歯ぁ食いしばれ
「……ん……」
……あれ。
ここはどこだ……?
なんか体がふわふわする……。
あとなんか……、顔面がやけに温かい……。
まるでもこもこのホットアイマスクで顔全体を覆っているかのような心地の良さ……。
「……むぐっ……?」
……でも……、鼻と口まで覆われてると、流石に息がしづらいな……。
というか、あれからどうなったんだ……?
HARUHIは? 樹と美月は? 彼女……、サキは……。
「健、そろそろ退いてあげなさい。でないと在保さんが窒息死します」
近くでミチルさんらしき、凛とした女性の声が聞こえる。
健って……、確か、ウサギの式神だったか……?
「……ん?」
重たい瞼を開けてみると、視界は真っ暗。
やっぱり顔をもこもこホットアイマスクが覆っているのかと、取ろうと手を動かしてみると、それはなぜかモゾモゾと一人でに動き始めた。
え、まさか、生きてる……?
「……あれ……?」
やがて、もこもこホットアイマスクらしき物が勝手に離れ、視界が一気に明るくなった。
眩しくて、視界を慣らそうと、しばらく目をシパシパとさせた。
「ここは……」
「おはようございます」
「ミチルさん……?」
やっと視界が慣れてくると、相変わらず端正な顔立ちをしたミチルさんとウサギが、俺の顔を覗き込んできた。
「ここは……?」
「事務所ですよ」
「事務所? いつの間に……」
「現場で気を失ったんですよ、あなた。ここまでは私が運びました。感謝してください。あとこれ、メガネです」
「あ、ありがとう、ございます……」
軋む身体を強引に起こすと、ウサギの式神健が、俺の腹の上にちょこんと座っていた。
メガネを受け取ってから周囲を見渡すと、俺が寝転がっていたのは、オフィスの端に設けられているミーティングスペースのソファーだった。
「この子は随分とあなたに懐きましたね」
「……式神に懐く懐かないあるんですか?」
「ない……。と、思っていたのですが……。あなたのそのナヨナヨしい……優しい性格が気に入ったんじゃないですか。知りませんけど」
俺は今褒められたのか? それともディスられたのか?
俺の複雑な気持ちを他所に、ミチルさんは「お水持ってきます」と言って給湯室へと向かい、健は腹の上で、優雅に毛繕いを始めた。
「在保君! 起きたんだね! 良かった〜、具合はどう?」
「ツナ……?」
ミチルさんを待っている間、健のツヤツヤでふわふわとした毛を撫でていると、オフィスに入ってきたツナが、心配そうな表情でこちらに駆け寄ってきた。
「俺は、大丈夫、だけど、なんで……」
「大丈夫な人はそんな顔色してないから。もう少し横になってなよ」
「ちょっ……」
俺が戸惑っていると、ツナは呆れた様子で言いながら、俺の肩を掴んで半ば強制的に横にさせられた。
「いや、もう本当に……」
「これ、冷えピタね。喉乾いたらポカリここに置いとくから飲んでね!」
「……ありがとう……」
俺が何かを言う前に、ツナは俺のデコに冷えピタを貼ったり、机の上にポカリを置いてくれたりと、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
俺はそんなツナの優しさにあっけなく絆されて、おとなしく横になっていた。
「あら、在保ちゃん、起きたのね。気分はどう?」
「あ、HARUHI……、リウさんも……」
しばらくすると、閉じられていた社長室から、リウさんとHARUHIが顔を出した。
「はい、もう、大丈夫です。ご心配をおかけしました……」
流石に社長の前で寝転がっているわけにもいかないと、俺は再び体を起こした。
心配そうに眉が下がっているリウさんに比べて、HARUHIはさっきと変わらず、険しい表情のままだ。
「あの、HARUHI……」
「在保」
足手纏いになってしまって申し訳ない。
そう謝ろうとしたけど、その前にHARUHIが俺のセリフを遮った。
「は、はい?」
「歯ぁ食いしばれ」




