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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
序章 『HARUHI』

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玉藻前

「だろ? だから代替案(だいたいあん)を提示してやったんだ。心優しいHARUHI様に泣いて感謝してくれていいんだぜ」


 そう言うと、HARUHIは掴んでいた俺の顎から手を離すと、パイプ椅子にどっかりと座り直して足を組んで、また煙草に火を付けてスパスパと吸い始めた。

 

 一応俺も教育者の端くれだから、煙草を吸うのは止めなさい。という言葉が喉まで出かかっているが、言った後がまた怖いので、ギリギリのところで我慢している。


「あ、あの……」

「あ?」


 俺がやっと言葉を絞り出すと、HARUHIは不機嫌丸出しな反応を返してくれた。


「俺が代わりに、あのバケモノを倒す……と、仰いましても……」

「なんか文句あんのか?」

「いや、あの……、俺、戦いの心得なんて、知らないし……。そもそも生まれてこの方、一度も他人を殴ったこと、ないので……」


 むしろ俺は殴られる側の人間だ。生まれて28年、一度も陽の元に出ることのなかった真性の陰キャ。

 だから先ほどのHARUHIのように、華麗な蹴りやパンチを繰り出すほどのスキルも、体力も、度胸も持ち合わせてはいない。


「それに、さっき……、あれだけHARUHIが圧倒していたんですから、その勢いで……」


 HARUHIはあの狐のバケモノを前にしても、全く物怖じすることなく、華麗に撃退したんだ。俺なんかの出る幕なんてないはずでは……?


「……残念なことに、俺はあの化け狐を追い詰めることはできても、討伐することができねぇんでな」

「……と、言いますと?」

「物理でシバきあげることと、呪術で倒すことは、似て非なることだからだ」


 ……じゅ、呪術……?


「奴を完全に討伐するには、特殊な呪具と呪術を使用する。そしてそれは、陰陽家(おんようか)の歴代当主にのみ継承され、かつ当主にしか行使できない。クっソめんどくせ……とても神聖な儀式なんだ」

「じゅぐ……? おんようか……? ぎしき……?」


 俺は今何時代を生きているのだろうか……?

 まるで平安時代にタイムスリップしたかのような名称と、トンデモ理論の連続に、頭が大いに混乱していた。


「……やはり……、仕方ないとはいえ、時代の流れは恐ろしいな……」

「?」

「ミチル。順番に教えてやれ」


 そんな俺の状態を見かねてか、HARUHIに促されて、ずっと俺の首に刃物を当てがっていた、ミチルと呼ばれた男が、ようやく刃物を離してくれた。あぁ良かった……。


「あなたは、『玉藻前(たまものまえ)』という妖怪をご存知ですか?」

「え、あ、はい。日本三大妖怪のうちの一体……。ですよね」

「アレが最近、復活したんですよ」

「……なんて?」


 ちょっと何言ってるかよく分からない。


 するとミチルさんは、呆れたようにため息をつきながらも、とある伝説の話をしてくれた。


 

 ******


 

 時は平安時代末期、かつて遣唐使(けんとうし)を乗せた船に紛れて、我が国にやってきた九尾の狐玉藻前(たまものまえ)が、その美しい見た目から、当時の上皇から深い寵愛(ちょうあい)を受けていたところから、全てが始まります。


 ある日その上皇は、謎の病に侵されるようになります。


 朝廷はすぐさま、陰陽師安倍泰親(あべのやすちか)に、病の原因を占わせました。

 


「……この安倍泰親(あべのやすちか)は、安倍晴明直系の子孫にあたる方です」

「聞いたことあります。確か、雷が直撃したのに何故か無事だった人……、だったかな?」

「よくご存知で」

「一応……普段は日本史の教員、やっているので……」

 


 占った結果、泰親は玉藻前(たまものまえ)の正体が、妖狐であると見抜きます。

 真の姿がバレてしまった玉藻前(たまものまえ)は、宮中から逃走。


 ですがその後も、玉藻前(たまものまえ)は逃亡を続けながら、全国に厄災を振り撒きました。


 そのことを受けて、朝廷は玉藻前(たまものまえ)の正体を見破った安倍泰親(あべのやすちか)を軍師に据(す)え、玉藻前(たまものまえ)が潜伏していた、現在の栃木県那須郡周辺へと軍勢を向かわせたのです。

 

 戦いの末、泰親の指揮が功を奏し、見事玉藻前(たまものまえ)を討伐することに成功したのです。


安倍泰親=(1110〜1183)21歳で右京亮(うきょうのすけ)(平安京において、朱雀大路から西側の行政を取り締まる右京職の次官)になり、その後も雅楽頭(うたのかみ)や権陰陽博士、権天文博士、陰陽助を歴任し、1182年には陰陽頭にもなるスーパーエリート。

特に占いの実力は随一と言われており、「平家物語」では『指神子(さすのみこ)』要は神レベルと絶賛され、古代の陰陽師にも恥じぬほどの実力者であると謳われておりました。


他にも、泰親に雷が直撃した時、狩衣が少し焦げ付いただけで何故か本人は無事だった。というトンデモエピソードが平家物語に残っています。ある意味晴明よりすげぇのでは?


一方で、本人は極めて強気な性格をしており、占いの結果をめぐって度々他の陰陽師と争論をしていたらしく、たとえ身内であろうと時には激しく糾弾していたらしいです。また晴明の子孫であることを誇りに思っていたようで、ある貴族が「なんであなたの占いはよく当たるのですか?」と聞いたところ、「俺は晴明の流れを汲む正当な後継者だから当たるのは当然なんだぜ」と答え、のちの晴明伝説もこの男が源流となっているのではないかとも言われております。


なお、この時の安倍氏は賀茂氏に一歩甘んじており、また安倍氏が嫡流断絶の危機に瀕していた中、泰親も勉強半ばで父親を失うなどの崖っぷち状態に追い込まれていた影響もあって、強気な性格にならざるを得なかったのでは。とも言われております。

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