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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
二章 新曲リリース記念イベント

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準備はいいですか?

「待って! ばあちゃ……おぐっっ!」


 翌朝、俺はベッドから豪快に落下して目を覚ました。


「……?」


 閉じられたカーテンの隙間から、朝の日差しがわずかに差し込んでいる。

 静寂の中で、鳥の(さえず)る声も聞こえてくる。

 なんとなく右手を見ると、そこには祖母が贈ってくれた古いミサンガが、変わらず手首に巻かれている。

 朝日がちょうど手首に当たっていて、ほんのり温かい。

 

「……どこだ……!?」


 ミサンガを見て、夢の中で見た光景を思い出した俺は、すぐさまスマホのマップアプリを開いた。

 時刻は朝5時、まだ出勤には少し時間がある。


「確か……ばあちゃんの家があった場所は……! 奈良の……! どこだっけ……!?」


 マップのストリートビューを開きつつ、幼い頃に祖母と一緒に歩いた道の記憶を、朧げながらも引っ張り出した。


「奈良駅からは……そう遠くなかったはず……! 近くに神社もあって……、って神社めっちゃいっぱいある!?」


 だが画面に表示された奈良駅周辺の地図を見て、俺は愕然とした。さすがは歴史の街、そこかしこに神社仏閣のピンが点在しており、ノーヒントでの特定は困難を極めた。

 

「…………」

「おはようございます在保先生! 珍しくギリギリに……って、なんか、もう疲れてる?」

「……いえ……おはようございます……」


 結局、その日の朝には祖母の家の正確な跡地を見つけられず、いつの間にか出勤時間も大幅に過ぎてしまい、結果遅刻ギリギリで職員室に滑り込むという、危ない橋を渡ることになった。



 

  ******




「……では、今日一日、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします!」


 祖母との不思議な夢を見てから、さらに数日が経った11月最初の休日。

 俺は都内のショッピングモール内にある、イベントスペースにやってきていた。


「HARUHI、準備はいいですか?」

「もっちろん!」


 今日の主役であるHARUHIは、すでに完璧な『アイドルモード』に入っており、気合も十分といった様子だ。


 この日は、HARUHIのセカンドシングル『熒惑(けいこく)ノ星』の発売を記念して、フリーライブが昼に催される。

 俺はそのイベントのスタッフとして参加している。


 イベント開始は14時からで、観覧自体は無料になっている。

 場所もショッピングモールのど真ん中、吹き抜けになっており買い物に来ている誰もが、どの階からも自由に観覧できる。

 

「誰も……いないよな……?」


 そんな中、俺は時折周囲に見慣れた人がいないか、チラチラと確認しながら作業をしていた。

 間違っても、プライベートで買い物に来ている同僚の教師や、生徒たちに俺の姿を見られるわけにはいかないからだ。

 

 だから見た目もできるだけ目立たない服装に、無造作に伸びた髪を黒い帽子にしまい、更にマスクを着用して、完全防備の状態で作業に励んだ。

 

 リウさんたちもそこは配慮してくれたのか、俺の担当をファンの前に出るCD販売や待機列形成から外して、ステージ裏の雑用に回してくれている。

 ちなみに表の案内スタッフは、日雇いらしき見知らぬ人たちだ。


 腕時計を見てみると、現在の時刻は13時半。ライブ開始まであと30分。

 

 一時間前から先行で始まっているCD販売の売れ行きを、俺は陰ながら見守っていた。

 通常盤を購入すればステージ近くの『優先観覧エリア入場券』が貰え、初回限定盤を買えばさらに『サイン会参加券』が追加される仕組みだ。


「……ツナと動画コラボをした甲斐がありましたね」

「とはいえ、元からHARUHIの追っかけをしているファンは少数……。大多数は買い物のついでに覗きにきた物見遊山(ものみゆうざん)……といった感じですかね」


 先日公開されたツナとのコラボ動画は、中々に好評だった。

 元々のツナブーストに加え、HARUHIの見た目に似合わない怪力キャラが受けたらしい。


 コメント欄には、

《売れないからって必死に売名してて草》

《ツナこういう子苦手そ〜》

《裏ではスタッフを椅子がわりにしてそう》


 といったネガキャン(一部は核心を突いているような気もするけど……)もあったが、


《アイドルの顔がいい》

《アイドルなんだからガニ股で歩くなw》

《スタッフもファンかよふざけんな変われ》

《怪力ゴリラだけどデビューシングルはマジで神なのでおすすめ》

 

 といった好意的なコメントも多く見られ、再生回数は無事100万回を突破。今朝の時点では200万が視野に入り始めているという状況だ。(ちなみに俺がHARUHIに屈するシーンもガッツリ使われた……。カットしてって言ったのに……)


 けれどもミチルさんの言う通り、ステージ前の優先観覧エリアを埋めているのは、昔からHARUHIを追っかけているガチファンがほとんど。


 CDの売れ行きも通常盤は伸びているものの、サイン会チケット付きの『初回限定盤』の方は、一般層にはハードルが高いのか、少し苦戦しているように見えた。


 

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