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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
三章 劇的ビフォアアフター!

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調子乗んな

 

 先生方との飲み会から数日経った今日。

 俺は美容院に行ってから初めて、事務所へと足を運んでいる。


 イメチェンした俺をみて、HARUHIはどんなリアクションをとってくれるだろう。

 「似合ってるね!」って、言ってくれるかな……。


 俺は逸(はや)る気持ちを抑えつつ、事務所の扉を開けた。

 

「お、お疲れ様です……!」


 事務所に入ると、いつも通り綺麗に整列されたオフィスの中、いつも通りたくさんの式神たちが、パソコンに向かって各々事務作業に励んでいる。

 そのほとんどは、俺が入ってきても見向きもしない。与えられた仕事を淡々とこなしている。

 けれども唯一、俺に懐いているというウサギの式神、健(けん)だけは、長くぴんと立った耳をこちらに向けた後、大きな赤い瞳で俺の姿を捉えた。


「あ、や、やぁ、健。げ、元気?」


 見た目をちょっと変えただけなのに、なんだか変に緊張するな……。


 足ダンとかされたらどうしよう……。

 

 ウサギは怒っていたり、ストレスを感じたりすると、後ろ足を強く床に叩きつける『足ダン』という動作を行う。

 動作そのものは可愛いのだが、ウサギにとってはネガティブな感情を表していることが多いので、『足ダン』をされた時はあまりしつこく構わないようにしている。


 気づかずに構いすぎると、今度は強烈なウサギキックを喰らうからだ。

 俺も少し前、調子に乗ってふわっふわな毛をなでなでしすぎて、思い切り顔面を蹴られたことがある。あれは痛かった……。


「ちょ、ちょっと、イメージ変えてみたんだけど、どうかな……?」


 俺は健が座っているデスクの前まで移動すると、中腰になって、俺の顔をじっと見つめている赤い瞳を見つめ返した。


「……」


 オフィス内に、キーボードを打ち込む音や、コピー機の機械音が忙しなく聞こえてくる。

 

 ……な、なんか……。

 リアクションとってくれないかな……!?

 ちょっと気まずい……!


 内心タラタラと冷や汗を流しつつも、お互いにしばらく無言で見つめ合っていると、


「誰だお前」


 背後から刺々しい言葉をかけられた。


「は、HARUHI!」

「だから誰だお前」


 振り向くと、眉間に皺を寄せて、普段のかわいい顔を酷く歪ませて、まるで不審者を見るかのような視線で俺を見下している。


「部外者はとっとと出て行け。さもなくば窓から放り出す」


 HARUHIは俺を俺だと認識できていないのか、今にも本当に窓から放り出そうと言わんばかりに、腕まくりをして臨戦体制に入り始めている。


「HARUHIまで……っ。ひどい……」


 見た目は変わっても、声まで変わったわけじゃない。

 それなのに気付いてもらえないなんて……。


 なんだか一人で勝手に浮かれていたのが虚しくなってきた……。

 落ち込んだ俺が膝を抱えしゃがみ込んだまま、いじけたように俯いていると、「……っふ」と軽く笑う声が聞こえた。


「冗談だ」

「……うぇ?」


 見上げてみると、さっきの不機嫌な表情からは打って変わって、口元に指を当てて、やんわりと微笑んでいるHARUHIが俺を見下ろしていた。

 

「随分垢抜けたじゃねぇか。……まぁ、いいんじゃねぇか」


 自分の顔が、だんだんとニヤけていくのが分かった。

 なんて俺は単純な男なんだ。

 

 俺は素早く立ち上がると、


「あの、HARUHIさん……。差し支えなければアイドルモードでお褒めいただいても……?」

「調子乗んな」

「ひどい……」


 両手を擦り合わせながらお願いしたけど、ダメだったか……。

 俺とHARUHIの間では、健が我関せずといった様子で、小休止におやつのチモシーをもそもそと食べていた。

 

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