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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
二章 新曲リリース記念イベント

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死んだ……?


「……終わりましたかね」

「……」


 俺は開いた口が塞がらなかった。


 こんなに凄惨な場を目にしても、表情一つ変えないミチルさんもさることながら、恐ろしい化け物を前にして怯むことなく、むしろ一方的に攻撃を叩き込んでいたHARUHIの圧倒的な実力に、俺はただ、呆然とするしかなかった。


「……し、死んだ……?」


 動かなくなった彼女の体を見て、俺は恐る恐る近寄ってみた。


「くく、……ははっ!」

「ひっ!」


 すると首だけになった彼女の顔が、再び動き始めた。


 体も僅かながらにピクピクと動いている。

 

 ここまでコテンパンにやられているのに、まだトドメの一撃にはなっていないのか。

 さすが日本三大妖怪と呼ばれているだけあるのか……。

 

「おっと、追い詰められてついに頭がイカれたか?」

「其方こそ、なぜここまで来てトドメを刺さない?」

「……」


 彼女に問われた瞬間、それまで余裕を崩さなかったHARUHIの表情に、初めて陰りが差した。


「……、刺せないのであろう。其方は所詮分家……、安倍の正式な継承者ではないからのぅ」


 その変化は彼女にも分かったのか、地面に転がった彼女の表情に余裕が戻った。

 

「そして……、唯一妾を討つことが可能だった継承者、土御門の当主は片腕を失い、事実上不可能になった……」


 彼女は首や口から多量の血を垂れ流し、地面にどす黒い血だまりを作りながらも、下卑た笑いを浮かべている。


「つまり、今この世に、妾を(たお)すことのできる人間はもう、存在しない!!」


 その様は、まるでホラー映画のようにグロテスクで、(おぞ)ましい光景だった。


「……の割には、随分と焦ってるように見受けられるが?」

「……何だと?」


 彼女の言葉だけを聞く限りは、絶望的な状況にある。はずなのだが、それでもHARUHIは動揺することなく、冷静な表情のまま、一歩一歩彼女に歩み寄っていく。

 

「本当は分かってんだろ? お前を確実に仕留めることの出来る人間が、この世にまだ1人、残っていることを」


 彼女を確実に倒すことのできる……、人間……?

 

「だからそうなる前に、さっさと殺しとこうとでも思ったんだろうが……、残念だったな」


 ぴちゃり、と。HARUHIの白い靴が、彼女の血だまりの上に乗ったことで赤黒く染まっていく。

 

「どうせテメェはパチモンだろ。……だから本体に伝えろ」


 HARUHIは転がっていた彼女の首を掴んで持ち上げると、大きな獣の耳に自分の唇を寄せて、低く冷たい声で吐き捨てた。

 

「テメェは昔から詰めが甘いんだよ……。化け物風情が、人間を舐めるなよ」


 HARUHIがそう呟いた。その直後だった。


「こっちこっち!」

「待って美月、そっち従業員専用口だよ」

「だってすごい音だったじゃん? もし資材が倒れてて、誰かが巻き込まれてたら大変だよ!」

 

 外の通路から、パタパタとこちらへ近づいてくる複数の足音が聞こえた。

 

 この声は……!

 ドッと血の気が引いた。

 そして次の瞬間には、俺は重い身体を無理やり動かして、一目散に従業員専用と書かれた扉に向かって走り出していた。

 もし、この凄惨な現場を彼らが目撃したら、あまりのショックからトラウマになりかねない。

 

 そうなってしまう前に、俺はあの扉が開かないように扉を抑えようと、帽子やマスクといった変装用の小道具はもちろん、メガネさえもつけない状態で、ただ走った。


 けれども、そんな俺の祈りや努力も虚しく、その扉は開いてしまい、樹と美月がひょっこりと顔を出した。


「あれ!? もしかしてHARUHI!?」

「本当だ! ……って、女の人が倒れてる!」

「ほらやっぱり! 急いで人を呼ばなきゃ! 救急車も!」


 2人はHARUHIと彼女をみると、大慌てでカバンからスマホを取り出して操作を始めた。

 

「……ふふっ」

「! 貪狼(たんろう)! ミチル!」


 背後から、妖しく笑う彼女の声と、珍しく焦った様子で式神とミチルさんを呼ぶHARUHIの声が聞こえた。

 

 反射的に振り返ると、首を失った彼女の胴体が、操り人形のように不気味に動き出し、鋭い尻尾を槍のように突き立てて、こちら側に迫ってきていた。

 

「2人とも!!」

「えっ……わわっ!」


 俺はスマホの操作で夢中になっている2人の身体を抱き寄せて、彼女の攻撃から身を(てい)して護った。


 

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