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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
二章 新曲リリース記念イベント

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なんでもない

 

「ふ、2人とも……」

「ねぇ、せんせー? なんか最近、いいことあった?」

「え」

「あ、それ、おれも思ったー!」


 いきなり何を言い出すんだこの双子は……?


「だってさー。なんか最近服装がキッチリしてきてるしー!」


 あぁ……、それはリウさんに『人は見た目の印象が全てを決めるのよ! だからあなたもいい加減きちっとしなさい!』


 ……と言われて、散々服屋を連れ回されたからだ。だから通勤時のスーツも新しくなって、他の先生たちには綺麗な二度見をされたりして驚かれた。

 授業中に着ているジャージも新しくした。けれども生徒たちはみんな、机の下のスマホに夢中だからか、こちらの変化にはまだ気づかれていない。


「顔もなんか……肌が気持ち綺麗になってる気がする!」


 それは……、ツナが『在保(あきやす)くん、肌荒れ気味だね〜。オレ少し前に化粧品メーカーとコラボして、その時に貰ったスキンケア商品いっぱい残ってるから、今度持ってくるねー!』


 ……と言われて、化粧水やら何やらを一式譲ってもらった。(ついでに使う順番も教えてもらった。)それが俺の肌との相性が良かったらしく、カミソリ負けして荒れまくっていた肌が、かなり改善された。


「メガネは変えないの〜? なんかダサ……、邪魔そうだし、いっそコンタクトとかにすれば?」

「あとこの調子で髪も切っちゃおうよ! そうすればもっとカッコよくなると思う!」

「……あのねぇ……」


 メガネがダサいのは俺が一番よく理解してるよ!

 それもリウさんやHARUHIにも全く同じこと言われたし!

 でも……、コンタクトにするにしても……、眼球に異物を入れるのって、やっぱ怖いじゃんか……!!

 

 髪だって……最後に切りに行ったのいつレベルで、いざ行こうとしても、どこの床屋(とこや)に行けばいいのか分かんないし……。

 結局ズルズルと先延ばしをしてしまって、メガネと髪だけは、そのままになっている……。


「このミサンガも新しいのにしたらどうっすか? かなり年季入ってるみたいだし」


 今度は樹の方が、俺の右手首に、腕時計と一緒にひっそりと巻かれているミサンガを軽く摘んだ。

 

「いつからつけてるの? 今にも切れちゃいそう」

「2人とも……図書室では静かにしなさい」

「は〜い」


 このミサンガは、俺が幼い頃世話になった、祖母が編んでくれたものだ。

 大事なものだから、これだけは捨てられない。


 あまりミサンガについては深入りして欲しくなくて、段々声が大きくなっている2人を注意すると、静かな図書室に、綺麗に被った2人の声が響く。


「ねぇせんせー。今日は部室来ないんスか〜?」


 そんな息ぴったりで、見た目もそっくりで、人懐っこい双子だが……。

 

「怪談のネタ新しく仕入れたんだけど、せんせー以外に聞いてくれる人がいないんだから、暇なら聞いてってよー」

「分かった、分かったから……」


 なぜか俺には、人一倍懐いてくれている。……ような気がする。

 

 別に俺がこの2人に、何か特別なアクションを起こしたわけでもない。


 強いて言えば、俺が顧問を務めている怪談愛好会のメンバーでもあり(と言ってもこの双子しかいないけど……)樹の方は、俺が担任を請け負っている2年2組の生徒でもある。


 でもそれだけだ。


 なぜこの2人がここまで俺に構うのか。その理由は分からない。


「はい! そうと決まれば早速!」

「部室へゴー!」

「こら……! 引っ張らないで……っ!?」


 そんな中で、美月は俺の持っている本を取り上げると本棚に戻し、樹が俺の腕を引っ張ってくる。


 俺はそんな2人のペースに飲み込まれそうになりながらも、軽く注意しながら図書室を出ようとした。


 だがその時、俺は思わず歩こうとした足を止めてしまった。


「? せんせー。どったの?」

「Gでもいたー?」

「あ、いや、その……」


 ……先日、HARUHIとの特訓のおかげで、無事式神が見えるようになった俺だが……。それは同時に、厄介な弊害を引き起こしていた。


「何よ〜。ハッキリしてよ〜!」

「またせんせーの良くないクセが出ちゃってるよ〜!」


 黒いインクを垂らしたような、ドス黒い影が、2人の背後にまとわりついているのが見えた。

 俺は2人に言うべきかどうか、迷った結果。


「……ごめん。なんでもない」

「え〜!? 何それ〜!」

「ごめんごめん。虫かと思ったら、ただのホコリだった。それだけだよ」


 綺麗に言葉をハモらせながら、ぷうぷうと頬を膨らませて文句を垂れている2人を尻目に、俺はその影を『見なかった』ことにして、図書室の入り口に向かって歩き出した。


「ほら、2人とも、部室行くんだろ」


 せっかく見えるようになったのに、やることは昔と変わらない。

 だって仮に、ここで「2人の後ろに何かいる」と答えたとして、この2人はどんな反応を返してくるか。

 HARUHIやミチルさんたちは、元々その道の専門家だから、受け入れてくれただけであって……。(ツナはリウさんが同じように見える人だから抵抗がないだけ。だと思う)


 普通の人は「こいつはヤベェ」となって、距離を置くだろう。

 だから見えたからといって、調子に乗ってはいけない。


「……はぁ〜い」


 それにせっかく、この2人は学校で唯一、俺を慕ってくれている生徒だ。(おちょくられているだけかもしれないけれど……。)

 そんな信用を、下らない一言で無下にするわけにもいかない。


 ちょっと不満そうな2人の声を背中に受けながら。俺は部室に向かって薄暗い廊下を歩いた。


  

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