急急如律令!
「……出てこない……!!」
「紙も、木片も反応なし、土器も藁人形も同じく……。そうきたか……」
特訓が始まってからしばらく____。
俺はこの短時間で、何回「急急如律令!」と言っただろうか。
何度も何度も祭文を唱えても、人形はうんともすんとも言わなかった。
そう簡単にうまくいくわけないのは、百も承知だったけど……。ここまで何の反応もないと、どうしても凹む。
「やっぱり俺には……」
「お前自身は特に問題ないはずだ。問題は……依代との相性。とでも言っとくか」
「相性……なんてあるんですか……?」
「さて……どうすっかな……」
HARUHIは椅子の背もたれにもたれかかりつつ、口元を片手で覆いながらじっと考え始めた。
俺はHARUHIが答えを出す間にもう一度、手に持っている紙の人形を両手で挟み、祭文を唱えてみたが……。
「『……____急急如律令!』 ………………、ダメだ……!」
やっぱりうんともすんとも言わない。
力を入れすぎたせいか、紙の人形は、俺の手汗やら皮脂やらを吸い込んで、シワができて湿ってしまっている。
「……在保」
「……はい?」
「お前の家はどこだ」
「? ……実家は……一応……、神奈川の田舎ですけど……。今は東京で一人暮らしです」
「お前の家に、大昔から代々伝わっている古い道具……みたいなものはないのか?」
「……さぁ、聞いたこと、ないです」
……なんで突然、家のことなんて聞くんだろう……。
「そうか……、もしそういった道具があればワンチャン……。と思ったんだが……」
「……すみません、ちょっと……、分からないです」
「何か聞いたりしていないのですか。例えば実家の物置にずっと保管されている箱とか……」
「だから知らない!」
これ以上踏み込んでほしくない。
そう思った俺はカッとなって、つい強い語気で否定してしまった。
「あ、……す、すみません……」
「……いえ、こちらこそ、無遠慮に失礼しました」
いい年して情けないな……。
ミチルさんに深く頭を下げて謝ると、彼女もバツが悪そうに眉を下げて謝罪を返してくれた。
俯いたまま手元を見つめると、両手で挟んでいた紙の人形は、指先に籠もった余計な力のせいで、ぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「俺……実家とは折り合い悪くって……就職と一緒に東京へ出て来て以降は一度も……家には帰っていないんです……」
今住んでいるアパートを借りる時も、両親には住所すら教えなかった。
向こうも俺がどこで何をしているか知らないし、俺も両親の現状を知らない。……連絡すら一切途絶えている。親子としての縁は完全に切れた、と言っても大袈裟じゃない。
「……なら、仕方ねぇ。どうにかするしかねぇな」
HARUHIはそれ以上詮索することもなく、「その前にちょっとニコチン摂取してくる」とぶっきらぼうに言い残して、喫煙所へと歩いていってしまった。
気を遣ってくれたのか、あるいは本当にただタバコが吸いたくなっただけか。
どちらにせよ、必要以上に過去を暴こうとしない彼の無骨な優しさに、俺は心の中で深く感謝した。




