堂々としていればいい
「……あ! 初代のポケ○ンシールだ! 超懐かしい!」
「昔のテレビ雑誌に……、これは……、回覧板か……?」
「窓が外側から破られてる……。酷いな……」
家の中の探索を始めてからしばらく、俺たちは手分けして、『ヤバい』と曰くつきのある神棚を探していた。だが、昔住んでいたという男性がいなくなった後も、私物や生活用品はすべて当時のまま残されていたらしい。
加えて何度か泥棒が入った形跡もあり、家の中は荒れに荒れ果てており、捜索は困難を極めた。
「う〜ん。これといったものはないなー……」
「……ひぃGがいるぅ……」
室内に入ると、元々のニオイに加え、いつ穴が開いてもおかしくない程に腐りかけた床板が、歩くたびにギシギシと軋む。極め付けは物を動かすと、その中に潜んでいた大小様々な虫が蠢き、じわりじわりと俺の精神を削ってくる。
しばらく捜索するも、結局1階にはこれといった物は何も見つからなかった。
「1階は何も……?」
1階の部屋を一通り調べ終えて、暑さから額に汗を滲ませながらツナが喋っていた途中、突然天井からするはずのない足音と、男性の唸り声のような低い音が、全員の耳に届いた。
「本丸は2階……、ですかね……」
「だねー」
俺たちは散乱しているゴミや生活用品をかき分けながら、慎重に2階へと続く階段を上った。
「……あ……」
「どうした」
階段を上り切った途端。俺は再び強い違和感を感じて足を止めた。
「ニオイが……強くなったような……」
家の中に入った時から感じていた死臭のような、鼻をつく臭いが、2階についた途端明らかに強くなった。
俺はまた臭いの強さに顔を顰めながら、鼻を手で覆った。
「どの部屋か、までの特定は出来るか」
「えと……」
俺は恐る恐る廊下を歩きながら、どの部屋から臭ってくるのか探した。
「……ここ、です……」
そうして俺が指を差したのは、2階の一番奥の部屋。
「……正解だ」
「正解って……HARUHIは分かってたんですか?」
「当たり前だろうが。この俺様を誰だと思っていやがる」
最初から知っていたのなら、教えてくれてもいいんじゃ……。
なんて思ったけど、そんなことを言えるはずもない……。
「この中に、おそらく元凶がいる」
「元凶……? もしかして、生き物の……?」
「ミチル。準備はいいな」
「いつでも」
俺の理解も追いつく前に、2人は軽く目配せした後、HARUHIが部屋のドアノブに手をかけた。同時にミチルさんは、胸ポケットから小さな木の板を取り出した。
「在保、よ〜く見ておけよ」
「はい……?」
「これからお前が対応することになる、オキャクサマとの接し方だ」
そう言うと、HARUHIは勢いよくそのドアを開けた。
「うわっ!」
その扉が開け放たれた瞬間、まとわりつくような、湿り気を帯びた生ぬるい風と共に、凄まじい勢いで部屋の中からナニカが飛び出してきた。
「な、な、何事!?」
「何が出てきたか、見えるか」
「えぇっ!?」
今それ聞く!?
俺は驚きつつも、2階の広い廊下を見渡した。
薄暗い室内。明かりは俺とHARUHIが持つ懐中電灯のみ。光の届かない廊下の隅は深い闇に沈んでおり、そこから何が飛び出してきてもおかしくない状況だった。
「う〜ん……?」
「だから普段使いの眼球だけに頼るなっつってんだろ。六感を使え」
「六感を……」
俺は先日のように、一度目を閉じようとした。
だがその時、先日のことを思い出して、俺は目を閉じるのを躊躇った。
「おい、何やってんだ。さっさと……」
「あの……、どうしても、やらなきゃダメ……ですか……」
俺は俯きながら、HARUHIに聞いた。
先日同じことをやって、思い出したくもない過去の記憶が、勝手に脳裏に蘇ってしまったからだ。
まるで、過去の傷を無理やり抉り返されているようで、正直怖い。
またあの時みたいに、不当な糾弾を受けるんじゃないか。爪弾きにされるんじゃないか。そんな恐怖が、俺の頭の中をぐるぐると回り続けている。
「……在保」
「……」
「事務所に行った時、リウが式神のことを紹介してくれたよな」
「……はい」
「その時、お前はリウのことを『様子のおかしい奴』だと、一度でも思ったか?」
「……いいえ」
……あの時、リウさんは何もない空中に手を置いて、撫でるように動かしていた。側から見れば、パントマイムでも披露しているのか。と思うだろうけど、HARUHIも、ミチルさんも、そしてなぜか俺も……。式神という存在がそこにいるんだという事実を、あっさりと受け入れていた。
「……少なくとも今ここに、お前の力を否定する奴は、誰一人としていない」
そう言うと、HARUHIは俯いている俺の顔を、力強く、まっすぐ覗き込んだ。
「だからもう恐れるな。お前らしく、堂々としていればいい」
「HARUHI……」
初めて会った夜にも、HARUHIは同じことを言ってくれた。
それは、俺が長年たった独りで抱え込み、必死に隠し続けてきた呪いを、優しく包み込んで解き放ってくれるような言葉だった。




