見つけるんだ。必ず
「あっら〜ん! 在保ちゃ〜ん! 本当にイケメンになっちゃって〜!」
「ドゥフッ!」
突然、社長室の扉が思い切り開かれ、中から超ハイテンションなリウさんが飛び出してきた。
そして熱烈なハグを頂戴した。
まるで重機関車が突っ込んできたかのような衝撃に、俺の口から聞いたこともないような野太い声が漏れた。
「ツナから『次会う時楽しみにしててね!』……という連絡だけ来てたから、楽しみにしていたのよ〜!」
「ソ、ソウナン……デスネ……」
リウさんの手が、シャカシャカと高速で俺の頭を撫でている。
100点満点のリアクションをいただいたのはとっても嬉しいんだけど……。ちょっと距離が近いな……。あと一応ワックスやら何やらで髪型を整えているから、それ以上撫でられると崩れてしまいそうだ。
でも、こんなに色々な人から褒められるのは初めてだった。少し照れくさい。けれどそれ以上に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。それはこれまで味わったことのない充足感だ。
きっかけをくれたHARUHIには、本当に感謝してもしきれないな。
当の本人は喫煙所に行っちゃったけど……。
「うふふ、輝糸もやるじゃない。さすがだわ」
そういえば……、輝糸さんとリウさん、そしてツナは昔馴染みなんだっけ?
「輝糸さんとは、どういった仲なんですか?」
俺はひとしきり撫でられて乱れた髪型を、手櫛で整えながら聞いてみると、
「親戚よ」
「まさかの血縁……」
知り合いどころか、血縁関係であることがサラリと告げられた。
「ツナとは歳も同じだから、一緒にいる時間は多かったわね」
リウさんがいつからオネエに目覚めたのかはともかく……。この二人が幼少期から傍にいたことを考えると……。相当振り回されていたんだろうな……。
輝糸さんがこれまで背負ってきた苦労を考えると……。
そんな俺の考えをよそに、リウさんは「昔はあんなに不器用だったのに……、立派になっちゃって……」と遠い目をしながら昔を思い出している。
「彼、なんか言ってた?」
すると突然リウさんから話を振られ、俺は先日の美容院で輝糸とした会話内容を思い出した。
だが、記憶の中にいる輝糸さんは、リウさんやツナのことを散々にディスりまくっていたため、
「いえ、特には、何も……」
「ヤっダ、一言くらいくれてもいいじゃな〜い」
俺は適当に受け流してお茶を濁した。
「あ、そ、そうだ。HARUHI、祖母のこと。なんだけど……____」
これ以上突っ込まれるとボロが出てきてしまいそうだ。
なんとか別の話題をふりたい。
そう考えていた時に、喫煙所からHARUHIが帰ってきたから、俺はHARUHIに早速『陰陽町』のことを伝えた。
******
場所を移動して、オフィスの角に設けられているミーティングスペースに集まった俺とHARUHI、リウさんと、遅れて事務所にやってきたミチルさんの4人で、ばあちゃんの遺品探しについての作戦会議を行った。
「陰陽町か……」
「HARUHIは行ったことある?」
「無い。が、聞いたことはある。江戸時代には多くの陰陽師たちが居を構え、暦を作っていたらしい。……だから可能性は高いな」
HARUHIはソファーに深くもたれかかり、細い足を組み替えながら答えた。
「では……、当日は陰陽町を重点的に捜索してみますか」
「だな」
その隣では、ミチルさんがタブレットにHARUHIのスケジュールを入力している。
普段はあまり表情が変わらないミチルさんだけど、事務所に入って俺の顔を見るなり、少しだけ驚いた表情に変わった。そして、何かリアクションをとってくれるのかと思ったら、
「仕事はいつも通りお願いします」
「あ、ハイ」
どんな時も、ミチルさんは通常運転だった。
「奈良県ねぇ……」
HARUHIの対面に座っているリウさんは、顎に人差し指を添えながら、天井を仰いで考え事をしている。
「どうしたリウ。お前も一緒に来るか」
「そうしたいのは山々だけれど……。アタシも仕事が詰まっているから……」
「そうか、じゃあ留守番……」
「だからと言って、アンタたちもただ奈良に行くだけじゃつまらないでしょう」
「在保のお祖母様の遺品を探すっつってんだろうが。話聞いてたか?」
HARUHIの鋭いツッコミが飛ぶが、リウさんは全く意に関せずに「なんかいいアイデア無いかしらねぇ……」とブツブツと独り言を呟いている。
「アイツはもうほっとけ」
完全に一人の世界に入ってしまったリウさんをみて、HARUHIは大袈裟なため息を一度つくと、三人で作戦会議を再開した。
「……____では……、改めて確認します。出発日時は12月26日の朝8時。ホテルは奈良駅付近で抑えてあります」
「タイムリミットは29日の17時、奈良駅発の電車に間に合うまで。だ、それまでになんとしても、在保のお祖母様の遺品を見つけるぞ」
「……み、見つからなかったら?」
俺が少しばかり自信なさげに問うと、
「見つけるんだ。必ず」
HARUHIはこれまでにない真剣な表情で、俺を見つめていた。
その真っ直ぐな視線には、揺るぎない意志が宿っていた。俺も自然と背筋を伸ばし、静かに頷いた。




