ウルトラハイパー美少女
「お前がこのHARUHI様のライブに水を差しやがった罪は重い。その身をもって、償ってもらうぞ」
「あの、えっと……、な、何をすれば……、よろしいのでしょうか……?」
HARUHIが再び煙草を取り出して火をつけると、先端がじわりと赤く灯る。
……というかちょっと待て、HARUHIはまだ18歳じゃなかったか?
今年から法改正がされて、18歳も成人という扱いにはなっているけど、飲酒や喫煙はこれまで通り20歳以上じゃないとアウトだ。
けれども今の俺に、そんな疑問を指摘する余裕も勇気もない。
グレーのスーツをピッシリと着た長身のイケメンがずっと、笑顔のまま俺の喉元に冷たい刃物を突きつけているからだ。けれども目は全く笑っていない。
この男が少しでも刃物を動かしたら、俺は一瞬であの世行きだ。
「あの、できれば、死以外で……お願いしたいです……」
命の危険を感じた俺は、心の中で十字を切った。
「死ぬ以外なら、なんでもやるんだな」
「あ、えっと……」
しまった。また余計なことを言ってしまった。
死ぬまで強制労働とか言われたらどうしよう。
芸能事務所って、教育の労働環境と同じくらい……、いや、場所によっては更に過酷なブラック環境だとも聞いたことがある。
俺はこのまま……、何者にもなれないまま死ぬまで働かされるのか……?
そんなの嫌だ……!
「責任持って、お前があのバケモンをぶっ飛ばしてこい」
「……え?」
今HAURHIはなんと言った?
「お、俺が……? あの、バケモノを……?」
脳内で、先ほどの光景がフラッシュバックした。
キラキラと輝くステージ。
その上で歌い、舞い踊る“推し”の姿。
「お前が連れてきたんだから、お前が責任もって討伐するのは当然の責務だろうが」
いつもの“推し”のライブ。
けれども今回は、いつもとは少し違っていた。
いつもぼっちで参戦していた俺の隣には、人生初の“彼女”がいたんだ。
「このHARUHI様というウルトラハイパー美少女がいながら……、別の女連れて来やがるなんざ……」
「だ、だって……彼女が……、俺の推しに会ってみたいって、言ってくれたから……」
先輩教員の紹介で出会った、初めての“彼女”。
“彼女”は俺のドルオタ趣味にも、文句一つ言わず、笑顔で聞いてくれていた。
‘’推し”が全てを明るく照らしてくれる女神なら、“彼女”は俺という個を、優しく包み込んでくれる聖母だったんだ。
「で? お前を全肯定してくれたお優しい彼女サマは、さっきのライブで何をしてくれた?」
「……そ、れは…………」
さっきのライブで、そんな俺の“彼女”は……。
いや、“彼女”だったなにかは。突然豹変して、舞台上で舞う“推し”に向かって、隠していた牙を剥いた。




