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推しのアイドルに脅されました〜実は男で陰陽師なんて聞いてない!~   作者: KUMANO
一章【閲覧注意】最恐心霊スポットをアイドルと一緒に凸してみた!

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あんたもかい……!

「これから行うのは『解除(げじょ)』と呼ばれる儀式だ」

「げじょ……?」

「ミチル」

「はい」


 近くの川にやってきた俺たち。

 ミチルさんは、先日撮影で向かった心霊スポットにて、ミチルさんが投げたナイフが黒い犬を貫き、姿を消した後に残されていた木の板を取り出した。


「この板……」


 よくみると、すごく達筆な崩し文字が書いてある。そして形も、四足の獣の形に(かたど)られている。見た目の印象は完全に呪いの人形(ヒトガタ)だ。『これから五寸釘を持って木に打ち付けます』と説明されても、何ら違和感は覚えない。


「この人形(ヒトガタ)には今、先日の鬼が封じられている」

「鬼……? 犬……、ではなく……?」

「元はな、あの場所から出られずに長い年月を経て、鬼に成り果てた」

「……」

「で、今回俺たちがやるのは、まぁご供養みたいなもんだな」

「ご供養……」


 ご供養って……、ここでお経を読みながらお焚き上げでもするのかな。

 

人形(ヒトガタ)を川に流すことで、水が魂を浄化し、在るべき場所へ導いてくれるんだ」

「え、火は使わないんですか?」

「使わない。()()()のやり方は水を使う」

「そう、なんですか……」

「あぁ。じゃあやってみろ」

「……え、俺が?」

「返事は」

「はい……」


 有無も言わせてくれず、俺は木の板を持たされた。

 HARUHIの言う『俺たち』とは、やっぱり陰陽師のことなのかな……。


「……水に流すだけでいいんですか?」

「そうだ」

「お経とかは……?」

「いらん。さっさとやれ」

「はい」


 HARUHIに急かされて、俺は両手に持った木の板を、川の水に浸からせた。すると板はすぐに俺の手を離れて、水の流れに従って、流されていった。夜なのも相まって、板はすぐに見えなくなってしまった。


「……よし、いいぞ」

「本当に……、これでいいんですか?」

「疑り深いな」


 だって俺の知っているご供養とは、形式も手順も、何かも異なるからだ。

 HARUHIにはすごく感謝している。けれどもももう少し、説明が欲しいところだ。


「このスーパーアイドルHARUHI様の言うことに、間違いなんざあるわけないだろ?」


 俺の不満や心配をよそに、HARUHIは相変わらず勝ち気に微笑んだ。


「……ずるい」


 そうやって笑えば、なんでも許されるとでも思っているのだろう。

 実際俺は、HARUHIの笑顔にはどうしても弱い。

 

 今の今まで抱えていた不満や心配が、あっという間に拭い去られてしまうからだ。


「さ、帰るぞ。戻って特訓だ」

「待って……」


 HARUHIとミチルさんが、駐車場に向かって歩き出した。

 俺も遅れて、二人を追おうと、川に背を向けた。


「わん」


 すると、背後から犬の鳴き声が聞こえた。

 

 こんな夜に犬の散歩か?


 そう思いつつ、振り返ってみると、


「あ……」


 川を挟んだ対岸に、一匹の黒い犬が、こちらをじっと見つめていた。

 

 夜の屋外。街灯もほとんどなく、対岸は闇に包まれているはずなのに、その犬の姿だけははっきりと確認できる。


「もしかして……」


 あの時の犬だ。


 そう直感した。


 心霊スポットで会った時のような、敵意をむき出しにしたような恐ろしい形相ではなく、とても穏やかな、どこにでもいそうな大人しい姿。あれが本来の姿なんだろう。

 

 犬はしばらくこちらをじっと見つめた後、名残惜しそうに一度だけ小さく尾を振った。

 そのまま、光の届かない夜の闇の中へと、溶け去るように姿を消していく。


「……」


 やっぱり、HARUHIはずるい。



 ******


 


「ミチルさん、かっこいいよなぁ……」

「分かるわぁ、その辺のなよなよした野郎共よりよっぽど男前よねぇ」

「俺を見て言わないでください……」


 事務所に戻ってくると、リウさんがお茶を淹れて出迎えてくれた。

 HARUHIが喫煙所でタバコ休憩をしている間。俺はお茶を飲みながら一息ついていた。

 

 視線の向こうでは、アニマルパラダイス……ではなく、式神たちに囲まれつつ、タブレットを見ながら仕事に励んでいるミチルさんがいる。


 綺麗にセットされた金髪のショートヘア。

 抜群に整った顔。ゆで卵のようにつるりとした瑞々(みずみず)しい肌。

 スラリと細く、長い脚。

 会うたび同じスーツを着ているにもかかわらず、シワは一つもない。

 背筋もピンとしていて、言葉遣いも丁寧でしっかりしている。

 全く隙の無いカッコよさが、ミチルさんにはある。


 対して俺はどうだ。

 

 忙しいからという理由で髪も伸び放題。セットするでもなく、邪魔にならないよう適当に髪ゴムで括っているだけ。

 モテたことがないから、顔も良いとは言えない。

 安物のカミソリを使用しているからか肌も荒れているし、遠視矯正のためにかけているメガネも、長年替えていないから、正直ダサい。

 服だって、その辺のユニ○ロで適当に買った。一応学校へはスーツを着て行くけれど、こちらも長年使用しているからくたびれているし、授業中は動きやすさを重視して、安物のジャージを着ている時間のほうが圧倒的に多い。


 そんな見た目だから、生徒たちは陰で俺のことを『クソダサロン毛メガネ』と名付けて、いじり倒している。


「同じ男なのに、……なんだか自分が恥ずかしくなってくる……」


 つい小声で本音が漏れてしまうと、隣でリウさんがクスクスと肩を揺らした。


「あら、ミチルちゃんは女の子よ」

「……んぇ?」


 ……幻聴だろうか。

 リウさんの衝撃的な言葉に、俺は思わず理解を拒んだ。


「あの子、元は某歌劇団の男役を目指して、日々練習していたらしいのだけれど、色々あって、今はHARUHIのマネージャーをやってくれているのよ」

「……」

「でも本当にあの子、カッコイイわよねぇ。アタシも何度か、裏方じゃなくてタレントとして出てみない? って提案したことがあったけれど、その度に『私はHARUHIの傍でHARUHIを支えたい』と返されて、フラれちゃうのよ……」

 

 リウさんが色々と教えてくれているけど、俺はまだなかなか、現実を受け入れられていない。というか……。


「あんたもかい……!」


 この事務所……、あまりにも癖が強すぎる……!!!


 


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この場をお借りしまして、改めてお礼申し上げます。


次回はHARUHIのイベントにスタッフとして参加した在保君が、また色々巻き込まれるお話です。

新キャラも出るぞ!


最後に、よろしければ評価、ブクマ、感想など、お気軽によろしくお願い致します!

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