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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
三章 劇的ビフォアアフター!

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俺は絶対に認めない

 ツナが帰ってしばらく、俺は大人しく、手早くカットされていく自分の髪を鏡越しに見つめていた。

 鋏(ハサミ)がシャキシャキと音を立てるたび、長い間切らずに放置していた髪が、カットクロスを伝って落ちていく。


「……勘解由小路(かでのこうじ)……だっけ?」


 輝糸(きいと)さんの脳内では、どんな髪型の俺が想定されているのだろう。

 そんなことを考えていると、ふと輝糸(きいと)さんの方から話しかけられた。


「あ、在保(あきやす)でいいですよ。名前の方が文字数少ないんで……」

「じゃあお言葉に甘えて……、在保はなんで九条の事務所で働いてんの?」


 う〜ん、答えづらい……。


 HARUHIのライブの邪魔をしたから……。なんて言えないし……。

 

「それは……、なんていうか……、成り行きと言いますか……」


 色々と頭の中で考えた結果、すごく曖昧な返事を返してしまった。

 

「……強引に話進められたんだろ」

「……」


 うっ……。

 事の発端は俺だけど、契約に至るまでに、リウさんたちに多少の強引さがあったことも否めない。

 違うとも言えずに、俺が気まずい表情をしながら俯いていると、輝糸さんは

 

「それはそれは……御愁傷様」


 そう言って、軽く鼻で笑っていた。


「あいつら、兄弟揃って強引だからな……。昔から……いっつもいっつも自分都合で、人様の都合なんざ考えやしねぇ……。だから同情くらいはしてやるよ」

「あはは……」


 会話を挟みつつも、輝糸さんの手は止まることなく、慣れたようにコームと鋏を使って、俺の髪をどんどん切っていく。


「……へぇ、あのアイドルの雑用を」

「はい。ご存知なんですか?」

「あぁ、何度かウチにも来たことあるよ」

「へぇ〜、そうなんですね」


 輝糸さんと、それとない雑談をしていたら、今度はHARUHIの話題に移った。


「アイツも中々良い度胸してるよな。野郎だってバレたらどうするんだか……」

「ですよねぇ〜……って、えっ!」


 あまりにも自然に話すものだから、思わず流しそうになったけど……!


「知ってるよ。アイツが実は男だってこと」

「そ、そうなん……」

「アイツ、普段はそこいらの野郎より低い声で喋ってんのに……。いったいどこからあんな可愛い声が出てくるんだか……」


 確かに……HARUHIは、素の時は俺よりも低い声で喋っているのに、いざアイドルモードになると、途端に天使のような可愛い女性の声へと変化する。

 昔動画サイトで、男女双方の声帯を巧みに使い分けて歌う、『両声類』持ちの歌い手なんかが流行っていたけど、まさにあんな感じだ。


 初見ではまず、同一人物であることには気づけないだろう。


「……それにアイツ自体は中々の横柄ときた。九条の事務所には、そういった同類が集まりやすいのかねぇ……?」

「……お、俺は違うと……、思いますよ……?」


 そ、そんな目で見ないで……。俺はただ、巻き込まれているだけなんだから……!

 じとりとした目線で、鏡越しに俺を見つめてくる輝糸さんに、俺はやんわりと否定しつつ、彼の視線から逃れるように目線を逸らした。

 

「……でも、まぁ……、アイツの仕事に対する姿勢は、嫌いじゃないけどな」

「え……?」

「アイツがダンスや歌の練習している所を、何度か拝見させてもらったけど……。相当な努力を積んできたんだろうな。……ってのはよく分かった」

「……」

「目標達成のため、夢を叶えるために、ひたすら努力を重ねる人間は好感が持てる」


 そういえば……、俺……、HARUHIが歌やダンスの練習をしているところ、見たことないな……。

 いつも俺は教えてもらう立場だったから、意識したことなかったけど……。

 そして、そう言った輝糸さんの表情は、どこか嬉しそうで、仏頂面の中に僅かな笑みが垣間見えていた。


「比べて……」

「?」


 だけど、その笑みは一瞬で消えてしまった。

 

「……大した努力もせずに、生まれ持った家と、本人がたまたま運に恵まれていただけで……。それなりの地位を得、それなりの人生を歩んでいる……」

「……輝糸さん?」

「そんな奴、俺は絶対に認めない」

 

 そう言って、鏡越しに映る輝糸さんの表情は、どこか特定の誰かを思い浮かべながら、どうしようもない怒りを抑えているように見えた。


「……なんて、ね」

 

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