撮影で、心霊スポットに行った時だ。

 確かその時は……。


『在保(あきやす)、その感覚は大事にしておけ』

『これからお前が対応することになる、オキャクサマとの接し方だ』


 そうだ、鬼になってしまった犬の幽霊がいた場所と同じ……。


「……え?」


 その時、屈んで落ちたラケットと床が広がっている視界に、コロコロと転がってくるピンポン玉がすみえた。

 俺はピンポン玉が転がってきた先に、視線を向けた。


 そこにいたのは、


 首があり得ない方向に曲がった、一人の男子生徒が、じっと俺の顔を覗き込んでいた。

 目は黒く、白目がない。口は酸素を求める魚のようにパクパクと動いている。


「うわぁ!」

 

 驚いた俺はその場に尻餅をついてしまった。


「先生!」

「せんせー! どうしたの!?」


 俺の声に異常を感じた弓削先生と双子が中に入ってきた。


「勘解由小路先生! 大丈夫ですか!?」

「どうしたのせんせー!? なんかいた!?」

「え、あ……」

 

 彼らが入ってくると、首の曲がった男子生徒は姿を消してしまった。

 

「もしかして、幽霊!?」

「……」


 俺は真実を伝えたい気持ちをなんとか押し込み、


「……いや、突然頭に何かが落っこちてきて……びっくりしちゃった……」


 なんとか笑顔を繕って、冗談混じりに笑った。

 俺今、上手く笑えているか……?

 

「えぇ〜〜〜!?」


 そんな俺の心配をよそに、双子はがっかりしたような声を揃って上げた。


「もぉ〜〜! せんせーの怖がり! ビビり!」

「ごめんて……」


 ぷーぷーと文句を垂れる双子の後ろでは、弓削先生が安心したのか、静かに息を吐いて一息ついたような表情になると、

 

「……勘解由小路先生に何もなくてよかったです。さ、早く帰りましょう」

「そ、そうですね」


 俺は立ち上がって、落ちていたバトミントンのラケットと、ピンポン球を所定の場所に戻し、倉庫を出た。


「……」


 ホラー映画では、こういう時にもう一度振り返ると、目の前に幽霊がいたりする。

 だから振り返っては行けない。

 けれども俺は、先ほど見た男子生徒の幽霊の姿が、完全に脳にこびりついて離れなくなっていた。

 あれは俺の見間違いだ。

 そう思いたいのだろう。

 俺はダメだとわかっていても、後ろを振り返ってしまった。


「……っ!」


 息を呑んだ。

 さっきまで俺がいた場所に、その男子生徒は立っていた。

 首は変わらず、ありえない方向に曲がったまま。

 口はパクパクと、何かを訴えるように開閉している。

 

「勘解由小路先生、鍵を……っ!?」


 弓削先生が扉を閉めようと振り返った。

 すると弓削先生も同様に、息を呑んで、体は金縛りにあったかのように静止していた。


「な、なん……っ」


 なぜ弓削先生にも見えているのか。

 そんなことを考えている余裕もなく、俺は叫んだ。


「走れ!!」


 この場に留まり続けるのは危険だ。

 俺は双子の手を取って走り出した。


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