別に疲れてねぇ
「お疲れ様です」
「別に疲れてねぇ」
「挨拶だって……!」
数日後。俺はいつものように、リウさんの事務所に足を運んでいた。
今日も事務所内では、アニマルパラダイスという名の、ミチルさんの可愛い式神たちがせっせと働いている。
ウサギやヘビ、キツネとタヌキ、あのふわふわは……ネズミ……、いや、チンチラか?
他にも柴犬や鳥、黒ネコ、ヒツジやシカもいる。
「……ディ○ニーかな?」
俺は先日、実写版鳥獣戯画か。とツッコミを入れてしまったが、違った。
動物たちが綺麗な女の子と一緒に仕事に励むその姿はまるで……、デ○ズニーの世界だ。そしてそんな彼らの中央にいるHARUHIやミチルさんは……、さながらディズ○ープリンス&プリンセス!!
「おい、何またぼーっと突っ立ってんだ」
「え、あ、いや……。HARUHIはお姫様みたいだなぁ〜……、と思って……」
「ふん。当然だろ。なんてったって俺様はスーパーウルトラグレートハイパー美少女だからな!!」
「……」
語彙力小学生かよ……。
「今日もそんな超絶可愛いHARUHI様直々の特訓を受けられるんだ! 有り難く思えよ!」
「はいはい……」
中身は23歳なんだよなぁ……。
それにしても……、HARUHIの見た目に対する自信は一体どこから出てくるのだろう……。
まぁ確かに超可愛いけども!! ……同時に、ちょっと羨ましいとさえ思う。
さぞ親には可愛がられていたんだろうか……。でも家族との仲はあまり良くなさそうなことを、初めて会った時に言っていた気がする。実際のところはどうなんだろう。
「……それで、今日から新しい特訓を行う」
「新しい……? ……!」
HARUHIのことを考えていたら、どうやら新しい特訓を始めるらしく、思わず俺の体が強張った。
もしかして……、玉藻前と戦うために、ケンカの心得でも習わされるんだろうか……。
それだけは正直勘弁してほしい……!
俺は元々インドアで、外に出て遊ぶより、家の中で独り静かに本を読んでいる方が好きな人間だ。
運動の成績も並以下だし、他人に殴られることはあれど、殴ったことは一度たりともない。
あの時のHARUHIのように、華麗なドロップキックや右ストレートなんて、出来るわけがない。
俺が絶望的な表情をしているのを見てか、HARUHIは呆れたような顔をしながら、
「何を想像してるか知らんが……、お前がこれから習得するのは……、『式神』の発現、及び調伏だ」
「……え?」
シキガミ? ……って、あの式神?
いや、いやいやいやいや!
「俺は陰陽師じゃないです!!」
「別に陰陽師でなければ、式神を使役できない、なんてことはねぇぞ」
「そうなの!?」
「そうなんだよ。現に、飛鳥時代に実在していた、『役行者』という修験者は、前鬼と後鬼という式神を従えていた。という伝説が残されている」
役行者……。そういえば、ちょっとだけ聞いたことがある。
修験道の開祖であり、一説には空を飛んだだの、鬼を呪縛しただのという超人逸話がこれでもかと残っている、伝説の呪術師としても有名だったはず。
「それに、現代の自称霊媒師にも、式神を従えている者がいるとも聞いたことがある。……俺は実際にお目にかかったことがないから、本当かどうかは知らんがな」
「へ、へぇ……?」
「だからある程度の力を持っていれば、式神を使役することは誰にだってできる。……もちろん、お前にもな」
「……で、でも、……」
「でももだってもヘチマもねぇ! 出来ない言い訳考えてる暇あったら体を動かせ! 体を!」
「は、はいぃ……!」
そんなこと言われたって……。
俺なんかに出来るのだろうか……。
そんな泣き言をつく暇も許されず、俺はHARUHIの言われるがまま、早速特訓に取り掛かった。
役行者(634頃〜?)=正式な名前は「賀茂役君行者」
幼い頃から才能に恵まれていたとされ、3歳にして字を覚え、4、5歳には仏像を自作したりしていたとか。
8歳の頃には京(当時は奈良県)に上り、儒教を学んでいたらしいです。
その後も様々な山に登り、山岳修行を経ることでトンデモパワーを習得するも、弟子の一人が秘術を教えてくれなかった腹いせに、朝廷へ「役行者が呪術を使って謀反を企てています!」と密告。伊豆に流されます。
が、伊豆に流された後も、毎晩謎の舞空術を駆使して、富士山をはじめとした様々な山へ飛んでいっては修行を続けたり、荒れ狂う海を呪術で沈めたり、クソでかい岩を呪術で浮かせたりなど、安倍晴明さんも顔面真っ青になりそうなスーパーパワーを発揮しました。
そうして役行者は人々の信仰を集め、「修験道」という新たな教えを全国に広めました。
ちなみに、前鬼は男で後鬼は女性であり前鬼の奥さんだそうで、また正確には彼らは鬼神なのですが…、まぁそこはご愛嬌ということで




