ノートを見つけた人は
そこまで弓削先生が語った時だった。
「!?」
ジャリジャリと、誰かの歩く足音が、俺たちの耳に響いた。
「誰ですか!」
「ちょ、ちょっと! 待ってください!」
弓削先生は足音のした方角へ、真っ先に走り出してしまった。
俺も急いで追いかけると、弓削先生は体育館の奥にひっそりと建てられている、少し前まで平野双子とも話していた、体育館裏の倉庫の前までやって来た。
……にして弓削先生……。こんな暗い中一人で突っ走るなんて、度胸あるな……。
他の女性教員はみんな、暗いところは怖がって誰も行かないのに……。
「……あなたたちは……!」
「…………はぁ〜〜〜……」
足音を追いかけた先にいたのは……。
「やっぱり……来たな〜?」
「……あちゃ〜」
「バレてたか〜」
足音の正体……。平野双子は、バツが悪そうに笑いながら揃って頭を掻いていた。
「バレてたか〜。じゃありません……!」
俺はそんな双子の頭を、手の甲で軽く小突いた。
「だってどうしても気になるんだもん!」
「あそこで終わってたら、誰だって確かめたくなるでしょ!!」
「だからって人目を盗んで、夜の学校に侵入していい理由にはならないだろう!」
懲りずに言い訳が出てくる双子に対して、少し強めに言うと、双子はようやく分かってくれたのか、しゅんと項垂れて、
「……ごめんなさい」
と、声を揃えて謝ってくれた。
「……帰るよ。家まで送るから……」
俺はやっぱり弓削先生と一緒に巡回して正解だったともいつつ、一度小さく息をつくと、彼らを校舎へと促した。
「……よろしいですか?」
「? なんでしょう?」
「あなたたちは、何が気になってここへ来たのですか?」
倉庫を後にしようと歩き出したら、弓削先生が徐に口を開いた。
「あぁ、実は……」
「おれたち、図書室で昔の生徒が残したノートを見つけたんだ!」
「ノートですか?」
「そうそう! 七不思議検証ノート!」
「七不思議……?」
七不思議。という単語を聞いた弓削先生は、驚いたような顔をしたまま俺を見てきた。
「すみません。さっき俺が七不思議についての話題を振ったのも、元々はこの二人が奇妙なノートを拾ったのがきっかけで……」
「そのノートを見つけて、どうしたんですか……?」
「え? 部室で俺と3人で、内容を確認して……」
「最後の7つ目、体育館裏の倉庫の結果だけ読めなくなってたんだ〜」
「だからアタシたちで確認してみたいって、せんせーにお願いしたんだけど……」
「……」
弓削先生の顔色が、だんだんと悪く、険しくなっていく。
外にいて暗いから、とか、そういうわけでもなく。まるで悪いことをしでかしたのがバレてしまった時のような。
「ゆ、弓削、先生……?」
「……さっきの話の続き……」
「へ?」
「私が学生時代に聞いた、七不思議についての噂……」
「え!? 篤美ちゃんこの学校出身なの!?」
「当時はどんな感じだったの!?」
双子が興奮気味に弓削先生に詰め寄っているが、俺はあの時、七不思議7つ目の項目を読んだ時と同じ、身体中にゾクリと背筋が凍るような悪寒を感じていた。
再び、俺たちに向かって冷たい風が吹き抜けた。
「この学校には、昔、本当に七不思議があるのかを検証した、生徒の記録が綴ってあるノートが……、今もどこかに残されていて……」
寒さとは違う、唇を僅かに震わせながら弓削先生は続けた。
「そのノートを見つけた人は……、呪われてしまう……と……」
「……へ……?」
ガタンっ!
倉庫の中から、物音が聞こえた。
「ひえっ!」
双子は驚いて俺の後ろに身を隠した。
「……誰かいるのか……?」
「……勘解由小路先生……これ……」
「!」
倉庫の扉を見てみると、普段はガッチリと施錠されていた鍵が、開けられていた。
「今日、この倉庫を使用したのは?」
「私と葛木先生のクラスである2年3組と4組が体育の時間に、放課後には、バレー部とバスケ部が道具の出し入れに使用しているはずです」
「その時に施錠をし忘れたのか……?」
もしかしたら、鍵が開いている間に、他の生徒か、最悪侵入者がいるかもしれない。
俺は双子を弓削先生に任せ、倉庫の扉に手をかけた。
「……開けます」
そしてゆっくりと、倉庫の引き戸を開けた。
開けると中は真っ暗で何も見えない。倉庫特有の埃臭さが鼻腔をくすぐった。
片手に持っていた懐中電灯で中を見渡してみると、バレーボールやバスケットボールが入った籠や、跳び箱、丸められた体操マットなどが雑然と収納されている。
「……誰もいない……?」
「せ、せんせー、気をつけてね……」
俺は一歩、倉庫の中に入って、先ほどの音の正体を探した。




