泡沫の夢
子どもの頃から俺は、他の人には見えないものが視えていた。
彼らは、時折家に姿を現した。
浴衣を着たおかっぱ頭の男の子だったり、携帯電話と同じくらい小さな女の子が、公園の桜の木に棲みついていたり。
山に行くと、真っ赤な顔に長い鼻を持った天狗と遭遇したり……。
奈良にあった祖母の家に行けば必ず、黒い羽を背中に生やした女の子が出迎えてくれて、一緒に遊んだりした。
生きている人間とは、姿も形も、何もかも異なる存在が、俺には当たり前のように視えていた。
けれども親を含めた周りの大人たちや、俺と同じ年くらいの子どもたちには、その存在は視えていなかった。
どんなに俺が『今日はね、神社にいるキツネさんたちと、かくれんぼをして遊んだんだ』と報告しても。
どんなに俺が『この池にはね、河童さんがいるからポイ捨てはダメだよ』と教えても。
大人たちは『そんなものはいない。バカなことを言うのはやめなさい』と俺を叱った。
他の子どもたちは『アイツは嘘つきだ』と俺を糾弾し、俺をまるで最初からいない存在であるかのように無視をした。
俺はただ、俺が視えている事実を伝えているだけなのに。何を言っても怒られる。否定される。挙句には、『病院に連れて行って、頭の検査を受けさせよう』……なんて言われる始末。
だから俺は、これ以上自分を傷つけないように、自分を守るために、彼らの存在から目を背けた。視えたとしても見えないフリをして、必死に普通を演じた。
するといつからか、俺は彼らの存在を視る力を、失っていた。
やっとみんなと同じになれた。嬉しいはずなのに、俺の心には、ぽっかりと穴が空いたような。そんなどうしようもない寂しさと虚無感に包まれたまま、これまで俺は生きてきたんだ。
そしてこれからも……。
******
「……____在保」
「……ん?」
誰かに呼ばれたと思って、俺は目を開けた。
「……ここは……?」
そこには、立派な日本庭園が広がっていた。
俺は縁側で横になっていたらしい。
そよそよと吹く、心地の良い風が俺の頬を撫でる。
チリチリと音を鳴らす風鈴の音色が、風情が感じられる。
「俺……家で寝てたはずじゃ……?」
けれども俺は、今見えている風景に不思議な違和感を覚えた。
俺はついさっき、結局何も進展しなくて落ち込んだ状態のまま事務所から自宅に帰ってきて、シャワーを浴びて、翌日の準備をして……、早々に眠りについたはずだ。
自宅だって、都内の小さなアパートのワンルームだ。しかも2階だからそもそも庭なんてないし、縁側なんてものも存在しない。
「……夢?」
「在保」
では今、俺が見ている光景はただの夢か。
そう確信した時、背後から誰かに話しかけられた。
「……ばあ……?」
振り向くと、そこには、囲炉裏のそばにちょこんと座って、静かにお茶を飲んでいる。俺の祖母がいた。
「なんで……?」
祖母は俺がまだ3歳くらいの時に、病気で亡くなっている。
優しくて、唯一俺の話を楽しげに聞いてくれた。大好きだった。
「ばあちゃん!」
そういえばこの綺麗な庭も、縁側も、風鈴の音色も、全て祖母の家の景色だ。
亡くなってしばらくしてから、家は取り壊して土地も売却して……、今は場所そのものが残っていないから、すっかり忘れていた。
俺は久しぶりに見た祖母の姿が嬉しくて、急いで駆け寄った。
「在保、元気だった?」
「うん! 俺、ガッコーの先生になれたよ!」
「そうかい。在保は偉いね」
祖母の細くて小さな手が、俺の頭を撫でてくれた。
夢の中なのに、しっかりと撫でられている感触がわかるのは、なんでだろう。
「ばあちゃんが昔作ってくれたミサンガも! ちょっとボロボロになっちゃったけど……肌身離さずちゃんとつけてるよ!」
「……ありがとうね、在保」
俺は右手首に巻かれているミサンガを、祖母に見せた。
祖母が亡くなる前にくれて、以降一度も外さずに過ごしてきたから、年季が入ってボロボロになっている。
祖母はそんなミサンガが巻かれている俺の右手をぎゅっと握りしめた。
すると夢の中であるはずなのに、ほのかに祖母の温かい体温がじわりと伝わってきた。
「そうだ、ばあちゃん」
「どうしたの?」
「ばあちゃんの家に、大昔から伝わっていた、古い道具とかない?」
「古い道具? なぜそんなことを聞くの?」
「あのね……____」




