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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
二章 新曲リリース記念イベント

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だから今、ここで誓え!

 __パンッ


「……、……?」

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 オフィス内に響く、乾いた音。

 同時に俺の頬は熱を持ち、ビリビリと痛みが走り、メガネは再び俺の顔から離れ、床に落ちている。


 呆然としながらHARUHIを見てみると、彼は相変わらず眉間に深い皺を寄せて、眉もつり上げたまま、俺を睨みつけていた。


「死を受け入れようとしたな」

「あ……」


 怒りを含んだHARUHIの言葉に、俺はハッとした。


 HARUHIは俺が足手纏いだったことに怒っているわけでも、勝手に隠形の術を解除したことに怒っているわけでもない。

 あの時、彼女に襲われて、絶体絶命の状況に陥った中、俺は……。


 孤独死するくらいなら、例え騙されていたとしても、愛している人に殺された方がマシだ。……と、思ってしまった。


 そして途中で抵抗するのを止めてしまったんだ。

 

 そのことに、HARUHIは怒っていたのか……。


「前にお前が話しただろ。……夢の中で……、お前のお祖母様が仰った言葉。……もう忘れたのか」

「……っ!」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。


 あの日、ばあちゃんの夢を見た時……。優しい笑顔で、俺の背中を押してくれた。


『これから先、何を知っても、何があったとしても、決して挫けちゃダメよ』


 決して挫けるな、と。ばあちゃんが言っていたのを思い出した。

 俺はそんなばあちゃんの願いを、自ら反故(ほご)にしようとしていた。

 

 そう気付いた瞬間、自然と目から溢れ出た涙が頬を伝っていき、俺の膝の上で大人しくしているウサギの頭にポタリと落ちていく。


 良い歳して、なんて情けない……。


「簡単に死を受け入れるヤツは嫌いだ。反吐が出る」

「……ごめ、ん、……なさ……」

「……だが……」


 俯いたままズビズビと鼻を啜りながら、HARUHIの棘のように鋭い言葉を一身に受け止めていると、ふと、HARUHIの声色が少し柔らかくなった。


 不思議に思って、涙で濡れた顔を上げてみると、

 

「教え子を守るために、己の命の危険も顧みずに突っ走ったお前の精神は、尊敬に値する」

「……!」


 そう言って、HARUHIは誇らしそうに笑っていた。


「は、ハル……」

「だから今、ここで誓え!」

「は、はい!」

「今後何があっても、最後の瞬間まで生きることを諦めるな! いいな!」

「はい!」


 涙を拭い、声を張り上げて応えると、HARUHIは満足そうに「それでいい」と、いつもの勝気なアイドルスマイルを咲かせたのだった。



 

 ******

 

 

 「ふぃ〜……いい湯だった……」


 あの日から早くも数日が経った。11月も中頃に差し掛かって、どんどん外気温も下がってきて、いよいよ冬本番を迎えようとする頃。


 俺は1人風呂から上がって、新しくしたふわふわのバスタオルで体を拭いて、ツナに譲ってもらったスキンケア用品で、入念に顔を保湿した。

 

 更にその後には、リウさんが譲ってくれた、なんかめっちゃ良いの香りのするボディクリームを身体に塗りたくると、脱衣所が一気にフルーティな甘い香りで満たされていく。


 一通り保湿を終えた俺は、下着一枚のまま、鏡に映る自分の顔を見つめた。


 肌質はかなり改善されたと思う。額にあったニキビは消滅し、赤みも消えた。

 平日は校舎を駆け回り、休日はHARUHIと一緒に仕事を手伝ったり……。すごく忙しい日々が、目まぐるしく過ぎていく。なのに、不思議と辛いとは思わなかった。


 むしろ楽しい。

 

 ただ日々の業務に追われて、自分のことなんて後回しにしていた少し前の生活が遠い昔のように感じられる。

 

「……あ、」


 メガネをかけようとしたら、レンズが傷だらけになっているのに気づいた。

 先日の騒動もあって、軽く欠けている箇所さえある。


 いい加減新しくしないと……。


「……髪も、邪魔だな……」


 鏡の中の自分を再び見つめてみると、顎下まで伸びきっている前髪や、そろそろ背中まで到達しそうな後ろ髪が、やけに鬱陶しく感じた。


『メガネは変えないの〜? なんかダサ……、邪魔そうだし、いっそコンタクトとかにすれば?』

『あとこの調子で髪も切っちゃおうよ! そうすればもっとカッコよくなると思う!』


 いつだったかに、学校で双子に言われたことを思い出した。

 あの時は適当な理由を並べてうやむやにしたけど……。

 

 いい機会かもしれない。


 ミチルさんにライブハウスの裏へ連行され、HARUHIと衝撃的な約束を交わした日から、まだ3ヶ月も経っていないのに……。

 この短期間で、ここまで自分の心境に変化が出てくるなんて……。

 

「……ははっ」


 俺がただ単純なだけなのか。

 そう思うと、つい乾いた笑いが漏れ出てくる。


「……サキ……」


 そもそも、HARUHIと俺を引き合わせてくれたのは、俺の彼女()()()『サキ』の存在があったからだ。


「……嘘じゃ……無かったんだな……」

 

 ライブハウスでの一件からずっと、心のどこかでは、あの日あった出来事は嘘だったんじゃないかと、疑っていた自分がいた。

 あの日HARUHIに襲いかかったのは、実は俺の彼女じゃなくて、別の化け物だった。そんなことを往生際悪く何度も考えた。

 けれども、そんな都合のいい願望は、先日、殺されかけたことで無慈悲にも脆く崩れ去った。

 

 俺が愛していた女性は、間違いなく、正真正銘の化け物だったんだ。


「……ふー……」


 俺は一度、深く、心の澱みを全て吐き出すように長い深呼吸をすると、再び鏡の自分と向き合った。


「……よしっ!」


 鏡に映る自分は、愛していた女性『サキ』との本当の別れを告げて、妖怪『玉藻前』を必ず倒すという覚悟を秘めたような、強く、まっすぐな瞳をしていた。


「え〜っと……」


 そんな俺は、寝巻きに着替えることすら忘れ、下着一枚のまま脱衣所を飛び出して、ベッド脇で充電していたスマホを手に取った。

 そして、メッセージアプリの履歴から『ツナ』の2文字を探し出し、高鳴る心臓を必死に落ち着かせながら、通話ボタンをタップした。


「……」


 この時間帯なら、ツナもまだ動画の編集作業で起きているはず。

 俺の思った通り、ツナはすぐに出てくれた。


《もしもし〜? 珍しいね! 在保君から連絡くれるなんて!》

「ツナ、ごめん、夜遅くに」

《ぜ〜んぜん! 今動画の編集してて、ちょうど小休止しようと思ってたところだから! ……で、どーしたの?》


 俺は緊張で汗ばみ、スマホが手から滑り落ちないようにギュッと持ち直してから、


「ツナに……教えて欲しいことが、あるんだ」

《……オレに?》


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この場をお借りしまして、御礼申し上げます。


次回は在保君劇的ビフォアアフター

ついでに新キャラも出ます


以上

最後に、面白いと思いましたら評価、感想、ブクマなども併せてよろしくお願いいたします!

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