仕事サボっちゃだめっすよ〜
「……あった。『解除について』……」
ツナとの動画撮影が終わってしばらく経った、ある日の放課後。
俺は学校の図書室で、こっそりと調べ物をしていた。
「『平安時代に陰陽師が使用していた呪術の一つ。病気治療や災厄、呪詛の除去などに使用されていた』……」
あの一件以来、俺は『陰陽師』について、独自で調べ直していた。
ネットの情報であったり、こうして図書室に所蔵されている本だったり……。仕事の合間を縫って少しずつ調べていったから、少々時間がかかってしまったけれど、調べ続けていくうちに、色々とわかってきたことがあった。
「『水辺などに祭壇を設けて、依頼者の身代わりとなる形代を水に流すことで、災いを祓った』……なるほど……あの時と一緒だな……」
先日夜の川で行った供養は、陰陽師としてはちゃんと理に適った行動だったんだ。
「……ということは、やっぱりHARUHIは正真正銘の陰陽師なのか……。式神を従えているということは、おそらくミチルさんも……。……けど……」
そうなると、いくつか気になるところもある。
「……陰陽師という職業自体は確か……、明治の始まりと共に廃止されたはず……」
公的な記録では、明治3年に明治政府が発令した『天社禁止令』によって、彼らが所属していた陰陽寮は廃止。すべての陰陽師は身分も権利も剥奪されている。
要するに、国家規模の総リストラを喰らったわけだ。それ以来、陰陽師という存在は表舞台から完全に消滅した、ということになっている。
「……だから……、現在SNSなんかで『陰陽師』を名乗って活動している人たちは、あくまで全員自称……。本当に『陰陽師』であるのかを証明する物はどこにもない……」
『……____違う! 俺は陰陽師なんかじゃない!!』
資料に書かれている文章を何度も読み直しながら、現代における『陰陽師』の立ち位置を確認していると、全ての前提が覆されたあの日に、HARUHIが言っていたことを俺は思い出した。
「HARUHIは自分が陰陽師であることを否定していた……。この事実を知っているからか……? でも嫡流は今も活動しているとも、ミチルさんは言っていたし……う〜ん?」
近年の研究では、『陰陽師』という職業は、時代が降るごとに過大投影されてしまっている影響で、理想と現実に大きな乖離が発生している。と、今俺が手に持っている本にも書かれている。
「せーんせっ!」
「どわぁ!?」
一人図書室の隅で考え事をしていたら、ふと背後から突然生徒に話しかけられ、俺は驚いて大きな声を出してしまった。
「なにやってんの〜? こんなところで」
「仕事サボっちゃだめっすよ〜」
バクバクと高鳴っている胸を抑えながら振り返ると、褐色肌に顔が似通っている男女の生徒が、意地悪そうな笑みを浮かべて立っていた。
「ひ、……平野……」
「あ! 陰陽師の本だ!」
「せんせー、今更陰陽師にハマってんの?」
「こ、こら……、離れなさい……」
たじろいでいる俺をよそに、俺を間に挟むようにグイグイと距離を詰めてきては、俺が持っている本を覗き込んでくる。
この2人の生徒。男子の方は平野樹、女子の方は平野美月という。
名前の通り、この2人は双子だ。しかも世にも珍しい異性一卵性の双子。
一応、学校指定のスカートを履いている方が美月で、スラックスを履いている方が樹なのだが……。
それ以外はほとんど同じ。言葉通り鏡写しのような見た目をしている。
本人ら曰く、喉仏の有無だったり、耳のピアスホールの数がそれぞれで異なっているとは言うが……。本当にぱっと見では見分けがつかない。
しかもこの2人、時々お互い入れ替わった状態で登校し、授業に参加しているらしい。そして誰1人として、彼らが入れ替わっていることに気づけない。
それくらい瓜二つで、恐らくこの学校で、この2人を正確に見分けられる人物はいない。
「なになに〜? 『陰陽師が過去実際に行っていた祭祀について……?』」
「陰陽師といえばやっぱ安倍晴明だよねー! 昔お母さんが野○萬斎の陰陽師にどハマりしてた!」
分かる。
野村○斎の安倍晴明めっちゃカッコいいよなぁ……。
じゃなくて!!!




