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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
二章 新曲リリース記念イベント

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急急如律令!

「……出てこない……!!」

「紙も、木片も反応なし、土器も藁人形も同じく……。そうきたか……」


 特訓が始まってからしばらく____。


 俺はこの短時間で、何回「急急如律令!」と言っただろうか。

 

 何度も何度も祭文を唱えても、人形(ヒトガタ)はうんともすんとも言わなかった。

 そう簡単にうまくいくわけないのは、百も承知だったけど……。ここまで何の反応もないと、どうしても凹む。

 

「やっぱり俺には……」

「お前自身は特に問題ないはずだ。問題は……依代との相性。とでも言っとくか」

「相性……なんてあるんですか……?」

「さて……どうすっかな……」


 HARUHIは椅子の背もたれにもたれかかりつつ、口元を片手で覆いながらじっと考え始めた。

 俺はHARUHIが答えを出す間にもう一度、手に持っている紙の人形を両手で挟み、祭文を唱えてみたが……。


「『……____急急如律令!』 ………………、ダメだ……!」


 やっぱりうんともすんとも言わない。

 

 力を入れすぎたせいか、紙の人形は、俺の手汗やら皮脂やらを吸い込んで、シワができて湿ってしまっている。


「……在保(あきやす)

「……はい?」

「お前の家はどこだ」

「? ……実家は……一応……、神奈川の田舎ですけど……。今は東京で一人暮らしです」

「お前の家に、大昔から代々伝わっている古い道具……みたいなものはないのか?」

「……さぁ、聞いたこと、ないです」


 ……なんで突然、家のことなんて聞くんだろう……。


「そうか……、もしそういった道具があればワンチャン……。と思ったんだが……」

「……すみません、ちょっと……、分からないです」

「何か聞いたりしていないのですか。例えば実家の物置にずっと保管されている箱とか……」

「だから知らない!」


 これ以上踏み込んでほしくない。

 

 そう思った俺はカッとなって、つい強い語気で否定してしまった。

 

「あ、……す、すみません……」

「……いえ、こちらこそ、無遠慮に失礼しました」


 いい年して情けないな……。


 ミチルさんに深く頭を下げて謝ると、彼女もバツが悪そうに眉を下げて謝罪を返してくれた。


 俯いたまま手元を見つめると、両手で挟んでいた紙の人形は、指先に籠もった余計な力のせいで、ぐしゃぐしゃに歪んでいた。

 

「俺……実家とは折り合い悪くって……就職と一緒に東京へ出て来て以降は一度も……家には帰っていないんです……」


 今住んでいるアパートを借りる時も、両親には住所すら教えなかった。

 向こうも俺がどこで何をしているか知らないし、俺も両親の現状を知らない。……連絡すら一切途絶えている。親子としての縁は完全に切れた、と言っても大袈裟じゃない。


「……なら、仕方ねぇ。どうにかするしかねぇな」

 

 HARUHIはそれ以上詮索することもなく、「その前にちょっとニコチン摂取してくる」とぶっきらぼうに言い残して、喫煙所へと歩いていってしまった。

 気を遣ってくれたのか、あるいは本当にただタバコが吸いたくなっただけか。

 どちらにせよ、必要以上に過去を暴こうとしない彼の無骨な優しさに、俺は心の中で深く感謝した。



 

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